リアルでホラーは遠慮したい
「ひぃぃぃ、」
「きゃぁぁ!」
「おお、叫んでる。」
「だねー。」
先に行った班の子の叫び声が聞こえる。
不気味な建物から聞こえるかすかな叫び声。それだけで恐怖である。
「うぉっしゃぁぁぁっ!!!!」
「ん、終わったか?」
クラスメイトがビビりながら見守る中、叫び声、破裂音、様々な物音が廃墟から聞こえた後、力強い勝利の雄たけびと思われる叫び声が聞こえ、直後に扉が開く音がした。
そして、必死な形相で次々と逃げるように(いや、実際逃げてるんだが)走ってくる5人の姿が見えたところで、座っていた私たちは重い腰を上げた。
あの子達の次、私たちの班なんだよね。
ちなみに、今出てきたのはムール君の班です。エニーデちゃんもいるね。
ということは、さっきの雄たけびはムール君か。手にはしっかりと何か握ってるから札は無事にゲットしたようだ。
「お見事!」
おっそろしい建物に私達を半ば無理やり送り込んでいる悪m…もとい、クラランス先生は輝かんばかりの笑顔で拍手している。鬼か。
現在5班終わって、成功したのはこれで2班か。結構難しい課題のようだ。
「はい、次は6班ですね。」
「行くか……。」
「だねぇー。」
隣で死んだ目をしながら返事をしてくれるのは、同じ班になったコリン君。
待っている間に話しをしていたんだけど、彼は王都ニルナックの出身らしい。都会っ子だな。
だから、王都から近いこの廃墟の噂も知っていたらしい。だから余計怖いそうだ。
「防御魔法掛けてく?」
「効果あるかなぁ?」
「なんか投げてくるかもだから、一応私はかけるよ。」
ポルターガイスト攻撃(?)があるかもしれないからね。私はそう決めている。
ちなみに、周りを巻き込む行為がなければ、どんな魔法を使ってもいいそうだ。パニックになったらそんな制限なんか気にしてられないだろうから、そこはありがたい。
「じゃあ、行こうか。」
やせ我慢ではなく、マジで怖がる様子の無いメメリアちゃんの姿に驚きながら、私はその後ろにおとなしくついていく。
私の班は、メメリアちゃん、コリン君、ピアちゃん、そしてルノー君だ。メメリアちゃん以外は皆結構怖がっている様子。普通はたぶんそうだ。メメリアちゃんの度胸凄すぎる。
さび付いているのか、メメリアちゃん一人の力では開けづらいその扉を私も恐る恐る押しながら、その中を覗き込んだ。
「暗い。」
「だよね。」
「灯り……、えと、我に光を。」
短い詠唱で、目の前の空間にほんのり明かりが灯る。
精霊さんたち曰く、口に出す必要のない魔法だけど学校では私を含め、単に火を生み出すとか水を生み出すとかの魔法以外はすべて呪文として口に出している。
だから私が呪文を唱えると、耳元で精霊さん達がツッコミをいれてくるのだ。地味にムカつくが、こればっかしはしょうがない。
「札はロビーにあるって言ってたけど、ここは……玄関?」
「だねー。もう少し奥まで行けってことか…。」
扉を入ってすぐのところは、小さな空間になってる。小さな棚とかがあるから、独立した玄関になっているようだ。
げんなりした様子のコリン君。私もこの奥に行くのは嫌だけど、課題だし…。あー、でも嫌だ。
だって、なんかさっきから耳のあたりがチリつく感覚と、ぞわぞわした感覚が強まっている。魔力だな、これ。
「闇の魔力だよー。」
はい、精霊補足入りました。
以前キュミラスさんに聞いたことがある。慣れない種類の魔力を浴びると、体が過剰反応したりすることがあるらしい。
闇の魔力は一般人にとって普段の生活で関わることが殆どない魔力である。つまり、私にとってもだ。
「なんか、体がざわざわして気持ち悪い。」
「俺も。」
私と同じような感覚を、ピアちゃん、ルノー君も感じているらしい。あ、コリン君も。
「メメリアちゃん平気なの?」
「うーん、魔力は感じるけど、気持ち悪いとかは無いなぁ。」
平然とした様子のメメリアちゃん。その言葉は本当のようだ。
そう言えば、メメリアちゃんの地元には、大きいダンジョンがあるって言ってた。もしかしたらそこは闇の魔力が強いのかな?
私の地元であるラクラエンにもダンジョンはあるけれど、そこは火の魔力が強いダンジョンだって以前聞いた。ダンジョンによってどの魔力が強いかは異なるみたいだから、もしかしたら、ね。
薄明るい中を進むと、目の前に少し大きめの扉が見える。
皆で近づけば、扉の向こうから嫌な魔力をビンビン感じる。いる。絶対いる。
「ど、どうしよ、」
「光魔法なんて、使えるか?」
首を振る私達。そりゃそうだ。光属性、つまり聖属性魔法は難易度が高い。
そして、回復魔法はある程度習ったけど、攻撃に使う聖属性魔法はまだ習っていないのだ。先生曰く、基本四属性に慣れた今年の半ばごろから教えるとのこと。
「ということは、火か。」
「…。」
メメリアちゃんが私を見ながら言う。
同じクラスになって4年目ともなると、お互いの得手不得手くらい大体把握している。
ちなみに、先ほどの話じゃないけど、火のダンジョンの近くで(無意識にだけど)育ったせいか、私は火属性の魔法が得意な方だ。
「わかった。すぐ攻撃できるようにしておく。」
「お願い。」
「聖水、配っておくね。」
ピアちゃんが、先生から渡された聖水を皆に渡してくれた。瓶を握ると、手のひら越しに光の魔力が伝わってくる。こう直接肌で感じると、ルダ様の雰囲気とよく似ている。
「よし、開けるよ。」
今度は、メメリアちゃんとルノー君が扉を一緒に押している。子供の力では結構厳しい重さの扉だから、分担しないと厳しいのだ。
少し開いた扉を凝視しながら、私は火魔法の準備をした。
「来たよ!」
メメリアちゃんの鋭い声に、私は魔法の詠唱を始める。
「ひ、火の精霊よ、熱き矢となり……!」
「あはは、サラってば、おかしーい!」
耳元で精霊さん達が茶化してくる。やかましい!!お願いだから邪魔しないでくれ!!
「降り注げ!!!」
やけくそ気味に叫び、魔法を発動させる。
飛び退いたメメリアちゃんとルノー君に当たらないように注意しながら、扉周辺に魔法を着弾させると、扉から漏れ出てきたらしい何かが火の魔法に焼かれて何とも言えない嫌な叫び声を上げた。
ああ、耳がギーンとする…。
「ウゲァァァァァ!!!!」
「うるさい…。」
メメリアちゃんが耳を伏せ、更に耳を抑えて後退する。きっと私達よりずっと耳のいいメメリアちゃん。この音はきっついだろうなぁ。
「今だ!聖水!」
コリン君と、ピアちゃんが扉に聖水を撒く。聖水は、直接闇属性の魔物に攻撃できるだけでなく、短時間だけど、空間の浄化もできるのだ。
つまり。
「今のうちだー!!!」
すかさず、メメリアちゃんとルノー君が向こうの部屋に飛び込んだ。少し遅れて私も続く。ちなみに、コリン君、ピアちゃんは退路を確保するために待機である。
「えと、札は!?」
「あっち!!」
「ふう、炎の壁!」
ルノー君が札を見つけた。私はそのルートと周囲をふさぐように魔法を発動させた。周囲にちらほらアンデッドが見えるけど、壁に阻まれているようだ。よっしゃ!!
しかし、生で見るとマジきもい。大昔っていうか、前世だけどゲームで見たゾンビ思い出した。扉開けるとうじゃうじゃいるところとかもそっくり。バイ●ハ●ードか。
「取ったよ!」
「おお、メメリアちゃん、グッジョブ!!」
目的のブツを手に入れれば、もうこんな場所に用はない。
ていうか、一刻も早く退散したい。




