地味に厳しい先生
さて、ムキムキマッチョの宮廷魔術師のキュミラス様あらため、キュミラスさんからパスワードを設定していないWifiは危険!みたいなご指摘を受けあと、私は素直に特訓を開始していた。
(こんどこそ…どうだ!!!?)
「んー、ビリビリする…かな?」
『魔力の太さと、波長が不安定だからだ。それが安定しないと、到底会話など無理だ。』
しかし、これがなかなか難しい。
魔力の波長の調整と、放出範囲の絞り込み、出力自体の調整…で、そのうえで念話。
先生は地味に厳しいキュミラスさん。
気さくではあるが、手は抜かないのだ。
この学校、宮廷魔術師の育成機関である高等魔術研究所と隣接しているため、宮廷魔術師であるキュミラスさんがしょっちゅう現れるのだ。
廊下でばったり会った時にはびっくりして思わす後ずさっちゃったよ。
で、念話の特訓をしてくださると。最初はあまりの申し出に流石に断ったが、宮廷魔術師が生徒にこうやってアドバイスをするのは珍しいことじゃないらしい。
体を動かすわけじゃないので、特訓会場は図書館です。少し離れた場所に座っているけれど、念話の特訓が主だからちょうどいいのである。
(むずかしい…。)
「あれ、もうやめちゃうの?」
くったりした私の周りを精霊さん達がフヨフヨ飛んでいる。
精霊さん達ともそれなりの付き合いだけど…ちょっとやり方を変えるだけでこうもやり辛いものなのか。
魔力が流れていることは感じているみたいだけど、ぴったり波長が合わないみたい。
それこそ送信側と受信側のチャンネルの周波数がぴったり合わないとだめ、と言うことなのだろうか。
キュミラスさんに言わせれば、私たちの今までの念話は、かなり広い範囲の魔力に乗っちゃってたらしい。
しかも、それこそパスワード無しのためキュミラスさんのような人にとっては聞きたい放題の状態で。
……その話を聞いたとたん、私の顔色が悪くなったのに気付いたのか、キュミラスさんは苦笑いでフォローしてくれた。
『大丈夫だ。念話自体、ほぼ使われない魔法だ。使える人間の方が少ないし、使えたとしても常に耳を澄ませている状態ではない。』
(え。)
『君の場合は、広い範囲の魔力に念話を載せていたし、私の方は、様々な可能性を考慮してあのような式典の時などには念話を含め魔力の動きを警戒している。だからたまたま君たちの会話を聞くことができた。』
しかし、とそこでキュミラスさんは表情を引き締める。正直ちょっと顔怖い。
『念には念を、だ。それこそ国内でも使い手の少ない魔法だが、国外ではわからん。』
(…一応、今は休戦中なんですっけ?)
キュミラスさんは無言でうなづく。
この国…クルーヴ王国は、建国200年をもうすぐ迎える、まあ、大国である。
大きな大陸をほぼ統一したのは3代前の国王だが、その後も小競り合いは続いている。
隣国のリレグラ帝国と停戦中ではあるが、戦争が終わったわけではない。
今の王様…あの話の長い陛下がムキムキマッチョなのもたぶん戦争に備えて鍛えているからだろう。
『だが、いつリレグラが攻めてくるかわからん。リレグラだけじゃないぞ、海を隔てればコスリア王国、さらに北には…。』
地理の授業みたいになってきたが、まあ、周辺にも敵国…まで行かなくても、安心できない相手がいっぱいいるということだ。
(気を付けておいて損はない、ということですね。)
『まあ、そういうことだ。特にコスリア周辺はかつての魔導王国、ウィチードの血を引く者も今だ多いという。念話の使い手がいてもおかしくない。』
魔導王国ウィチード。
別大陸ではあるが、かつてはこの大陸の一部も領土にしていたほどの大国であった。
名前の通り魔法技術が非常に発展した国だったが、毒の魔法により王を含む国の中心人物がほぼ死に絶え、土壌汚染で民は飢え、一気に衰退した国である。
『そうビビるな。かもしれない、というだけだ。お前はまだ入学したばかりのひよっこ。時間は十分すぎるほどある。』
(は、はい。)
『というわけで、先ほどの続きだ。魔力の操作イメージとしては、糸だ。魔力を細く、他には見えないように、しかし、それでいてしなやかに…。』
…あの、私マジで入学したばっかりなんですが。
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