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チート能力をもらって異世界転移したら、全員チート能力持ちだった件  作者: 555544


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40 王都アルディア襲撃

 翌朝。王都アルディアの街に、正午を告げる鐘の音が鳴り響いた。その音に最初に反応したのは、ヴィルだった。


「……ん?」


 薄暗い部屋の中で、ヴィルがゆっくりと目を開ける。


 窓から差し込む日差しは、すでに高い位置にあった。そして、もう一度鐘の音が響く。


「……正午?」


 ヴィルは寝ぼけた頭でしばらく考え、次の瞬間、勢いよく上半身を起こした。


「そうだ! 今日は式典の日じゃないか!」


 その声に、部屋で眠っていた仲間たちが一斉に反応する。


「んあ……? なんだよ、朝から騒がしいな……」


「朝じゃない! もう昼だ!」


「……え?」


 ゴリィが目をこすりながら顔を上げた。俺も重たいまぶたをこじ開ける。


「……昼?」


「そうだ! 式典が始まる時間だぞ!」


「おいおい、マジかよ!」


 ゴリィが慌てて飛び起きた。


 どうやら全員、昨日までの疲れが相当残っていたらしい。古代竜との戦闘に加え、王都まで戻ってきたこともあって、思った以上に疲労が蓄積していたようだ。


「とにかく急ぐぞ! このままじゃ間に合わない!」


 ヴィルの声を合図に、俺たちは慌ただしく身支度を始めた。そして、宿を飛び出す。


「王城はどっちだー!」


「多分こっちよ!」


「本当かよ!?」


「細かいことは気にしないの♡」


「いや、気にしろよ!」


 ノノの適当な案内に不安を覚えながらも、俺たちは人通りの多い大通りを駆け抜けていく。しかし、しばらく進んだところで、見覚えのない通りに出てしまった。


「……なあ、ヴィル。これ、本当に合ってるのか?」


「……いや、どうやら違うようだ」


「おい!」


「仕方ないじゃない! 王都は広いんだから!」


 ノノが悪びれもせずに言う。結局、通りかかった騎士に道を尋ね、俺たちはようやく王城へと続く道を把握した。その頃には、鐘の音が再び鳴り響いていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 王城へ向かう道の途中。街の中心にそびえ立つ、時刻を知らせる鐘楼があった。その塔の最上部。鐘を鳴らすための大きな鐘のすぐそばに、一人の男が腰掛けていた。


 全身には隙間なく刺青が刻まれ、両手の爪は長く伸び、黒く染められている。男は眼下の大通りを見下ろし、そこを走っていく俺たちの姿を見つめていた。


「……あいつらが、例のDランクか……」


 男は口元をわずかに歪める。その首には、数字の刻印が刻まれていた。――三。


「ふん。随分と騒がしい連中だな」


 男はそのまま、俺たちの姿が見えなくなるまで視線を向け続けていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 王城に到着した頃には、式典の開始が目前に迫っていた。大きな門をくぐると、そこにはすでに多くの騎士や貴族たちが集まっていた。


 広々とした中庭を抜け、案内された先には、豪華な装飾が施された大広間が広がっている。天井からはいくつもの豪奢なシャンデリアが吊るされ、壁にはアルディア王国の紋章が掲げられていた。正面には一段高くなった場所があり、その中央には王が座るための玉座が用意されている。左右には騎士団の代表者たちが並び、貴族たちもそれぞれの席についていた。


「すごい場所だな……」


 思わず声が漏れる。


「王城だからな。これくらいは当然だろう」


 隣にいたヴィルが答えた。


 俺たちは大広間の後方に案内され、他の招待客たちから少し離れた場所に立つことになった。やがて、正面の扉が開く。


「国王陛下のご入場!」


 声が響き渡り、広間にいた者たちが一斉に頭を下げた。


 ゆっくりと歩いてきた国王は、豪華な衣装を身にまとい、堂々とした足取りで玉座へと向かう。その後ろには数人の側近が続き、国王が玉座に腰を下ろすと、式典が始まった。


 まずは今回の戦いに参加した者たちの紹介が行われ、その後、功績を挙げた騎士や冒険者たちへの表彰が続いていく。そして、いよいよ俺たちの番がやってきた。


「古代竜ヴァルグレイユの討伐に関わり、王国に多大な貢献を果たした者たちをここに称える!」


 名前を呼ばれ、俺たちは前へと進み出た。国王の前に並ぶと、側近が一人ずつに勲章を手渡していく。


「王国功労章だ。ありがたく受け取るがよい」


 国王はそう言ったものの、俺たちを見る目にはほとんど関心が感じられなかった。


「……ふむ。これが古代竜を倒した者たちか」


 その視線は、俺たちの姿を一通り眺めただけで、すぐに別の場所へと移ってしまう。周囲の貴族たちも、俺たちを見て小声で話していた。


「彼らが古代竜を倒したというのか?」


「聞けば、冒険者ランクはDやC程度だそうだ」


「実際にはクラウス殿たちがほとんど倒したのではないか?」


「まあ、そう考えるのが自然だろうな」


 そんな声が耳に入ってくる。どうやら俺たちの功績をまともに認める気はないらしい。その一方で、クラウスとガルヴァンに対しては、周囲から称賛の視線が向けられていた。クラウスの隣に立つ、王冠の三剣の残る二人も、俺たちにはほとんど興味を示していない。


 表彰が終わると、国王が立ち上がった。


「皆の者、今回の戦いはアルディア王国にとって大きな成果となった。だが、我々の戦いはまだ終わってはいない」


 国王は広間を見渡し、続けた。


「クラウス、貴様らには引き続き軍を率い、他国で発生している魔物や魔王軍との戦闘に援軍として派遣することを命じる」


「……陛下」


 クラウスが一歩前へ出る。


「恐れながら申し上げます。現在の我々の戦力では、他国への援軍を派遣することは困難です。古代竜との戦いで騎士団にも少なくない被害が出ており、十分な準備も整っておりません」


「それがどうした?」


 国王は不機嫌そうに眉をひそめた。


「他国の要請に応えるのも王国の務めだ。人類最強と呼ばれる貴様が行かずして、誰が行くというのだ? これは王命である」


「しかし――」


「黙れ。これは王命である。王冠の三剣の残る二名には、余の護衛を命じている。貴様が行くしかあるまい」


 クラウスは言葉を詰まらせた。


 どうやら、まともに話し合うつもりはないらしい。そして国王の視線が、今度はヴィルへと向けられた。


「それと、そこの男。ヴィルと言ったか」


「……はい」


「貴様は王城に残れ。今後は王国の管理下に置き、その身を拘束する」


「なっ……!」


 ヴィルが目を見開く。


「古代竜を従えたその力、王国のために利用させてもらう。貴様にはそのための協力をしてもらうぞ」


「お断りします」


 ヴィルは即座に答えた。


「私は誰かの所有物になったつもりはありません。ヴァルグレイユとの契約も、私自身の意思で結んだものです」


「貴様に拒否権はない」


 国王は冷たく言い放った。


「王国のためだ。黙って従えばよい」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが引っかかった。


 ……またか。


 セレナードの一件が頭をよぎる。エルフの森を開拓し、街を建設し、王都の支配下に置いたこと。独立と改革を望んだセシリアが、魔王軍の元幹部と契約することになった経緯。そして、ヴィルを拘束しようとしたこと。


 結局、こいつらは何も変わっていない。自分の都合のためなら、他人の意思などどうでもいいのだ。


「……いい加減にしろよ」


 気づけば、俺は前に出ていた。


「タツヤさん……?」


 リナの声が聞こえる。だが、もう止まれなかった。


「人を何だと思ってるんだ。ヴィルはお前らの道具じゃないだろ!」


「貴様、何者のつもりだ?」


 国王が俺を睨みつける。


「王に向かって無礼であるぞ!」


「知るかよ!」


 俺は拳を握りしめ、国王に向かって踏み出した。しかし、その拳が届くことはなかった。


「そこまでだ」


「落ち着くんだ、貴様」


 左右から二人の男が俺の腕を押さえ込む。


 一人は金髪の青年、セドリック・ハルヴェイン。もう一人は鋭い目つきをした男、ガレス・ノルディア。

王冠の三剣に名を連ねる二人だった。


「お前たち……!」


 さらに周囲から複数の騎士が駆け寄り、俺たちを取り囲む。騎士たちは一斉に剣を抜き、その切っ先をこちらへ向けた。


「陛下に対する反逆行為だ! その場を動くな!」


 広間の空気が一変する。そんな中、国王の背後で奇妙な空間の歪みが生じた。


「……ん?」


 誰かが気づいた時には、すでに遅かった。歪んだ空間から二人の男が姿を現す。一人は黒い服を身にまとった男。もう一人は、その隣に立つ男だった。


 黒い服の男は、何のためらいもなく国王の背後へ回り込むと、首元に剣を突きつけた。


「なっ……!?」


 国王の身体が硬直する。


「動くなよ。少しでも妙な真似をすれば、首が飛ぶぜ?」


 男は楽しそうに笑った。


 周囲の騎士たちが一斉に剣を構える。


「貴様、何者だ!」


「おっと。俺のことを知らねえのか?」


 男は国王の首に剣を当てたまま、広間を見渡した。


「まあ、いい。俺はお前らに用があって来たんだ」


 そして、その視線が俺に向けられる。


「お前が綾瀬達也か?」


「……そうだが」


「へえ。やっぱりそうか。Dランクのくせに、うちの七刻を倒したって話は聞いてるぜ」


 男は口元を吊り上げた。


「なかなか面白いことをしてくれるじゃねえか。だが、今日は俺様たちは争いをしに来たわけじゃねえ。条件を呑めばこの国王様は見逃してやってもいいんだぜ」


「何?」


「お前と、そこのヴィルって男を俺たちに渡せ。そうすりゃ、この国王は解放してやる。どうだ? 悪い話じゃねえだろ?」


 広間に緊張が走る。その提案に、最初に反応したのはクラウスだった。


「断る」


 迷いのない声だった。


「タツヤたちは私の仲間だ。貴様らに渡すつもりはない」


「俺も同意見だ」


 ガルヴァンが続く。


「仲間を売るような真似はできん」


「私もです!」


 リナが一歩前に出た。


「タツヤさんもヴィルさんも、絶対に渡しません!」


「当然よ♡」


 ノノも笑みを浮かべながら、男を睨みつける。


「王子様を渡すなんて、ありえないわね♡」


「おう! 俺だって仲間を見捨てる気はねえぞ!」


 ゴリィが拳を握る。


「俺も同じです」


 エドガーも静かに答えた。


 男はそんな俺たちを眺め、楽しそうに笑った。


「へえ……。随分と仲がいいんだな」


 その時だった。


「おい、クラウス! 何を勝手なことを言っている!」


 セドリックが声を荒らげた。


「陛下が捕らえられているんだぞ! 王命に従え!」


「そうだ。貴様は王冠の三剣の一人だろう。自分の立場を理解しているのか?」


 ガレスも続ける。


 クラウスは二人を見据えた。


「立場なら理解している。だが、私はもう陛下の命令に従うつもりはない」


「何だと?」


「父から聞いた。セレナードで何が起きたのかをな」


 クラウスの視線が国王へと向けられる。


「陛下は自らの力を利用し、我々の家族を人質同然に扱ってきた。逆らえば家族に危害を加えると脅し、思いどおりに動かしてきたのだ」


「クラウス……」


 ガルヴァンが息子の名を呼ぶ。


「私はこれまで、家族を守るために陛下の命令に従ってきた。だが、その結果がこれだ。罪のない者たちが苦しみ、仲間まで犠牲になった」


 クラウスは拳を強く握った。


「もう十分だ。たとえ私の家族が犠牲になろうとも、私は後悔しない。家族も、私が間違ったことをしていないと理解してくれるはずだ」


「貴様……本気で言っているのか?」


「本気だ」


 クラウスは二人を見据えたまま言い切った。


「それでも私が間違っていると思うのなら、ここで私を殺せ。そして、タツヤとヴィルを奴らに引き渡せばいい」


 セドリックとガレスは言葉を失った。周囲の騎士たちも、互いに顔を見合わせている。彼らもまた、これまでの国王の振る舞いを知らないわけではなかった。


 王命に逆らった騎士の監視。反対意見を述べた者の拘束。そして、命令に従わない者の家族まで巻き込んだ脅迫。中には、国王の命令によって無関係な住民を王城へ連行した者もいた。誰もが、心のどこかで疑問を抱いていたのだ。


「お、お前たち……! 誰の許しを得て逆らっている!」


 国王が声を荒らげた。


「私に逆らえばどうなるか分かっているのか! お前たちの家族も、全員処罰してやる! 首を並べて城門の外に晒してやるぞ!」


「……うるせえな」


 その瞬間。黒い服の男が剣を振るった。国王の首が、音もなく胴体から離れる。そして、玉座の前に転がった。


「ひっ……!」


 広間にいた者たちが息を呑む。国王の身体は力なく崩れ落ち、玉座の前に血が広がっていった。


「これで、この国の王様はおしまいだ」


 男は剣についた血を払う。


「さて……」


 そして、再び俺へと視線を向けた。


「お前がどんな戦いをくぐり抜けてきたのかは知らねえ。だが、今のお前じゃ俺には到底届かねえだろうよ」


「……何だと?」


「俺はお前を救ってやるんだ。こんな腐りきった国に縛られている必要はねえだろ?」


 男は笑みを深めた。


「だから、死という解放と共にアルディア王国は俺が滅ぼしてやる」


 その言葉と同時に、男は広間の外へと視線を向けた。


「ほら、外を見てみな」


 俺たちは一斉に窓の方へ目を向ける。そこで、異変に気づいた。


「……結界が」


 ヴィルが呟く。王都アルディアを覆っていたはずの巨大な結界が、跡形もなく消え去っていた。その向こう側から、無数の魔物が街へと迫ってくる。地上を駆ける魔物だけではない。空にも巨大な魔物の姿がいくつも見えた。


「な、何が起きている!?」


「結界はどうした!」


「グランディオン王国との条約はどうなった!? 結界はグランディオン王国が管理していたはずだ。それが突然消えたということは、ただの故障では済まされないぞ!」


 騎士たちが次々と声を上げる。


「ははっ。そんなに驚くことか? こんな腐れきった国見捨てられて当然だろ?」


 男は愉快そうに笑った。


「せっかくの舞台だ。派手に始めようじゃねえか」


 そして、右手を軽く掲げた。


「では、開幕だ」


 次の瞬間。大広間の天井を突き破り、巨大な飛行型の魔物が姿を現した。


「なっ――!」


 その魔物は大きく口を開くと、内部に溜め込んでいたエネルギーを一気に吐き出した。爆発するような衝撃が大広間を襲う。


「うわああああっ!」


 轟音とともに天井が崩れ、王城が吹き飛ぶ。俺たちの身体は衝撃に巻き込まれ、床や瓦礫と一緒に宙へと投げ出された。


「みんな!」


 誰かの声が聞こえた気がした。だが、返事をする余裕はなかった。


 視界がぐるぐると回転し、俺の身体は瓦礫とともに吹き飛ばされていく。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 王城街。


「ぐおおおおっ!」


 地面に叩きつけられたゴリィが、瓦礫を押しのけて立ち上がった。


「いってえ……! なんなんだ、今のは!」


「王子様はどこ!?」


 ノノも周囲を見渡す。


「タツヤさんは……?」


 しかし、そこにタツヤの姿はない。どうやら、爆発の衝撃で別々の場所に吹き飛ばされてしまったらしい。


「くそっ、あいつらとはぐれちまったか!」


 ゴリィが周囲を見回した、そのときだった。


「ガハハッ! 随分と派手に吹き飛ばされたじゃねえか!」


 崩れた建物の向こう側から、豪快な笑い声が響いた。


 姿を現したのは、筋骨隆々とした大柄な男だった。肩幅は広く、鍛え上げられた腕は丸太のように太い。男は首を左右に鳴らしながら、二人を見下ろした。


「お前たちが、例の連中か」


 男の首元には、数字の刻印が刻まれている。


 ――五。


「俺は五刻、エルドリック・ハース。ここでお前たちを始末させてもらうぜ!」


「五刻……!」


 ノノの表情が引き締まる。


「どうやら、やるしかないようだな!」


 ゴリィが拳を鳴らした。


「ガハハッ! いいねえ! そうこなくっちゃな!」


 エルドリックは楽しそうに笑いながら、両腕を広げた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 貴族街。


「きゃっ!」


 リナが地面に転がり、すぐに身を起こした。


「リナ、大丈夫か!?」


 ヴィルが駆け寄る。


「はい……。ヴィルさんは?」


「問題ない」


 二人が周囲を確認すると、少し離れた場所に一人の男が立っていた。


 男は力の抜けた様子で首を傾け、眠たげな目で二人を眺めている。まるで、今起きた出来事にも興味がないかのようだった。


「お前たちが、今回の標的か」


 男がゆっくりと顔を上げる。その首には、数字の刻印があった。


 ――六。


「六刻、ノクス。よろしく頼むよ」


「……闇の組織か」


 ヴィルがリナを背後にかばう。


「ここは俺が相手をする。リナは無理をするな」


「いいえ。私も戦います!」


 リナは一歩前に出た。


「そうかい。まあ、好きにするといいさ」


 ノクスは気だるそうに答えると、ゆっくりと両手を持ち上げた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 居住区。


「くっ……!」


 クラウスは崩れた建物の残骸から這い出し、周囲を見渡した。


 幸い、大きな怪我はない。しかし、目の前には二人の男が立っていた。


 一人は、全身から強い魔力を漂わせる男。もう一人は、周囲の景色がわずかに歪んで見える場所に立っている。


「久しぶりだな、王冠の三剣」


 魔力を漂わせる男が口を開く。


「俺は一刻、シグルド・ヴェイン」


 男は腕を組み、クラウスを値踏みするように見つめた。


 その隣の男が、淡々と続ける。


「二刻、アゼルだ」


 クラウスは二人の首元に刻まれた数字を確認する。


「一刻と二刻……!」


「どうやら、話が早そうだな」


 アゼルがわずかに口元を緩める。


「お前にはここで消えてもらう」


 クラウスは剣を構えた。


「そう簡単にいくと思わないことだね」


「威勢がいいな。どこまで持つか見せてもらおうか」


 シグルドは腕を組んだまま、静かに笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 商業区。


「ここは……商業区か」


 セドリック・ハルヴェインは、崩れた建物の前で立ち上がった。周囲には逃げ惑う住民たちの姿がある。


「おやおや。随分と人が多い場所に飛ばされたものだ」


 その声に振り返る。


 そこには、全身に隙間なく刺青を刻んだ男が立っていた。長く伸びた爪は黒く染められており、男はその指先を弄ぶように、一本ずつゆっくりと動かしている。


「三刻、フィルク」


 男は薄気味悪い笑みを浮かべた。


「お前が相手か。ちょうどいい。少し試してみたいことがあったんだ」


 セドリックは剣を抜いた。


「住民には手を出させん」


「ふふ……。そうか。ならば、まずは邪魔なものから片付けるとしよう」


 フィルクは黒い爪を見つめながら、楽しそうに笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 工業区。


「ぐっ……!」


 ガレス・ノルディアは、地面に片膝をつきながら周囲を見渡した。崩れた建物の向こうに、巨大な煙が立ち上っている。


「一体、何が起きている……」


「考える暇はないと思うぜ」


 背後から声がした。


 振り返ると、そこには血のように赤い瞳をした男が立っていた。男は口元に薄い笑みを浮かべ、ガレスをじっと見つめている。


「四刻、アシュベル・ローデン。お前を殺しに来た」


 ガレスは剣を構える。


「そうか。ならば、こちらも容赦はしない」


「ふっ……。その威勢、いつまで続くかな」


 アシュベルは赤い瞳を細めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 中央街。


「……っ!」


 俺は地面に叩きつけられた衝撃で、しばらく動けずにいた。


 身体のあちこちが痛む。どうやら、崩れた建物の瓦礫と一緒に吹き飛ばされたらしい。


「くそっ……。やっと帰還したばかりなのに、いきなり王都襲撃って、マジかよ……!」


 何とか身体を起こし、周囲を見渡す。


 辺り一面、瓦礫だらけだった。建物は崩れ、道路には大きな亀裂が走っている。遠くからは魔物の咆哮や、人々の悲鳴が聞こえてきた。


 ノノ、ゴリィ、ヴィル、リナ。クラウスやガルヴァン、エドガー……。


 みんな、無事だろうか。


 それぞれ別の場所に吹き飛ばされた可能性もある。早く合流したいところだが、まずは目の前の状況を確認しなければ。


「よく生きてたな。まあ、あれで死んじゃ楽しみ甲斐がねえってもんだよな」


 その声に顔を上げる。


 立ち上る煙の向こう側に、一人の男が浮かんでいた。その背後には、先ほど大広間を破壊した巨大な飛行型の魔物がいる。


 男は俺を見下ろしながら、ゆっくりと口を開いた。


「俺の名前はルシアン・グレイヴ。闇の組織のリーダーだ」


 ……こいつが、闇の組織のリーダー。


 俺のことをDランクだと知っていて、わざわざここまで狙ってきた男。


「さて、綾瀬達也。ここからはお前と俺の時間だ」


 ルシアンは口元を歪めた。


「楽しませてくれよ?」

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