三話:少しのズレ
「ここは…」
それは見たことのある光景だった
「なんでここに…」
状況が掴めずに呆然としていると
「どうしたの?」
獣車の端の方から聞き慣れた声が聞こえてきた
その方向を向く前から目からは涙が溢れ出そうだった
「やっぱりだ…」
声の正体は先程処刑されたはずのラノア・フリーだった
現実ではあり得ない事であろう、死んだ人間が今元気そうに話しているなんて…だが今の龍にはそんなことを考える程の余裕はなかった
生きている―――それだけでよかった
突然の行動にラノアは少し驚いているようだったが、やはり優しい女性だ…何も言わずにただ微笑んでいる
気持ちの整理がついた頃…何故自分が獣車に乗っているのかが気になった
「そういえば、なんでこんなところにいるんだっけ?」
「なんでって…リュウを都市に送った時に、この世界の事について何もわからないから私について行きたいっていったんじゃない。」
おかしい…そんなことを言った記憶はどこにもない
何かがおかしいとは思ったがこれ以上ラノアを困らせるのは良くないと思い話を合わせる
「確かに…そうだった!」
おかしいとは思われてはいないだろうか?
するとラノアがクスッと笑って
「なにそれ、変なの!」
「あんま笑わないでくれよ…」
どうやら僕がふざけていると解釈したらしい…
まぁ変な奴認定されるよりはいいか…
「これってどこに向かってるんだ?」
「今は砂漠を抜けると見えてくるスリンダーの森に向かってるよ」
「その森に何か用事があるの?」
「実は…」
ラノアは顔を下げて少しいいにくそうな感じだった
「私…親と少し喧嘩しちゃって、家をでてきたんだ」
「多分、親たちは私のことを探し回っていると思うの」
「スリンダーの森は魔力が探知されない森でね、隠れるにはうってつけの場所なんだ。」
「そういう事だったのか…」
ラノアの親…死刑人の話が正しいとするならばラノアはスターハザードの女王ということになる
つまりラノアの親も王家の人間なのだろう
どうも親子同士の喧嘩ということで収めるには難しい話なのではないだろうか…
「その喧嘩の原因ってなんなんだ?」
「それは…」
「ごめん…それは言えない」
「大丈夫だ!―無理に言うことはないよ」
そうだ…わざわざ聞く必要は無いはずだ
話をしていると50mはこえていそうな大きな樹木が密集している森が見えてきた
「あれがスリンダーの森か…」
「思ったよりも大きいんだな」
「びっくりしたでしょ!」
「なにせこの森はこの世界で1番大っきいんだから!」
獣車のままスリンダーの森に入っていく
「うおっ!」
「道が平地じゃないから結構揺れるな」
涼しくて、空気がとても澄んでいる
ここにいると心が落ち着く気がする
「ここから少し進むと湖があるから、そこで休もう」
こんな所にある湖なんてよっぽど綺麗なんだろうと心が踊る―――――――――――――あれ?
ボスッという音と共に荷台を引いていた2匹の魔物の内1匹が暴れ出す
「なんだ!?」
よく見ると暴れている魔物の腹に弓が刺さっている
そのまま魔物がもう1匹の魔物を押しながら近くの木にぶつかった
「どうなったんだ…」
どうやら木にぶつかった衝撃で少し気絶していたらしい
「ラノアは…ラノア!」
急いで獣車から降りるとラノアと鉄の鎧を纏った集団が戦っていた
近くに落ちている剣をとってラノアのもとに向かう
「やめろ!」
自分の力では到底扱えない剣を構えて集団を威嚇する
こんな事をしたって少しも警戒しないのはわかってる…
「リュウは逃げて!」
「この人たちはブルービル国の騎士たちよ!」
「君を置いて逃げるなんて出来ない!」
「我らブルービル国の聖騎士!国王の名によりラノア・フリーの首をはねにきた!」
宣言が終わると一斉にラノアに向かってくる
急いでラノアの前に立つ
剣を騎士の一人に向かって上から下に振り上げるが軽々と弾かれてしまう
「邪魔をするなら貴様の命も頂く!」
「リュウ避けて!」
相手の剣が左耳スレスレを通る
するとすぐに左腕に激痛が走る
左腕を見ると手首が切り落とされ、地面に手首が転がっていた
「ウッッ。!?」
手首を押さえ、膝をついて悶える龍
血が脈打つように大量に飛びでてくる
痛みを耐えるために唇から血が垂れるほど噛み締める
痛い…痛い…痛い…痛い…助けて…逃げたい…逃げたい…怖い…怖い…怖い…
今まで感じたことのない恐怖を感じる龍
突然全身が急激な寒さに襲われる
(寒…寒い…寒い…)
すると口の中が水で満たされる。吐き出してみるとそれは血の塊だった
「あぁあァァ…」
全身の穴から血が溢れ、だんだんと意識が遠のいていく…
その場に倒れ込む龍
「リュウ!しっかりしてリュウ!リュ―……」
(ごめん…助けられなかった……)
「リュウ!リュウ!―」
「ハッ!?」
「いきなりボーとしてどうしたの?」
「ここは―」
「何処って……獣車の中じゃない!」




