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三話

主人公が誰かわからなくなってきました。

 ルトアニアの最西端にある港街ブッヘ。

 ルトアニアと他国との貿易で栄え、王都に次いで二番目に大きな街だ。


 ブッヘまでは、王都から整備された街道を進んで一週間ほど。半分は街道沿いにある休憩所で野宿となる。


 王都から近いところでは魔物は出ず、宿にも泊まれたので安全に過ごした。


 商隊に雇われた冒険者が言うには、三日目(きょう)四日目(あした)は魔物が出やすい森の近くを通るらしい。

 しかもそのあたりは村がないので、野宿になる。


 順調な旅に飽きてきていたラングは、張り切って商隊の先頭に馬を進め、ピクピクと耳を動かし、警戒体制に入った。すでに魔物がでると言われている森が街道の横に広がっている。

 魔物がでてきたら一人で倒す気満々だ。



「獣人は狩りが好きと聞いてました。本当なんですね」

 セドリックが飛び出して行ったラングの背をみて、パイシォに話しかけた。


「狩りは獣の本能だからな。リズでもネズミくらいならとってくるぞ」

 パイシォに体を借りた王が答える。


 唯一の護衛だったラングをリズの旅につけたため、王の護衛がいなくなってしまった。ギゥブから追加の護衛たちが来るまで王は帰国できず、暇らしい。ほとんど時間をパイシォに憑依して過ごしている。


 すっかり慣れたらしく、キャリーの膝でリズはゴロゴロと喉ならし目を細める。キャリーの撫でテクは豪語しただけあって、リズは気持ちよくてすぐに眠くなってしまう。


 手足をビョーンとのばし、ヨダレを垂らして眠るリズをセドリックも含め、三人で眺める。暇な旅での唯一の癒しだった。


「白殿。ラングさんはどのくらい強いのですか?」

 セドリックは獣人共通語の勉強のため、よく蛇王に話しかける。暇な蛇王もそれによく付き合う。


「一応我の親衛隊長だ。ギゥブ一の勇士といっても良いだろう」


「師匠とどっちが強いのかな?」


「弟子。魔法使いと獣人の戦士を比べるのは間違いよ。普通に戦えば私に勝ち目はないわ。獣人は身体強化に特化しているのよ。

 気がついたら間をつめられて、ざっくりやられておしまいね」


「無詠唱の師匠でも?」

「前もって準備してれば多少持つけどね。獣人と戦うなんて愚か者しかいないわ。

 あんたが王になった後に絶対ギゥブと戦争なんてしないでよね。こっちが最終的に勝てるかもしれないけど、国民の殆どが死ぬわ」


 豪胆にもその王がいる前で、そういい放つキャリーに蛇王は目を細め笑った。


「魔法は人のほうが使える者が多いからな。私も戦いたくはない」


「師匠なに物騒なこという。ギゥブ恩人。僕、もっと仲良くするです。戦うなんてない!

 魔法といえば賢者ギゥブにいるです。賢者どんな魔法使うです?」


 話題を変えるべく、セドリックが賢者についてたずねた。


「さてあまり魔法を使うところは見ていないからな。通訳するときに使っていたのを見たくらいだ」


「ギゥブの建国の際に敵対種族と戦いがあったと聞きましたが、そのとき魔法は使われなかったのですか?」

 キャリーも気になったのか、珍しく弟子の話題変えに付き合う。


「ああ。獣王になるなら、魔法で屈服させても意味がない。力で示せとあやつが言ってた。お陰で私は連戦でヘトヘトになったな」


 セドリックは数日前に出会った蛇王を思い出していた。ラングのような巨体ではなく、蛇王は線の細い麗人にしか見えなかった。力で王に成り上がったのだと言われてもピンとこなかった。



「なにか出たらしいな」

 にわかに前方が騒がしくなる。


「にゃ!」

 リズが飛び起きた。たらりとヨダレが垂れたので、慌ててリズは口元をぬぐう。そしてピクピクと耳を動かし、両手をあげた。


「オークにゃ!カツがいいにゃ!にぁぁ!」

 雄叫びをあげながら、リズは前方に走っていく。すぐにパイシォがするすると後を追う。


『いくよ、弟子』

『はい』

 キャリーとセドリックも後に続く。


 商隊からかなり離れた先に、オークが三体。剣を振るうラングの足元に倒れたオークが二体。


 ラングは大剣使い。本来は両手でもつ大剣を片手で素早く振り、オークをなぎ倒す。


「そこにゃ!」

 リズはピョンピョン飛びはね、ラングを応援する。


「師匠、援護は?」

「必要ないし、手をだしたら文句を言われる。よく見ておけ、あれが獣人の戦いだ」


 セドリックの目にはラングがぶれて見えた。あまりにも素早い動きで、縦横無尽に動くため、まれにとらえる姿が残像となって見えているのだ。


「凄い、あっという間に倒した」

「凄くないにゃ。ラング手を抜きまくりにゃ、遊びすぎにゃー」


 リズはラングのもとに駆け寄ると、腰に差していたナイフを取り出し、さっさと血抜きを始める。


「セドリックも手伝うにゃ。早くしないと肉の味が落ちるにゃ」


「リズ、マジックバックにいれておけば、鮮度は大丈夫だ。馬車が通れないから片付けろ。ここではやらん。休憩所で解体だ」


 大剣の血のりを落としてやってきたラングが、さっさと自分のマジックバックにオークを詰める。


「バック血だらけにならにゃい?」

「大丈夫だ。バックの中では血は止まっている。食うなら多少熟成させたいな。おい、氷魔法使えるか?」

 手伝いにきたキャリーにラングが問う。


「使えるわよ」

「なら後で頼む。今日は鳥食いてーな」


「にゃんで?カツにゃー!!リズお口はカツなのにや!!」

「熟成させたほうがさらにうまくなるぞ」


 ぐるぐると目をまわし考え込むリズ。

「ゔー、お口はカツなのにゃ…」

「肉は多いから、熟成肉は別の日に食べればいいだろう」


 するするとリズの肩に乗った王がそう言うと、「今日はカツにゃー!!」とリズはスキップして馬車に戻っていった。


 通行の邪魔だったオークが片付き、馬車が出発した。夕方前には休憩所にたどり着く。


「おい、キャリー。鳥を捕まえにいくぞ。今度はお前らの腕をみたい」

 オークを解体し始めたリズとパイシォをおいて、ラングに誘われたキャリーとセドリックが急遽森での鳥狩りに連れ出された。


 ラングの腕をみたいという要望はキャリーにもよくわかる。互いの力量がわからないと護衛として上手く動けないからだ。


 セドリックを連れてきたのも、戦闘になれば参加させるからだ。


 人は獣人ほどの聴力や嗅覚を持っていない。獲物探しにキャリーは探索魔法を使う。


「三十メートルくらい先に鳥らしきものがいるわ」

「ふうん、その魔法の範囲は?」


「およそ三百メートル。だけど、なにかいるのはわかるけど、なにがいるのかもっと近づかないとわからない。敵意を持ってるかどうかくらいなら、わかるわ。もともと敵意を探知する魔法だからね」


「王子も使えるのか?」

「まだ使えない」


「使える魔法がなにかを聞いたほうが早いか?」

「中級の風魔法。あのホロホロ鳥なら一撃で。オークなら三匹はまとめて倒せる。初級なら水と光が使える」


 キャリーが示した方向の大木にホロホロ鳥が数羽とまっていた。


「まだちっちぇからな。そんだけ使えればいいほうか。んじゃお手並み拝見」

「弟子。弱めにね。じゃないとズタズタに切り裂いて食べるところなくなるから」


「はい」


 セドリックはキュッと手を握ると、呼吸を整えてからホロホロ鳥に向け右手を向けた。



「ウインドストーム!」

 ホロホロ鳥の周囲に突如荒れ狂う風が現れ、逃げようと羽ばたいたホロホロ鳥の羽が切り裂かれ、鳥たちが墜落していく。


「俺が接敵してるときには使うなよ」

 落ちた鳥を拾いあげながら、ラングが注意する。


「範囲魔法はよっぽど離れた敵にしか使うなってことね」


「もう少しなんか狩るか」

「それならあっちね」


 遠くに鹿らしきものが見える。

「それじゃ、私の番ね。ライトニング!」

 あえて詠唱したキャリーの雷魔法が、青白い閃光を放ち鹿に落ちる。


「初級魔法だから、あまり目立たないでしょ」

 あっけらかんとキャリーが言う。見た目は若い女性だが、侮ることなかれ。しっかりと年齢を重ねた魔女だ。


「威力、精度や距離も初級魔法じゃねぇ」

 ボツリとラングは愚痴る。


「私は接敵中でも魔法使っていいわよね?」

「ああ、いいぞ。そろそろ帰るか。リズが泣いてそうだ」


「そりゃあれだけのオークを一人で解体できないでしょ」


 一緒に見捨てて来たはずなのに、キャリーは他人事のようにラングを批難する。




 休憩所に戻ると、冒険者や商人の丁稚が五体のオークをさばいていた。


 彼らを巻き込んだリズはというと、商人からせしめた油を熱し、カツを揚げていた。


「まだかにゃ?」

「まだだ。もう少し待て」

 菜箸を持ち、じっと油に浮くカツを見守るリズ。その肩にはパイシォに憑依した王。


「いいぞ」

「うにゃ!」

 リズはカッと目を見開くと、さっと箸を走らせカツを取り出し、油きりの皿の上にのせる。そして借りてきた包丁でカツを切る。


 サクッといい音をたてカツが切り分けられる。

「できたにゃ!」

 皿を頭上にあげ、くるくるとまわるリズ。


「へぇ、これがカツなの?こんなに油つかうのね。ルトアニアではあまりみない調理法ね」

「にゃ?カツしらないにゃ?唐揚げも?」


「「知らない」わ」

 キャリーとセドリックが同時に答える。


「知らにゃいの?」

 リズは近くで解体中の冒険者や商人に聞いて回る。

 皆から知らないと答えられて、リズは驚く。


「もったいにゃい!人生の損にゃ!!ラング、その鳥は唐揚げにするにゃ!カツも唐揚げも揚げまくるにゃ!!」


 ラングはポイポイとマジックバックから唐揚げ用に醤油とショウガを取り出し、キャリーとセドリックに唐揚げの作りかたを説明する。


 見物していた商人にも手伝わせて、揚げ物鍋を増やした。じゅわっといい音を聞きながら、リズは大量に揚げ物を揚げていく。


 最初に揚げたカツがすっかり冷めた頃、揚げ物尽くしの晩ご飯が出来上がる。


「カツにはこのソースをかけるにゃ」

 リズはマジックバックからソースを取り出し、テーブルの上にドンと乗せる。


『ほほう。黒いソースですか。あっちの醤油というのも黒い。ギゥブのソースはみんな黒いのですか?』


 商人の一人がリズに尋ねたが、『冷めるからまずは食うにゃ!』と言われて恐る恐る黒いソースをかけてカツを口に運んだ。


『うまい。なんだこのソース。フルーツが入っているのか?』

『サクサクうまうま』

『唐揚げってやつもスゲーうまい』


 うむうむと頷きながらリズは熱々のカツを頬張る。うまうまだ。

 冷めたカツはパイシォが美味しくいただいた。


 リズは食べ終わるとすぐにおかわりのカツをとりに走る。凄い勢いでみんなが食べるので、あっという間になくなりそうだ。


「リズ、とっても美味しい」

 セドリックはカツと唐揚げを交互に食べながら、笑顔をリズに向ける。


『あー、エールが欲しくなる!ちょっとなに見せつけてるのよ!!』

 護衛中で飲めないキャリーが、ぐひぐひとエールを飲む商人達をみて悲鳴をあげた。


 商人の一人はにっこりと笑うと、エールの入ったジョッキをリズに向かって掲げた。


『御用商人はなんでこのソースを仕入れてこないんだ?』

『揚げ物という料理も聞いたことないぞ』


 それは五年前、ギゥブに突如現れた別の世界から来た人が伝えたもの。神の気まぐれか去年元の世界に戻って行った。通訳として彼女をサポートしたリズは、うまいうまいと言われて鼻高々だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


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作者のやる気に火がつきます。

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