一話
だらだら以来の久しぶりの冒険ものです。
まだ三話までしか書けていません。
なろうフェス向けに書き下ろしています。
お祭りは参加することに意味があるよね?
ポカポカと暖かい日差しが差し込む春の朝。焼きたてのパンの匂いが少女の鼻をくすぐる。
「うにゃ、もう食べられない」
ふかふかの布団にくるまり、幸せそうに眠る少女は、コロンと寝返りをうち、ムニャムニャと口を動かす。
「リズ、朝だよ。寝ぼけていないで、さっさと起きな!」
リズの下宿先の大家である熊の獣人のマーサが、いつものようにペロリと布団をひっぺがした。その掛け布団にひっつき、ぷらーんとリズは宙を舞う。
マーサは右眉をぴくりと動かすと、掛け布団を大きく振り下ろす。
「にゃあー!」
ボトンと掛け布団から落下したリズは一声鳴き、パタリと尻尾を一振り。やがて観念したのかムクリと起き上がった。
「おはよう、マーサさん」
くしくしと手で目を擦りながら、リズは挨拶をした。
「おはよう、リズ。あんた今日王様に呼ばれてるんだろう?」
すっかり忘れていたリズは、はっと顔を上げると急いで裏庭にある井戸に向かい、水を汲み上げ顔を洗う。
「急ぐにゃ」
ダッと共用のダイニングに駆け込むと、マーサが用意していた朝食にかぶりついた。
大きめのベーコンに半熟の目玉焼き。焼きたてのパンはパリッとしていて、噛む度にパリパリといい音が鳴る。
「マーサさんのパンはやっぱりうまいんにゃ」
どんなに急いでいてもご飯は抜かない。
リズはパンをおかわりして満足してから、やっと着替えて王様に会いに出掛けた。
リズは今年十五歳の猫の獣人の女の子。ふわふわの茶色の耳と白と茶のしましま尻尾がチャームポイントで、大きな目はくりくりとしてなかなか可愛い顔立ちをしている。
ちょぴり背が低いのが気になるお年頃。
親はいない。物心ついた頃には孤児院にいた。
十歳になると神様から貰えるギフトで一人立ちして、マーサの下宿で暮らしている。
「おはよう、リズ。聞いていた時間より、遅かったな。また寝坊か?」
馴染みの王城の門番が苦笑する。
「えへへ」
リズはいつものように笑って誤魔化した。
「猫は朝に弱いから仕方ないか」
朝に強い鳥の獣人に案内され、南の庭にたどり着く。色とりどり花が咲き乱れた庭の東屋には、すでに王が待っていた。
「おはようございます、王様」
「おはよう、リズ。座りなさい」
リズはお菓子が並んだテーブルに目を輝かせ、素直に席についた。
アップルパイにシュークリーム。アーモンドのクッキーにレーズンのバターサンド。全部リズの好物だ。
「食べたかったら、食べていいぞ」
「いただくにゃ」
王はそんなリズを赤い目を細めて眺めたあと、モグモグとお菓子を頬張るリズの目の前に、王自ら淹れた紅茶を置く。
この北の国の王は美しい白髪とルビーのような赤い瞳を持つ。一見若い美青年に見えるが、齢三百を越える白蛇の獣人だ。
本来獣人は同じ種族が集まり、村や街を築くことが多い。その中で雑多な種族が集まるこの国は珍しく、人の国と獣人を繋ぐ役割をはたしている。
「呼び出した用件だか、来週に人の国へと行く用事ができた。通訳として同行して欲しい」
「にゃ?人の国?」
大きな目をリズはさらに大きく広げ、こてんと首を傾げた。
「そうだ。長年人の言葉を訳してくれた賢者である老師が隠居しているだろう?お前のギフトなら、人の言葉でも大丈夫だろう」
リズはうーんと考え、困って王を見上げた。
「そうにゃ?」
「大丈夫だ。ギフト名が【言語翻訳】だからな。言語ならなんでもいけるだろう」
王はリズのほっぺについたクリームを指でぬぐい、ペロリと舐めた。
「なら行くにゃ」
「よろしい。では来週また朝に来い。旅支度はこちらでしておく。手ぶらでいいぞ。ではまたあとでな」
王はにっこりと微笑むと、あとを女官の狐の獣人に任せて執務に戻る。
リズはシュークリームをお茶で流し込んだあと、残ったお菓子をお土産に包んで貰い、そのままバイト先に出かける。
「リズ、待っていたよ!」
バイト先の冒険者ギルドに訪れると、早速受付嬢のソーニャに捕まる。
リズは冒険者ギルドで、通訳兼獣人共通語の講師をやっていた。獣人共通語とは、王の白蛇族の言語で、この国で二百年程使われている。
リズがこなしている仕事は、もともと賢者であるタヌキ獣人の老師が獣人の共通語を作るべく始めた事業だ。
獣人は種族毎に独自の言語があり、共通語を作って交流することは大事業となった。
長寿ではないたぬき族の老師が、この大事業を成し遂げたられたのは、エリクシールを飲んで老いを遅らせているのではないかという噂が流れていた。
「今朝、犬族の若者達が着いてね。リズが来るまで、同じ犬族の冒険者に通訳頼んでいるところ。共通語講座、今三人くらいでしょ?あと四人増えても行けるよね?犬族言語と共用語の翻訳の絵本もあるし」
「大丈夫にゃ。でも来週から王様について人族の国に行くにゃ」
「どのくらい行くの?」
「知らないにゃ」
「そっか。とりあえず今週中に基本だけでも叩きこんでおいてね」
「任せるにゃ」
トンとない胸をリズは叩き、お勉強会用の部屋へと向かう。なお、リズの講座を受けた者たちは語尾に「にゃ」がつく弊害を抱えることになる。
「おはよう!」
教室に入ると、カエル族が三人。犬族が五人いた。
「「「おはよう!」」」
挨拶を覚えたカエル族がすぐに反応する。
『はじめまして、リズっていうにゃ(犬族語)』
『おらはケン。あっちから弟のダン、ポム、タロだ(犬族語)』
「リズがきたなら俺はお役御免だな。じゃあ後はよろしく!」
簡単に挨拶がすむと、通訳としてリズが来るまで頼まれていた犬族の冒険者が挨拶して、出ていった。
さてとリズは、老師直伝の講師マニュアルを開く。年端もいかないリズが講師としてバイトをこなせるのはこのマニュアルがあるからだ。
『今日はデートの誘いかたにゃ。はい、まねるにゃ(カエル族語)
「ねぇちゃん」』
「「「ねぇちゃん」」」
「茶しばきにいかにゃいか?」
「「「ちゃしはばきにいかにゃ?」」」
『違うにゃ。(カエル族語)「茶しばきにいかにゃいか?」』
「「「ちゃしばきにいかにゃいか?」」」
このデートの誘い方は賢者スタイルと呼ばれ、伝統的な挨拶として認識されている。講座受講生だけが使い、今時の若者は使わない。
マニュアル通りにしか教えないリズが悪い。
受講生が共通語に慣れた頃に、街の親切な若者がこっそり教えてあげることになっている。マニュアルを改定すればいいことなのだが、古典は古典として受け継ぐことも必要とギルド長が言ったとか言わないとか。
二時間の程講義を終えると、お昼ご飯を食べてからリズはもうひとつのバイト先に出かける。
「老師、来たにゃ」
王都から少し離れたところにある老師の別荘だ。
老師は庭のウッドデッキに置いた揺り椅子でうたた寝中。引退してからの老師は眠る時間が増えていた。
眠る老師を起こすかリズは悩んだ。すると白い一匹の小さな蛇が、するすると椅子を昇り、老師の膝の上でとぐろを巻いた。
「起こすな。寝かせてやれ」
現れたのは王の眷属であり、王の現身。
「今日は庭のみかんを収穫してくれ」
「はいにゃ」
リズの午後のバイトは老師のお手伝い。納屋から収穫用のハサミを取り出し、背負い籠に採取した夏みかんを入れていく。
ひととおり採り終わり老師のもとに戻ると、起きた老師がお茶をいれていた。
「王から聞いた。人の国に行くそうだな。
私から助言をひとつ。
言葉には裏と表がある。
リズ、お前が裏を読むことは難しいだろう。
だが感はいい。いいか、お前が感じたことを王に伝えよ」
「……えっと、感じたことを伝える?」
「そうだ。できるな?」
「はいにゃ」
しゅたっと手をあげてリズが答えると、老師が首にかけていたネックレスを外し、リズに渡した。
「困ったときに一度だけ私と話せる魔道具だ。持っていきなさい。使い方は王が知っている」
リズはなくさないように、もらったネックレスをすぐに首にかけた。ネックレスの中央には青い魔石がキラキラと輝いている。
「ところで、土産なんだがいくつか頼んでも?」
老師はリズではなく王に向かって尋ねた。
「構わないが」
「昔食った饅頭がうまかったな。確か店はどこだったかな?」
「おい、何十年前の話だ?」
「そうさのう、ざっと七十年ほど前かのう。うまかったから今でもあるだろう。確か南門の近くだったはず」
「……思い出せる範囲で、特徴と店の場所を書いておけ。ラングに買いに行かせる。メモは出発の前日にリズに渡しておけ」
美味しい饅頭と聞き、リズも期待で胸をふくらませる。
そして一週間後、蛇王一行は人の国へと向かう。その人数は一国の王の外遊にしては少なく、ひっそりと出発した。
リズは王と同じ馬車に乗り、初めての遠出にワクワクしながら馬車の窓に張り付いた。
この時のリズは知らなかった。まさか人の国を越えて遥かな大陸まで向かうことになるとは。
リズの冒険の始まりである。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
よろしければ、ご感想や評価などお願いします。
作者のやる気に火がつきます。
今暑過ぎてスマホも暑いし、頭が動かず……ヤバいです。これが扇風機の限界か!




