03 物語の始まり
クレアがあの後死んだと知らされたのは、丸二日経った後だった
あの日組合の前まで逃げ込んで元勇者様に今回起こったことを早口で説明した。その時の老人の顔は、歳すら感じさせない険しい顔になっていた
その日から組合の宿に泊まらせてもらいながらクレアといた場所やその付近を調べたが痕跡は何一つ残っていなかった
そうして二日経ち、今に至る…
「のうオウカ。お主に伝えないといけない事があるでのう…」
何だろうか。もしかしたらクレアが帰ってきたとかそういう情報かも知れない。そう思った俺は元勇者様のところへ急いで駆け寄った
「もしかしてクレアが見つかったのですか?それとも一人で帰ってきたりして…」
一応歳上なので敬語を使いながら俺の予想を挙げていく
「…前者だ」
「やった!やっと帰ってきたのかあいつ…」
「クレアは、死体として見つかった。上半身を酷く抉られたまま、近くの草原に放置されていたらしい」
…?
「元勇者様。いくら貴方と言えどそんな冗談は笑えませんよ。本当のことを話したらどうなんですか」
…嘘だろ?
「…ほら、カウントしてあげます。カウントしているうちに冗談を取り消せば許してあげますよ…」
…嘘だと、冗談だと言ってくれよ…なぁ?
「…クレアは…クレアは死んだのか?」
「…そうだ。今回は、いくら拳聖とは言え自分と相手の力の差を見誤り戦闘を続けたあいつが悪いのだ。お主が気に止む事は…」
「よくそんなひどいことが言えるよなぁ!?おい元勇者!あいつは、俺を助けるために犠牲になったんだぞ?それをあいつの力量不足が悪いだって?ふざけてんじゃねーよ!そんなこと言ってるお前は何なんだ!?勇者の、いや、元勇者の端くれにも置けねえなぁおい!!」
…何でクレアが死ななきゃいけなかったんだ?俺が死ねばよかったじゃないか。だってあの男…魔王は俺を危険分子として殺そうと出向いてきたんだから
「…すまなかった。今の発言はわしに責がある。でもな、弟子を殺されては、わしだって穏やかにはやっていられんのだよ。そこをどうか覚えておいてくれ。本当に、すまなかったな」
「…いつか俺が強くなって魔王をぶち殺してやる。だからその時まで、彼の遺体が腐らないように安置しておいてください」
そう言って組合を出た
…魔王だかなんだか知らないが、俺のこの世界で初めてできた親友を、家族を、殺した罪はしっかりと受けてもらうぞ
そう決意した時
[新個体「エクソシスト」桜花健及びオウカの強い決意を感知。これにより特級魔法「過負荷思考」を授与…成功しました。また、オウカの強くなりたいと言う強い意識も同時に感知、これによりオウカの魔王化を進めます。]
転生する時にも聞いたあの声が聞こえてきた
「おい、神様だか何だか知らないが魔王化ってのはどう言うことだ?なぜ俺がクレアを殺したやつと同程度の底辺になる必要がある」
いきなり聞こえてきた声に対し念を通すことで二人だけの会話を確立した俺はその“声”に対し疑問をぶつける。そうすると、すこし驚いたような気配を感じさせながら返答した
[過負荷思考を無意識のうちに起動するとは…それも、この短時間での起動…脳に相当な負荷がかかっています。今すぐ解除したほうがよろしいと思います。]
「おい、俺の質問に答えろ。なぜ俺を魔王化する。てか魔王化しちゃったら容姿とか変わるんじゃ無いのか?そんなの俺嫌なんだが。てかその過負荷思考って奴の能力教えてくれ。そうじゃないと使おうにも使えないから」
そういうと声は半ば呆れたようにして言う
[では、完全な魔王化ではなく、オウカが意図した時にのみ能力が引き出されるようにしましょう。そうすると魔王化の時以外は現在と全く変わらないステータスですが、大丈夫ですか?]
「…容姿は変わるのか?」
[何処か一箇所が変わるようにすれば容姿が変わる事は防げますが、そうすると完全な魔王になることが今後一切出来なくなります。よろしいですか?]
「もちろん。部位は…そうだなぁ…俺の左目って水色だろ?それが魔王化してる時は紅に染まるとかでいいんじゃないか?それで、過負荷思考ってのはどんな能力なんだ?」
つまり俺が魔王化している時は両眼が紅く染まるってことだ。俺はまだ能力を教えられていないから教えてもらうまで魔王化は絶対にしないと決める
[オウカによる魔王化時の容姿変更場所の提案を承諾しました。特級魔法「過負荷思考」ですが、魔法使用者の脳の最大周波数を極限まで引き上げたのち脳に元からついている体を壊さないための制限を一時的に開放することができる能力です。尚、魔法が切れた時に脳の周波数は通常の状態に戻ります。この魔法は魔力を必要としないため、魔法よりも呪法に近しいモノですね。]
なるほど。つまり過負荷思考ってのは魔力いらずの魔法で自分の思考回路を極限まで上げて使うことが出来るんだな。
…それだけ?
「なぁ、その魔法を使えば具体的には何ができるんだ?」
[今貴方がやっているような、空間に張り巡らされている言葉を読み取り、思考を相手に飛ばす。いわゆる念力を使うことが可能です。その他、相手の魔法の解析が完了した際にその魔法を取得できたり、動きを見た上でのステータスをデータ化し、自分のステータスの差を調べることも可能です。さらに脳が出す信号を最大限にまで高めることで運動神経を一時的に異常なほどにまで増大させることなども可能です。]
おぉ、実はかなり使える魔法なのか。てか使えるってレベルじゃないな。もはやチートだ
[脳の周波数を全力開放すれば未來視までもが可能になりますが、未來視は脳と目に対する負荷が他の使用用途と比べ物にならないほど高く、長時間使用すれば脳が焼き切れる可能性があるため、非常にリスクがあります。が、今の貴方なら15分先の未来を視れるでしょう。ただし、未來視は一日に三回までにしてください]
…この魔法、紛うことなきチートでした
それにしても過保護すぎだろとツッコみたくなるレベルで詳しく教えてくれたのでもう過負荷思考の使い方は覚えることが出来た
「能力の使い方や注意点まで詳しく教えてくれてありがとう。話を聞いてる感じだとこの念力?も脳への負荷が凄そうだしそろそろ切るよ。魔王化ができるようになるまではさようならだね。それでは」
決意を固めた俺に迷いはない。魔王化することには若干の不安と不満が残っていたがきっとまたあの声がガイドしてくれるさ。それに、魔王化が出来るようになればあの魔王を殺すことだって容易くなるかもしれないしな
[魔王化、完了しました。新個体オウカに過負荷思考、魔力吸収、魔王化の三つの呪法が付与されました]
…早くないか?今さっきさよならって言ったばっかじゃ…まぁいいか。
俺は名前すら知らぬ魔王を殺さねばならない。復讐をするとそう決めたからには俺はこの魔法をいくらでも使ってみせる
が、
魔力吸収ってなんだ?説明して欲しかったがこれ以上脳に負担をかけるわけには行かない。きっと実行すればわかるはずだ
『魔力吸収起動』
そう念じると頭の中にエラー音と「この魔法は魔王化し魔力を持つことが出来るようになった際、魔力を空気中から吸収する時にのみ実行可能です。再度実行する場合は魔王化してください」と言ったガイド音声…?が響き渡る
なるほど。つまり魔力吸収は空気中から魔力を吸い取る魔法ってことだ。これは便利だな
あとは魔王化と過負荷思考か
呪法って、何だか嫌だわぁ…
「よし。一旦組合に戻ってクレアを殺した魔王の情報を聞き出すか」
そう言って組合にもう一度入ろうとして思い出した
俺、透明化された組合に入れないじゃん。
どうしよう。二日前は元勇者様が外に偶々いたから入れたけど今は俺一人だよね…?これって過負荷思考を使うしかないのか…?
魔法でねじ曲げられて見えないようになってる組合を見ようとすると途轍もなく酷使しないといけなさそうだし、なにか過負荷思考を使った他の方法は…
「記憶の中のクレアを解析できたりしないかな?」
もはやただの妄想みたいなことを言っているが、これでも俺は真剣である
いつかあいつが話してくれた古代魔法の蘇生術を習得しクレアを蘇生させて、またクレアと一緒にハートフルな生活をする事を夢見て…
『過負荷思考起動』
組合に来たあの時に見たクレアの発言や体の動き、空気中からクレアに向かって流れる魔力の動き方を記憶を通して視る事で一つ理解できたことがある
「今の俺って魔力がないから透明化魔法を無効化するための魔法使えないじゃん」
異常なスピードで魔王化しましたが、まだ物語の始まりです。これからも楽しんで行ってください




