第三十一話 I don’t believe in heaven
今日、ついにアイドルユニット≪デッドゴッドエンジェルズ≫が始動する。三方を白い壁に囲まれた巨大な部屋で、前面には大きな、自分たちの姿を見ることができる鏡が置かれている。
ここで、これから、自分たちは調に作曲してもらった曲のダンス振り付けの映像を取る手はずとなっている。前面の大きな鏡に映る女の子達の姿は、とても見目麗しい物であった。そう調はララ達を褒めたと言う。
フリフリの衣装は、ちょっと自分には似合わないなどと思っているライクとホコリ。そう思っているのは本人たちだけで、実際にはかなり似合っているどころか容姿のこともあって澄み渡る太陽よりも眩しく光っているのだが。
ララは深海にいた小さな魚が、海面にまで勇気を持って顔を出したかのように自信が膨れ上がっていた。
牟六は他のメンバーよりも露出度の高い衣装に身を包み込み、鳴は逆に彼女の内面を表すように控えめ。そして、ダーツェは、何も言葉が出ない。何も浮かばない。虚無そのものだった。
因みに、メンバーカラーという物も決まっていて、ライクはピンク、ホコリは青、ララは白、牟六は黄、鳴はグレー、ダーツェは黒をあてがわれており、それぞれの色を基調としている衣装に身を包んでいるのだ。
この衣装はどうやら牟六のお手製の様子で、アイドルユニット結成となった時から三日三晩頑張って手作りしたのだとか。なお、そのデザインからメンバーカラーの配色、布の生地の選択に小物類に至るまで全て彼女一人のやったことである。
しかしそんな能力を持っていたとしても、ライクやホコリ、そして調に比べれば霞んでしまうと言うのが悲しいと本人は言っているが、十分誇れるアイデンティティであると周りの人間に言われて少し救われたらしい。
そんなこんながあってついに本番、というところなのだが。
「悪いね、調。たった一晩で曲を作って何て無茶な要求をして」
おかしな発言が聞こえてきたかもしれない。スルーするにはあまりにも巨大すぎる話であるので説明しておかなければならない。
調は知っての通り重度の聴覚過敏。音とはこれまで敵対関係にあって良いと言っても良い。そんな女性が作曲、ましてや一晩で編曲までやれたのはおかしな話だ。
だが幽霊伝達でメッセージを伝えられた調は晴々としたどこか吹っ切れた笑顔をライク達に向ける。
「気にしないで。この十数年。たくさんの音、たくさんの楽器の音を耳に入れていたから……ライクさんの歌詞を見た瞬間に私の中に音楽が鳴り響いて、机に向かい合ったらすぐにこの曲が出来上がったから」
ライクの歌詞、それが彼女の脳内にあった数々の音楽の記憶が組み合わさったことにより、頭の中でその楽曲に一番合う音楽が流れ込んできたらしい。
調が音のスペシャリストなのは分かりきっていたことだが、前述した牟六の衣装共々、まさかこれほど短期間のうちに曲が出来上がるなんて思ってもみなかったと、冗談のようにライクは自分たちと同じ衣装に身を包んだ調の前で大きく笑う。
蛇足だが、サポートメンバーである調と天使たちにもイメージカラーという物を付けたらしく、調は紫、天使たちは金色であるらしい。故に調は紫を基調とした衣装に身を包んでいるのだ。しかし調はともかくとして、人前に出ることのない天使たちにまでイメージカラーをあてがう意味はあるのかララにはいまいち分からなかった。でもそこはライク曰くノリと勢いであったとか。
「それじゃ、始めようか。一発撮りだからね」
「え!? な、なんでですか!?」
「私たちは殻堕の制限時間があるから、仕方ないわ」
こういうのは大体何テイクか取り直して、一番いい物をピックアップする物ではないのだろうか。そう思ったララだが、ホコリの言葉に少し納得してしまった自分も事実。
たったの四時間程度しか殻堕の中に入ることができない今では、そう言った時間短縮術を用いなければならないのだ。例えその結果がひどい物であったとしても。
「大丈夫だってララちゃん! 牟六に鳴にダーツェも、少しのミスは私とホコリンでカバーするから!」
「えぇ、頼むわね。先輩、それにライク」
「よろしくお願いします!」
「でしゅ……」
やっぱりこの人のカリスマ性はどこか着いて行きたくなると言うか、人心掌握に長けていると言うか。ともかく、彼女に着いて行けば、彼女の言う通りにすれば何の問題もない。そう思えるくらいに底抜けに明るくしてくれる。
これほど頼りになる高校一年生、世界中に何人いることだろうか。そう感慨深そうに数名が思っていると。
『ほら、エンジェルズ。こっちは撮影準備できてるわよ』
『ん』
といって、カメラを超能力―前回言った通り、ミナトのそれはポルターガイスト現象なのだが、こちらの方がカッコいいからというライクの意向によってこう呼ばれることになった―によって浮遊させているミナトとミズキが言った。見ると、他にもたくさんの天使たち、というかほぼ全員の輸送班の天使が来ているのではないだろうか。
まったく、やっぱりみんな子供も子供の天使たちだ。アイドルなんて、女の子の夢を見るために、ここまで集まってくれるのだから。
そんな子供たちに、無様な格好何て見せられない。そう思いつつ、ライクたちはそれぞれの所定の位置に付く。そして。
『3・2・1・キュー』
動画の撮影が始まった。ネットの世界に流すこととなる、自分達デッドゴッドエンジェルズ初めての曲。
まずは、ライクの言葉から始まった。
「初めまして。私たちは、天の国から皆に笑顔を届けるアイドルグループ!」
「デス「「「「「デッドゴッドエンジェルズです!」」です……」で、です!」」でしゅ」
「あ、ちょっとバラバラになっちゃったけど、まぁいいかこれも愛嬌と言う事で」
「いやソレ以前にライクさんグループ名違ってましたよ!?」
「ん? そう?」
「デスって言ってたわね……」
「あぁ……まぁどっちでもいいでしょ?」
「「「良くない!!」」」
「全く……」
発起人が堂々と間違えてどうするのか、天然かあるいはわざとなのか、まぁどちらでもいいが。
「今日は、私たちの初めての曲を、皆様に届けたいと思います」
続けて牟六から始まり順番に無機質な、しかしその向こうにいるはずの大勢に向けて伝える。
「この曲は、グループのリーダーであるライクさんが作詞して、とある人が作曲と編曲をしてくれた大切な曲です」
「え、えっと……あ、そうそう少しアイドルグループとは思えない曲調かもしれませんが……鳴さん」
「あ、そっか。えと、この曲を聞いて、一人でもその心を、魂を動かすことができれば、嬉しく思います!」
「きょ、今日は1番だけの発表でしゅが、みなさん最後まで見て言ってくだしゃい!!」
ホコリ、牟六の二人以外はおっかなびっくりと言ったように言葉を紡ぐ。当然だ。この動画はこれからインターネットの世界に残り続けるのだから。本人たちの意思があるなしにもかかわらず、ネットの世界に残留するのだから。
その覚悟を、しなければならないのだから。
そして、その覚悟を強固にしているライクが桃色の瞳を輝かせてカメラを撃ち抜くようにウィンクする。
「それじゃ、早速聞いてください。『I don’t believe in heaven』!」
瞬間、スンと静まり返った部屋の中、調が音楽をかけた。これはこの後編集によって音源を重ねることとなっている。今回の動画は事前に言った通りダンス動画、そしてマイクはただの飾りで、このすぐ後に歌唱音声を記録するため実質必要のない物の、だからその場に流す音楽というのも多少小さくても構わない。と、調は聞かされていたが、しかし彼女は音量を一番大きなものにして音を流し始めた。
そう、もう音量なんて物は彼女には関係はない。だって彼女は、半分死人。音という物を失い、半分がこの世の世界と隔絶されてしまった存在なのだから。
だから、なのか、他人が苦しいと思える事を苦しいと思えなくなってしまったのは。そう彼女は撮影終了後に自責の念に囚われる。
けど、それは違うとライクは言った。調は十分苦しんだのだから、今まで自分の命を縮めてきた音楽をどれだけの大音量で流してもソレは罪にはならない、寧ろどんどん音量を上げようと。
彼女が削られてきた心の音の分まで、大音量の曲が放流された。




