第二章その13
翌朝、いよいよマティアスが山頂に向けて出発する時が来た。
「では行ってくる」
マティアスは自信に満ちた顔で言う。
「立派なお姿です。殿下に神のご加護があらん事を」
「気を付けて無事に帰ってきてね!」
神官長とナユタの言葉に送り出されて、マティアスは出発する。
その姿が完全に見えなくなるまで見送ると、神殿での仕事がある神官長は去って行ったが、ナユタとアリスはしばらくその場に留まっていた。
「ねえアリス……」
「何?」
「マー君、大丈夫かしら? 転んで怪我とかしないかしら? 道に迷って泣いたりしないかしら? 変な物拾って食べたりしてお腹壊したりしないかしら?」
「………」
思いっ切り心配性なナユタの言葉に、アリスは呆れ返る。
「昨晩はあんなに自信満々に励ましてたのに……」
「だってだって! 昨晩は本当に思っていた通りに言っただけだもん! 今朝になっていざ出発だと思ったら、急に不安になって……今までずっと我慢していたのよ?」
今にも泣き出しそうな顔で縋り付いてくるナユタに、アリスは優しく言い聞かせる。
「心配する必要はない。ほんの少しの間とはいえ、ナユタが手塩にかけて鍛えたのだから、マティアスをもっと信用すべき」
「で、でも……追っ手が襲ってきたら……」
「ルイスが付いている。彼が一緒なら、山ごと吹き飛ばすくらいの火力を用意されない限り、大丈夫」
「そ、そう……? まあルイスが一緒なら安心だけど……」
ナユタは首を傾げる。
「あれ? 山頂へは一人で行かないとダメなんじゃないの?」
「だからルイスが神殿の人間に見付からないようにした」
「神殿の人はそれでもいいかも知れないけど……いいの? 言い伝えとか習わし的には」
神殿の人には見ていなくても、神様が見ていました、って言うんじゃ話にならない。
「マティアスは一人。問題ない」
アリスは自信満々に言う。
「ルイスが付いているんでしょ? マー君とルイスで二人じゃないの?」
「確かにルイスが付いている。でもマティアス一人だから問題ない」
「アリスが何を言っているか、ちょっと解んないんだけど……」
「いい? マティアスは一人。いい?」
「う、うん……アリスがそう言うんなら……まあいっか」
謎の目力で迫られたので、ナユタは押し切られる。
「あ、そうだ。マー君が戻ってくるまで私達はする事がないから、この神殿を見て回らない?」
「うん。それはいい」
「じゃあ行こ」
アリスが頷いてくれたので、ナユタはその手を引いて歩き出す。




