来年へ
ピッ、ピッ、ピィッ・・・・。
仙台の地に試合終了を告げるホイッスルが響くと、大半のサポーターが意気消沈し、一角を陣取ったアウェイサポーターの凱歌が響いた。
2017年、J1シーズン最終戦。和歌山は仙台のホームに乗り込んで、3-1で快勝した。エース剣崎のゴールで先制すると、後半開始早々に竹内と緒方が追加点を重ね、相手の反撃を1点に凌いだ。会見場に現れた松本監督の表情は、安堵と無念さが入り混じる苦笑いを浮かべていた。
「最後の試合を勝利で飾れたというのは嬉しい限りだし、3位を確定させて来年のACL、プレーオフからですけど挑戦権を得れましたから、良かったのかなと思うんですけどね・・・」
一方で指揮官はこうも振り返った。
「優勝するというのは、単に勝ち点を積めばいいというものではないと。それを教えられた一年でしたね。確かにそれも大事ですけど、それが第一になったらどこかでチームが揺れてしまう。やるサッカーの中で譲っちゃいけないところとか、そういう見極めが僕にはできなかった。この一年優勝争いを続けたことを、選手以上に僕が僕に還元しなきゃいけない。そう思いました」
さて気になるのは選手たちの同行である。特にサポーターが気をもんでいたのが竹内であった。
リーグ戦終了から二日後、和歌山市内のクラブハウスで会見が開かれた。練習着姿で松本監督、今石GMを伴って会見場に現れた竹内。結論は、残留だった。
「いろいろなクラブから驚くほどの評価を頂いたんですが、少なくともW杯が終わるまではここでお世話になることを決めました」
錯綜していた情報を総合すると、竹内へのオファーはブンデスやセリエA、スペインのラ・リーガの中堅層から届いており、その移籍金は数億円は下らないと言われていた。
そんななかで残留の決め手となったのは、W杯の存在だった。代表入り、さらには本大会で活躍するためには試合勘がものを言う。海外移籍となると一からのレギュラー争いをはじめなくてはならないし、首脳陣の目に留まれず試合に出られなくなるリスクもある。そして本大会で活躍できればより大きな契約を勝ち取れる可能性もある。同じような理由で内海も今オフでの海外移籍を見送っていた。
しかし、国内クラブへの移籍は別。その翌日に発表されたのは、結木の横浜Nマリナーズへの完全移籍だ。契約を残しての移籍なので、資金力に勝るクラブからの引き抜きである。元々結木はマリナーズのユースでプレーしていたこともあり、栄転での古巣復帰に迷いはなかった。
「まさかトップに上がれなかった僕が、こういう形で横浜へ帰れることに喜びしかありません。プロにさせてくれた和歌山と、選手としての自信をつけさせてくれた尾道での日々があってこその今なので、皆さんには感謝以外にありません」
さらに結木と同じく右サイドハーフの主力だった脇坂も、大学時代に強化指定でプレーした柏に完全移籍で「復帰」。左サイドで即席を残しつつあった菊瀬もAC東京に引き抜かれた。
そしてインパクトのある移籍がもう一つ。ジョーカーとして光っていた櫻井が、水戸への完全移籍を決めたのだった。J1ライセンスを持たず、予算規模も今の和歌山と比べると雲泥の差が否めなかったが、「なんとなく楽しそう」という抽象的な理由で決断した。元々代表でのプレーにそこまで執着してはおらず、もっと言えば立身よりも自分のフィーリングに重きを置いていた櫻井にとって、J2である意味確固たる地位を確立しつつある水戸に、何か感じるものがあったのだろう。
さて最終戦から間もなく、日本代表の試合が行われた。韓国、北朝鮮、中国と戦う東アジア選手権である。今回は欧州リーグがシーズン真っただ中という状況もあって海外組を招集できず、日本代表は国内組で臨むことになった。もっとも、四郷ジャパンにおいては国内組の締める割りあいがもともと多いのでさほど問題はなかった。そしてこの代表に、新たに和歌山から一人A代表初招集選手が誕生した。ボランチの近森である。
「いやあ、まさかまた代表になれる日が来るとは思えんかったと」
選手権の初戦となる中国戦前のロッカーで、代表のユニフォームに身を包んで、近森は感慨深げに呟く。
「結果残しゃ誰だって代表になれるってこったぜチカ。実際俺がそうだしな!」
「だな。お前が言うなら説得力あっと。ま、せっかく選んでもらったバイ。結果残さな申し訳なか」
剣崎にそう言われて、近森は笑った。
大会前、代表を率いる四郷監督は、会見でこう述べている。
「この大会は今の日本国内のレベルを図る、極端に言えばレッテルをはられるかどうかの瀬戸際となる。選手たちには日本のレベルがアジア最強であり、トップ10、W杯ベスト8常連レベル以上から『取りこぼしもありうる』と危機を与えられるかどうかの戦いになる。選手たちの奮起を期待したい」
世界のサッカー界から見て、個々の能力、スタイルの適合不適合はともかくとして、ナショナルチームにおいて、アジアは決してトップクラスと渡り合うほどのレベルにあるとは言えない。今回参戦する国々も日本と同程度の実力を持つのは韓国ぐらいで、W杯で結果を残せるレベルならば「圧倒しての優勝」がベストではなく、マストである。『やっぱり海外組がいなくては・・・』という雑音がそこかしこから漏れてくる日々の中、それを封殺させるのはこの大会での優勝しかない。まして来年にはW杯の本大会が控えているのだ。
「行き掛けの駄賃に、ひと暴れすっか!!」
剣崎は意を決して、ピッチに立った。
新年までずれ込み、どこか尻切れトンボですが、シーズン6はこれにて完結です。
シーズン7、そしてオーバーヘッドを今後ともよろしくお願いします。
新連載は1月中にできればと考えていますので、しばしお待ちください。




