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来年への指針

 札幌を迎え撃った今シーズンのホーム最終戦。J1復帰初年は最後まで優勝戦線に絡み続けたものの、前節の尾道戦で敗れてその可能性を断たれた。その直後の一戦、剣崎は並々ならぬ決意で臨んでいた。話を前日に戻す。


「お前、今日やけにテンション昂ってるな」

 ミニゲームを終えてクールダウンに勤しむなか、栗栖が剣崎にそう声をかけた。

「あったりまえだい!こないだの試合、俺が決めてりゃまだ優勝の芽はあったってのによ。こんな赤っ恥をかいたあとのホームゲーム、ハットトリックぐらいかまさねえと腹の虫が収まらねえや!」


 今や剣崎は得点能力はもちろん、超人的なフィジカルとスピードをもってして「アジアでは敵なし」とまで言われつつある。にもかかわらず、前節は尾道の若手DFの執拗なマンマークにあってノーゴールに終わった。周りのフォローもあったとはいえ、抑え込まれたことが悔しく、結果としてチームの優勝の可能性を断ったことに一端の責任感を感じていた。尾道の仇を、今節この紀三井寺の地で晴らす意気込みだった。


 一方で松本監督は、この試合と次のシーズン最終戦にて、ある試みを施す。


「よし・・・。最後の2試合、この形で行くか。仮にキーマンがいなくなったとしても、同系列のタイプを取りに行くという補強の目安になる」


 そのオーダーがこうだ。


GK1天野大輔

DF17近森芳和

DF3内海秀人

DF4エデルソン

MF2猪口太一

MF8栗栖将人

MF15ソン・テジョン

MF38結木千裕

MF16竹内俊也

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一



 最終ラインは、クラブの伝統でもあった4バックから3バックとなり、その前に猪口と栗栖がダブルボランチで並ぶ。右サイドのソンと左サイドに配置された結木は、運動量と馬力をもってしてサイドハーフというよりウイングバックという役割を担う。剣崎を1トップとして、竹内とそれまで左サイドでプレーしていた緒方が2シャドーとして入る。これまでの和歌山と比較すると、サイドの枚数を削って中央に人を固めている。

 尾道戦の後半以降、得点こそならなかったものの、松本監督は3バックの守備と1トップ2シャドーという組み合わせに一定の手ごたえを感じていた。シーズン通して確固たる左サイドバックが定まらなかったことに加えて、左サイドの馬力不足が和歌山のアキレス腱ではなかったかという仮説を立て、その解消の一案としてこの布陣を実行した。


(今のうちのポテンシャルからすれば、中央に人を固めた戦い方もできるはず。この2試合でそれを見極める)



 いざ試合。1トップでの起用となった剣崎は、まず札幌守備陣の集中マークにあう。

「うごっ!?」

 常に身体をぶつけてくる相手のセンターバックに思い通りのプレーができない剣崎。そもそも得点という結果で憂さを晴らしたいのに、開始から与えられた仕事は前線での潰れ役、最前線での肉弾戦だった。

「くそっ、ガチガチ来るんじゃねえよ!ゴールを決めてえってのに!!」

「剣崎、こっちだ!」

 囲まれながらボールを持つ剣崎を竹内がフォロー。剣崎は内心渋々竹内にボールを託す。受けた竹内はすかさずシュートを放ったが、韓国代表でプレーする札幌の守護神にソ・クンサンにはじき出された。

「くそ、悪いな。せっかくタメてもらったのに」

「しょーがねえや。でもどうせなら俺がシュート役をやりてえのによ・・・」

 竹内の謝罪に笑みを返す剣崎だが、正直な思いを吐露した。


 しかし、相手側してみれば、剣崎が最前線にそびえ立っていることは、驚異以外の何者でもない。実際、札幌守備陣は身体をぶつけてまで剣崎を潰しにかかっているが、傍目にもそういう死に物狂いでようやく互角の戦いであると見えた。

 恵まれた体躯や驚異の決定力、日本人離れした馬力はもちろんのこと、剣崎の最大の強さはこの「屈強さ」と言えよう。よほど危険なタックルなりスライディングでもない限り、この男はそう簡単に潰れないし倒れない。加えて代表経験を経て自然と足元の技術が上達したことでキープ力も身につきつつある剣崎は、ポストプレーヤーとしても存在感を見せつつある。竹内のようなスピードに秀でたシャドーと組んだ場合は前線の決定力が自然と高まる。剣崎の落としから竹内のゴールが生まれたのは前半の30分ごろ。再三の競り合いからついにこじ開けられたのだ。


 そしてこの起用は、もう一つの効果を生んだ。

(トシやタツをフォローしながら俺が点を取るには・・・・)

 ハーフタイムを挟んだ後の剣崎は、そう考えを張り巡らせる。そしてそれを結果で残した。再度競り合ってボールをキープする剣崎。そこに竹内がフォローに入る。そこで剣崎は一度結木の方を見やる。彼の前にはスペースが見えた。

「トシ!あっちに出せ!!」

 剣崎はパスを出しながら叫ぶ。意図を理解した竹内は左サイドに蹴りだす。

「チヒロ、追いついたら入れろ!」

「よし来た!!」

 竹内と結木がそうやり取りを交わすうちに、剣崎はマーカーを振り切って走り出す。ほぼドンピシャのタイミングで、結木がゴール前にクロスを入れる。

「うりゃっ!」


 そのボールに対して頭から飛び込んだ剣崎。追加点がネットを揺らした。


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