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季節柄

「また入れなかったな…」


 練習用ピッチでの全体ミーティングの最後、松本監督が発表した尾道戦の遠征メンバー。スタメン11人とリザーブ6人の中に、自分の名前が呼ばれることはなかった。

 その選手、仁科勝幸がメンバー外の常連となってからの時間は長くなっていた。紅白戦で主力メンバーが中心となる赤組でプレーすることもめっきり減った。そしてミーティングの輪が解けたところで、今石GMが声をかけてきた。


「ニシ、今からクラブハウスにこれるか?」


 シーズンも終盤。編成のトップに声をかけられる意味を、仁科はすでに察していた。



「まあ、うすうす理解していると思うが、お前に対する来季年俸提示額はこれだ」


 クラブハウスの応接室に招かれた仁科は、今石GMから書類を提示される。そこには来シーズンの仁科に対する年俸が記されていたが、その金額は「0円」だった。つまり、戦力外通告である。


「まあ、しょうがないと言えばしょうがない。今年は戦力になってないし、いい歳でもあるしな。今の俺は一番首を切りやすい男だしな」

 自虐的な笑みを見せながら皮肉を交えてぼやく仁科。初めてJ1を戦った2014年以来、4シーズンにわたってプレーしたベテランは、今年限りでクラブを去ることになった。まだリリースされていないが、辛島、塚本、ウォルコットに対して通告しており、ウォルコットはケガの治療に専念することもあって最終戦を待たずに帰国することになっている。


「で、まだ現役は続けんのか?うちとしてはユースの指導者ポストを用意してるんだが?」

「外様の俺にはもったいない話だが、生憎まだ現役に未練がある。J1は厳しいかもしれんが、J2、J3ならまだスタメンを張る自信はある。選手としてのオファーを待ちますぜ」


 ベテランはそう言って不敵に笑った。




 一方で補強の方では、一足先にシーズンを終えるJ2の有望株に向けられた。補強の目星をつけた選手は俗に『恋人』なんて言われるが、今の和歌山の本命は、かつてのチームメートだった。


松本監督マツの要求は『スピードのあるレフティー』ってことだが・・・。とりあえずこいつは外せんな」

 日も暮れたクラブハウスで行われている編成会議。今石GMは二重あごをさすりながら一枚のレジュメを見る。和歌山が目玉として絞っているのは、J2松本のエースストライカーである桐嶋和也だった。

 今はイタリアでプレーする西谷敦志とともに、鹿児島の名門・薩摩実業高校から和歌山に入団した桐嶋は、驚異のトップスピードを誇る俊足を武器に、1年目からサイドバックのレギュラーとしてプレー。右サイドに人材が偏りがちなチームにあって、左サイドの貴重な人材であったが、ストライカーとしての再挑戦を希望した彼は2013年オフ、J1に昇格したばかりの松本へ移籍した。そこでは背番号9をつけて希望通りFWとしてプレーし、一昨年はJ1で7得点、去年はJ2で17得点とチームトップの成績をマーク。今年もJ1より一足早い最終節を前に13得点をマークし、松本にとって欠かせない選手となっている。

 だが、現在松本はJ1昇格プレーオフ出場圏内の5位であり、最終節の結果次第では2年連続でJ2残留の可能性がある。調査する中で本人はJ1でのプレーを希望しており、万が一圏外に転落した場合は移籍を模索するともっぱらで、そうなると和歌山に獲得の眼はある。ただ、フィニッシャーとしての桐嶋に対して糸目をつけないクラブは少なくなく、浦和、神戸など資金力のあるクラブも水面下でオファーを出していると専らだ。

「マネーゲームになると勝ち目はないですが、彼の要望は『J1でプレーする』こと。こちらの誠意次第で勝機はありますね」

 移籍担当スカウトの片山がそう言うと、今石GMも頷いた。

「契約切れの引き留めも含めて、今年はまずまずの資金がある。なんとしてもこいつをとりにいくぜ」


シーズンはまだ終わってはいない。だが、来年への戦いは、もう始まっていた。




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