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理念と結果は二律背反

 小宮の首脳陣批判を題材とした独演会を、遮るようにロッカールームに現れた松本監督。一同が静まり返る中、まず指揮官は小宮と対峙した。

「言いたいことは、言えたか?」

 低いトーンの声色は、嘘八百を並べる被疑者を黙らせる刑事のような迫力があった。だが、小宮はひるまず、これまでの首脳陣批判は自分の信念に基づいたものであると、胸を張って笑みを浮かべた。

「ああ。存分に。悔いはねえな」

 あとは好きなように。小宮の表情はそう訴えている。

「お前の言いたいことはよくわかった。確かに、的を得ているよ。俺自身が感じていたジレンマを、よくぞ言ってくれた。だが、首脳陣批判は明らかな規律違反。理にかなっていようと、それ相応の処分は受けてもらう」

「へいへい」

 悪びれることなく、少しの会釈をしただけで小宮はそのままロッカールームを出ていこうとする。だが・・・。

「待て小宮。処分は試合が終わってから。今はまだここにいろ」

「あれ?いいのかい?」

「構わん。いいからお前も聞け」

 

 呼び止めた小宮はいったんロッカーに戻る。一息ついたのち、松本監督は選手たちと改めて対峙し、口を開いた。


「こんなことを言っては指揮官失格かもしれんが・・・俺は今、迷っている。確かに俺たちのできることは確実に増えている。だからこそ優勝争いをこのシーズン終盤でも続けられているし、順位の差があれば悪い内容でも勝てるようになっている。この部分はチームとしての上積みだと考えていい。だが、これがこのクラブが目指すべきものかと言われれば・・・違うと断じることもできる」

 その一言に、剣崎たちユース上がりの古参メンバーは生唾を呑み、内海ら移籍組もただじっと聞き入っている。

「俺は選手として、そしてコーチ、さらに監督としてこのチームに長く身を置いてきたが、今のうちの戦力は、間違いなくクラブ史上最強。優勝を目指すに恥ずかしくないレベルにある。代表経験のある選手も多いし、何より生え抜きのストライカーが二人もA代表で主力を張っているのだからな。だから俺はここまで優勝するための戦いをしてきた。・・・クラブのカラーは置いといて、勝ち点を稼ぐためのサッカーをな」


 ビーィ・・・・


 その最中に、ハーフタイムの終了を告げるブザーが響く。松本監督は今一度選手たちを見る。


「今日の試合、ここからの45分はお前たちに全てを任せる。和歌山らしい、アガーラらしいサッカーを今一度俺に見せつけろ」







「正直、迷ってたんだな。マツさんも」

「ああ。俺たちと同じように、あの人だって優勝争いの経験がないんだ。戦力相応の結果を残そうと、あの人も必死だったんだな」

 後半開始に先立って、アガーライレブンは円陣を組む。その最中、栗栖や竹内が指揮官の言葉を思い返す。

「しかし、だからと言って小宮のアレはないだろ」

「へーへー。今は悪いと思ってるよ、ヒデ。だからこそ、このピッチでけじめをつけねえとな」

 とがめる内海に、小宮は申し訳なさそうな仕草をする。そして、剣崎を睨みつける。

「元はと言えば、てめえが浮ついたサッカーやらかしてるからだろ。エースなら責任を取れ」

「ハッ、言われなくてもわかってるよ。それができなきゃ、マツさんに申し訳が立たねえ」

 久しぶりに見せる、剣崎のぎらついた眼光。剣崎は、自分に言い聞かせるように改めて吠えた。


「魅せるぞ!!」

「「「オウッ!!!」」」


 輪が解けて、後半に突入した。


 その戦いぶりは、見事とも無様とも言えた。運動量と個人技に任せた攻撃は拙く映り、距離にかまわずシュートを打ち続けるさまは馬鹿の一つ覚え。守備は前半と比べて危なっかしい場面が目立つが、局面ではむしろ身体を投げ出して守り切る。不格好だが、自分たちのフィソロフィーである、『攻め切る』サッカーを見せつけた。


「ォウラッ!!!!」


 そして後半30分過ぎ、コーナーキックの場面で、剣崎は宙に舞い、渾身のオーバーヘッドシュートを叩き込む。全身からあふれるエネルギーに任せるようなパワフルな一撃に、スタジアムは揺れる。

 これで試合の均衡を破った和歌山は、その後終了までの15分強で竹内、内海が追加点を叩き込み3-0で勝利。勝ち点3を重ねて横浜にその差1と迫った。



 その勢いのまま、29節の浦和戦に臨む。


 吹っ切れたように個人技と運動量で相手を押し込み、その最中のカウンターでピンチを迎えるというサッカーはこの日も続き、2点を先行されたもの、竹内が2得点を叩き込み引き分けに持ち込む。そして30節の大阪戦。左サイドバックに復帰した菊瀬が剣崎の先制ゴールをアシストすると、一列前の緒方も近森のゴールをアシスト。後半に入ると今度は右サイドから脇坂の突破からの折り返しを、オーバーラップした猪口が押し込み、相手が追いすがってくる中で最後は途中出場の村田のポストプレーから、同じく途中出場の世良がゴールを決めて4-2で逃げ切った。


 不格好でサッカーらしいサッカーにはなっていないが、観客を惹きつけてやまない人間味あるれる『アガーラ和歌山のサッカー』を再認識した和歌山は、横浜を抜き去って3位に浮上。2位川崎に勝ち点2差、首位鹿島に同6差と追い上げてきたのであった。


さて、次の試合はおよそ2年ぶりになる、沼田政信さんの「幻のストライカー~X爆誕~」とのクロスオーバーです。そちらの方でぜひお楽しみを。

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