にじみ出る違和感
4戦勝利なしという、優勝争いの最中で停滞する和歌山。主力のコンディション不良や定まらない最終ラインの面子など、いくつかの問題を抱えたまま25節の清水戦を迎えた。
この試合、右サイドバックに結木、左サイドバックに寺橋、2トップに剣崎と竹内が揃い踏みと久方ぶりにベストメンバーを組めた。疲労の色はまだ濃いものの、大敗した磐田戦からはある程度持ち直した。内海と沼井の両センターバックがクレバーさを見せて最終ラインで堅固なブロックを作り、リトリート(引いて守る状態)しながら相手の攻撃に対応。そこから効果的なカウンターを見せて、剣崎、竹内、ボランチで先発した猪口と前半のうちに立て続けに3得点を挙げた。だが、大量リードしたことで後半から2トップは須藤、村田の若手コンビに交代させたが、これが誤算。守備のアプローチを変えてきた清水の最終ラインを崩せず、前半していたサッカーをやり返されてしまい2失点。終盤、須藤が突き放すゴールを決めてどうにか4-2で逃げ切ったものの、消化不良感は否めなかった。
続く26節の大宮戦も似たいような展開。スタメンに大きな変化はなく、中盤の攻防は見ごたえがあったがお互いにフィニッシュまでつながらず前半はスコアレス。終了間際に途中出場の栗栖のフリーキックが決まって、いわゆる「ウノゼロ」勝利。しかし、残留争いの渦中にある大宮と互角以下の内容に終わり、もやもやは晴れなかった。
「な〜んか変だよな。今の俺達」
リカバリー練習の最中、ふと剣崎がもらした。
「まあ、どっか歯車が噛み合っとらんことば、どんな強豪でもあるバイ。あんま考えすぎるのはよくなか」
「いや、まあそりゃそうなんだけどよ…うーん…」
近森の答えに、剣崎はどうも釈然としない様子。近森は不思議そうに見ていた。
「なあヒデよ。俺なんか変なこと言ったか?」
「いやチカ。お前の答えは模範だと思うよ。でも、剣崎が感じてる違和感はわからんでもないかもな」
「でも基本試合じゃイメージ通りにやれとるバイ。連携もようなっとるし、何が気に入らんとね。結果なんてそうそう出るもんじゃなかことぐらいわかるだろうて」
内海に愚痴を漏らしながら、近森は剣崎の態度に苛立ちをみせた。
近森の指摘するように、和歌山のサッカーの質は日増しに高まってはいる。それまでのカウンターの鋭さはそのままに、パスワークを駆使して組織的に相手を崩すこともできるようになり、オフサイドトラップやゾーンディフェンスといった守備の引き出しも増えつつある。長くチームの参謀を務めてきた松本監督が、現場の指揮を任されるようになってからの2年半で、アガーラ和歌山の武器は確実に揃ってきているのだ。そして内海、結木といった現役代表が加入したことで戦力も揃いつつある。だからこそ優勝戦線に踏みとどまっている。今はいわば優勝への生みの苦しみというところである。
剣崎だってそれぐらいは分かっている。松本監督に対しても全幅の信頼を寄せているし、松本監督もまた、剣崎を絶対的な得点源として重宝し、そのコンディションに合わせてベストな起用を模索しているのである。
だが、もやもやはさらに淀んでいく。
そして迎えた上位との直接対決。まずはホーム紀三井寺に首位鹿島を迎え撃った27節。3年前の和歌山の躍進に関わった友成、大森が、こんどはその躍進を阻むべく立ちはだかる。試合はホームの和歌山の攻撃陣が積極的に仕掛け、何度もゴールを脅かし、そのたびに友成が立ちはだかる。
「でえいっ!!」
裏に抜け出した剣崎が、右脚を思い切り振り抜くが、友成が右手一本でそれをはじき出す。前半だけで6本、うち剣崎が放った3本の枠内へのシュートを防いでいた。
「くそ・・・相変わらず手強い野郎だな、てめえ」
剣崎は友成をにらみながらぼやく。だが、友成は憮然とした表情で言い返す。
「手強い?フン。腑抜けてる能無しのシュートなんか、ジュニアユースのガキどもより歯ごたえがねえよ」
「あ、ああ?何言ってんだてめえ」
足を止めて友成と正対する剣崎。友成は剣崎の胸に指をあてて吐き捨てた。
「なまじ代表に染まったせいで、最近のお前には凄みがなくなってる。こんな程度になり下がったんなら、敵に回した意味がねえよ」
「おいこの野郎。それどういう意味だ!!」
つかみかからんと近づく剣崎に気づいて主審がプレーを止め、竹内が二人を離す。友成は主審に何でもないという仕草をしながら、剣崎に嘲笑を浮かべ、止めに入ってきた竹内とともに挑発した。
「てめえは点さえ取ってりゃいいじゃねえか。『できることが増える』のと『何でもできる』ってのは違うだろ。トシ、お前も覚えとけ」
「なんなんだアイツ・・・剣崎?」
竹内は首を傾げたが、剣崎は目を見開いたまま言葉を失っている。
「おい剣崎、どうした?」
「え、お、おう・・・」
竹内に声をかけられて、剣崎は我に返る。
「集中しろ。まだ前半だぞ!」
「ああ、悪い」
だが、友成の檄は剣崎のもやもやの原因をあぶりだしたかのようだった。
試合は玄人好みのつばぜり合いとなったが、最後までゴールは割れずスコアレスドローに終わった。




