敵に回っている事実を実感
さて試合当日。
鹿島のスタメンでキーパーが友成であるとアナウンスされると、スタジアム中がどよめきにつつまれ、僅かに陣取った和歌山からの遠征サポーターは力の限りブーイングを飛ばした。
「友成。古巣相手だけど気負うなよ」
小野寺はそう声をかけたが、不敵にも友成はニヤついた。
「気負う?俺が?この程度の連中に気負うようじゃ、日本代表は遠いぜ」
「てめえわざわざ聞こえるようにぼやくなゴラ」
それを聞いた剣崎が突っかかってくる。こういうやり取りは、去年までなら和歌山のロッカーで見れたのだが、今年は敵味方に分かれているために、年に二度しか・・・、いや、レギュラーが確約できてない友成だけに今季最初で最後になる可能性だってある。
「ああいうやりとりがここでしか見られないって・・・。お前の移籍を実感するよ、友成」
「フン。今更か。まあ覚悟しろ。この剣崎はもちろん、お前もゴールできねえから」
声をかけてきた竹内に、友成はそう言ってみせる。完封できる自信をありありとみせる
友成の表情に、今は恐怖しか感じない。
(・・・改めて敵に回すと嫌な奴だ。これは今日は疲れるぞ)
「ハンッ!言ってろこの野郎。ハットトリックかましててめえに恥かかせてやっぜ!!」
剣崎はそう言い放って友成を見下ろす。
「フン。できない公約は恥の上塗りだぜ」
それを友成は見上げながら鼻で笑った。
スタメン
GK1天野大輔
DF38結木千裕
DF4エデルソン
DF50ウォルコット
DF19寺橋和樹
MF3内海秀人
MF17近森芳和
MF15ソン・テジョン
MF7菊瀬健太
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
試合はホームの鹿島ボールでキックオフ。パスを回しながら出方をうかがってくる鹿島に対して、馬力重視で構成された和歌山の選手たちは、積極的に奪いにかかる。内海を一列前に配置したことで、ボランチのボール奪取力を高めているため、鹿島の中盤のパスはなかなか通らない。一度ロングパスが通ったものの、鹿島のFWはポストプレーに定評のある小田嶋の1トップ。それをセンターバックの両外国人が徹底的に削った。
「くそ!なんてパワーだよ。こんなのやってらんねえよ・・・」
小田嶋は懸命にキープを試みるも、二人にやられているうちに近森にボールを奪われる。近森は内海につなぎ、内海はすかさず右サイドに展開する。受けたソンは奪いに来た鹿島の左サイドバックの山辺を、結木とのワンツーで上手くかわして仕掛ける。
「こいソン!!」
剣崎の呼び込みに応じて、ソンは鋭いクロスを放つ。剣崎はこれにダイビングヘッドで合わせる。しかし、叩きつけたシュートは友成が右足一本で防ぐ。
「くそっ!相変わらずいい反応しやがる」
「真っ向からのシュートを止めれないようじゃ、キーパーの名折れだ」
さすがの剣崎もこれにはぐうの音も出ず、改めて友成の力を思い知る。
(くそったれ、ハットトリックなんて言ったが・・・、あの野郎は6点取るつもりで打ち込まねえと点が取れやしねえぜ)
それでも和歌山の攻撃はそう簡単にはやまない。再びインターセプトから内海が鋭い縦パス。これを受けた竹内が、鮮やかなフェイントを交えながら、対面する小野寺を振り切り友成との一対一を迎える。しかし、シュートは打てない。
「うわっ!!」
友成が猛然とスライディングでボールを奪ったからだ。強烈な一撃に竹内は宙を舞って倒れる。ファールをアピールするも、審判は取り合わなかった。
「くそ・・・。相変わらず大胆だな。下手したら一発退場だぜ」
苦笑しながら竹内は友成に声をかける。友成はそれを鼻で笑った。
「退場が怖くて前に出れるかよ。一対一ってのは先手必勝がすべてだからな。それに、俺は足も一流だからな」
「自分で言うなよ・・・。まあ、お前ならなんか説得力あるわ」
竹内とのやりとりを終えると、友成は味方へひたすら指示を飛ばした。
「大森!小野寺!お前らはもっかいあの二人の特徴を反芻してマークを工夫しろ。そんでボールが行ったときは全力で潰せ!中盤はもっとポジション意識!パスももっと速く回して揺さぶれ!あと左サイド!そっちにボールが行ったらまず慌てるな!向こうはサイドチェンジも上手いんだから片側に気をとられすぎんな!!」
矢継ぎ早に、それでいて的を得ているコーチングに、鹿島の首脳陣は驚いていた。何より、普段の練習で見せていた罵倒ぎみなフレーズがなかったからだ。・・・と思いきや、やはり最後に毒の強い一言。
「てめえら俺に言われる前にやれよそんぐらい!!対策してた動きに簡単にやられんな!!だから世界二なんだよ!!」
「・・・まあ、あれがあいつなりの檄なんだな」
鹿島の石居監督は苦笑するしかなかった。
しかし、この檄が一番効いたのも確かだ。プライドを刺激された選手たちは、目に見えて動きが良くなり、和歌山の攻勢はみるみるうちにしぼみ、防戦一方とまではいかないものの明らかに停滞していった。
それでも、鹿島が主導権を取り返すに至らなかったのは、外国籍センターバックコンビと、ダブルボランチの奮闘があってのもの。特に近森の獅子奮迅の運動量には目を見張るものがあった。




