↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/44

本領発揮と化けの皮

「よし!・・・っと、失礼」

 貴賓席にて、今石GM、竹下社長、叶宮日本代表ヘッドコーチらと観戦していた、尾道の大江強化本部長は一瞬のガッツポーズの後、我に返って頭をかいた。

「まあしょうがないわよ。やっぱ自分のチームが勝つなんて気持ちいいものね~」

 叶宮コーチがあきれるように笑う。

「しかし、トリニダード選手は素晴らしいですねえ。どういうルートからあんな選手を?」

「あ、いえ。彼は林会長が関与した選手ですので、私はちょっと。でも、いつか彼のような選手を獲得したいですね」

「でもああいう選手をとるのって大変よ~。ま、その辺は思い知ってるから、そうそう下手は打たないわよね~」

「う、は、はは・・・耳が痛いです」

 叶宮コーチの毒性の強いジョークに、大江本部長は苦笑いで強がるしかなかった。



「さあっ!先手を取ったぞ!この勢いでもう1点行こう!」

 開始5分での先制点に気分上々の竹島監督は、テクニカルエリアでそう檄を飛ばした。そして、若さあふれる尾道の選手たちも、その勢いに任せて仕掛けていった。

「そらそら~!誰も俺を止められないってね!」

 先制点に関与した謝花が、積極的に左サイドから仕掛ける。マーク役の栗栖は、そのドリブルに目を見張る。

(くそ。思い切りいいなこいつ。こりゃノせたら厄介だな)

 しかし、その謝花の勢いを止めたのは、この試合でスタメン復帰、今季初出場のソンの強烈なスライディングだった。

「おうわ!」

 ボールごと足を持って行かれたかのような一撃に、勢い余って芝生に飛び込む謝花。だが、ホイッスルはない。というか、審判は問題なしと流して視線を変えていた。

「え~!そりゃないって審判さ~ん、今のファールだって。ね~ってば!」

「リック!!早く戻れ!」

 駄々をこねていた謝花に、野口はそう一喝する。明らかに攻め込み過ぎた謝花に対して、一列後ろのマルコスがフォローしきれておらず、和歌山の右サイドはぽっかりと空いていた。

「あのガキが・・・」

 その尻ぬぐいをしようと、センターバックの円山が右サイドに寄って来る。

「ま、マルさん行き過ぎ!!中央!!」

「え?んあ!」

 種部の指示を聞いて振り向いた円山。そこには、内海が最終ラインから攻めあがっていた。

(さすがだヒデさん)

 ソンは内海にボールを流す。受けた内海は松本監督の指示を思い出す。

(うちの持ち味のミドルシュート。確かにこれなら打ち放題だ!!)

 そして内海は、ゴールから30メートルはあろうかという距離から、右脚を振り抜いた。


「くそっ!」

 これに反応した種部はパンチングで手いっぱい。こぼれ球を池山がクリアしようとした。だが、それは目の前の、和歌山が誇る“怪物”が顔面で阻止した。


「ゲッフっ!イテエなおっさん!」

 剣崎はこれを左足でトラップして、切り返しであっけにとられる池山を振り切ると、同じ左足でゴールに叩き込んだ。

「剣崎大丈夫か?」

「んあ~まあ鼻がなんかイテエ。まあ大丈夫だ」

 案じた竹内に、剣崎は問題ないと言い切る。

「お前ほんとに足が巧くなったな~。まさかトラップできるなんて思わなかったよ~」

「ああ?俺は日本のエースだぞ?ゴールにつながることぐらいは身に着けてんだよ!」

 おどけてきた櫻井に、剣崎はイラっとしたようにむくれた。


 一方で、種部は唖然としていた。前がかり過ぎた攻撃もそうだが、円山があまりに簡単に中央を空けてしまったことに、怒りを通り越してしまった。

(なんなんだよこれ・・・。あんな対応アリか?簡単にバイタルエリア空けるなんて、本当にセンターバックかよ)

 さらに絶句させたのは、ベンチから聞こえてきた監督の指示だった。

「どんまいどんまい!キーパー反応できてるぞ!切り替えていこう!」

 種部は開いた口がふさがらない。

(何がドンマイだよ・・・。アンタが守備の約束事を決めないからこうなったんだろうが)


 このスペース。円山が簡単につり出されたというのもあるが、それをフォローするはずの亀井が、先制点を転機に完全につぶされているというのがあった。

「おい猪口(グチ)。お前の仕事はエースつぶしだろ?なんで俺をいじめるんだよ」

 再開前、亀井はそう猪口にぼやいたが、猪口は言いきった。

「監督の指示だよ。点取られた後はお前をピッチから消せってね」

 そう笑った猪口に、亀井は戦慄を覚えた。


 そしてこの同点弾を皮切りに、和歌山の猛攻が始まった。

 まだ同点。攻めていこう。

 若い選手で構成された尾道の攻撃陣は積極的に仕掛けていくが、開始早々の勢いが嘘のように沈黙。特にトリニダードへのパスは徹底的に遮断された。


「う〜、チョロチョロうっとうしいなあ!」

「そりゃ誉め言葉だね。さあ、どうにかしてみなよ」

 謝花は微妙な間合いをキープして、リズムを崩してくる栗栖のマークに思わず愚痴る。特に、トリニダードへ何かをしようとすると、一気に間合いを詰められる。そうこうしているうちに、サイドバックのソンと二人がかりで潰されてしまう。

 左サイドも同じ、いやそれ以上に、成田が結木に圧倒されてしまい、ボールキープすらままならない。

 そして松本監督がこの試合、攻撃の胆とした2シャドーが、比類なきドリブルでアタッキングサードを蹂躙した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。