本領発揮と化けの皮
「よし!・・・っと、失礼」
貴賓席にて、今石GM、竹下社長、叶宮日本代表ヘッドコーチらと観戦していた、尾道の大江強化本部長は一瞬のガッツポーズの後、我に返って頭をかいた。
「まあしょうがないわよ。やっぱ自分のチームが勝つなんて気持ちいいものね~」
叶宮コーチがあきれるように笑う。
「しかし、トリニダード選手は素晴らしいですねえ。どういうルートからあんな選手を?」
「あ、いえ。彼は林会長が関与した選手ですので、私はちょっと。でも、いつか彼のような選手を獲得したいですね」
「でもああいう選手をとるのって大変よ~。ま、その辺は思い知ってるから、そうそう下手は打たないわよね~」
「う、は、はは・・・耳が痛いです」
叶宮コーチの毒性の強いジョークに、大江本部長は苦笑いで強がるしかなかった。
「さあっ!先手を取ったぞ!この勢いでもう1点行こう!」
開始5分での先制点に気分上々の竹島監督は、テクニカルエリアでそう檄を飛ばした。そして、若さあふれる尾道の選手たちも、その勢いに任せて仕掛けていった。
「そらそら~!誰も俺を止められないってね!」
先制点に関与した謝花が、積極的に左サイドから仕掛ける。マーク役の栗栖は、そのドリブルに目を見張る。
(くそ。思い切りいいなこいつ。こりゃノせたら厄介だな)
しかし、その謝花の勢いを止めたのは、この試合でスタメン復帰、今季初出場のソンの強烈なスライディングだった。
「おうわ!」
ボールごと足を持って行かれたかのような一撃に、勢い余って芝生に飛び込む謝花。だが、ホイッスルはない。というか、審判は問題なしと流して視線を変えていた。
「え~!そりゃないって審判さ~ん、今のファールだって。ね~ってば!」
「リック!!早く戻れ!」
駄々をこねていた謝花に、野口はそう一喝する。明らかに攻め込み過ぎた謝花に対して、一列後ろのマルコスがフォローしきれておらず、和歌山の右サイドはぽっかりと空いていた。
「あのガキが・・・」
その尻ぬぐいをしようと、センターバックの円山が右サイドに寄って来る。
「ま、マルさん行き過ぎ!!中央!!」
「え?んあ!」
種部の指示を聞いて振り向いた円山。そこには、内海が最終ラインから攻めあがっていた。
(さすがだヒデさん)
ソンは内海にボールを流す。受けた内海は松本監督の指示を思い出す。
(うちの持ち味のミドルシュート。確かにこれなら打ち放題だ!!)
そして内海は、ゴールから30メートルはあろうかという距離から、右脚を振り抜いた。
「くそっ!」
これに反応した種部はパンチングで手いっぱい。こぼれ球を池山がクリアしようとした。だが、それは目の前の、和歌山が誇る“怪物”が顔面で阻止した。
「ゲッフっ!イテエなおっさん!」
剣崎はこれを左足でトラップして、切り返しであっけにとられる池山を振り切ると、同じ左足でゴールに叩き込んだ。
「剣崎大丈夫か?」
「んあ~まあ鼻がなんかイテエ。まあ大丈夫だ」
案じた竹内に、剣崎は問題ないと言い切る。
「お前ほんとに足が巧くなったな~。まさかトラップできるなんて思わなかったよ~」
「ああ?俺は日本のエースだぞ?ゴールにつながることぐらいは身に着けてんだよ!」
おどけてきた櫻井に、剣崎はイラっとしたようにむくれた。
一方で、種部は唖然としていた。前がかり過ぎた攻撃もそうだが、円山があまりに簡単に中央を空けてしまったことに、怒りを通り越してしまった。
(なんなんだよこれ・・・。あんな対応アリか?簡単にバイタルエリア空けるなんて、本当にセンターバックかよ)
さらに絶句させたのは、ベンチから聞こえてきた監督の指示だった。
「どんまいどんまい!キーパー反応できてるぞ!切り替えていこう!」
種部は開いた口がふさがらない。
(何がドンマイだよ・・・。アンタが守備の約束事を決めないからこうなったんだろうが)
このスペース。円山が簡単につり出されたというのもあるが、それをフォローするはずの亀井が、先制点を転機に完全につぶされているというのがあった。
「おい猪口。お前の仕事はエースつぶしだろ?なんで俺をいじめるんだよ」
再開前、亀井はそう猪口にぼやいたが、猪口は言いきった。
「監督の指示だよ。点取られた後はお前をピッチから消せってね」
そう笑った猪口に、亀井は戦慄を覚えた。
そしてこの同点弾を皮切りに、和歌山の猛攻が始まった。
まだ同点。攻めていこう。
若い選手で構成された尾道の攻撃陣は積極的に仕掛けていくが、開始早々の勢いが嘘のように沈黙。特にトリニダードへのパスは徹底的に遮断された。
「う〜、チョロチョロうっとうしいなあ!」
「そりゃ誉め言葉だね。さあ、どうにかしてみなよ」
謝花は微妙な間合いをキープして、リズムを崩してくる栗栖のマークに思わず愚痴る。特に、トリニダードへ何かをしようとすると、一気に間合いを詰められる。そうこうしているうちに、サイドバックのソンと二人がかりで潰されてしまう。
左サイドも同じ、いやそれ以上に、成田が結木に圧倒されてしまい、ボールキープすらままならない。
そして松本監督がこの試合、攻撃の胆とした2シャドーが、比類なきドリブルでアタッキングサードを蹂躙した。




