偽りなし
「すげえなあ・・・。これが和歌山かよ」
試合開始前の、アウェーチーム用のゴール裏芝生席。電光掲示板の真下にあるような席に集まった、ジェミルダート尾道のサポーター。その一人がそうつぶやいた。そういわせるような和歌山のスタメンは次の通りである。
GK1天野大輔
DF15ソン・テジョン
DF3内海秀人
DF4エデルソン
DF38結木千裕
MF2猪口太一
MF8栗栖将人
MF10小宮榮秦
FW11櫻井竜斗
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
現役A代表のFWとDFが二人ずついるのはもちろん、リオ五輪の本戦には猪口、小宮、天野も選出されている。さらに言ってしまえばこの試合の和歌山の日本人選手は、全員叶宮ジャパンへの招集歴を持っている。若いだけでなく、名実ともに実力者しあいないオーダーに、舌を巻くのもある意味で当然と言えた。
だが、尾道だって負けてはいない。
GK1種部栄大
DF12茅野優真
DF5池山大心
DF15円山青朗
DF22マルコス井手
MF10亀井智広
MF27謝花陸
MF23成田秀哉
MF8トリニダード
FW11野口拓斗
FW18浦剣児
FWの野口、ボランチの亀井、右サイドバックの茅野も叶宮ジャパンのメンバーであり、円山もロンドン五輪に出場している。そして、今話題のエクアドル人MFトリニダード。陣容は負けてはいない。さらにベンチには昨年のJ1得点王のベテラン・荒川秀吉が控えているのだ。ここ数年は顔を合わせるや打ち合いのゲームばかりを演じているだけに、今の攻撃力をもってすれば十分勝算はあった。
「向こうは必死だな。3トップで何が何でも点を取りに来たわけだ」
和歌山のスタメンを見ての、尾道の竹島監督はそう言った。
『それだけ、我々の得点力を警戒しているということだ。望むところじゃないか』
『ああ。トリちゃんばかり話題が行ってるが、浦や野口だってゴールを決めているんだ。面白い試合になるぞ』
参謀であるダヴィドコーチと竹島監督はそう試合を展望するが、ベンチの面々は不安しか感じなかった。
「大丈夫なんすかね、監督。向こうの本気度に全然気づいていない」
今季初のベンチ入りとなった若手MFの河口の愚痴を、ベテランエースFWの荒川秀吉は聞かされていた。
「河口。露骨な首脳陣批判はやめろ。また干されるぞ」
「・・・構いやしませんよ。皆さんと違って、俺は単なる数合わせですから。どう転んでも使われやしませんから」
やれやれと首を捻る荒川は、改めて和歌山のスタメンを見る。そして思った。
(確かにうちが勝つとすれば打ち合いに持ち込む以外にない。今のウチの守備で剣崎とまともにやれるやつがいないしな。だが、3トップよりも気になるのが向こうの中盤。左の小宮と右の栗栖、どっちもトップ下タイプなのに開いたポジションをとってる。何をやる気だ)
「あれがトリニダードが。あんなガキと同じ扱いってのは、やっぱ気に入らねえや」
センターサークルでボールを踏んでいる剣崎は、尾道の背番号8を睨み付けている。
「でも、現時点じゃあいつとお前は同等だよ。まだ2試合とはいえ、5点とって得点ランクはトップだしな」
「なんだとトシ。お前まで・・・」
「でもな。怪物ってのは数字では語れない。だろ?」
「・・・おうよ。あの野郎と俺が別物だってこと、今日ではっきりさせてやらあ!」
キックオフのホイッスルが響き、剣崎は竹内にボールを渡し、竹内は自陣の味方に蹴り出した。
(う〜ん・・・近くで見ると、とても凄みは感じないな)
トリニダードのマークを任された猪口は、改めてそう思った。
キックオフ直前には「初めてだから優しくしてね〜」と、日本語で屈託のない笑顔で声をかけてきた。17歳とのことだが、その無邪気さは小学生と変わりなかった。
だが、ほどなくその凄さを見せる。
「リック!」
右サイドバックの茅野が、逆サイドの謝花へロングパス。
「さあてトリちゃん。今日も凄いの見せようぜ!」
マークに来た小宮をドリブルで振り切って仕掛ける謝花。それに合わせてトリニダードも動き出した。すぐさま猪口も追走する。しかし、謝花のパスを受けたトリニダードは、その驚異的な瞬発力で猪口を引き離した。
「な!なんてスピードだ!」
「8番くるぞ!コースを閉めろ!」
和歌山のGK天野が、味方DFへのコーチングで、臨戦体勢を整える。しかし、トリニダードはその備えを遥かに上回る動きを見せた。
『はは。大したことないな!』
「くっ!」
ボールを奪わんとチャージをかけてきた内海を、トリニダードは嘲笑うようにボールをキープ。そして、マークの外れた浦を見やる。
(よし、トリ!こっちだ!)
浦はトリニダードの視線を察して動き出し、トリニダードも内海をかわしてパスを出す・・・と誰もが思った。
「えっ、あ!」
浦を見てボールを出す。トリニダードの動きはそうだった。だが、ボールは、トリニダードの視線とは明後日の方向、ゴールに向かって飛んできた。予想外のシュートに、天野は反応できず。ノールックパスならぬノールックシュートと言う芸当に、ただただ言葉を失った。
「・・・なるほど。あれは確かに化け物だ。プレーの次元が違う」
ボールを蹴り出して、天野はそうぼやく。
「ああ。百聞はなんとやら、ボールを持たせたら厄介だ。しかし」
相手に唸りながらも、内海に悲壮感はなかった。
「これでこっちのやることが明確になった。あとは前の連中が取りやすいように、俺達は地に足つけて守るぞ」
「オッケー」
先制点で勝ち誇ったように天を指差すトリニダードを見ながら、内海たち守備陣は気を引き締めた。




