9.現実は、極寒並みの寒さです
今日は、魔法学校の入学式です。
魔法学校。その名の通り、魔力の持ち主が入らなければならない学校です。貴族だからといって、入れるわけではありません。
ヒロイン様は、少し遅れて入学する美少女+光属性ということで大注目を浴びます。あの、ミルフィーユ家のご令嬢と同属性というのも、注目を浴びる要因です。
ヒロイン様が転生ヒロインなら、どう動くかで警戒...しなくてもよさそうですね。悪役令嬢ことカトレア・ミルフィーユなら、持ち前のロースペックさでヒロイン様の悪意を気付くことなくかわすでしょう。その時はきっと、ヒロイン様のことを憐れに思い、私の目から温かい水が出るのでしょうね。
まだ見ぬヒロイン様、あなたが転生ヒロインでありませんように...
もし、ヒロイン様が転生ヒロインなら私と同じようにカトレア・ミルフィーユに絶望することとなるでしょう...きっと...
入学式は、大広間で行われます。先生方の魔力を総動員し、収容できる人数分まで大広間を魔力で広げるのだそうです。
入学式まで時間があります。学校内を徘徊したいと思います。私は魔力で自分の体を浮かせて、入学式のしおりにある『学校MAP』を見ながら徘徊します。自分の体を浮かせるなんて手間をかけなくても、歩いた方が早いのですがそんな気分なのです。人に見つかったら、面白いなと思ったのですが誰にも会いませんでした。これが物語補正なのでしょうか?要らないところに労力を割かないという。
EDに登場する告白名所『シークレット・ガーデン』の手前まで来ました。なにやら見覚えのある方います。王太子であるボニファーツ様と一つ下の弟君であられるイェレミアス様。なにやら、話し合っているようです。
「兄上様。なぜ、ミルフィーユ公爵家の令嬢と婚約をしたんです?彼女、王太子妃の器ではないと反対されているじゃないですか」
確かに、カトレアが王太子様とご婚約した時には耳を疑い、疑問に思いました。このまま盗み聞きすれば、この疑問が解消されるのですね。不敬罪と言われれば、前世でのゲーム知識を生かし、人に知られたくない弱みで脅せばいいですし、このまま聞き続けましょう。
「そんなの決まっている。彼女は俺の理想の女王様なんだ!!」
「はぁっ!?」
「だから、俺の理想の女王様なんだ! 彼女以外、俺の女王様になれる女はいない。何度でも、あの顔で蔑まれ見下されたいんだ!顔、背中どこだって踏みつけられてもいい!むしろ、踏みつけてくれ!罵って、罵倒してくれ!調教してくれ!」
なに言ってるんですか、王太子様。あなた様は次期国王でしょ。なんで、女性から調教される願望を語ってるんですか。この前まで、たんなる女好きだったでしょ。なんで、性格が去勢されてる...去勢?なんか、急激に心当たりが出てきました。そして、心の中で滝汗をかいていきます。血の気を引いて行くような感じがしました。きっとあの本を読んだのですね。前世での私の同志・調教された犬同盟の会員No.1がこの世界で出した本『女王様の所有犬』を。これはきっと、最新刊まで読んで元のノーマルな世界に戻れなくなったのですね。この世界にいる同志、あなたは知らずに王太子様の性癖を去勢させました。ヒロイン様に刺されないよう、背後をお気を付け下さい。
私がちょっと現実逃避している間に、王太子様は朗々と女王様への願望を語り、イェレミアス様は頭を抱えて苦悩しておられるご様子です。そして、王太子様は颯爽とその場を去っていきました。取り残される、私とイェレミアス様。その時に、お互いの目が合い気まずい思いをしました。
「アイリス嬢...」
「私は何も見なかったです。聞かなかったです...」
重たすぎる沈黙がこの場を支配しました。お互い何も言えないまま、視線を彷徨わせています。何も言葉を発せないまま過ぎていく時間。永遠と思える時の沈黙を破るように、鐘の音の音が響いてきました。
「アイリス嬢、もうすぐ入学式が始まる。行った方がいい」
「はい。それでは失礼します」
私は入学式会場まで行き、ギリギリ間に合いました。
先ほどの王太子様の告白が衝撃過ぎて、入学式の間は意識を飛ばしまくって、気が付いたら終わっていました。




