(初稿版)第四章・第四節:魔法と名付けられた弾丸
彼はデスクに戻り、D3群の報告書を引き出しかけて、やめた。
中身を再確認するまでもない。素材に特異性はない。それは、もう記録に刻まれてしまった。
だが――現象は、どうだ?
> 「……弾丸は、七箇所を傷つけて、ほぼ無傷で回収された」
この事実は、消えていない。
ケネディの首、コナリーの背、肋骨、手首、太もも――複数の軌道、複数の損傷。
それでも、出てきた弾丸には、ほとんど損傷がなかった。
A.N.Hは、頭を抱えた。
> (素材ではない。ならば、何だ?)
> (そもそも、“一発”だったのか?)
報告書では、三発の銃弾が発射されたとされている。
そのうち一発は外れ、一発は致命傷、そして残りの一発が“魔法の弾丸”――
複数の被害を生んだ一発。
彼はふと、資料の中に埋もれていたフレーム解析のページを開いた。
ザプルーダーフィルム──
1963年11月22日、デイリープラザで撮影された民間人映像。
スロー再生の中で、大統領が最初の被弾から数フレームで反応し、
次の瞬間には、コナリーが後ろを振り向き、その身体が反射的に崩れていく。
A.N.Hは鉛筆を手に取った。
フレーム番号、タイムスタンプ、被弾部位、反応遅延――
一つひとつを並べて、初めて浮かび上がる仮説があった。
> (……一発ではない。複数の弾道が、時間的に同期されていた)
> (あるいは、“被弾と認識される順序”が、意図的に操作されていた?)
彼の心臓が一拍、速く打った。
> (タイムラグ? 音速? それとも、音自体が……?)
> (いや──それより、“映像の方”に仕掛けがあったとしたら?)
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メモ:
> 魔法の弾丸は、**弾そのものではなく、「そう見えるように設計された現象」**だったのでは?
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彼は立ち上がり、再評価課の奥の保管庫に足を向けた。
フィルム部門の未整理箱には、ザプルーダーフィルムの複製が複数残されている。
その中に、一つだけラベルのないリールがあった。
A.N.Hは息を呑んだ。
> (魔法は、素材に宿るんじゃない。目撃された“順序”の中に潜むんだ)




