(初稿版)第三章・第一節:ドロスよ役者を揃えよ!
1947年6月24日。
歴史の上では、単なる火曜日。
だがその日、人類は「宇宙人に出会った」と信じ込まされた。
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ニューメキシコ州 ロズウェル郊外 午前11時
真夏の太陽が、赤茶けた砂の地表を焼き焦がしていた。
その灼熱の中心――地平線の彼方に、“墜落現場”が演出されていた。
白く塗られた軍用トラック。
錆びたアルミ合金を組み合わせた「UFO残骸」。
ビニール製の“異星人の死体”。
そして、軍服を着た演技経験ゼロの兵士たち。
「おい、誰だよ。そっちの足、宇宙人の関節が逆に曲がってるぞ!」
「すみません、マスクの中が蒸れて、気絶しかけてました…」
撮影現場の混乱の中、アラン・ドロスはスーツの袖をまくり、ひときわ冷静に現場を見渡していた。
本来はCIAの陰の部署にいた彼が、まさか砂漠の“映画監督”になるとは思わなかった。
「グリーン伍長、クレーターの角度が浅すぎる。“衝突の演出”を忘れるな」
「了解ですが…ドームがまた壊れまして…修理班を」
「バラすな! 宇宙人の残骸が“脆い素材”だったということにしろ」
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この一連の作戦には、名前があった。
「ローズ・ステージ作戦」――
OIA(仮設中)による、“情報の劇場化”計画の初陣だった。
だがそれは、思い描いた冷徹な演出とは程遠く、
汗と砂埃と、ぎこちない台詞回しで構成された、初学者の舞台劇だった。
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同日・同時刻、ワシントン州 レーニア山上空
空は抜けるように青く、機体の窓から差し込む日差しが、操縦席の中に反射していた。
「…なんだ、あれは」
男が双眼鏡をのぞき込む。
彼の名はケネス・アーノルド。
小型消化器メーカーの経営者で、ここ数年の業績は下降線。
だが今日は、別の“投資先”があった。
助手席に積まれた封筒には「空中観察任務報酬:OIA」と記されていた。
「皿じゃない…盾に近い。しかも跳ねるように飛んでる…」
「そう、水切り石だ。スキップする飛行物体だ」
彼の声は、録音機にきちんと記録されていた。
ドロスの指示で、OIAの広報班が数日前に渡した“参考原稿”と、
驚くほど一致していた。
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再び、ロズウェル現場
「長官、新聞記者が現場の方角を間違えてるとの報告が!」
「いい、むしろ歓迎だ。“伝言ゲーム”の精度は、曖昧さで高まる。信じた者が記者になる」
ドロスは深く息を吐いた。
今日という一日が、何十年先の“信仰”に育っていくとは、
誰一人としてまだ知らない。
だが、彼には確信があった。
この滑稽な舞台が、いずれ**“世界が最も信じたウソ”**として機能することを。
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> 6月24日――
目撃者が空を見上げた日であり、
情報機関が地上に“異星”を築いた日だった。
OIAは、この日を「発端」と呼ぶ。
“UFO神話”の、静かすぎる開幕のベルだった。




