結果報告 86
「それなら、少し見てもらおうか」
そう言ってから、皆で森の方へ向かった。リネアやドラスの後ろには今回きた騎士達も付いてきている。
「アーベルさん護衛をお願い。後、ミケルさんとロルフさんが魔獣を探してくれる?」
「うむ」
「おう!」
アーベル達は素早く指示を聞き、動いてくれる。アーベルがいれば魔獣の奇襲も防げるし、ミケルとロルフならばすぐに魔獣を見つけてきてくれるだろう。
そうして、森の中へ入って三十分ほど進んだところで、ミケルとロルフが戻ってきた。
「いたぞ」
「魔獣二体だが、どうする?」
そう言われたので、フィアス達を確認する。全員強くなったが、特に上位五班は自信に満ちた目をしていた。
「……よし。それじゃ、まずはフィアスさん達にお願いしようか」
そう告げると、話を聞いていたフィアスが大きく頷く。
「はい。それでは、戦って参ります」
冷静にそう答え、フィアスは班員の指揮を執る。その様子を見て、ドラスが驚いた。
「む? あれは、隊長でも兵長でもないな。あの者が部隊を率いるのか?」
ドラスのその質問に頷いて答える。
「弓使いの職業適性を持つ者は士官向きだし、フィアスさんが最も真面目に訓練をしてきたから、隊長に任命してるんだ。我が村の教える戦い方を最も理解しているからね」
「弓使いが士官に向いているの?」
リネアのその質問に、新たについてきた騎士百人がざわついた。まぁ、騎士団では習わない内容なので仕方ない。
「僕の常識ではね。弓使いはスキルで誰よりも遠くを見ることができる。戦闘の際にも、接近せずに戦うことができるから、冷静に戦場を見極められる。特に、魔術師が大規模魔術を準備する間の護衛をしつつ、全員へ指示を出すことができるのが大きいね。戦局を変えるのはいつも魔術師か弓使いだし」
リネアの質問には簡単に答えておく。本当は各職業適性のスキルも関係してくるが、そんな話までしていたら一日かかってしまうからだ。
とりあえず、大きな反論は無かったが、ドラスが不思議そうな顔をして一つだけ質問をしてきた。
「……どの国でも、そんな戦い方はしていないはずだが、どこからそんな知識を得るのだ」
「まぁ、大半の国が戦士の職業適性ばかり重要視しているからね。それに、それだけの戦術を扱えるほど強くなれていないのも……」
ドラスの質問に答えようとしていた時、向かう先から激しい地響きが鳴った。
土煙を上げて、巨木の中を縫うように大きな影が現れる。美しい銀色の毛並みと、赤い目。そしてサーベルタイガーのように大きな牙。この森でも滅多に見ることがない大物だ。
「銀大狼!?」
体高三メートル。全長は十メートル前後ありそうな化け物狼である。それを見て、ドラス達が驚愕の声を上げる。
一方、フィアス達は落ち着いていた。
「危険だ! 我ら全員でかかった方が良い!」
ドラスがそう忠告するが、問題はない筈だ。
「それじゃあ、安全のために一体ずつ戦うとしようか。それでは、片方は……」
「わ、我々にお任せください!」
フィアス班と同じく、上位五班の一つに任せようかと思っていたら、エルネストが大きな声で名乗りでてきた。確かに、最近はやる気があるように見える。スキルも一つ覚えた筈だ。
「……よし。それじゃあ、エルネストさんの班に任せよう! 両班に護衛としてミケルさんとロルフさんが付いてね。戦闘開始!」
「はっ! 行くぞ!」
「おう!」
返事をして、エルネストの率いる第九班が走り出す。フィアス達も同様だ。
迫りくる銀大狼に、各班の遠距離攻撃担当者が初撃を命中させる。それにより、狼の敵意はそれぞれの班に向いた。左右に揺れるように動き、狼たちはそれぞれ攻撃を開始する。
「受け流し!」
「受け流し!」
各班の防御担当である戦士達が受け流しを駆使し、巨大な狼の攻撃をきちんと無傷で受け流した。それで僅かに狼にも隙が生まれる。一瞬動きが止まったのを確認して、遠距離攻撃担当者が攻撃を加える。
「貫通矢!」
「投石!」
フィアスの班はその一撃で狼に大ダメージを与え、動きを遅くすることに成功する。後は、戦士達の連続斬りや強撃のスキルで着実に倒すことができる。途中でフィアスの貫通矢が後二発でも命中すれば終わりだろう。
対して、エルネストの班は盗賊による投石で隙を作りつつ、徐々に戦士達が連続切りでダメージを与えていくしかない。その上、戦い方はフィアス達よりもぎこちない。
一ヶ月と少しの訓練とはいえ、どれだけ必死にやってきたかが如実に現れている。攻略速度は段違いだ。
「討伐、完了しました」
討伐後も冷静に魔獣の死を確認し、フィアスから報告がある。対して、エルネスト達はようやく半分ほどといったところだろうか。
「……中型魔獣でも討伐困難とされるあの銀大狼を、僅か十分程度で……」
ドラスが呆れた様子でそんな感想を口にする。それに苦笑し、エルネストたちの戦いを眺めた。
「全員がそれくらいの実力になれたら良かったけど、目標の実力になれたのは五十人。残り半数は少し目標には足りなかったかな?」
そう答えると、リネアが溜め息を吐く。
「十分過ぎるわよ。以前の騎士達のままだったら、あんな魔獣は百人総がかりで撃退が精々だったわね」
と、リネアが高評価らしき感想を口にした。良かった。とりあえず、及第点はもらえたようである。そういえば、リネアとドラスの後ろで整列して見学していた騎士達も、何一つ言葉を発さずに真剣な顔で戦闘を見ていたような気がする。
暫くして、エルネスト達も討伐を完了し、報告にきた。
「討伐、完了であります!」
「お疲れ様です」
肩で息をするエルネストに笑顔で返事をする。それに、エルネストはぐっと顎を引き、辛そうな表情をする。そして、リネアに深く一礼し、倒れた狼の下へ向かって行った。
討伐した魔獣の前で整列する騎士百名を見て、ドラスが胸を張って頷く。
「うむ! 素晴らしい! 皆、一ヶ月で見違えるように強くなったな!」
ドラスの言葉に笑いながら同意し、村の方を指差した。
「それじゃあ、村に戻って詳細を報告しようかな」




