晩餐会 72
「さっそく晩餐会よ」
謁見が終わり、謁見室を出てすぐにリネアがそんなことを言う。いくら実家とはいえ、流石に自由過ぎる。準備もあるだろうし、すぐには難しいのではないか。
そう思ったが、どうやら既に準備はされていたらしい。
「それでは、ラーシュ君、皆さん。こちらへどうぞ」
そう言って案内するように先へ向かうのは、先ほど、階段の下で対応していた金髪のイケメン、レオン・クララ・テオドーラである。第一王子であると先ほど教えてもらった。つまり、今のところ継承権第一位の次期国王という存在だ。
「リネアが失礼をしていないだろうか。どうも、昔からお転婆で……」
そう言って、レオンは困ったように笑う。その態度や言葉からも分かるように、レオンは極めて大人しい性格である。物腰柔らかだが、学力が高く文官としての能力に優れているようだ。その代わり、剣術などは苦手とのこと。
「レオン兄様、お転婆はあんまりでしょう? 私の活躍でラーシュ達を連れてこれたのよ」
その発言に、レオンは苦笑しつつ頷いてくれた。
「そうだね。確かに、素晴らしい人材を連れてきてくれた。反対に、ハーベイ王国は大きな損失だっただろうね」
笑いながら同意すると、リネアは胸を張ってドヤ顔している。なるほど。あの父とこの兄の力によって、リネアは王族とは思えない豪放磊落さを得たのか。
二人の関係を見て、色々と腑に落ちた気がする。
仲の良い二人を眺めつつ、王城の食堂へと案内された。そこには執事とメイドだけがおり、騎士などの姿はない。移動の間も騎士は数人しか見なかったが、くっ付いて護衛をしているわけでもない。
「こっちに並んで座ってね」
レオンに言われるまま、食堂のど真ん中にある長いテーブルの手前から順番に座った。ミケルとロルフ、アーベルとイリーニャ、僕の順番だ。
「はーい」
と、僕に続いて隣にリネアが座った。
「あ、リネアはこっちだよ?」
「私はここが良いです」
「そ、そうかい? 父上に何か言われないかな」
リネアが反論すると、レオンは困ったように笑いつつ、対面に座った。すると、メイドたちが僕たちの前にティーカップとグラスを置き、ティーカップの方に温かい紅茶を注いで回る。
そこへ、パタパタと足音を立ててドレスを着た女性と大柄の騎士が現れる。可愛らしい淡いピンク色のドレスを着た女性は、見事な金髪と碧眼だった。二十代後半に見えるし、恐らくレオンとリネアの姉だろう。
そう思ったのだが、リネアから出た言葉は違った。
「お母様! こちらが私の恩人達よ!」
リネアがそう言うと、女性が目を細めて歩いてくる。流石に驚いた。もしかしたら、この見た目で三十代なのだろうか。
「あらあら、思っていた以上に可愛らしい子たちね。ラーシュ君に、イリーニャちゃん。アーベルさんにミケル君とロルフ君、だったかしら? 私はリネアちゃんの母、モニカ・フルール・テオドーラと申します。リネアちゃんを助けてくれて、ありがとう」
モニカを名乗った女性は、柔らかく微笑み、優雅な一礼を見せた。それに立ち上がり、胸に手を当てて会釈する。
「いえ、こちらこそ……リネア王女の助力により、村を強く、豊かにすることができました。感謝しても足りません」
モニカの目を見てそう伝えると、モニカは両手を口元に持ってきて目を輝かせた。
「まぁ! 幼いのになんて立派な姿かしら! それに、エルフと見まがうほど可愛らしいわね。それで、リネアちゃん? いつ婚約するのかしら?」
「ぶふっ! ちょっと、お母様!?」
いつの間に紅茶を口に含んでいたのか。リネアが噴き出し、怒鳴った。それにモニカは、目を丸くして驚く。
「あら。誰か、拭いてあげてくださる?」
モニカの言葉にメイドが二人近づき、真っ白な布でテーブルを掃除していく。それを横目に、リネアが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「なんでそんな話をしてるのよ!」
怒るリネアと、笑うモニカ。その様子を見て、イリーニャが思わず笑っていた。モニカは天然なのかもしれない。
「デール。君も来れたのか」
と、モニカとリネアの会話を見ていると、レオンが大柄の騎士に向かって声を掛ける。それに、デールと呼ばれた騎士が笑みを浮かべた。
「時間がとれたんだ。リネアを助けてくれた恩人が来ると聞いて、是非にと思っていたんだ」
そう言って、デールはこちらに歩いてきてレオンの横の席に座った。
「楽にしてくれ。俺は第二王子のデール・ティル・テオドーラだ。リネアを助けてくれたと聞いている。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。リネア王女には村のことで多くの助力を受けておりますので」
天使の微笑を浮かべてそう告げると、デールは目を瞬かせて驚く。
「ほう……いや、確かに、少しリネアより幼いが、婚約者にしても良さそうだな。どこまでいったんだ、リネア?」
「で、ででで、デール兄様!? なんでそこで話に乗っかるのよ!」
顔がリンゴのようになったリネアが怒る。その様子を見て、デールが楽しそうに笑った。こちらはからかっているだけのようだが、リネアには関係ない。プリプリ怒るリネアを見て、レオンが眉を八の字にして溜め息を吐く。
「こらこら……あまり苛めないであげてくれるかい? 今日はリネアの恩人が同席しているんだからね」
レオンがそう言うと、モニカは微笑みつつ、椅子に座った。
「冗談ではないのだけれど……」
モニカがそう言った時、食堂に新たな人物が現れる。
「何か、面白い話をしているようだな?」
そう言って、マルクスが執事とメイドを引き連れて歩いてくる。
「あら、陛下。ラーシュ君があまりにも聡明で可愛らしいから、リネアといつ婚約するのかと話をしていたのですよ」
モニカはからからと楽しそうに笑いながらそう答えた。それに、マルクスが目を見開いて「カッ」と変な音を立てる。




