第24話 悠然たる砂糖菓子は悪臭に苛まれて
明るく愉快な町とモンブランを夢見る。
“旧街森林”
“スリープ”行き直進──。そして、”モンブランタウン”行き右折──。
二つの道を標す立札にて、地を揺らすほどの荒い疾走が近づいた。
荒れた土道にガラガラと車輪を回し、橙色をした馬のような生物が荷車を引きながら駆ける。
道幅に合わせて、荷車は小型。計、八台を馬のような生物がそれぞれ二匹がかりで運ぶ。
形容は質素だが、どことなく厳かであり、側面には円を描いた蛇のようなマークがひとつ──”ワールドテール”だ。
馬車の中には、オレンジ系統色の兵士服を着た軍人が数名ずつ。更に、薄墨色の外套を羽織り、ライフル銃や剣を備える。
立札に目を呉れることもなく、馬車は速度を維持したまま、別れ道を通過し東へ直進──。
そんななか、ふと、ひとりの兵士が神妙な表情を浮かべた。
「なぁ……。なんか……変な匂いがしないか?」
目頭で鼻腔を押さえるかのようにして、眉をひそめる兵士の男。
鼻の奥に響くような、つんとした刺激臭である。
しかし、隣に居た同僚は意外にも、素っ気ない対応で、その発言を受け流していた。
「近くで死んだ魔物の腐敗臭かなんかだろ。それよりも、いつ敵が現れるか分からないんだ。気を引き締めておけよ。」
同僚の言葉に、どこか釈然としないといった様子を見せながらも、今は、半ば強引に納得せざるを得ない。
決して、違和感や勘違いといった小さな匂いではないがために、ほかの兵士たちも恐らく、匂い自体は感知しているだろう。
だが、最優先の任務が彼らには与えられている。寄り道をしている暇などないのだ。
生き残った部隊の救助と、その後に受けた通報により、彼らは今、驚愕と焦りの狭間に居る。
ほかの事項に目を向けている余裕などない。一刻も早く、事実確認と救助を行わなくては──。
「急げ!!」
呼応されたかのように、馬のような生き物がけたたましく速度を乗せ、馬車の車輪が追随する勢いで森林道を駆け進んでいった。
これは、ナナたちがモンブランタウンへ向けて歩き出した、僅か数分後の出来事である──。
…………………………
約、数十分──。
見上げるナナたちの目線の先には、アーチ状に構えられたゲートのような物と共に、その奥に立ち並ぶ独創的な家々の情景が広がっていた。
「着きましたね。」
「ここが……。」
「モンブランタウンだぁー!!」
チロットとナナの呟きに続くように、ルナがどーんと両腕を突き上げて、高らかに声を張り上げる。
“モンブランタウン”
旧街森林内に存在する小規模の町。全ての家々がお菓子の”モンブラン”のような形状をしているのが特徴であり、知る人ぞ知る観光名所として、ひと昔前までは人気だった。
「…………。」
ルナの声が虚しく谺する。
同時に、力が抜けたかのように静かに両腕を下げた。
歓声も喧騒もない、静かな町並み。いや──静かなんてものではない。
まるで、この場所を放棄したかのように、ゲートの奥の町並みには人っこ一人、誰も何も居なかった。
こんな情景のせいか、僅かに霧立って見えるのも、もはや気のせいとは思えない。
「…………。」
ふと、ナナがゲートを見上げる。
町の出入口としての目印だろう。アーチ状のゲートには、丸字で『Mont Blanc Town』と書かれており、確かにここが、目的の寄り道先であることが確認できる。
ピピはたった一人で、こんな場所からの依頼を受けようとしていたのか──。
しかし、ピピも困ったような表情を浮かべているのを見るに、彼も、この情景を把握していなかったのだろう。
もはや、モンブランタウンではなく、ゴーストタウンと呼んだほうがしっくりくるような景色だが、ここまで来た今なら、なぜ、このような状況になっているのかが解る気がする。
静かに腕を下ろしたルナが涙目の顔で振り返りながら、一言──。
「鼻が曲がりそう……。」
町には、これ以上ないほどの異臭が立ち込めていた。
……………
何ひとつ、気は進まないが、ここまで来て帰るわけにもいかないナナたちは、ゲートを潜り、町並みを歩いていた。
五分ほど歩くが、やはり、人の気配はない。
恐らく、店舗であった建物も、吊り下げ看板や張り紙により、無期限休業の旨が示されている。
町の外まで漏れ出るほどの悪臭だ。そもそも、旅人や顧客も寄り付かないのだろう。
この悪臭の原因がなんなのか、正直、検討もつかないが──ひとつ、気になることがあるとすれば、この町の最奥──ナナたちの進行方向、先に佇む、巨大な宮殿のような存在──。
周りの家々もモンブランのような風貌のため、雰囲気は間違ってはいないが、何より、建物の大きさが異常だ。
町並みの建物はどれも、大きくて二階ほどの高さ。
それに対して、奥の宮殿は七、八階ほどの高さがある。
『宮殿』なのだから、当たり前といえば当たり前だが、こんな森の奥にある小さな町にしては、その存在感は少々、異質だった。
「…………。」
同時に、宮殿の頂点で揺らめいている何かへ、ナナが目を凝らす。
あれは──。
「旗……?」
何か、マークのような物が描かれた黒地の旗が、風にはためいていた。
二匹の蝙蝠が宮殿へと飛ぶ──。
…………………………
“宮殿(?)”
窓から差し込む光があってもなお、薄暗に包まれた廊下にて、全身鎧の人物が巨大な扉の前に立っていた。
見張りをしているわけではない。十メートルは超えるであろう、両開き式の中央に立ち、その大きさに見上げることもなく、正面から対峙している。
間もなく、扉が重低の軋みを放ちながら開かれた。僅かに、薄黄緑色の光が廊下に広がる。
眩しくはない。暗い光だ。
「…………。」
鎧の人物が早足で──しかし、決して走らず、姿勢を崩さず、扉の先へ進んでいった。
中に入ってすぐ、右手の壁に、五メートルほどの高さがある巨大な窓が三つ並び、その二つ目に、赤髪の少女の姿を見た。
少女が振り返る間もなく、鎧の人物が片膝をつきながら、こうべを垂れる。
「ご報告します。およそ、九分ほど前より、モンブランタウン入口にて、男女四人の侵入を確認しました。」
兜により、声はくぐもっているが、それは、成人男性のものであると分かる。
冷静に冷淡に──起伏なく紡がれた報告を聞いた赤髪の少女は、手にしていた単眼鏡を下ろすと、片目で鎧の男を見やった。
薄暗の中の太陽光に、真っ赤なリボンと気品ある赤紫のスカートを映し、影の被った幼き顔面の下、僅かに口角を上げる。
「分かっているわ、”レテニー”。相変わらず、仕事が早いのね。」
賞賛の言葉にも、”レテニー”と呼ばれた鎧の男は頭を上げない。
なぜなら、少女の更に奥の暗闇より、コツコツと靴音が聞こえたかと思えば、もうひとりの主人が姿を現したからだ。
足先から順に光が照らし、藍色の下衣に白地のブラウス。濃灰色の瞳に青い髪を晒しながら、少女に続くように言葉を発する。
「でも、気にする必要はないよ。見たところ、ただの旅人のようだしね。」
現れた、もうひとりの主人──もとい、青髪の少年はそう言うと、少女の居る二つ目の窓の前で立ち止まり、横目で町を見下ろした。
「服装から考えても、”ワールドテール”ではないことは明白──。特に害を及ぼさない限りは、こちらから接触する必要はないよ。」
淡々と指示を飛ばし、恐らくは、ナナたちであろう四人を認識しながらも、手を出す必要はないと諭す。
しかし、同時に登場した”ワールドテール”という名称──。
ここでも忌まれているのか、少女と少年はふたりして、静かに警告を発していた。
「この辺り一帯は、”OR”部隊の守護管轄。ワールドテールの中でも、生真面目な部隊として有名ね。」
「もちろん、真面目に働いてくれることは、領主としてありがたい限りだけど、その真面目さが、今のボクたちにとっては却って不都合。」
「もし見つかったら、計画を差し止めされ兼ねない。真面目だからね。」
「だから、侵入者の服装には、よーく注意を向けておいてよ。今、ワールドテールに介入されると、厄介だからね。」
交互に放たれる指示を、鎧の男は黙々と受け入れ、何かを疑問に思うこともなく──。
「承知しました。」
ただ静かに──しかし、強く肯うのだった。
…………………………
“モンブランタウン”
町へ入って早々に、まさか存在を認知されているとは夢にも思わないナナたちは、相変わらず、誰も居ない町並みを歩いていた。
進めど進めど、なんの情報も成果も得られる気がしない。
このまま無策に歩き続けて、果たして意味はあるのだろうか──いよいよ、全員がそう思い始めた頃、不意に左から、人の気配がした。
ナナたちが目を向けると同時に──。
「お……? あんたら、もしかして旅の人かい……?」
向こうも気がついた様子で、呆気に取られたような表情で問いかけてくる。
しかし、同じく意表を突かれたような顔をしているナナたちを見るなり、今度は途端に、営業的な笑みへ切り替えると丁寧な対応を取り始めた。
「ああ、いや、「あんたら」とは失礼。お客さんら、見たところ町の外から来たんだろ? 外からのお客なんて、何日──いや、何ヶ月振りのことか……。」
旅人が珍しいものなのか、ナナたちが口を開く間も与えることなく、どこか考え深いといったような顔で浸っている。
再び、ハッと表情を切り替え、男は扉を開くと、目前の建物を目で示した。
「うちは宿屋だ。この町に滞在するつもりなら、ぜひ、寄っていってくれよ。外はこの悪臭だからな……。いくら、ここの町が安全とはいえ、お客さんたちも野宿じゃ困るだろ?」
そう言いながら、男──もとい、男性店主は宿屋の中へと入っていく。
カコンカコン、と扉横の吊り下げ看板が風に揺れた。看板には、『Blue Mont Blanc』と『INN』の文字。
上手いこと商売に乗せられた気もするが、実際、長く滞在するならば、宿屋の活用は不可欠だ。
尤も、悪臭が漂っている現状、たとえ数分の滞在でさえ、宿屋に籠もりたくなってしまう。
商売に乗せられたとしても、もはや不可抗力。一刻も早く、この異臭から避難できるというのであれば、もうなんでもいい。思考する時間すら勿体ない。
ナナたちは、意見を交わすこともなく、宿屋の扉を潜った。
…………………………
“宿屋 ブルーモンブラン”
宿屋の中は澄み切っていた。深呼吸がしたくなるほどに。
「ふは〜。生き返る〜。」
心から息をつくチロットたちを見て、先程の店主が麻のマスクを外しながら笑みを浮かべる。
「大変だったろう。よく、ここまで来る気になれたな。」
一種の自虐のつもりか、自分では、外に出ることすら躊躇われる、と男性店主は笑ってみせた。
ナナたちが感謝を述べる間もなく、男性店主が自己紹介を始める。
「俺のことは……まぁ、気軽に”アオさん”とでも呼んでくれ。ん? どうしてアオさんって呼び方なのか、気になるか?」
訊いてもいないことをつらつらと述べ、言葉を挟む隙がなかったことが、気のせいではなかったのだと認識する。
ナナたちが呆れたような表情を浮かべているのにも気づかずに、”アオさん”と名乗った男性は自慢げに自身の口髭へ触れながら──。
「俺の髭が、青いからだ。」
大した捻りもないネーミングを披露した。
「はぁ。」
思わず、空っぽの相槌を打つナナたち。
「名前から取ったわけじゃないのか」や「髪も青色だろ」などいったツッコミもよぎったが、指摘することすらバカらしく思える。
悪い人ではないのだろうけど、そもそも、初対面同士なのだ。
まずは、彼の人柄を観察するところから始めよう。
“アオさん”
モンブランタウンの宿屋、”ブルーモンブラン”の男性店主。青髪短髪と、整えられた青色の口髭が特徴的。紳士ふうで、とても気さくな印象を受けるが、妙にお喋り好き。本名は不明。
年は、三十代後半といったくらいだろう。洒落た喫茶店のマスターなんかをやっていても違和感がなさそうな風貌だが、その紳士的な見た目に反して、よく喋るうえに表情が豊か。残念ながら、見た目以外に紳士さはない。
しかしながら、気さくで人柄が良さそうなのが好印象。実際に呆れはしたが、不快感は感じなかった。
「そして、俺の髭が青いついでに、今晩はタダで泊めてやろう。」
青というよりは、藍色に近い髭を見せびらかしながら言う。
──え?
「「タダ!?」」
トントン拍子に進む会話のせいで、思わず反応が遅れてしまったが、よく分からない、ついでの特典に、ナナとチロットが驚愕したように声を上げた。
しかし、その反応に、アオさんが我に返ったかのように両手のひらを見せる。
「あ、やっぱり今のなしで。」
「「なんなんだよ!!」」
踊らされたような内容に、ナナとチロットが怒りに近い形相で指摘。それを宥めるように、アオさんが冷や汗混じりに付け加えた。
「いや〜、申し訳ない。久しぶりのお客さんにテンションが上がって、思わず口を衝いて言っちまったが、さすがにタダじゃ、宿屋の体をなさないからな。思いっきり割引するから、それで勘弁してくれ。」
別に、割引をねだったわけではないのだが、思ったことをそのまま口にするような性格──正直、経営者として心配だ。
少し考えた後、アオさんが金額を提示した。
「一人一泊、10Gl。四人、合わせて”40Gl”で、どうだ?」
「「安っ!!」」
破格過ぎる設定に、ナナとチロットがまた合わせて驚愕を見せる。
ここまで安かったら、もはやタダと変わらない。
「なんだぁ〜? まだ足りないってんなら、一人、5Glで──。」
「「もういいもういい!! これ以上、安くなったら逆に心配になるわ!!」」
「そうかぁ?」と納得するアオさんの手前、ナナとチロットは息を整えるように溜め息を吐いた。
果たして、商売をするつもりがあるのかないのか、寧ろ、何か裏があるのでは、とすら思えてくる。
呆れたような、しかし、どこかホッとしたような──。そんなナナの表情を見たルナが、満面の笑顔を向けた。
「良かったね! ナナ、お金、無かったもんね!」
本当に、全くもってそのとおりなのだが、そう大声で言われると、妙に悲しくなってくる。
それを感じ取ったのか、チロットがルナへ諭した。
「ダメだよ、ルナ! もっと、オブラートに包んで言わないと……!」
ねっ、と目配せをくれるチロットに、ナナは苦笑いで応え、更に隣では、ピピが自身の財布を取り出していた。
「えっと……もし、足りないのでしたら、ぼくが代わりにお支払いしましょうか……?」
非常に心優しく、ありがたい提案ではあるが、ナナはそんな言葉になんともいえない表情を浮かべると、静かに──。
「あ……いや……。さすがに、40Glくらいは持ってるよ……。」
どこか虚しい空気を纏わせながら呟き、その表情と言葉に「失礼しました……!」と慌てた様子で頭を下げるピピを、ナナが「大丈夫だよ」と宥めるのであった。
アオさんが営業的ながらも、不快感のない笑みを浮かべる。
「納得してくれたんなら、宿泊名簿に名前を書いてくれ。──あれ? ペンと紙はどこに行ったかな……。」
「大丈夫かよ……。」
手続きを済ませ、アオさんが名簿を見やる。
「よし。それじゃあ、荷物は従業員が──って、うち従業員、居ないんだった。」
「自分で運ぶからいいよ!!」
一連のやり取りの末、ナナたちは、ここ──一階の共有スペースにて、四人用ソファーへと腰掛けた。
歩き通しの疲労と、鼻腔を侵す異臭。アオさんとのやり取りも含め、疲れた身体にようやく、ひと息つく。
全く不意でもなく、再びアオさんが話しかけてきた。
「俺の髭がなぜ青いのかについて語ってもいいか?」
「ダメです。」
気を取り直し。
「しかし、わざわざこんな森の奥地にある町まで来るなんて、お客さんたちも物好きだな。ひと昔前までは、家の外観が珍しいのなんのって理由で妙に外から人が来ていたが、今ではそれもめっきり減った。旬が過ぎるのは早いもんだぜ……。」
呆れの中にもどこか儚げに首を振り、時の過ぎ去りの早さにナナたちも同感を示す。
重ねて、不幸は連鎖するものだ、とばかりにアオさんが天井を仰いだ。
「しかも、最近はこの悪臭のせいで、家から出るのだってひと苦労。おかげで、外からの人どころか、町民すらも町並みから姿を消したよ。」
町に人が居なかったのは、皆、この悪臭から身を守るために、家に閉じ籠っているからなのだろう。
なぜ、このような現状に見舞われているのか──。そう。まずは、そこから訊きたい。
「そもそも、この異臭はなんなんですか?」
ナナが訝しげに問う。
するとアオさんは、神妙な面持ちで目線を逸らした。
少し言いづらそうに、僅かな間を空けて口を開く。
「……原因は判っているよ。異臭をばら撒いている犯人も──その居場所もな。」
意外な返答に、ナナたちは呆気に取られる。
てっきり、原因が判らないとばかりに思っていたのだが、まさか、原因どころか犯人や出所まで判っていたとは。
「犯人」というからには、これは人的な公害なのだろう。まず、そこから驚くべき事実だ。
これだけの迷惑行為──犯人も出所も判っているのであれば、なぜ、早急にやめさせないのか。
いや、訊くまでもない。
止めたくても止められない。ただ、それだけの理由だろう。
相手が人間というのであれば、幾らでも力で黙らせられる。
物理的な力。権力。金。脅しや天秤による狡知。
結局、複雑な物事の奥に絡んでいるのは──人間だ。
アオさんが悟ったように自嘲の笑みを浮かべる。
「なぜ止めないのか──とは訊かないんだな。さすが、場数を踏んでいる冒険者は違うなぁ。」
気遣ったような明るい茶化しにも反応しないナナたちを一瞥して、アオさんは咳払いの後に続けた。
「もちろん、異臭が放たれてからというもの、町人数名で抗議に行ったことがあると聞いてる。」
その口振りから察するに、アオさんは抗議に参加しなかったのだろう。
しかし、まるで当時、そこに居たかのような臨場感を乗せると、おどろおどろしく声を潜めた。
「だが、抗議を始めるや否や、見たこともない魔法で、一瞬にして全員の身動きが封じられたらしい。」
わざと顔を青ざめさせ、まるで怪談師のように語り、チロットとピピは思わず唾を飲み込む。
「その場はひとまず、怪我もなく帰されたって話だが、何より、町のやつらが恐れたのは、身動きを封じてきた本人たちではなく──その後ろに居た、鎧の男だ、と言っていたな。」
「鎧の男……?」
ナナが反応する。
「あぁ。なんでも、今にも斬りかからんとばかりに構えていたらしいぜ。主人が止めていなかったら、間違いなく斬り殺されてた、と皆、怯えていたよ。」
次々と登場する謎の存在に、緊迫した様子で聞き入るナナたちを見て、アオさんが更に、大袈裟に身を震わせた。
「恐ろしいよなぁ〜。俺の髭も一層、ブルーになっちまうぜ。」
相変わらず、冗談には一切、反応を示さないナナたちのじとりとした目を受けて、アオさんがまた、咳払いにて気持ちを正す。
「まぁ、とにかく、そういうわけで、この異臭を止めることは誰にもできないのさ。少なくとも、いい意味で平和ボケしたこの町の人間たちでは、とても、な。」
今まで平和であったがために、戦えるような人間が居ないという意味なのだろう。
同時に、この旧街森林には危険な魔物が少なく、何より、人が寄り付きづらい僻地でもある。
外部からの敵襲などとは、本来、無縁の町だったのだ。
となれば、次に訊くべき事項はそれだ。
平和ボケというからには、異臭の元凶たちは外部から来たと考えるのが自然。
そもそも、『主人』だの『鎧の男』だの、この町へ来たばかりのナナたちからすれば、ぼやけた存在でしかない。
奇怪な雰囲気を醸し出す、異臭の犯人──ここまで来て、訊かないわけにはいかなかった。
「何者なんですか。そいつらは。」
ナナが眉をひそめながら問うと、アオさんも同様の表情でナナと目線を合わせる。
そして、そそくさと物置から木製の椅子を引っ張り出したかと思えば、ナナたちと対面するかたちで腰掛け、両腕を組んで語りの態勢に入った。
やはり、余程の話し好きなのだろう。
その俊敏な動作にじっとりとした目を浮かべるナナたちを差し置き、アオさんの口弁が始まった。
「話は、二ヶ月前に遡る。その日、この町へ、一人の鎧姿の従者を連れた、双子の兄妹がやってきた。」
………to be continued………
───hidden world story───
語りは続く──。




