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Neva Eva  作者: 真樹
懐かしき日々
PR
55/61

02


 うん、何かいろいろごめんなさいという気分になっている今日この頃。


 フィルもセレも今はオレの傍にいない。“晶石”の中に戻って貰っている。

 傍にいないことには多大な不安も覚えるけど、要は気を付ければいいんだし!と思った直後にビタンッ!と転んだりとかしてごめんなさい。オレの決意に信憑性はありません。再認識。


 もうちょっと本気で気を付けよう……とか思った今現在。



「……………………ここ、どこ……?」



 言った傍から迷子とかになっててマジすみません!















 さて、落ち着いて考えよう。


「ううう……、何か見覚えのないとこに出たー」


 受付でお姉さんに笑顔で送り出して貰ったのがちょっと前のこと。

 で、「白の宮白の宮……」と口の中で呟きながら、ちょっとだけ久しぶりなカンジのする『学院』の中を歩き始めたのが、これまたちょっと前のことで。

 …………えぇと、オレはどの時点で迷子になりましたか。思い当たるところがありません。


「迷子になったらうろちょろするな、ってフィルに言われたことはあるけど……じっとしてるワケにもいかないし」


 というか、むしろじっとしてたら補講に遅刻するという話で。……うん、それだけは避けたいな!

 落ち着いて考えたところで、状況は何も変わりませんでした。しかも気のせいでなければ、何かさっきからどんどんと周囲に人気がなくなっていってるような気がするんですけれども! 何だこれ、いじめか? いじめなのか? 白の宮への行き方を訊こうにも、人がいないと文字通り話になんないし!


「ううううう、ホントにここはどこだー……」

「―――― さっきからウロウロと何やってんの、ちびっこ」

「うわはっ!?」


 び、びっくりしたびっくりしたびっくりしたーっ! びっくりしすぎて何か変な声出た!

 いやだって、誰もいないと思ってたとこにいきなり声掛けられて肩ポンッとかされたらびっくりするよ!?


 反射的に背後を振り返れば、そこにいたのは何だか眠そうな瞳をしたおにーさんだった。

 二十代半ばぐらい……? 全体的にダルそうな雰囲気を纏ったおにーさんは、奇妙な叫び声を上げたオレにちょっとびっくりしたみたいに瞳を見開いた。


「どーゆー反応よ、それ。声掛けたこっちがびっくりするわ」

「ご、ごめんなさい!」

「や、まーいいけどなー。で? こんなとこで何やってんの、ちびっこ」


 ちびっこ、って……!

 そういやさっきもそう呼んでたな! しまった、ちょっとそれにツッコむタイミングを逃した……!

 てか、背ぇたっかいな、このおにーさん! そりゃアナタから見ればオレなんてちびっこですね! そうですね! …………泣いてないよ!


 とりあえず、だ。

 何やってるのか、って訊かれれば……、


「えぇと……ここ、どこですか?」

「……さっきから何もないとこをウロウロと行ったり来たりしてると思えば。何だ、迷子か」


 すっぱりと言い切られました。

 ちょっと今のオレに刺さった! いや、迷子なんだけどね? 事実そうなんだけどね!?


「そもそも、どこに行こうとしてたんよ?」


 呆れたようにオレを見たおにーさんの言葉に、オレは素直に答える。


「あ、白の宮の中央棟、です」


 ……だったよな? うん、間違いない。

 受付のお姉さんの言葉を思い出しながらそう言えば、目の前のおにーさんが変なカオをした。うん?


「ちびっこ、再試験組?」

「へ? え、あ、そーですけど?」


 唐突な問いに、肯定を返す。てか、何で知ってんだろ?

 頷いたオレに、おにーさんは「ふーん……」と眠そうな瞳をしたまま相槌らしきものを打った。? 何なんだ。


「ま、いーや。こっち、ついて来な」

「ほぇ?」


 首を傾げるオレに頓着した様子もなく、おにーさんはくいっと顎をしゃくって踵を返した。えええ!? 何なにっ? 今何の話の流れでそうなったの!? ってか、案外行動が唐突だなおにーさん!

 咄嗟に行動を取り損ねたオレをダルそうに振り返って、おにーさんは更に口を開く。


「白の宮まで行きたいんっしょ? そこに行くからついて来な、って言ってんの」

「え、ええ!?」


 え、それは有難いけど、さすがに悪いような……と思ったそれは、ばっちりカオに出てたらしい。ひらひらと手を振られた。


「気にしなくてもいーさね。俺もそこに行くとこだったから」

「うぇ?」

「俺も、再試験組。お仲間」


 自分を指差しながらおにーさんが言った。


「ってか、それでなくても、ちびっこ一人で放っておいたらまた迷子になるだろーしねぇ……」

「え、何ですかその確信」


 というか、何で初対面のアナタにそんな確信されちゃってんですかオレ。



 納得いかない、と思ったそれも、やっぱりばっちりとカオに出てたらしい。呆れたような視線を寄越された。



「あのね、ちびっこ。ここ赤の宮。白の宮とは正反対の位置にある場所ね。ハイ、反論あるならどーぞ?」




 …………ありません!















 オレに声を掛けてくれた眠そうなカオのおにーさん、名前をレイファスといった。

 聞けばこのおにーさん、“赤の宮”所属の魔法使いさんで、思ったよりも長引いた任務の最中にライセンスの有効期限が切れてしまったのだとか。…………いや、あの、オレが言うのも何だけど、それはどれだけウッカリさんなのか…。

 てか、どうでもいいけどレイファスって呼ぶ時に下手すると舌噛みそう……、


「まーレイファスでもレイでも呼びやすいようにお好きにどーぞー?」


 ……何かまたしても見事に考えを読まれたカンジです。

 おにーさんがすごいのか、オレが判りやすいのか……せめて前者でお願いします!


「え、あ、レイ、さん……?」

「さん付けいらない」


 すぱっと切って捨てられた。好きに呼べって言ったのに……っ!

 てか、それはちょっとオレ的に抵抗があるんですけれども!

 だってアナタ年上でしょーが! 見たところオレより十歳ぐらい年上! そういう人を呼び捨てにするとかちょっとそれは……っ、


「さん付けしたら、白の宮まで連れてってやんないよ?」


 どういう脅し!?

 でも、今正にどこ歩いてんだか判んないこの状況下じゃ、オレにその脅しはとても有効! 案内がなくなったらオレは超迷子! 自分で言っててとっても悲しくなってくるね!

 しかもアレです。ここに来るまでにオレは何回か転びかけ、おにーさんに既に何回か助けられた後だったりね……うん。ますます何も言えないカンジです。いろいろ駄目ですごめんなさい!

 ―――― というワケで!


「…………レイ」

「うん」


 よく出来ましたー、みたいにちょっとだけ微笑まれた。

 何だ、今褒められたんだろうけど、それ以上にちょっとばかり疲れたぞ。いじめられたような気分になったよ!?


「ところでだねー」

「うん?」

「ちびっこは何で再試験とか受けに来たのかね?」

「ぐっ……!」


 ビミョーに答え辛いとこ訊いてきた!

 普通に考えて、おにーさん ―――― レイは変なことは訊いてないと思う。でもね? オレにとってはピンポイントに痛いところを、ていうかホントに答え辛いところをっ、ってカンジなんですけど!

 何でって……え、えええぇっと……!


「オ、オレも期限切れ……だから?」

「何で疑問形さ」

「期限切れ! 期限切れですハイ!」

「……ちびっこ、歳いくつ?」

「え? 十六歳だけど?」


 ふぅん……とレイは眠そうな目でオレを見た。な、何だろ……?


「んじゃ、ちびっこは十一歳の時にライセンス取ったんだ?」

「へ?」

「んー? でも、そんな年齢のコがライセンス取ったなんて話は聞いたことないやね」


 眠そうな目でオレを見据えたまま、レイは軽く首を傾げた。

 ……へ? あれ?


「いやいやいやいや? オレがライセンス貰ったのって、十三歳の時だけど?」


 何で十一歳? と首を傾げ返せば、呆れたような視線が返ってきた。

 …………あれぇ?? オレ、今何かやった……? ってか、何か大事なこと忘れてるよう、な……。



「ちびっこ、それだと三年しか経ってないっしょ」

「……うぇ?」

「ライセンスの有効期限、五年よ?」



 …………それだーっっ!!



 うっわ、と思わず内心で呻く。そうじゃん! ライセンスの有効期限五年だよ! で、オレ今一応十六歳! 十三歳でライセンス取ったとか言ったらまったく計算合わないね!


 おそるおそる視線をやれば、その先でレイは呆れの他に何か別の ―――― 何となくどこか面白がってね? みたいな雰囲気を滲ませた表情でオレを見ていた。

 ダルそうなカンジはそのまんまなんだけど。

 視線も眠そうなまんまなんだけど……っ。



「期限、切れてないんでないの?」

「……………………」



 なんとなく怖いのは、気のせいだと思いたい……。



 ていうか、逃げ場……っ、逃げ場はどこだっ!? 確実に追い詰められてないかオレぇぇっ!?


 だ、誰かオレのウカツさというか口の滑りの良さというか考えの浅さというか。

 とにかくその辺をどうにかしてくれと思った今日この頃。




 …………イエ、本気で誰か助けてください。














 現在の状況 ―――――― ぶっちゃけピンチです!


 あああああ……オレの馬鹿……。



「ちびっこ、ホントにライセンスの有効期限切れてんの?」

「う、切れて、るよ……っ?」


 いや、あの、うん。少なくとも年数的には。

 ………………嘘じゃないし。


「んー? でも、今十六歳でライセンス取ったのが十三歳て……」

「え、えええええぇっと……、じ、事故! 事故でライセンスがちょっとなくなったりとかしてねっ!?」

「それ、紛失って言わないかね?」

「こ、この際言わないっ」

「…………面白すぎるよ、ちびっこ」


 しみじみと何か言われた!


 ていうか、ごめんなさい。オレも今自分が何を口走っているのやらさっぱりです!













 そうやってレイに追い詰められつつどうにか辿り着きました、白の宮。

 あぁ、そうそう、こんなカンジのとこだったね。来たことあるね。…………何で迷った、オレ……。


 えぇとですね、あんだけ人を追い詰めた発言をしてくれたレイは、言葉に窮してうぐうぐ言ってたオレを見て、「ま、いいけどね、別に」とあっさりと矛先を収めた。あれぇ? とこっちが拍子抜けするぐらいの反応だった。

 更にその後に、「ま、あと三日あるし」と呟かれたような気がするのは…………敢えて気付かなかったことにしておきたいと思います! だって追究すると明らかにヤブヘビ……!


 ……で、だ。



「あれー? レイじゃない。どしたのアンタ、こんな可愛いコ連れてー」



 何で今現在のオレは見知らぬおねーさんの腕の中とかにいるんでしょーかっ!? ちょっとそこ判りません! 誰か説明!



「何って、再試験受けに来たに決まってるっしょー」


 白の宮に着いた瞬間、後ろからにゅっと伸びてきた腕の主は、レイの知り合いだったらしい。

 ……って、何でその状態で普通に会話始めちゃうの!? ちょっとっ!? 後ろのおねーさんは誰ですかっ?


「や、それは知ってる知ってる。ていうか、やっと来たのねアンタ、ってカンジよ。ライセンスの期限切れたの結構前でしょ?」

「よく知ってんね。そうそう、二ヶ月ぐらい前? いい加減受けて来い!って師長に放り出されたんよ、俺」

「あははー、自業自得じゃない、それ」

「そういうノイエは? 何してんの?」

「えー、あたしー? 同じよ、再試験組。どっかでライセンス落として無くしちゃってねー。見付からなくて再発行手続き」


 困ったものよ、と実にあっけらかんとした口調で言うおねーさん。すみません、今正にオレが困ってます! アナタに抱えられた状態で、頭の上でフツーに会話されるとかホント居た堪れません! 何だこれ。


「う、えぇっと、あの……」

「で、ところでこのコ誰?」


 そろそろ放してもらえないかなー、とオレが声を上げたのと、おねーさんがひょいと上から覗き込んできたのはほぼ同時のことだった。

 ……あれ? このおねーさんももしかして背が高い……?? 上からひょいって……あ、何かヘコむ。


 ショートカットの、活発な印象のおねーさん。歳はレイと一緒かちょっと下ぐらい……?

 というか、いつまでこの体勢なんだろう、と思ったオレの目の前で、レイがあっさりと口を開いた。


「ん、迷子」

「ちょ、今は違うよ!? 目的地着いたよ!?」

「じゃあ、ちょっと怪しげなちびっこ」

「じゃあって何! それどんな紹介!?」


 怪しげって! ちびっこって! 酷いよね!?


「いや、だって俺ちびっこの名前も知らんのよ?」

「へ?」

「教えて貰ってないし」


 そ、そうだっ……け? と首を傾げれば、うんと大きく頷かれた。そういえば、そんな気がしてきたね。自己紹介とかしてないね。それはオレが悪かった。ごめんなさい!

 ちょっと視線を泳がせたオレ楽しそうに見やって、おねーさんが訊いてきた。


「へーえ? それじゃ、マメちゃん、お名前は?」

「…………」


 この人ホントにレイの知り合いだよね! マメって! 初対面の人間にそれはどうだ!? レイのちびっこといい勝負だよ!

 何だ、そんなにオレがちっちゃいと言いたいのか!? ちっちゃくないよ、標準だよ! アンタらがでっかいだけだよ!


 いや、とりあえずそれは置いといて。

 名前、だよね……。



「………………ラズリィ、です」



 ……いや、うん。

 ヘタレと言うな。フルネーム名乗る勇気はオレにはない。


 オレが名乗った瞬間、レイとおねーさんは一瞬顔を見合わせた。

 ホントに、一瞬。で、それに伴った沈黙も一瞬。


 すぐににっこりとレイが笑う。



「よし判ったちびっこ。やっぱりお前はちょっとどころでなく怪しいちびっこだ」

「えええええ!?」

「よろしくね、マメちゃん。あたしはノイエ。呼び捨ててくれていいわよ。さん付けとかされるの苦手なの」

「えええ、ちょっ……!? いや、え、あの、よろしくお願いしま、す……?」




 名前については、二人揃って綺麗にスルーされました。

 というか、呼んでくれる気はないらしい。




 …………酷くない?
















 ジリリリリ……と大きなベルの音がした。

 あ、懐かしいなコレ。始業のベルの音だ。全然変わってない。


「あら? もうそんな時間なのね」

「あー、元々時間ギリギリに着くように来たんだから当然さね。―――― ホラ、ちびっこ、こっち。始まるよ。とりあえず座んなさい」

「うぇ? あ、うん……」


 レイに軽く袖を引っ張られて、オレは手近にあった席に腰を下ろした。



 白の宮に限ったことじゃないけど、各宮の中央棟っていうのは基本的に大人数を対象にした講義スペースが確保されてることが多い。今オレたちがいるここも、多くの人間を収容できる形……生徒側の席が階段状になってる講義室だったりする。

 あー……、そういえばここで授業受けたこともあるね。懐かしいね! この階段教室、上から下まで転がり落ちたこともあるね。懐かしいね! いやー、足元気を付けろ! って怒られた怒られた。


 いや、それはともかく。

 微笑ましくない思い出はちょっと置いておこう。教壇の段差に躓いて黒板に突っ込んだのとか思い出しても良いことないしね! …………ホントにそういう思い出事欠かないなオレぇっ!?



 ベルの音と一緒に室内に入って来たのは、三十代半ばぐらいと思われる男の人だった。うん、見たことない人だ。

 この試験の担当となるらしいその人は、簡単な挨拶をした後、再試験についての説明を始めた。


 えっと、要約するとアレだ。補講は今日から三日間。

 その間、受験者は学生寄宿舎の一角で生活することになるらしい。基本的に二人で一室の割り当てで、期間中は外出は禁止。どうしても、って場合は担当教官に許可を取ること。

 それから、補講授業はすべてこの白の宮で行うことになるらしい。最終日には試験が行われ、それをパスした人間にだけライセンス再発行……という流れになる、とその人は締め括った。


 受付のお姉さんから聞いてた内容も、結構入り雑じってるなぁ……。特にそこまで目新しいことは言ってないかも。

 あ、でもひとつだけ。最終日の試験、どうやら白の宮のお偉いさんが試験官として顔を出すらしい。

 普段はせいぜい『学院』の教官レベルの人間がその役に当たるらしいんだけどさ、今回は受験生への激励も兼ねてそんな措置になったんだとか。…………嬉しいんだか何なんだかよく判らない。

 そういうのはやっぱり結構珍しいことらしくって、男の人がそう告げた瞬間、他の受験生がちょっとざわめいた。レイも「へー、珍しいこともあるもんだ」とか呟いてたし。


「え、やっぱ珍しいの?」

「珍しいっしょ。こういう再試験の試験官とかって、言い方悪いけど下っ端の人が来るもんだからねぇ。俺の知る限り、今までの試験じゃお偉いさんが出てくるなんてことなかったし」


 あ、ちなみに俺今まで三回再試験受けてんだけどね? とレイが付け加えた。え、ちょ、それ多くない?

 隣でノイエ ―――― えぇと……呼び捨てでいいんだよね……? ―――― が、あたしも今回ので四回目だけど、こんなのはこれが初めてだわー、とか言っている。……き、聞き間違いじゃないよね、今の。二人揃って多いね? ホント多いね!?



 うーん? しっかし、お偉いさん、ねぇ……?

 …………もしかして、オレも知ってる人かなぁ……?


(なーんて……そんなワケないかー)


 自分で自分の想像を否定しながら、オレは机に頬杖を付いた。







 まさか、その想像が当たってるなんて…………ねぇ?




 この時のオレは、考えもしなかったワケなんだけれど。


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