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Neva Eva  作者: 真樹
幸せのカタチ
PR
47/61

14


 ……………自覚はね、あったんだ。



 前にも言われたことはあったから。学院時代、友人達に。




『ラズは、アレだな。注意力散漫だよな』

『物覚えは悪くないくせに、何でかトリ頭だしね』

『何だいきなり二人してその暴言っ!?』

『や、だってお前、この前の筆記、解答欄1コずつズレてんの気付かずに答え書いて追試くらったんだろ?』

『う……、てか、何でそんなの知ってんの!?』

『懲りないよね、君。この前は名前書き忘れてて思いっきり減点くらったんだろうに。ちょっとは学習しなよ』

『だから何でそんなん知ってんの!? ちょっと怖いよっ!?』

『黙れ、学院名物。お前の言動なんて、しょっちゅうそこかしこで噂話になってんぞ。知ってて何が悪い』

『え、ちょ、ええぇぇぇ!?』

『噂話っていうか、いっそ笑い話の域だけどね』

『何か余計に扱いが悪くなった!』

『―――― あ、それさっき返ってきた答案だろ? ラズの?』

『そ。これもまた懲りずに最後の足し算間違って減点されてる』

『公式はちゃんと合ってるのになー』

『どうも、何かが足りないというか……』

『あぁ、アレだ』

『アレだね』

『『詰めが甘い』』





 ………………しみじみと、そんな過去を思い出したりしてますよ、コンチクショウ。














「あのね、ラズ。物には容量限界というものが存在するって教えたよねー?」

「……ハイ」

「さて、ここで問題です。構成を壊されて効力そのものを失ったとこに、限界を超える魔力を注ぎ込まれた魔法って……どうなるか知ってるー?」

「……暴発シマス」

「はい、正解。―――― で、結果がそこの壁だから。反省しようねー?」

「ひ、ひゃい……!」


 頬を力一杯引き伸ばされた状態だと、返事も満足にできません! ごめんなさい! 大っ変、痛いです!

 とりあえず、返事として右手を挙手しておきました。届け、オレの心意気。


「まぁ、ギリギリで結界も間に合ったし、解呪も出来てるみたいだから良しとするけどねー」


 ふぅ、とひとつ息を吐いて、セレがオレの頬からぱっと手を離した。ううう、何かそのうちオレの頬っぺた伸びたまんま戻んなくなるんじゃないかと思う……。

 ヒリヒリする頬を押さえてたら、「あのーぉ」というやや遠慮がちな声がした。……うん?


「ちょーっと、何かアタマ痛くなってきたんですけどー……今、何やりました? 王サマ」


 ホントに何か頭痛を堪えるような面持ちで、魔法使いさんが言う。

 何、って言われても……、ってか、王サマって何。


「俺の気のせいじゃなければ、なかなかに衝撃的なことやっちゃってくれませんでしたー?」

「ほへ?」


 衝撃的って、何が? と首を傾げたオレに、魔法使いさんはフクザツな表情を向ける。その隣でお姉さんが、これまた何とも言えない微妙な表情でポツリと呟いた。


「…………衝撃的と言えば、今さっき繰り広げられてた光景の方が衝撃度は上のような気もするけど……」

「あー……、だな。同意。闇の王に頬っぺた抓られて説教くらってる王サマ…………どれだけ衝撃的なのかっちゅー話だぁね」

「え、ちょ……、どういう意味っ?」


 え、何が衝撃的!? ホントにワケ判んないんですけど!?


 詰め寄ったオレに、いやまぁお気になさらず~、と魔法使いさんはひらひらと手を振った。いや、気になるよ!? 何だそれ!


「まぁ、それはともかくとしてー、話戻します。王サマ、さっき何やりました?」

「何、って……解呪?」

「それは判ってますってー。問題はそこじゃないというか ―――― 王サマ、さっき解呪しながら別の魔法使いませんでした?」

「? うん、使ったけど……?」


 というか、使わざるを得なかったというか。

 解呪の最終段階で、オレはちょっとしたヘマをしてしまったワケですよ。


 解呪自体は、成功したと言ってもいいと思う。エンジュさんも無事だし、彼女の中で澱んでた力も消えた。

 問題は、解呪する時に吸い取られてたオレの魔力にある。


 まぁ、何というか……渇いたスポンジが水を吸い取ってるカンジに魔力取られてるなー、とは思ってたけど。まさか、容量限界超えるほどの魔力を持っていかれてたとは思わなかった。

 で、解呪の段階でオレがその魔法の構成を無力化しちゃったこともあり、容量限界を超えた魔法が、最後にパーンと暴発しちゃったワケです。マル。

 言うなれば、風船の中に空気を入れすぎちゃったカンジ。空気……今回の場合は魔力を注ぎ込みすぎたせいで、内側から破裂しちゃった、と。…………一歩間違えば本気で大惨事でしたごめんなさいぃっ!


 魔法の暴発するその瞬間、咄嗟に風の結界を張った。魔法使いさんは、その時のことを訊いているのだろう。


 何を気にしてるのかは判んないけど……うん、確かに使ったよ?

 あの時のオレは、まだ糸の端を握っていた。解呪は完全には終わっていなかったし、片手間と言えば片手間だから簡易な結界しか張れなかったけど、オレの判断としては上出来だと思う。…………壁が吹っ飛んだことは、とりあえず置いておくとして、だけど。


 オレの返答に、魔法使いさんは一瞬言葉に詰まった後、はーっ……とため息を吐いた。


「想像以上に常識ないですねー、王サマ。何でそんなさらっと別属性の魔法を同時に使っちゃってるんですか。ない、というより常識総無視ですか」

「ちょーっ!?」


 待て待て待てっ! 何だイキナリその暴言は!

 何でオレ常識ないことになってんの!? てか、無視なんてしてないよっ!?


「仕方ない、ラズと常識とは縁がないんだ」


 フィル! お前のそれはフォローじゃなくて追い討ち!


「ラズ、知ってたー? 常識ある人間は壁に穴開けたりしないんだよー?」


 セレ! お前のそれは一般的にトドメと言うんだ馬鹿ーっ!


 ……もう泣こっかな……。ていうか、泣いてやる。くそぅ!



「―――― まぁ、ここまでくると、いっそ清々しいかもしれんな」


 エンジュさんを別の部屋へと移動させた後、再び室内へとやって来たリト兄がしみじみとした口調でそう言った。……本気で感心してるみたいな口調が逆にイタイです、兄上様……。


「ご、ごめん! でも、ちゃんと弁償するからねっ! ―――― 出世払いで!」


 今すぐ、っていうのはちょっとばかり無理ですごめんなさい!

 出世して稼げるようになったら弁償するよ、ちゃんと!


 そう思いながら、すんごい真面目に力を込めて言ったのに。



「いや、お前、それ以上出世してどうするつもりだ?」



 返って来たのはすんごい怪訝そうな表情で繰り出されたリト兄のそんな台詞でした。えええええ!?



「もう十分にしてるだろう、出世」

「え、オレ今一文無しに近いのにっ!?」

「やー……、多分そういう意味じゃないと思うよー? ラズ」

「え、じゃ、どういう意味っ?」

「稼ぎじゃなくて、これ以上知名度上げてどうするというか、更に偉業達成でもする気なのかというか……」

「??? よく判んないんだけど」

「……それを判らないと言うお前の方がよく判らんが」

「だよねー。どうしよっか、フィル。自覚のない人間の相手って難しいんだけどー?」

「今更だ」


 ……なんか酷いこと言われてる気がする……。

 え、何だこれ。嫌がらせか?


 ちょっと憮然としてたら、ポン、とリト兄に頭を撫でられた。


「まぁ……、相変わらずのようで、ある意味安心した」


 ……あれ?

 何かこれと似たような台詞を言われたことがあるような? …………あれ?

 ていうか、ここで頭を撫でられる意味もよく判んない。


「とりあえず、壁の穴は気にするな。修理費は他に請求するから」

「へ? そなの?」


 どこに請求するつもりなんだろ? と首を傾げたオレの目の前で、リト兄はにっこりとした笑顔になった。 いや、何かもう、ものっそイイ笑顔。


 その笑顔のまま、くるりと振り返った先は ――――……。



「……って、ちょっ、俺ですかー!?」



 自分を指差しつつ、素っ頓狂な声を上げる魔法使いさんがいました。


 ……あ、そこなんだ?



「よくよく考えてみなくてもね、原因の一端というか大半は君にもあるかな、と」

「やー、まぁ、そう言えなくもないというか……イエ、そうとしか言えないですねーごめんなさいすみません」

「あぁ、だから謝罪は態度と形で示して貰おうかな、と」

「ホントけっこー容赦ないですね!? …………これによく喧嘩売ろうとか思ったな、御主人ー」


 魔法使いさんの最後の台詞は小声だった。けど、多分リト兄にも聞こえてるだろう。



 もう一度にっこりと笑ったリト兄は、「出世払いにしておくから」と実に清々しく言い切ったのだった。






















 見上げれば、雲ひとつない青空が視界いっぱいに広がった。

 おお、すごい。ホント綺麗に晴れたもんだ。


 で、そのまま、ほへー……と空を見上げてたオレは、お約束のようにそのまま後ろに引っくり返りそうになった。



「……頼むから、気を付けろ」

「ホントに外さないねー、ラズ」



 …………ごめんなさい。



「いつものことと言えばいつものことだが…………、割と先が思いやられるな」


 フィルの助けにより頭を打つこともなく直立の体勢へと戻ったオレは、呆れたようないくつかの視線と、しみじみとしたリト兄のコメントを貰いました。嬉しくないよ!


「父上……、叔父上は本当に昔からこういう……」

「変わらず昔からこんな感じだな」


 そして更にどういう会話をしてるかな、そこ……。お兄サンとリト兄。何で隣で頷く、フィルとセレ。



 エンジュさんに掛けられていた“死の魔法”を解呪してから数日後、オレたちは『学院』へと旅立つべく荷物を抱えて家の前にいた。


 うん、そろそろね、一度ぐらい戻っておいた方がいいと思うんだよね。コウさんに伝言頼んじゃったりもしたワケだし ―――――― その伝言が伝わったとして、きちんと会いに行かなきゃ怒りそうな人が何人か思い浮かんじゃったりしたことだし。

 ぶっちゃけ30年も経っている今現在、ご健勝かな~? と思える年齢の人もいたりするわけだけど…………突き詰めて考えると微妙に怖い気がするので今は考えないことにします。ハイ。

 ……うん、考えないよ。本人じゃなくてその子供が出て来たリして、許容量オーバーな出来事再びーとか、そんな今から考えても疲れそうな予想とか、そっちも考えたりしないよ! 普通にありそうで怖いんだ!


 ……いや、とりあえずそれは置いといて。


 “死の魔法”のことは、エンジュさんにも弟くんたちにも告げていない。

 けれど、さすがにエンジュさんは何か感じるところがあったのか、お見舞いと称して顔を出したオレに対して「ありがとう」という言葉をくれた。

 お見舞いに来てくれてありがとう……とか、そんなカンジの響きじゃなかったから、もしかしたら全部判ってるんじゃないかと、そんな風にも思えた。実際のところはよく判らない。

 でも、にっこりと笑うその顔が、前見た時よりも随分と顔色も良さそうに見えたのでホッとした。

 だって前の時って、大丈夫って顔色してなかったもんね。今も決して良いとは言えないけど、薄く頬に赤みも戻ってきてるし…………うん、これなら大丈夫かな? 白くて細い腕を見ても、もう前の時みたいな不安は覚えない。


 でその後、『学院』に向かうから……と別れを告げたら、「もう!?」と盛大にごねられた後、「元気でね! ちゃんとまた帰って来てね!」と再び抱き潰されかけたのはご愛嬌です……。ホント、あの細腕のどこにそんな力が……っ!



 えぇと……、壁の大穴については、さすがにちょっと誤魔化しようがなかったので、素直にごめんなさいとだけ謝っておいた。弟くんとかは、それに対してものすごくビミョーな表情をしてたけど、敢えて掘り下げて訊いてくることもなかったので、良かったとは思う。ホント、ものすんごいビミョーなカオしてたけどね!

 そして、どうやら本当に修理費は魔法使いさんへと請求されることになったらしい。この離れ……何だかんだと丁寧な造りになってるんだよね。修理費がどれぐらいかとか、あんまり考えたくもない事柄です。ご、ご愁傷様……。




「あ、そういえば」


 ふと思い出して、オレは顔を上げた。


「弟くん、『学院』に行くの?」


 元々弟くんは、魔法を上手く使えないという理由から『学院』に行くことになっていたようなものだ。魔法使いになるにしろならないにしろ、力を制御する方法を身に付けるのは必須事項だと言ってもいい。

 だけど、本人は出来得る限り『学院』には行きたくないと言っていたし、確かにあの場所では特に“ヴァリニス”の名は悪目立ちする。多分、苦労することも多いはずだ。

 この辺は予測だけど、確実すぎて笑えない。むしろオレがそもそもの原因だってのも笑えない。


 今は弟くんもちゃんと魔法を使えるようになっていたし、もとより知識の面においては、今更『学院』で学ばなきゃならないことの方が少ないだろう。何せ歩く辞書様だ。確実にオレよりは物知ってるよ。

 だから、多分行かないだろうなー、と思いながら発した問いに、意外なことに弟くんは首を縦に振った。……あれ?


「……行くの?」

「……何だそのいかにも意外だとでも言いたげなカオは」


 いや、だって ―――― 今正に意外だと思ってますすみません。


「少し、興味が湧いた。ちゃんと最初から魔法を学ぶのも悪くないと、そう思っただけだ」


 眉を顰めたまま、弟くんは面白くもなさそうに言った。

 ちょっと不本意そうで、でも何かを決めたカオをしていた。


 あぁ、そっか……と思う。

 弟くんは、足りないモノを補おうとしてるんだ。


 何だかんだ言って、弟くんは根が素直に出来てる。自分に何が足りないのか理解した上で、足りないモノを足そうとしている。その手段として『学院』に行くのは、確かに有効だろう。……葛藤も、しただろうけど。

 弟くんの、こういうところは好きだなぁと思って、オレは少しだけ笑った。


「あ、何なら『学院』まで一緒に ――――」

「それだけは死んでも嫌だ」

「即答!? しかもまだ全部言ってないし!」


 失礼な形で即答された! 即答ってか、即答過ぎるぐらいのスピードだった! しかも言い切ったよ弟くん!


「絶対に面倒なことになる。断言する。だから嫌だ」

「何だその駄目押し!」


 そんなに嫌か!


「あっはっはー、まぁ弟くんがそう言うのも判らなくはないけどねー」


 この上なく朗らかにセレが言った。

 だから、判るな。判っても言うな。一応使い魔として!


「賢明と言えば賢明だろう。第一、準備も出来てない人間を、いきなり連れて行くという方が無茶だ」


 より現実的に弟くんの言葉を肯定してみせたのはフィルだった。…………いや、だから、何か刺さるよ、お前の言葉。賢明て。


 オレたちの緊張感のないやり取りに、リト兄が小さく笑った。


「本当に変わらないな。―――― 少し、安心した」


 あの頃を、思い出す、と。

 かろうじて声になるぐらいの大きさで、呟きが漏れた。


 あの頃がいつを指した言葉かなんて、訊くまでもない。



 少しだけくすんだ笑みを浮かべたリト兄が、ポンとオレの頭を撫でた。


「まあ、気を付けて行け。王都へはそのうち私も仕事で戻る。ここよりも手狭だが、あちらにも家はあるから、落ち着いたら顔を出しなさい」

「うん、判った」


 リト兄の言葉に素直に頷いて ―――― 手狭って、でも結局はどれぐらいの大きさなんだろ……と、ふと考えた。

 基準がこの家、ってのはちょっと間違ってると思う。無駄に馬鹿でかいだろ、この家。



「……あぁ、そうだ」


 頷いたオレに、また小さく笑みを浮かべたリト兄が、不意に声を上げた。


「何?」

「思い出した。『学院』に戻ったら ――――……」


 言い掛けて、リト兄はそこで言葉を途切れさせた。何だ?


「えと、戻ったら……何?」

「……いや」


 少し考えるような仕草をした後、リト兄はゆるく首を振った。


「止めた。見てから驚きなさい」

「え、ちょ、何その変な断言かつ命令形っ!?」


 ホントに何だっ!? 見てから驚けって何をっ?

 ていうか、兄上様も結構脈絡ないよ! 他人のこと言えないよ! …………血筋か!?


「いや、まぁ……多分ここでごちゃごちゃ言うよりも、見た方が余程早い。『学院』に戻れば嫌でも目に入るだろうし……」

「だから何がっ!?」

「見てのお楽しみというか ―――― 見てから嫌がりなさいというか」


 言葉を探すようにして、リト兄はそう言ったのだが…………だから何だそれっ!? 余計に不安を煽るんですけどぉっ!?

 見て嫌がれって、それオレが嫌がるモノがあるってことだよね!? 間違いなくそう言ってるよねぇぇっ!?



「あー……、何となく『学院』にどういうものがあるのか判ったような?」

「えっ?」

「……俺もだ」

「えええっ!?」


 背後でセレとフィルが口々にそう言ったので、ばっと勢いを付けて振り返った。セレは楽しそうに笑って首を傾げ、フィルはいつもと同じ淡々とした表情でため息を吐いている。えええええ?


「え、『学院』に何があるの!? 何見て驚けとか言われてんのオレっ!?」

「えー? 面白そうだから教えなーい。見てから思う存分嫌がりなよ、ラズ」

「まぁ、確かに嫌がる……だろうな」

「だから何をっ!?」


 詰め寄っても、セレは笑顔ではぐらかすばっかりだし、フィルは何か自分ひとりで納得してるしで全然答えてはくれなかった。何だこれ、いじめ?


 そして。



「…………父上」

「何だ?」

「あの、本当にいつもこんな……?」

「私の知る限りでは、間違いなくいつもこんな感じだったな」

「…………そうですか……」


 不意に視界に入ったお兄サンが、微妙に遠い目になってたのは……何でだろ?

 その隣で弟くんが、妙に悟った表情になってたのも気になったけど、そっちもやっぱり訊いても答えては貰えなかった。

 ……普通にいじめだと思います。



 そんな中、リト兄はただ瞳を細めてオレたちを見ていた。




 ―――― 懐かしいものを、見るように。









 30年。



 それだけの年月が経っているのだという。




 当然、変わったものもたくさんある。


 だけど、変わってないものもたくさんあった。



 そこで待っててくれた人だとか。

 抱き締めてくれた腕の暖かさとか。


 おかえりの声や、それにただいまと返す時のくすぐったい気持ちだとか。



 変わっていないものも、たくさんあった。





 オレの知っている、幸せのカタチ ―――― とか。






「リト兄」


 少し考えて、オレは頭ひとつ分以上高いところにあるリト兄の顔を見上げた。


「ん?」

「一応、言っとこうかと思って」

「? 何を……」

「ずっと待っててくれて、ありがとう」



 おかえりって、そう言ってくれてありがとう。



 きちんと目を見て言ったら、リト兄が一瞬瞳を丸くした。


 その表情に、覚えがあった。


 ―――― その後見せた、笑顔にも。



 笑ったリト兄は、返事の代わりにくしゃりとオレの頭を撫でた。

 優しい手の感触も、覚えているそのままで。




 変わらないものは、いつだってここにある。



 そのことを、知った。


幸せのカタチ編、終了です。

お付き合いくださいました皆様、どうもありがとうございました!


閑話的なお話をいくつか挟んで、次は学院編となりますー。

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