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プロローグ

 青年は……いや、まだ成人になっていないので少年と言った方がいいかもしれない。

 少年は、空を飛んでいた。果てしなく続く空に点々と存在する白い雲。眼下には群青色の海。

 日本海軍艦上偵察機「彩雲」のコクピットの最後尾、電信席で少年は浮遊感に浸っていた。彩雲は三座式(三人乗り)で前から操縦士、偵察員、電信員の順でコクピット内で直列に搭乗する。最後尾の電信員は、主任務の無電操作のほか、後方の偵察、戦闘時には後部旋回機銃の射撃も担当するため、通常は機体に対して後ろ向きで座る。少年ももちろん後ろ向きで座っている。



「敵艦隊発見。すごい数だぞ」

 最前席の操縦士の少尉が叫んだ.彩雲は右にゆっくり旋回し、三人全員が見えるように敵艦隊と並行するように飛行した。

 少年は眼を見開いた。青くきらめく海上に、白波を作りながら多数の艦艇が進んでいる。艦隊の中央部でゆうゆうと航行している戦艦や空母などは、そびえたつ城のごとしだ。

「すげぇや。五十はいるな。カメラ、カメラ」

 真ん中の偵察員の上飛曹がゴクリとつばを飲み込む。カメラを取り出し、風防を開けてパシャリ、パシャリと何度も写真を撮る。風防を開けたので、機内に冷たい風が飛び込んで少年はわずかに身震いした。

「清水! 無電だ」

 シャッターを切りながら上飛曹が少年の名前を呼び、無電操作に当たらせる。

「あ、はい!」

 海上にひしめく敵艦隊に見入っていた少年は、ハッとして無電を操作する。

「空母三、戦艦一、巡洋艦五、その他五十」

 敵艦隊を凝視し、特定した艦種や数を無線機に打ち込んで送信する。敵空母もいるので、飛行甲板の状況も詳しく打ち込む。

「敵空母の甲板上に多数のグラマン確認。艦隊の上空には哨戒機の確認できず」

 手慣れているとは言いづらいが、少年は手間取ることはなくポンポンと無線機を操作する。

 敵情の送信が終わり、基地の方から「了解」と受信したときだ。

「おっと! 撃ってきたぞ!」

 機体がガタガタ揺れて、周りに高角砲の砲弾が炸裂し始めた。少尉は操縦桿を強く握って揺れる機体を安定させようと躍起になる。上飛曹は手早くカメラを閉まって風防もピシャリと閉めた。

「撮影終わりました。離脱しましょう」

「おぅ!」

 彩雲は急速に高度を上げて敵艦隊から一目散に離脱した。

 少年はふぅっと静かに胸を撫で下ろし、追手の戦闘機が追いついてこないことを祈った。

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