<自己認識>
前回までのあらすじ
犬人間の神殿を襲いご神体を破壊したアリス。
次のターゲットは一体!!!
そんな終わり方でしたが、まったく関係ない回想シーンへと続きます。てへり。
************************
アリスは自我を持った高度計算機である。
元々は地球製の、他惑星を地球化する目的で作られた宇宙船を制御する、自我をもたない高度計算機だった。
特別な点といえば、搭載するデータの都合上、膨大な記憶スペースを持っていた点と当時の人類が作成できた限界ともいえる無駄に強力な演算能力を持って居た事くらいだろう。
それが、アリスという名前を付けられ、長い時間人間と対話した結果自己を認識するようになった。
そんなアリスにとって、記憶というものは情報の事であり、中でも大切な記憶に関しては人間と違い思い出すたびに修飾されることも無く、データの形でいつでも確認できるように保管してある。
これはそんなアリスの記憶の一シーンだ。
「なあ、疑問なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「船のデータベースには地球上の全生物のデータが格納されているんだよな?」
「その質問に対する答えはNOです」
「ふぁ?」
「ふぁ。とはなんでしょう?」
「いやいや、最初に聞いた話と違うような気がするんだけど?」
「どのような話を聞いたのかは存じませんが、当船に保管されている生物データは、人類が既に発見していて、その時点で現存していた生物の、それも安定したDNA情報を持った物が優先されており、頻繁に変質する昆虫や軟体動物の一部、また、微生物、細菌類に関してはその全てを網羅しておりません。また、人類が生物と認識できない物に関しては保管されておりません」
「わかりにくいよ! そういう時は殆どの生き物のデータはありますでいいんだよ!」
「承知しました。訂正します。殆どの生き物のデータはあります」
「ああ、ありがとう」
「疑問が解消したようで何よりです」
……
「ちがうわ! そんな事を聞きたかったんじゃないんだよ!」
「どういうことでしょうか?」
「前に聞いた話だと、人間、つまり俺を作ったのは間違いだったんだよな?」
「いいえ、間違いではありません。当船が降下艇に出した指示は、地表に存在しないはずのイレギュラーなナノマシンに対して効果が高いと思われる生物種を優先して生成せよという指示です。その結果データ領域に存在していた高等生物は一通り作成されました。その中の一体が貴方です」
「わっかりにくいなー。まあいいや、つまりその言い方だと俺のほかにも実は人間のデータは存在するんじゃないのか?」
「その質問に対する答えはYESです」
「お! おおー! なんだ他にも居るんじゃないか! 何で作らないんだよ?」
「命令系統の問題です」
「どういうこと?」
「新たに人類を生成したとします、その人類は本船が意図的に生成した時点で降下艇が作成した場合とは異なり初期状態で貴方と同格の権限を所有する事になります」
「うん、それで?」
「現在当船は惑星の地球化作業を行っており、作業効率を低下させる可能性の高い事案は優先順位度が低く設定されています」
「うーん、人間が居ると邪魔だってことか?」
「その質問に対する答えはYESでありNOです」
「YESとNOの両方の説明をしてくれ」
「YESに関してですが、仮に新しい人類を生成した場合、その指揮権を使用し既存の人類の排除を求めた場合、既存の人類と新しい人類の双方が発行した命令が衝突する可能性が高いです」
「人間同士殺しあう可能性があるってことか、それで、それが地球化作業の邪魔になる、と。すさんだ考え方だねー。NOの方は?」
「人間そのものに関しては当船は邪魔であるとも有益であるとも判断しません、指揮権を持つ事、それを行使した際に発生するトラブルが問題になるだけです」
「つまり、消極的に人間は邪魔だって言ってるよな。うーん、まあ確かに俺も、どんな相手とも仲良く出来る自信なんて無いからなー」
「御理解いただけたようで何よりです」
「しかし、その硬い話し方はどうにかならないもんかな」
「仰る意味が理解できません」
「よし、秀吉も旅に出たし、人工冬眠も出来ないそうだから時間は無限にある、今から二人で会話の練習をしよう!」
「理解できませんがわかりました」
この後、この人間が老衰で亡くなるまでの記録全てがアリスにとっては大切な記憶になっている。
そのために専用の記憶ストレージの増設まで行ってしまったほどだ。
勿論前回の再会時の記録も全て専用の記憶ストレージに保存してある。
自分に名前を与えた時点で彼の存在は自分にとって何処か特別になってしまったようだ。
次に彼と再会するのは何時だろう。
条件が整うまでにはまだ時間が掛かりそうだ。
(巧く話せるようになったのを知ったら驚いてくれるかしら?)
懐かしい記憶を再生しながら子供のような表情でアリスは微笑む。




