<犬の神像>
夜の闇の中、建物の入り口を守るように二人の人影が立っていた。
二人を挟むような配置で設置されている篝火の、ゆらゆらと形を変えて照らし出すその影には少し変わった特徴が見て取れた。
お尻のあたり、腰より少し下だろうか? そこに何かふさふさとした、柔らかい毛で出来た棒の様な物がついているように見える。
そう、彼らはこの世界の一般的な住人の一種族で犬人間と呼ばれる種族の一員である。
彼らが守っているこの建物、元は村長の自宅であったものだが、今は神殿と呼ばれている。
ここには先頃冒険者という名前のごろつきから、貴重な粉との引き換えで買い取った「犬人間の姿をした神の像」いわゆるご神体が収められているのだ。
普段は平和なこの村で、なぜ夜中までこのような警備を行っているのかといえば、少し前から各地のご神体が何者かによって破壊されるという憂慮すべき出来事が発生しているためである。
慮外者がご神体をどういった目的で壊して回っているのかは不明だが、その理由が何であれ、おとなしく壊させてやる理由にはならない。
特にそれが自分たち犬人間の神の像であるなら尚更だ。
犬人間たちには自らの種族に対する強い誇りがある。
自分たちは熊人間よりすばやく(注1:力と耐久力では負けます)、兎人間より勇敢で(注2:耳のよさとすばやい動きでは負けます)、群れを作れば蟹にすら負けない(注3:単体で蟹に勝てる知的生物はこの星に今のところいません)。
自分たちより優れた種族はもしかしたらこの世界にはいないのではないか?
時にそう思えるほどその自負は高まっていた。
種族的な特徴として、体格の割にはすばやい動作と良く効く鼻、そして強靭な顎を持つ彼らは、今回ご神体を守るため、一族の中でも選りすぐりの戦闘に向いたグレースをもつロイノとメッサの二人をご神体の警備に当たらせ万全の体制で迎え撃つことにした。
ロイノのグレースは、発動すると四足歩行時の上半分を覆う強力な鎧となる防御に特化したかなり珍しい能力で、何かを守ろうとするときは非常に役に立つ能力だが、欠点は発動時に大量のグレースを消費してしまうので粉による回復が追いつかないため、短期間での連続発動が出来ないという点がある。
メッサのグレースは自らの牙を延長する形で発揮されるグレースで、噛み付いた相手がたとえ岩だろうが噛み砕いてしまえる攻撃に特化したグレースで、欠点といえば防御に関してはまったくグレースが働かないので相手の攻撃は自分本来の身体能力で防ぐか躱す必要があることくらいだろう。
この二人が組まされた理由は、ロイノが盾役を受け持ち相手の注意を引いているうちにメッサが攻撃して戦うというわかりやすい役割分担が出来るという点と、この二人が普段からよく一緒に行動しており、その連携が熟練しているからである。
そして、慮外者が二人に阻まれて神殿への侵入を手間取れば、イメージを飛ばして村のあちこちから続々と応援が飛び出してくるというどう考えても隙の無い完璧な作戦である。と犬人間たちは思っていた。
『夜勤ご苦労様』
自分たちの背後から現れて、二人の間を通り過ぎる際そう声をかけた何者かにロイノとメッサはしばし呆然となる。
(歩く音も匂いも何もなかったぞ!?)
自分たちの背後から、つまり警備していた神殿から出てきたとしか思えない。
通り過ぎるとき不思議な音(『夜勤ご苦労様』)を出し、後姿で片手をあげてぷらぷら振っている何者かはそのまますたすたと歩き、自分たちから離れていこうとしている。
「え!? だ、誰だお前!」
鼻の良い犬人間が生き物の匂いを察知できない事は、殆ど無い。
もちろん風の向きによっては匂いが拡散されてしまうことはあるだろう、しかし、これほど近く、しかも二人の間を通ったにもかかわらずまったく何の匂いもさせないこいつは一体なんだ!?
思わず肩をつかんで振り向かせようと右足を一歩踏み出した瞬間、背後の神殿が爆発した。
ロイノは咄嗟に展開したグレースでメッサより少しだけ長く意識を保てた。
そして強烈な音と衝撃で意識が飛ぶ直前、不審人物が空へと飛んで行ったようなそんな幻覚を見た気がした。
************************
「ぬいぐるみ降下兵破壊~っと」
地面にひびを入れて空中へと飛び上がったアリスが目的の消化に機嫌よさそうな声を上げる。
「しかし、真夜中なのに原住民が近くにいたのは一寸びっくりしたわねー、念の為あれ以上爆発の影響範囲に近づかないか観察してたけど、少し近すぎたかな? 気絶しちゃったみたいね」
まあ、死んだわけじゃないしいっか。と小さい声で呟きアリスは次の目的地へと空を翔るのであった。
おしまい。




