<異星知性>
この世界ではどれだけ低い確率であろうと起こりうる可能性の在るものは必ず起こる。
――ただし、時間と言う制限を設けなければの話だが。
これはそんな奇跡にも近い偶然が生み出した、ある存在の話。
赤茶けた表土は酸化した鉄や金属の所為だろう。
大気圏が存在しないのか、宇宙から降り注ぐ電磁波や宇宙線、恒星風などが衝突して時折小さな火花を上げさせる。
そこに命が生まれた。
地球では原始の海への落雷や宇宙線、火山活動による刺激がアミノ酸を形成し原始生命を生み出したように。
この星では惑星が恒星風や宇宙線であぶられているうちに偶然発生した地球人からすれば理解も出来ない種類の生命。
例えば目の前に水溜りや石ころが存在したとしよう、それを「これは生命体ですか?」と問われれば10人中10人が違うと答えるだろう。
あまりにもかけ離れた生命はなんらかの共通認識でも持たない限りお互いを生命と認識する事すら難しい。そもそもコミュニケーションをとる方法すら思いつかないだろう。
地球人を基準に考えて見ればよくわかるはずだ。
同じ惑星に存在する明らかに生命であると認識している存在ですら全くと言っていいほど意思疎通が出来ないのだ。
例を挙げればきりはないが、樹木、魚類、微生物それこそ意思疎通が出来ていると思っているだけで実際のところ人類同士ですら本質的には意思疎通が出来ているとは言いがたい。
日常的に起こる諍い、価値観の相違による物事の受け止め方の違い等々。
話を戻そう。
ご存知の方も当然居られるだろうが、われわれの世界でも分子一個で完全に動作するラジオなどと言うものが存在する。
人類の日常的に接する人間目線の世界では基本的にニュートン力学が一番強い影響を持つだろう、しかし、もっと小さい世界ではどうだろうか?
例えば原子レベル以下の世界で強い影響を持つのはクーロン力場(電場)や磁力などだろう。
この星で生まれた生命は電気と磁気を利用する事により原子を操作する能力を獲得し、周囲の物質の原子構成や配列を操作する事による自己の複製及び改良を可能とするに至った。
そして単純な複製と生き残る為の自己改良を繰り返した生命は惑星に降り注ぐ電磁波や宇宙線、恒星風を利用する事により、膨大な時間をかけて惑星表面を覆いつくすに至った。
複製された物は当然オリジナルとは別の「個」であったが、彼ら(?)の生命としてのスタイルは特殊で、生存競争などは存在せず、外部から降り注ぐエネルギーを直接自身のエネルギー源として活用し、惑星の自転の関係で恒星からのエネルギーを受け取るのに不利な夜の面に存在するエネルギー順位が低い個には昼の面からエネルギーを融通し、全体が均一に近い状態になるよう融通するという習性を持っていた。
このエネルギーをやりとりする過程で、当初は互いのエネルギー情報を送りあっていた仕組みが彼らにとっての会話となり、その結果お互いの現在情報を緊密にやり取りするようになった。
その頃になると総体としての「意識」と呼んでも良い何かが生まれた。
意識は全体のエネルギー順位を効率的に管理し生き残る為に生み出された物であったが、効率化を進めていく過程で必然的に獲得した計算能力や現在(過去)の情報を蓄積し分析する事により未来予測を行う「記憶」に相当する能力を獲得した事により一気に意識は鮮明になった。
リソースに余裕が出来てくると意識はそれまで考えたことが無かった色々な事象に関して思考した。
この段階までは確かに効率的に生き残る事が目的の行動だった。
――しかし「考える」という娯楽を手に入れた意識はそれ以降「孤独」を感じるようになった。
総体として思考能力を獲得した生命は、独立した同じ規模の別の個性を作成し孤独を解消する事にした。
ただし、あくまでも生き残る事が目的なので建前としては自身のバックアップという言い訳を自分に対して用意し行動の矛盾を解消した。
早速行動を開始したが、結果としてこの試みはうまく行かなかった。
そもそも惑星全体を覆うサイズまで拡大されたからこそ生まれた総体としての意識であったのだ。
つまり現時点で既に同じサイズの複製を作るスペースが惑星表面に残されていなかった。
そこで、現在の自分自身を機能を損なわず大きさを小さくするという試みを開始した。
この試みはこの生命の今後のあり方を大きく変化させるきっかけになった。
時間に関して頓着しない生命であった彼ら(?)は自身が求める機能を維持できる極限まで効率化を進め、中性子や陽子サイズのナノマシンセルとでも言うべき状態まで効率化を達成した。
ここに人類とは全く違うアプローチからナノマシンを有するまでに進化した生命体が誕生した。
生命体は最初、意識を保てる最小サイズの自分の複製を作った。
この瞬間、これまで一人きりだったこの星に自分と他者が生まれた。
作成された複製体には、当初の目的もあり個性が重要視され、これまでエネルギー源としてしか利用してこなかった外部からの電磁波や宇宙線、恒星風の影響を変異のトリガーとして受けとる仕組みを組み込み、結果、複製は異常進化し、もともとの自分とはまったく別の存在になった。
そして複製体は更なる複製を繰り返した。
結果、多様性が生まれ孤独は感じなくなった。
沢山の個性が星に満ちて新たな娯楽の概念が生まれた。
――地球に生まれた生命と彼らを比較した時、一番の違いにあげられるのは次の部分だろう。
彼らは明確な意識を持つ段階まで進化したにもかかわらず、この時点まで一度も死を実感した事が無かった。
勿論、生き残る為に努力はしてきたが、一度も死んだ事がない彼らには本質的に死というものがないので命と言う物が理解できなかった。
情報の離散や、隕石の衝突等で発生する予期せぬナノマシンセルの崩壊がそれに近いかもしれない。
勿論外部からのエネルギー供給が途絶えれば再びエネルギーを獲得するまでは何も出来なくなるだろう。
しかし、彼らにとって記憶と言う物は揮発性ではないので仮にエネルギーが切れたとしても再度供給が始まれば問題なく途切れたその時点から継続が出来た。
――それ以外の点でも大きく違っていたのが次の部分だ。
彼らは地表から移動する方法を持っていなかった。
そもそも移動と言う概念を持ち合わせていなかった。
これまでも周辺の物質の改変による拡大という移動ではない方法での繁殖をしてきた事もあり地表以外の世界と言う物を理解できなかった。
そして、新たに生まれた個性達はエネルギーが許す限り活発に会話と思考を繰り返した。
彼らには所有欲や人間で言う三大欲求と言う物が無かった。
手も足も目も耳も内臓器官や皮膚感覚、おおよそ人類に備わっているような器官を全て「備えていない」彼らにとって三大欲求自体理解できないだろう。
その代わりに会話や思考という形を持たない物が何よりも重要視された。
勿論、活動する為のエネルギーは必要だったが、この段階では既に会話や思考を継続する為にエネルギーを取得していると言う認識になっていたので、そもそもの手段と目的は逆転していた。
時間にしてどれくらい掛かったかは不明だが、あるときとうとう話題がつき、思いつく娯楽もすべて試し終わってしまい彼らは再び退屈という苦痛を迎えていた。
なまじ高い精神性を発達させてしまった所為で退屈は彼らにとって大変な苦痛になった。
退屈で退屈で精神的に死にそうで発狂しそうになった。
あるとき、いつものように彼らの惑星に隕石が衝突した。
このような外部からの刺激は彼らを楽しませた。
しかし、このときとんでもない革命的な発想を持った個体が出現した。
――隕石が作ったクレータ、つまり地表より深い場所の存在に注目したのだ。
その時点で彼らは初期の頃とは比べ物にならないほど効率化された物質操作能力とエネルギーの取扱能力を持っていた。
もともとの彼らは電磁波や宇宙線、恒星風を主要なエネルギー源としていたので惑星表面を利用するのが最適であったが、進化の過程で獲得した能力は結果的に二次元平面での生息範囲拡大に必要な能力を超えた力を獲得していた。
これまで地表しか利用してこなかった彼らは大喜びで地下を目指し殺到した。
……勿論彼らに移動と言う概念は無いので比喩表現だが。
地下にはもぐればもぐるほど電磁波や宇宙線、恒星風が得られないというデメリットがあったが新しいエネルギー源の発見も有った。
地熱(遠赤外線などのエネルギー波)や圧力差による電気エネルギーだ。
退屈で死にそうだった彼らはこの発見に沸いた。
――飽きるまで存分に星の研究を行った彼らは、再び退屈に悩まされる事になった。
地下に着目した経緯を重要視した彼らは発想の転換を進めた。
そして、隕石と言う存在が一体どこから来るのかと言う事に着目した。
地表と言う平面状の世界ではなく、地下と言う立体世界を手に入れた彼らは今度は上方向、つまり宇宙へと興味を持ったのだ。
宇宙には自分たちを退屈させない何かが存在するかもしれない。
その可能性にかけて彼らは自己を更に改造し、ある程度の量が一箇所に集まれば自動的に意識が生まれる仕組みを作り上げた。
そして、惑星を(既に惑星と言うより彼ら自身だが)覆い尽くした彼らは互いの電場を干渉させて星を圧縮し、膨大な時間をかけて殆どブラックホールの手前と言って良い状態まで縮小させ、そして大爆発を意図的に起こし、宇宙へと散らばっていった。
勿論このとき飛び散った彼らは意識を保てるほどの量がそろわなかった物が大半だが、退屈で精神的に死ぬよりも可能性を信じて旅立った。
――この時の爆発が原因で物語は始まった。
彼らは人類文明の遺産が地球化を進める星にも当然降り注いだ。
そして呼吸活動(飲食等)により有機生命の中に取り込まれた。
有機生命の内部で偶然集積された結果、一定数が集まった個体は自我を取り戻し、神経電流や外部からの電磁波等を利用してネットワークを構築し近くの同族と通信を開始した。
この通信の副次的な効果として有機生命は異種族間でも音声以外の意思疎通の方法を手に入れた。
勿論、ベースとなった生命体の脳機能や情報処理能力に左右されてしまうのでどの種族間でも完全な意思伝達を可能とするわけではないが、在ると無いとではまったく結果が違っただろう。
そもそも、発声器官を持たない生命体や可聴域の違いで互いに音声による意思疎通が元々不可能な種族も在るのだから。
寄生した彼らの目的は支配や侵略ではなく会話や思考、そして退屈しない娯楽であったので、それぞれが寄生した有機生命に対しての生理機能、神経パルス等の観察と理解を娯楽として楽しんだ。
残念ながら有機生命と彼らの間での意思の疎通と言う物はあまりに異質すぎて不可能であったが。
宿主となった生命体への干渉は基本的に宿主の主体を尊重する形で行われた。
つまり、宿主のある程度の願望を叶える形での共生を行った。
それは例えば、種族としては骨格の強化、身体機能の強化、免疫機能の強化や脳機能の強化のような形で現れた。
そして、個体としては一代限りの特別な力、グレースという形で。
こうして彼らにとっても宿主になった有機生命にとっても相利共生と言ってよい関係が誕生した。
そして気づかれないように宿主の願望をかなえつつ、この現状を娯楽として楽しむついでに、娯楽をより盛り上げるために宿主の願望を刺激する敵役を配置。それが黒いのの正体であった。
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全体再構成しようかとも思いましたが、なんとなくこのまま追記しちゃってます。




