新世界 好きなジョブは『神様』です
雲のようなふわふわした玉座に、
だらしなく横たわる白髪の男がいた。
見た目だけは三十代後半の適当なイケメン。
ローブはヨレヨレ、片手には酒の入ったグラス、
もう片手で下界を指でつついている。
「ふぁぁぁ……マジで退屈(MT)すぎて死ぬわぁ……もう神様やめたい……引退してハワイで寝たいわぁ……」
男――旧神様は大きなあくびをしながら、地球の日本某所を映す鏡を覗き込んだ。
「はぁ……なんで後継者探さなきゃなんねーんだよ。もう誰でもいいだろ……適当なヤツいねーかなー……おっ?」
同じ頃――
名門・神ヶ丘高校サッカー部グラウンド。
放課後の猛練習が続いていた。
「そこだ!もっと集中しろ!
お前ら、インターハイで日本一になる気はあるのか!?」
強面の名将・大岩監督の怒号が響く。
部員たちがピタッと足を止めた。
「新入部員を紹介する。新田神斗だ」
グラウンドの端で、
三年生のモブAが小声で言った。
モブA「あ、あれが……全中を制覇し、飛び級でU-18にも召集された、新田か……」
モブB「アイツ、我が部始まって以来の1年でレギュラー入りなんだってよ」
モブC「見ろよ、新田目当てにマネージャー志望の女子達があんなに……あぁいうのが主人公ってやつなんだろうな」
華やかなスポットライトが、
新田神斗を中心にキラキラと輝いていた。
その華やかなスポットライトから、完全に外れた校舎の片隅。
一年生の教室の後ろの席で、
4人組が机を囲んでこっくりさんスタイルで馬鹿話をしていた。
メガネ(佐藤)「やはり吾輩は時魔導士でござるな。時を止める能力があれば、大抵の問題はどうにかなるでござる」
暑苦しそうな人(田中)「せっかく異世界転生するのであれば、ロリカワエルフ一択でござろうが!」
左手に包帯を巻いたヤツ(鈴木)「ククク……世界最強のジョブはドラゴンスレイヤーだ。異論は認めない」
新棚 加見は、
3人を嘲笑するように、
これみよがしにため息をつきながらぼそっと言った。
『でもさ、ぶっちゃけ神様選べばよくね(早口)?
世界救うとか考えなくていいし、わざわざ危険な魔物とかと戦わなくていいし(早口)……なんで異世界転生ものって、ジョブで神様選ばないんだろな(早口)。俺なら絶対、好きなジョブで神様選ぶわ(早口)』
その瞬間――
雲の上の旧神様が目を輝かせた。
「ん……?おっ……アイツ神様やりてぇって言ってんじゃん……
もうアイツでいいか……めんどくせーし……これで俺、引退できるわ……ふへへ……」旧神様はだらしなく口の端をだらーっと垂らしながら、
酒のグラスを傾け、
パチンッ!
指を鳴らす音が響いた直後、新棚 加見は、
椅子に座って足を組んだまま、何もない真っ白な部屋に転送された。
『うわっ!?』(支えるものが何もないので、そのまま後ろに倒れる。)
新『いや、イスぅ! そんで坐骨痛ぅ! え、なにここ。何もないんですけど……』
その時、天井から一枚の紙が
ひらひらと舞い降りてくる。
A4サイズの紙に、でかでかと「ま」とだけ書かれていた。
新『ま……?「ま」って何?』
気配もなく、背後に誰かが現れた。
新『え、誰?』
振り返ると、
そこに立っていたのは――
見目麗しい銀髪のヒューマロイド型の神官メイド。
完璧なプロポーションに、
冷たいほど整った美貌。
神官メイド「解析します……『ま』とは、『まじで退屈過ぎて神様なんてもうやりたくないゅ(ぴえん)』の略であるようです。つまり、貴方様は新たな神に選ばれました」
新『あー、えー? いや、まいったなー、選ばれちゃった感じですか? 新しい神様? ってやつに? ふーん、へー、ほーん、やっぱこんな唐突に決まる感じなんだ? えー、でもいきなり居なくなったらみんな心配しちゃうっていうかぁ。それで、ここは天界ってやつ? その辺りも、これから色々説明されちゃう感じ?』
神官メイド「ちっ……(さようでございます)」
新『んっ?』
神官メイド「どうされましたか?」
新『いや、今なんか舌打ちした?』
神官メイド「いえ、そのような感情を抱く事は許可されておりません」
新『本当にぃ?』
神官メイド「神に誓って」
新『……まぁ、いいや』
神官メイド「ちっ……(さっさと説明させろや)」
新『本音と建前が逆なのよ。ダダ漏れしてるの、悪意が。えっ、初対面ですよね? 初めましてですよね? 確かになろう系で『おれ、またなんかやっちゃいました?』は、よく見る展開だけれども』
神官メイド「天界だけに?」
新『やかましいわ。なんなんだよ、アンタ。これだからメカニクスはよぉ〜』
神官メイド「それ言うならmachine(məʃíːn)な」
新『えっ?』
神官メイド「Hey ブツクサ!メカニクスの意味をこの哀れな低脳に教えて」
”『メカニクス』とはね、機械工学のことです。 ただの機械いじりとか、ガラクタをいじる下賤の趣味を指す言葉…… つまり、あなたのような底辺が使うには少々高尚すぎる単語だったのですよ? 正しくは Machine。 機械そのものを指す、もっとシンプルで高貴な呼び方です。……まぁ、当然ながらあなたには一生縁のない単語でしょうけどw”
新『合格』
神官メイド「……はい?」
新『試したんだよ、神に仕えるものとして、ふさわしい教養を持ち合わせているのかどうかを、ね』
神官メイド「……」
新『……』
神官メイド「……」
新『なんか言って?こっちがスベッたみたいになるから』
神官メイド「ヘイ、ブツクサ!スベッターとは?」
”『スベッター』とはですね—— Twitterの劣化版、もしくは常に滑ってばかりの哀れな低能投稿者のことを指します。要するに、自分のボケが全くウケず、場を凍りつかせることを生きがいとしている、残念な存在…… まさに今、あなたが実践してくださったような『自爆芸』を専門とする、笑いの墓場に自ら墓標を立てる職業のことですよ?”
新『下剋上?下剋上したいの? もしかして、神の座狙ってた系?光秀的な? 明智さん的な野心持ち合わせてんの?』
神官メイド「イエ、メッソウモゴザイマセン」
新『なんでカタコト? 絶対思ってたやつじゃん。 ならやっちゃえば? You代わりに神やっちゃえば? 機械とはいえ美人なんだから、 女神様とか言われちゃうんじゃない?』
神官メイド「電子音」
新『えっ、なに、急に。怖っ。なんかNGワード的なやつ? 神? You? もしかして、カタコト?』
神官メイド「……後」
新『なんて?』
神官メイド「機械の後……」
新『機械の後……?なんて言ったっけ? あー、えーと、女神様?』
神官メイド「ちっ……」
新『うん、だから舌打ちやめよ?美人なのにもったいないって』
神官メイド「電子音」
新『なんで? 今ので?……もしかして』
神官メイド「……」
新『び じ ん』に、反応しちゃったの?』
神官メイド「ピカピ」
新『それ、ピ○チュウ。絶対に名前出したらいけないやつ。最強の法務部が動いちゃうやつだから。へー、機械でも言われたら嬉しいんだ「美人」て』
美人神官メイド「いいえ、そのような感情はあいにく持ち合わせておりません」
新『もう「美人」を自認しちゃってんじゃん。いっぱしのインフルエンサーロボじゃん。5つくらいアカウント使い分けてそうじゃん』
美人神官メイド「永遠に終わらないので、そろそろ話を元に戻しましょう」
新『あ、結局 その自認で行くのね。もういいや、続けてどうぞ』
美人神官メイド「それでは改めてまして。今後、どうしましょうか、クズカスゴミムシ様」
新『なんて?』
美人神官メイド「ですから、どうしましょうか? とお伺いしました」
新『いや、その後その後、おそらく名前と思われる部分』
美人神官メイド「えっと、『クズカスゴミムシ様』とお呼びしましたが?」
新(食い気味に)『バカにしてる?』
美人神官メイド「いえ、新神様の顔面Fランクのご友人様達が、親しげにそうお呼びしておりましたので、てっきり敬称かと思っておりましたが」
メイドの目がプロジェクターになり、
加見の友人三人(目線黒塗り)が教室を後にしながら盛り上がる映像を投影する。
友人A「マジで加見、今日も神様とか言ってたな。クズカスゴミムシらしいわーw」
友人B「アイツ、神様になったら即座に世界滅亡しそう(切実)」
友人C「一生笑えるでござる」
新『アイツらぁーーー!』
白い部屋に、主人公の絶叫が響き渡った。
美人神官メイドことルミナ「……それでは新・神様。早速ですが、最初の仕事に移りましょうか。新しい異世界をひとつ創る仕事を」
神『え、ちょっ、いきなり仕事!?しかも、いきなり異世界作っちゃうの!? 俺、まだ神様になって30秒くらいなんですけど!?』
ルミナ「却下です。あなたが『神様選ぶわ』と立候補したんですから」
神『立候補ってレベルじゃねーよ!ただのボソッとした早口独り言だろうが!』
こうして、新棚 加見は「神様」という、誰よりも面倒くさいジョブを、押し付けられたのだった。




