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ふたりの夫と本の中での冒険を楽しむお話。  作者: 丹羽坂飛鳥


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陛下は魔法使い

その後、夫たちは海底洞窟に向かって親方蛸に鍵を返した。

赤い蛸のぬいぐるみは椅子から飛び上がって受け取ると早速、鉄格子の扉に鍵を刺して回す。

簡単に開く音がして、周りにいた子分蛸たちが喜んで腕を上げた。


「あんさんらのおかげで助かりやした。

 今から工事に入りやす。ニコメの町でちょっと待っててくだせぇ」


「そうだった、工事業者を呼んでる途中で鍵を盗まれたんだ!」


「工事の間に武器防具の新調など、次の大陸に行く準備を進めた方が良いということかもしれないな。大人しく戻ろう」


アルバめ、確かに鋭いな。言わないけど。


こうしてニコメの町に戻った夫たちは、装備を見直した。

掲示板の依頼も一つだけ試すことにしたが、今回は丸パンを買って依頼主に届けることが目的だ。

いわゆるお使い依頼というもので、時間がない時でもちょうどいいし、幼い子供たちでも達成出来るように難易度も下げてある。


希望された丸パンを持って家の前に向かうと、待っていたのは鉄鍋くんだった。

シャグマが「はいどうぞ」と笑顔で差し出した袋を受け取ると、鉄鍋くんは抱えながら何度も飛び跳ねている。


「ありがとうございます、冒険者さん。

 お礼にパンを差し上げます。皆さんでどうぞ食べてください!」


ということで、夫は鉄鍋くんが抱えていたパンを渡された。

探検家の男は袋に入ったままの丸パンを見て、不思議そうに緑の瞳を瞬いている。


「あれ? やっぱり買ってきたもの、そのまま渡されてるよね……?

 これってどういう依頼なの、ラフィネル」


「返ってきたパンは『焼きたて』に変化しているぞ。

 彼は鉄鍋だからな、ただパンを焼きたかっただけなんだ」


「そこで設定が生きるの!?」


「食べるためじゃなかったのか……」


アルバも驚いた様子だったが、細々と設定を凝るのも楽しいものだ。

残念ながら話すうちに夕食の時間となったため、初日の冒険はこれにて終了となった。

私たちは本を閉じて食堂に向かい、ご飯を美味しくいただいた。


「……っ」


「ほら、ラフィネル。……何でもするんじゃなかったのか」


ベッドの上では約束通り、夫婦でお戯れもした。

夫たちには食後の甘味として美味しく味わってもらえたし、大満足で初日の冒険は終わった。




次のお休みの日までは、一度目の経験を元に寝る前の調整を繰り返す。

私が悩めばアルバもシャグマも遊んだ感想を教えてくれたから、反映させながら微調整もした。


「よし、冒険の続きに行くぞ!」


調整が終われば、三人で休暇を合わせて本の世界に入った。

ニコメの町の入り口に、私たちは立っている。

前回の終了時と同様、アルバは格闘家、シャグマは探検家としての姿だ。


私は……桃色の髪を背中に流し、気恥ずかしさに空色の瞳を揺らしながら、新調した衣装を身に纏う成人女性としての姿になった。

案内妖精として空中に浮いているわけではなく、私が自分の足で往来に立ったことに気づいたシャグマが、真っ先に振り向いた。


「あれっ、ラフィネルが案内妖精じゃなくなってるよ!?

 うわ、可愛い……想像してたよりずっと良い……っ」


「なるほど、魔法使いか。考えたな」


「私は腕力には劣るが、知力ならお前たちにも負けない自信があるからな。

 それに魔法使いなら、お前たちの後ろからのんびりついていっても問題ないだろう?」


白と空色を基調にした魔法使いの服を着て、黒樫の杖を手にした姿で胸を張る。

普段から錫杖を持ち歩いているため、棒を持ち歩くことには慣れている。武器は何もかもすっ飛ばしてしまいそうだからやめたのは、賢明な判断のはずだ。

金の縁取りがされたスカートも可愛いからその場で一周回って見せると、黒樫の杖を地面に突き、ささやかな胸に手を当てた。


「お前たちはネズミくんとの勝負で資金が乏しいだろうから、今回は何も買わずとも良いようにしてやったぞ。感謝してくれ」


「くっ、代わりに着せ替えの楽しみが奪われた気もするけど、稼ぎ直しに時間がかかるから強くは言えない……っ」


「ギルドでいつでも職業変更は出来るからな。着せ替えはラフィネルの気が向いた時にしよう。

 好意はありがたく受け取った。海底洞窟は工事も終わっているはずだから、次の大陸へ移動しよう」


私は全てを知っているし、管理者としてお見通しだからアルバに判断を任せる。

町の外に出ると、私たちは見通しの良い平原を歩き始めた。


「……」


まだまだ安全な旅路ではあるが、アルバがそばで守ってくれる。

シャグマが隣を歩いてくれる感覚も、案内妖精としてそばにいた頃より身近で良いかもしれない。図らずもデートみたいだ。


「わぷっ!?」


不意に吹き抜ける風に煽られたため、立ち止まった。

すると平原を背景にした、しなやかな肉体の格闘家が盾になって守ってくれる。

当然のように立ち止まる夫の所作に、胸が甘く疼いたから押さえてしまった。


「あ、ありがとう……」


「……どういたしまして」


優しく気を遣ってくれるアルバの照れくさそうな表情が、可愛い。

たったそれだけの会話でも心を奪われていると、風に乱された私の髪を、シャグマの細い指が整えてくれた。


「平原って予兆もなしに風が吹き抜けるよね。

 ごめん、油断してた。でも今度は俺がラフィネルの盾になるからね?」


世界一の美青年が、片目をつぶって合図する。

構ってもらえるのが嬉しくて、頬が熱くなってしまった。うちの夫は、どちらの夫もイケメン過ぎるのだ。

みんなで歩き始めると、シャグマが装備などを確認できる画面を開いた。


「そうだラフィネル、知力の話はあったけど、筋力とかレベルはどうなってるの?

 君のステータスも、仲間として一度は見ておきたいな」


「それは……まだ秘密にしておく。

 しかし私もシャグマ同様、レベルを下げてはいない。

 だから今一番低いのはアルバだ。

 もしかしたら腕力も私の方が勝っているから、杖の一撃で倒せてしまうかもしれないな」


「背後から不意打ちなどという卑怯なことをするのなら、ボクであっても倒されるかもしれないな。……数日開くと体の重さに慣れるまで動きづらいんだ。

 感覚を合わせたいから洞窟までの魔物はボクが倒してもいいか、シャグマ」


「いいよー。その間、奥様は俺に任せて。頑張ってね、アルバ」


あ、眉間に皺が寄った。


十八歳くらいに見える童顔の男が難しい顔をしたが、レベルを下げたことによる感覚差がアルバには課されている。

夫も今のままでは不意に倒されかねないことは理解しているから、それ以上の問答はせず前方に見えてきた敵の群れへと駆けて行った。


アルバが積極的に戦う姿を観察したが、やはり負荷が強いことで現実との差があって面白いらしく、乱戦しながら唇の端を上げている。

……そういえば仕事の報告にきた刹那の妖精に『最近アルバは何か特訓でもしているのですか』などと聞かれたな。

我が国最強の妖精兵長から見ても、剣聖アルバはまた強くなっているらしい。あいつは本当に人間なのだろうか。


「そろそろ回復入れようかな。あ、仲間が増えたから選べるようになってる……アルバに『応急手当』。

 魔法使いになったってことは、ラフィネルも戦えるようになったんだよね。技能使用と感覚は一緒?」


「そうだ。しかし基本は応援要員だと思ってくれ。あまり手を出すと、お前たちには冒険が簡単になり過ぎてしまうからな。

 ほらアルバ、がんばれ。見ているのに倒れたら唇を奪うぞ」


「……もしかして案内妖精と、やってること変わらない?」


「そうなる。……なんだ、シャグマ。こうして隣を歩くだけでは駄目なのか」


私は再始動でちょっとした冒険感を味わい始めたのに、夫には何も変わらないと思われては悲しい。

思わず隣にいる男を見上げると、参った様子で綺麗な顔を逸らして、私の髪を撫でた。


「くう、その上目遣いが可愛い……っ。

 俺はラフィネルが戦いたいなら、戦ってもいいと思ってるよ。アルバの冒険に憧れてた、って聞いてたからね。

 でも……大きくなることを提案したのは俺だけど、俺はラフィネルとこうしておしゃべりしながら一緒に歩けるだけで幸せなんだ。

 冒険ってただ戦うだけじゃなく、仲間と歩いて世界中の風景を一緒に楽しんだりするのも含まれると思ってる。だからラフィネルが歩くのは嫌じゃなければ、今みたいに一緒にお散歩気分を楽しみたいな」


可愛いことを言う男に触れたくなって、手を繋いだ。

寄り添って頭を預けると、彼の細い指が恋人繋ぎに直してくれるのを感じて、胸が甘酸っぱく疼く。

……案内妖精の時は小さかったから、彼と手を繋いで歩くことは出来なかったな。

触れ合う面積が増えるのは確かに良いかもしれないと、見上げた先にいる褐色肌の色男と笑い合ってしまった。


戦い終わったアルバが戻ってきた。

私たちがいちゃついているのに気づいたらしくまた眉間に皺を寄せると、反対の手を取って握った。体温が上がっているから、包まれると暖かくて気持ちいい。


「戦い終わった後にでも、癒しの魔法など、何か使えるものはないのか。

 魔法使いになったのに、ただの傍観者のままで良いのか、ラフィネル」


「ん? それならあるぞ。

 ほら、もう少し近くに来い。……ちゅ」


背を伸ばして唇を奪うと、不意打ち攻撃に引っかかった男が黒曜石の瞳を丸くしている。

徐々に赤くなって唇を押さえ、吊り上がり気味の目で睨みつけてくるから笑ってやった。


「僧侶は回復魔法があるけどな。残念だが魔法使いには攻撃魔法しかないんだ。

 気分だけでも安らげば良いと思って口付けてやったが、駄目か。やはり回復ポーションの方がいいか?」


せっかく一緒の冒険なのだから、妻に少しでも癒されてほしい。

そう思って唇を重ねたのだと、恋しい夫と見つめ合う。


「お前に口付けたくて、してしまった。

 やきもちなど妬かなくていい、お前が戦う背中をずっと見ていたくらい、惚れ込んでいるぞ」


話しながらも照れくさくてはにかんでしまうと、アルバが私の手を離し、膝を折ってしゃがみ込んだ。

耳まで赤くなっているし、両手で顔まで覆って何も言えない様子だから「そんなに疲れていたのか」と気づいて慌ててしまう。

シャグマが親友の肩を叩いて、頷いている。


「わかる。やっぱり案内妖精の大きさとは破壊力が違うよね。ベティアの衣装じゃないけど、これでもかってくらい美人さが引き立てられてるし。

 慣れるまで二人で頑張ろう、アルバ。きっともっと良いことあるよ」


あ、そうか。人員を増やしたことによって何かしらの負荷が増える設定になどしていたかもしれない。

しかし本の設定を参照してもそのようなものは付けていなかったし、アルバも私が確認作業をしている間に立ち上がった。


「気にしなくていい。進むぞ」


照れ臭そうに告げた夫が私の手を引いて歩き始めたから、様子見することにした。

敵が出てくれば優先して戦い、的確に倒しながら進むから、アルバはきっと大丈夫なのだろう。

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