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探求者ロジタールの苦悩  作者: 石たたき
第二章 糸を引くもの
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第40話 魅力の詰め合わせ

「そんな目で見なくとも言いたいことは分かる。私はな、呪いでこのような醜い姿になってしまっておるが、実際はそこの娘なんぞ歯牙に欠けぬ美しさを持っておる」


 そう言われて興奮する男たちでもなく、憤るルルーゼでもなかった。だが、俺は老婆の放った一言に強く惹かれてしまう。


 呪い。


 今でこそ自由の身であるが、これはあの謎の男、ツァルキーアと名乗る者に与えられた仮初めのものだ。その実態は、依然として屋敷に囚われているようなもので、その解決法を探るのが第一の目的であることにブレはない。


 それは封印とも言えるし、呪いと換言することも出来ないだろうか。


 今まで探しても見つかりそうになかった、封印とやらへの対応策。その為のヒントが、思ってもない形で転がり込もうとしているのを前に、俺は興奮の色を隠せなかった。


 本心をなるべく見せず、下手にも出ず、可能な限りこの老婆から情報を引き出そう。俺は頭をフル回転させながら会話を試みた。


「呪いを解くことでその美しい姿が見れるのならば、それはそれで見てみたい。協力出来るのならば協力しよう。その方法を是非とも教えてほしいものだ」


 いささか強引だったか。しかし老婆は特に気を払わずに言葉を続けた。


「呪いにも様々な種類がある。私の場合、それは契約の結果として付与されたものだ。呪いを解くだけならば、その契約を反故にすればよい。つまり、術者に術を消させるか、反転の術を見出すかだ。だがそれだけでは意味がなかろう? 私は呪いだけを解く方法を探している。呪いと引き換えに得たこの力はそれなりに便利だからな」


 老婆が不敵な笑みを見せる。俺たちの中で少しばかり和らいでいた恐怖心が、より深みを増して迫って来るようであった。


 力とはなんだろう。フィッシャーに行使したものだろうか。その正体について予測もつかないが、強力な力を持ってることは確かだ。


 依然として老婆との関係性を見出すことはできない。果たして敵なのか、それとも中立なのか。ことは慎重を要する。


 これを聞いて次はロングランが切り出した。やはり、と思ったが、直情的なコメントだ。


「ちょっと待てよ、その予想のつかぬ不思議な力だが、精霊や邪霊や何かと契約したものだと言うのか。興味深い話だ」


 魔法については俺たちの中ではロングランが長じている。俺達は聞き役に回るべく、二人の会話を見守った。


 老婆が鋭い眼差しを向けてロングランに答える。


「そうだ。もっとも精霊のような清らかなものではなく、契約者は魔物だ。私もまた力の求道者だからな。元は私も王国に使える近衛兵でそれなりの力を持っていたが、それだけでは物足りなくなり、危険を承知で古の召喚の秘儀を行い、奴と契約して力を手に入れた。だが、その代償に美貌を奪われるとは聞いていなかった。笑いながら消えていったあいつを私は許さない」


 老婆の目に鋭い光が宿った。なかなか危険な話だ。紡ぎ出されたワードの一つ一つに不思議な響きがある。


 さて、表面上の響きの一つに惹かれたのか、唐突に反応した男がいた。


「ほう、元王国近衛兵? 恐らく異世界のものだろうが、大したものだ」


 フィッシャーも老婆を認めたのか、地に這わされたことも忘れて警戒を薄めている。彼もまた今でこそ違うが、元は王国に雇われていた身であり、共通点を見出して鼻息を荒くしている。


 呪い、魔法、王国兵。これらのワードの前に、老婆は男三人の心を一気に掴んでしまった。もっとも、老婆にそのような意図はなく、男たちが勝手にしてやられてしまった訳なのだが。


「何よ、あんたたち! 一気にやられちゃって……」


 一人反対する紅一点のルルーゼ嬢。しかし、老婆は大したもので、ルルーゼも例外とはしなかった。


「ほう、そこの娘よ。ただの令嬢だと思っておったが、お主もまた、格別に奇妙な運命の渦中にあるようだ。どの魔道にも属さぬ不思議な力が作用しておる。それに現状への迷いも見て取れるな。どれ、のちほど占ってやろうか」


 ルルーゼは警戒で細めていた目を瞬く間に見開いた。


「えっ、そんなことが分かるの? 占い? やばっ、私そういうの弱いのよね……。ちょっと待って!」


 一瞬の間を置いて、俺たちは老婆に背を向けて小さな会議を始めた。


「フィッシャー、そもそも一体何をやられたんだ」

「ドアを開けたらあのご老人がいて、驚いて倒れたのだ。そしてじっと瞳をのぞき込まれているうちに、力が入らないことに気が付いて……」

「とすると、何やら魔法を使われたが、別に危害はない、と? ふむ、まあ現状は何の問題もないように見えるな」

「それなら決まりじゃない、別にあの方は悪い人じゃないかも知れないわ」


 だが、俺たちが敵意を解くとしても、老婆の目的を聞かなければ確かな返答をしかねる。あちらが何らかの事情で、俺たちを敵視する理由を持っているのなら話は別だ。


 俺は改めて、なるべくこちらに敵意がないように見せつつ、切り口を変えて老婆に聞き直す。


「もしかして、この屋敷に来たのは、あなたの呪いを解く手だてがあるとでも言うのか? それと、何やらここへ来たことがあるような口ぶりに見るが……」


「そうさな、その質問、二つともイエスではある。だが、事はそう簡単ではなくてな、まだその時ではない」


 どことなく釈然としない答えだ。さてどう掘り起こしていこうかと考えていた折、ロングランが小さな伸びをしながら言葉を差し挟んだ。

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