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平和な家庭とはちゃめちゃな現実



 目が覚めれば、夢咲さんの膝枕に後頭部を置いている、なんてことを妄想していた自分がいた。

 

 「おはよ、水原くん」


 目を覚ませば膝枕なんてされていなかったということにすぐに気がついた。

 ただ俺の目には夢咲さんが写っている。しかしその夢咲さんは夢咲さんではあるが夢咲さんではない。つまり氷姫の方ではなく、金髪マッシュの方だ。夢咲違いというやつだ。


 「なんだ雷音さんか……」


 期待はずれだったため、ついため息をこぼした。

 俺はそう言いながら、身体を起こして布団をどかし、ベッドに腰掛けた。


 「なかなか、悲しいこと言うね君」


 雷音さんは少ししょんぼりするも、すぐに立ち直る。


 「というか、俺は眠れなくなったと聞いたんですが? 普通に寝ちゃってませんか?」


 夢咲さんから、俺は永久的に機種変できない身体にされ、眠れないと聞いたはずなのだ。


 「それはあれだ、君は気絶していたんだ。眠っていた訳じゃない」

 「はちゃめちゃですね」


 俺がそう呟くと、それだと言わんばかりのニッコリとした笑顔で雷音さんは俺に人差し指を向けた。


 「そう、はちゃめちゃなんだよ。この世界は。何が起こったっておかしくはない」


 そして人差し指をいつの間にか俺の腕に巻かれている包帯に向ける。ここは位置的に大火傷を負った所だ。


 「それを外してみな」

 「包帯をですか?」

 

 そう、と言い雷音さんはこくりと頷いた。

 僕は腕のつけ根から、腕の周りをくるくる回して包帯を外していく。

 するとそこには、何事もなかったようなスベスベな肌が光を反射していた。


 「まじか、なんか治っているんだけど」

 「ほらな、はちゃめちゃだろ?」

 「どうして……? 最先端の技術による治療を施したからとか? 」


 あの火傷はほんの数時間で治るようなものじゃない。


 「そんなんじゃない。理由はいたって簡単、君は常人をやめたからさ」

 「ファ! えっ、それって機種変のことですか?」

 「そういうこと。君の身体は言わば夢咲家の身体のコピーなんだよ。まあ、試作品だけどね」

 「そ、それは。だ、誰の?」


 身体のコピーとかいう訳のわからないはちゃめちゃな単語で恐る恐る問いかける。


 「夢咲(ゆめさき)(けん)、兄弟の長男にして夢咲家最強、そんなおっかない身体のコピーを君の身体にしたんだよ」

 「……!」


 この身体、そんなエグい身体なんかよ。

 だから傷の回復が早いのかと納得もする。こんな普通じゃないことに慣れてしまった自分に少し嘆いた。

 しかし……夢咲の身体となればもしかすると……


 「ずば抜けた身体能力と特殊能力が君にも宿るかもしれない」

 

 雷音さんのどこか不穏な顔の瞳がピカンと光った。

 そして俺は右手を握ったり広げたりする。

 なんか不思議だ。まだそんな力を持っているなんて確証もないのに、自信がみなぎってくる気がする。身体が浮いているような感触がある。


 「いや、少し話すぎてしまったかもしれない。今のは忘れてくれ」

 「そ、そうですか」


 雷音さんの不穏な表情はすぐにいつもの笑顔を取り戻す。しかし俺にはその表情は仮面を被っているように見えた。



◆◆◆◆



 俺は寝る意味を失った今必要性がなくなったベッドに転がった。

 もうすぐ朝7時になり妹の凛が起こしに来てくれるはずだ。

 秒針は回り7時を過ぎる。

 しかし、あれ? おかしいな凛が起こしに来ない。寝坊でもしたのか?

 でも凛は今まで欠かさず毎朝起こしに来ていたというのにおかしい。


 一向に来る気配が無かったので諦めて部屋を出ることにした。

 廊下はしーんと静まっていて足音が良く聞こえる。

 リビングへの扉を開ける。するとそこにはしっかり父さん、凛とが家族勢揃いしている。

 食卓には丁寧に食事が並べられていて、2人の瞳がなんとなく穏やかに見える。

 不思議に思いつつ席に座り、朝食に目をやる。

 πで計算できそうなほど綺麗な円を描く目玉焼きにむら一つないパンに塗られたジャム、またそれらから溢れる食欲をそそる匂いが俺を空腹へと連れていく。


 「献立は別に普段と変わらないけど、今日はずいぶん豪華だな」

 「「…………」」


 2人は何故かソワソワした様子で一向に席に座ろうとしない。

 

 「お兄さ、いえ、兄上様。お飲みものをご用意いたしました」

 「兄上様よび!?」


 普段、中学生にも関わらずお兄ちゃん呼びの凛が兄上様呼び!? 百歩譲って兄さんならギリわかるが、兄上様!? いつの時代だよ!

 まあ、凛が淹れてくれたものだ。飲まないわけにはいかない。


 「苦っ! ってこれブラックコーヒーじゃん。俺、大人じゃないし苦手なんだよ、凛は知らなかったっけか?」

 「いえ、兄上様は立派な大人ですよ」


 妙に大人というワードを強調してくる妹をジト目で見る。逆に凛は俺を何か遠いものを見るかのような目で見てくる。

 ……なんか俺したっけ?

 マグカップを机に置いて、視線を父さんへと移す。


 「父さん、これはどうなっているんだよ」

 

 すると父さんは気不味そうに口を開いた。


 「なあ、ミズト……その今度でいいから……その彼女さんを家に連れてきてくれないか?」


 ん……? 彼女? 彼女ってあの彼女?? いやいねぇーし。彼女いねぇーし!

 しばらく間が開くと俺の思考がある言葉に行き着いた。俺は急いで携帯を取り出して父とのメッセージを開いた。

 そこに書いてあったのは……


ミズト}彼女とホテルに泊まるから今日は帰らないわ


 父 }お、おう


 やってるぅぅ! 

 完全に父さんに引かれてる!!

 というか語尾が真犯人を物語ってる!


 「父さん、これは実は俺に彼女はいないんだ!」


 俺は必死に弁解する。すると2人はハッとしたように青ざめた表情を浮かべたのち、妹がまさか、という。


 「彼女じゃない、それって……セフっr!」


 俺はJCが言ってはいけないワードが妹の口から漏れかけていたので慌てて口を塞いだ。

 このままだとあらぬ疑いをかけられてしまう。


 それから俺はそういうフレンドはいないと、なんとか信じてもらえたものの、

 どうやら俺が恥ずかしくて彼女を紹介できなかったという解釈をされてしまった。

 つまり2人は俺に彼女がいると勘違いしている訳だ。


 全く、俺に彼女なんて出来る訳ないだろ。


 的なフラグを立てとけばいつか彼女なんて出来るさ。……出来るさ。




膝枕されてみたい

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