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 竜の鱗採取を命じられたベレクは、結局一週間後に帰ってきた。

 南海の竜の首を背中に背負っていた。

「ジーナ様、倒してきました!」

 もうやだこの男……そう心の中で泣きながら、アリミジーナは難癖をつけた。


「誰が倒してこいなんて言ったの。

 私が欲しかったのは鱗なのよ!」

「あ、はい!

 鱗はこちらにあります!」

 ジャラジャラジャラジャラ。


 男の掌ほどもある、薄赤い透明な鱗が、ベレクの掌から延々と零れ続けた。

「な、なんなのソレ……」

「あ、これですか?

 空間収納のスキルを覚えたので、収納してみました!」

「なんで頭は背負ってるのよ!?」

 全力で突っ込んだアリミジーナに、ベレクは頬を染めて羞じらった。


「あの……その、手品みたいで綺麗かなって。

 喜んでくださるかもと思って……」

 チラッと上目遣いにアリミジーナを見上げて羞じらう男。

 その背中には、竜の首。


「聞きたかったのはソレじゃないわ……」

 もはや呻き声しか出ないアリミジーナ。

「あ、そうですよね……下僕にしてください!」

「青海のサメを全滅させてから来いっ!」

「喜んで!」


 ベレクの消えた広間で、アリミジーナは吸血鬼のリザベルに縋って泣いた。

「も~やだ~。

 なにアレ、本当に人間なの!?

 あんなの下僕にしたくない~」

「あのぉ、もしかしてもう、ジーナ様より強いんじゃぁ……」

 

 アリミジーナは絶叫した。

「あんな下僕もうイヤ~~~!」

 なんであんなに、順調に強くなっているのだ。

 普通ならもうとっくに心が折れていてもいいんじゃないのか。

 ……むしろアリミジーナの心が折れる方が早そうだった……。





 さすがに、青海のサメを全滅させるには時間がかかっているようだった。

 サメの強さはAクラスで竜より弱いが、なんせサメは海中に潜るのだ。

 しかもその卵は他の魚に寄生して大きくなるので、全滅させるとなると相当な難易度のはずだった。


「……引っ越そうかな……」

「すぐに見つかるに、一票入れますぅ……」

 しかも見つかった後に激怒でもされたら、万が一貞操がテーマだった場合にどうしようもない。

 今のベレクは、確実にアリミジーナより強いだろうから。


「いっそもう、下僕にしちゃえばどうでしょうぅ?」

 リザベルの提案に、アリミジーナは力なく首を振った。

「あなた……自分より強い相手を下僕にできるの……?」

 二人の女は、顔を見合わせて遠い目で笑い合った。


 そんな和やかな(?)時間は、緊急時に設置していたけたたましい警報で破られた。

「――あらぁ?

 侵入者、ですかぁ?

 ……困ったなぁ、今、お昼なのにぃ」


 昼間は戦力外のリザベルが、無責任に小首を傾げた。

「ガガガガガ……」

 骸骨戦士(女)も、同様に小首を傾げた。

「――っ、あなたは戦えるでしょうっ!?」

 太陽光の関係ない骸骨戦士のニートっぷりに青筋を立てながら、アリミジーナはすくっと立ち上がった。


「もういいわよ!

 私がこてんぱんにのしてやるわっ!」

 傷つけられたプライドの回復パートⅡの始まりであった。

 こんな辺境にまでやって来るとは、勤勉な冒険者もいたものだ。

 人間にとっては脅威的である(はずの)、処女魔王の力を思い知るがいい……!!




 フラグだった。

 傷つけられるプライド再びであった。

「くっ、リザベル! 

 みんなを連れて逃げなさいっ!」

「はいぃっ!」

 さっさととんずらするリザベルや骸骨戦士(女)達。


 あまりの潔い見捨てっぷりに、あれ? え? と一瞬戸惑うアリミジーナだったが、悠長に当惑している時間はなかった。

「この……っ、俺達の恨み、思い知るがいい……っ!」

 金髪碧眼の冒険者――否、勇者が、深い憎悪を湛えて聖なる刃を振り下ろしてきた。

 かろうじて髪の一房を犠牲に避けることに成功した。


「あなた達の恨みなんて、知らないわよっ!」

 なんせ、アリミジーナはボッチなのだ。

 魔王になる前もなった後も、ごく少数の者しか周りにはいない。

 他人の恨みなぞ、買う術もないのだったが。


「あぁ!? ふざけんな!

 魔王共に教えただろ!?

 男の神聖なる弱点をなぁ!」

 ……神聖なる。

 アリミジーナは一瞬、首を傾げた。

 男の体において、神聖なるものなんぞあっただろうかと。


 勇者はそんなアリミジーナを見て激昂した。

「勇者仲間が、ことごとく股間を攻撃されて死んでいったんだぞ!?

 ある者は蹴り潰され、ある者は怪光線で焼かれ、ある者は魔法で切り刻まれ……。

 ソコは攻撃しちゃダメな場所だろうがっ!

 紳士協定とかあるだろ!?

 股間を潰されて惨めに死んでいく気持ちが、お前に分かるか……っ!」


 血を吐くような叫びであった。

 男嫌いのアリミジーナでも、ちょっとは悪かったかなと思うほど、勇者の絶叫は怨念に満ちていた。

「あ~……、つい。

 ごめんなさい?」

 疑問符のついた謝罪に、勇者の目は怒りを通り越して赤く染まっていた。

 あ、これ死んだ。

 そう思ったその瞬間である。


「――おい、俺の女神になにやってんだコラ」

 下僕志願者の、帰城であった。




 ベレクは、金髪勇者を一方的にボコボコにすると、大きく腕を振りかぶって、南方の空へと殴り飛ばしていった。

 大きな放物線を描き、氷海さえ越えて行きそうな勇者の行方を、アリミジーナは遠い目で眺めた。

「……ジーナ様」

 地を這う声に、アリミジーナの背筋は一気に凍えた。

 おかしい。

 温度変化耐性スキルが、仕事をサボっていた。


「あの使えない吸血鬼はどうしたんです?

 自称女の骸骨戦士は?」

 アリミジーナは、愛想笑いを浮かべようとして咄嗟に表情を取り繕った。

 どれだけ雑魚だろうと、アリミジーナは魔王なのである。

 どれだけ強かろうが、下僕志願だった男に愛想を売るのは許しがたかったのだ。


「リザベル?

 弱すぎて使えないから、追い出したのよ」

 高慢そうにそっぽを向いて答えた。

 もちろん、怒り狂っているようであるベレクを視界に収めないことも兼ねていた。

「なるほど……」


 相変わらず低音ボイスが身震いを誘う男は、不意に宙に手を伸ばし、空間の亀裂に腕を差し込んだ。

「――……っ!?」

 なにしちゃってんのこの男!? そう思ったアリミジーナは、さらに目を見張った。

「ちょ、やだぁ、なにこの腕ぇっ!?」

 亀裂の向こうから聞こえる、なんだか懐かしささえ感じるこの声は……。

「リザベル!(と、あと骸骨戦士(女)!)」

「――ジーナ様!」

「――ガガガガ!」


 顎の骨をカタカタ鳴らす骸骨戦士と吸血鬼は、ベレクによって魔王の広間に放り出された。

「……てめぇ……リザベル……。

 ジーナ様が襲撃されてる時に、のこのこ逃げてんじゃねぇよ……」

 青い!

 青い瞋恚のオーラが、ベレクの背中に見えた!


「ひぃぃっ、ごめんなさい魔王様ぁ!」

 もはや魔王覇気まで身に纏うベレク。

「あぁ!?

 魔王はジーナ様だろうが。

 ジーナ様に謝れよクソ吸血鬼」

 ベレクの視線が向けられるのを察知して、震え上がるアリミジーナ。


「い、いいのよそんなの!

 私が命じたんだから!」

 慌ててフォローしながらリザベルに目配せした。

「は、はぃぃっ!

 命令なんで、逆らえなくてぇ……っ!」

 それもどうかと思うが、アリミジーナは激しく同意を示した。


「はぁ!?

 命令だろうがなんだろうが、体張って守れよこのクズ共が!」

 基本的に元人間、しかも元貴族令嬢だったアリミジーナはお上品な部類に入る。

 チンピラが恫喝するような口調に、アリミジーナは震え上がった。

 しかも相手は自分より強いのだ。

 ちょっと涙ぐんでしまったのもしょうがないと言えた。


 下僕志願のベレクは、そういった変化に気づける男だった。

「あ、す、すみませんジーナ様。

 ちょっとカッとなっちゃって……」

 おどろおどろしい殺気を綺麗に消して、頬を赤らめ照れ笑いを見せた。

 

(人間の男ってコワイぃ……)

(ガガガガガ……)

(え、なによぅ、あなたの元彼の方がコワイってどういうことよぅ)

(ガガガ)

(え、嘘でしょそんなのぉ)


 照れ笑いで先ほどの怒髪天をなかったことにしようとする下僕志願者にロックオンされたアリミジーナは、恨めしそうにヒソヒソと囁き交わす部下達を見やった。

 視線が明らかに助けを乞うていたが、彼女達のスルー能力は鉄壁の守りを誇っていた。

 守り所が違うだろうと思ったものの、アリミジーナにとっての危機はすぐそこに迫っていた。


「こんな連中にジーナ様を任せておけません。

 ……俺が一生、アリミジーナ様の体も心もお守りします……!」

 え、こんな物騒な部下要らない……と思ったアリミジーナは、反応に迷った。

 即却下すべきなのだろうが、先ほどの激怒を思い出すとためらわれるものがあった。


(もういっそ、魔王位を譲位してもらえばいいのにぃ)

(ガガガガ)

(はぁ!? ハーレムぅ!? しかも私だけじゃなくてあなたもメンバーって、どこまで自信家なわけぇ!?)

(ガガガガ!)

(ナイスバディって、今は骨じゃないのよぅ!)


 ひそひそ話に気が散って、うまい断りの返事も思い浮かばなかった。

 そんなアリミジーナの沈黙をどうとったのか、ベレクは少ししょんぼりとした顔をして見せた。

「そうですよね……いきなりこんなこと言っても、驚かれますよね……。

 じゃあ……じゃあ!

 まずは下僕からよろしくお願いします!」


 から(・・)ってなんだろうとか思うところはあったが、色々突き抜けすぎたアリミジーナは呆然と頷いた。

「ありがとうございます……!」

 抜け殻のように首を上下に動かしただけの仕草に、ベレクは躍り上がって喜びを表した。

 そしてドスの効いた声で言った。


「……おい、そこの吸血鬼と自称女の骨。

 今から鍛え直してやるからついて来い……」

 断末魔のような悲鳴を上げて連れ去られていく部下を見送って、アリミジーナは呟いた。

「……返品しちゃ……殺されるかな、やっぱり……」

 部下達がいたらきっとこう囁き交わしただろう。

 生命じゃなくて、貞操の危機だと……!






 その後、アリミジーナは自分より強い魔人を部下にされたり、古参魔王に喧嘩を売ったりするベレクに振り回される日々を送るのだった。

 

 めでたしめでたし(?)




ベレク「ご奉仕は下僕の仕事に含まれます!」

アリミジーナ「――!????」

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