三十八部
「旅行者側の実行犯はおおむね捕まったそうです。
犯行を指導したマフィアの人間も捕まえられたそうですし、それに伴ってマフィアの余罪を追及したことによって、そのマフィアは壊滅できたそうなので友人からお礼を言われましたよ。
残念ながら日本で窃盗犯役をやっていた方の実行犯は行方をくらましているので、引き続き日本での捜索を続けて欲しいということでした。
あと協力させたアジア系の外国人の行方もわからなくなっています。
集めておいた場所を公安が引き出して、連絡を受けた日本の警察が調べた頃には既にもぬけの空だったということです。」
伊達が中国の公安にいるという友人からの報告を行い、山本が
「じゃあ、引き続き藤堂達にはグエンさんと他の事件に協力した外国人を探してもらうということで連絡しといてくれ、上田。」
「了解しました。こっちはどうしますか?」
上田の質問に山本はめんどくさそうに
「一度、課に戻って黒田さんに諸々の報告をした後で、指示待ちか石田の事件の捜査をさせてもらうかを決める。
今のところ、黒田さんから石田の事件の捜査に関してお咎めがないってことは見逃してくれてるってことだろうからな。」
「黒田さん、警部に甘いですからね。」
「一緒に住んでるなら、さっさと入籍してあげたらどうですか?
30代の女性で好きな人と住んでるなら、それを望んでると思いますよ?」
伊達が茶化すかのように聞く。事情をいまいち理解していない松前が
「山本警部と黒田課長代理はお付き合いされてたんですか?」
「色々と事情があって俺の部屋に黒田さんに住んでもらってるだけで、付き合ってもなければそういう関係でもないんだよ。
いらないこと言ってないで他に報告することないのかよ?」
山本が苛立ちを隠さずに伊達に聞くと、伊達は松前の余計な質問のせいでいまいち楽しめなかったことを不満に思ったのか半笑いで、
「事件とは関係ないですけど、坂本監査室長が最近とてもお忙しそうにされてますよ。」
「警察内に監査の必要な人がまだいたってことか?」
山本が聞くと、伊達はため息をついて
「これほど大きな組織なんですからゴミみたいなやつは次から次にわきますよ。
それとは別に、正確に言うなら本職でないことで大忙しって感じですね。」
「黒木議員の計画に坂本さんが動き出したってこと?」
上田が聞き、伊達がニヤリと笑って頷いた。山本が
「それで?お前のことだから何に忙しいのかもつかんでるんだろ?」
「残念ながらそこまではわかってません。ただ、防衛省の同年度に国一の試験を受けて入庁した人物と食事をしたり、陸自のお偉いさんと会ったりと忙しそうにされていることだけですね。
ただ、これが本格的に次に何かを起こすための準備とは言いきれない部分があります。」
「どういう意味だ?」
山本が聞くと、松前が
「まだ正確な情報ではないですが、坂本さんは冬の政治家資格認定試験を受験するのではないかという噂があります。
北条総理の意向で、『族議員』枠を作ることが法案に盛り込まれてますから、坂本さんはもしかしたら国防関係の族議員になるために、その専門家ともいえる防衛省の職員と陸上自衛隊の幹部にあっていたのではないかとも考えられるってことです。」
「国会議員になるための準備をしているだけなら、別に犯罪行為をしているわけじゃないし、職務時間外の行動なので誰かに責められるようなこともない。
25歳以上は被選挙権が認められてますし、坂本監査室長が政治家への転身を考えていたとしても誰にも責める権利はないってことですよ。」
伊達が肩をすくめて言い、山本が
「そこまでわかってるなら、何でいま報告したんだよ。」
「何かないかと言われたので。」
伊達がそっけなく返す、このように答えられたことが他にもあったような気がしたが、山本はそれがどこで誰にされたことだったかも思い出せなかった。
そのことを考えていると、松前が
「黒木議員も最近は政治家を集めて勉強会を週に1・2度開催しているようですよ。大学の政治学の専門家を呼んで講義をしてもらってるみたいです。
冬に向けて政治家の人達も必死なんですね。」
「どうやってそんなことを調べるんですか?」
山本が聞くと松前はニコリと笑って、伊達をチラチラ見ながら
「秘密ですよ。教えちゃったら悪用する人が近くにいますから、情報の収集方法に関しては誰にも教えないことにしてるんですよ。」
「政治家に政治の講義をするなんてよっぽど偉い先生が呼ばれてるんでしょうね。ついでに誰とかわかるんですか?」
上田が聞き、松前が
「京泉大学法学部政治学教授の桂幸太郎氏や他にも数人の専門分野を持ってる先生が呼ばれてるみたいですよ。」
「木戸先生に教えてもらってるのか黒木は。」
「『木戸』じゃなくて桂ですよ、警部?」
上田が不思議そうに聞き、山本が
「桂幸太郎先生は俺らが学生の頃から講義をされてて、俺も黒木も石田も授業を取ってたんだよ。
その時に石田が、授業の内容が明治維新のところからで、そこの説明が無駄に熱かったから、桂って名前をもじって、桂小五郎が木戸孝允に改名したみたいに、『木戸』ってあだ名をつけてたんだよ。
それからずっと、木戸先生で呼んでるんだよ。
まあ、石田に至っては本人にもその呼び方で行って認められてたらしいから、桂先生でも木戸先生でも両方通用するんだよ俺らの間ではな。」
「どんな先生なんですか?」
伊達が聞き、山本が不思議そうに
「伊達が興味を持つような先生じゃないよ。
政治分野全般に精通してる先生で、俺らが学生の頃で既にいま起きている政治的な問題を指摘するくらい優秀な先生だったな。
そういう意味では木戸先生は10年・20年先の議論をできる人だったってことだな。」
「その人が黒木議員のブレーンだったということはないんですか?」
伊達が聞き、山本は少し驚いたが
「それはない・・・・とは言えないな。
ただ先生は温厚な方で何より法律順守の上での政治を行うべきだって考えの人だ。要するに真の『法治国家』を目指すために不正や違法な収賄を厳しく取り締まり、クリーンな政治の実現を研究されてた人だから、少し違う気がするんだ。」
「人は変わりますよ?」
伊達が聞くと山本は
「変わらない人なんていない。でも変わるとすれば、それは方向性が少し変わるだけで正反対になるなんてことはない。俺はそう思ってる。」
「そうだといいですね・・・・・・」
伊達の言葉には何かを含んでいる雰囲気があったが、ここでこの議論を続けてもきっと伊達は含んでいるものを出したりはしないと思い山本は
「まあ、とりあえず黒田さんに諸々の報告しに行くぞ。」
そう言って、車に向かった。上田もそれに続き、松前もそれに続く。伊達は一人で呟いた。
「過去にこだわってたら、現在の足をすくわれるとは思わないのか、あの人は。」




