三十九部
「・・・・・・・・・・・そうですか、了解しました。
ご報告ありがとうございました。今の所することもないですし、交代で休暇を取ってください。以上です、他に何かありますか?」
黒田は冷静に山本達の報告を聞き、そして今後の方針も伝えてきた。
「休みよりも捜査したいことが俺にはあるんですが、それもご存知ですよね?」
山本が聞くと黒田はため息をついて、
「山本警部、石田先生の件を調べられているのも一応話は入ってきてます。
でも、総監命令で捜査を禁止されてますし、身内が関わっている事件の捜査からは外すのが通例です。
捜査に私情を交えないためにも、今までに取られてきた対応です。
いくら自由な捜査を許されている特別犯罪捜査課であっても、前例を踏みにじるような特例を作るわけにはいかないんです。
それはご理解いただけますか?」
「理解はできます。でも、何かしらの意図が裏で働いているように思えてならないんです。状況的には通行人の少ない道での通り魔で処理もできるかもしれませんが、調べれば調べるほど、殺意を持って石田一成という特定の人物が殺されたのだと考えられるようなことがわかってきてるんです。
俺は別に石田の無念を晴らしたいとか、そんなことは考えてません。
ただ、石田のおじさんやおばさんには両親を亡くした頃にお世話になった恩人なんです。そのおじさんやおばさんに本当のことが何なのか、何で一成が死ななければいけなかったのか、その真相を教えてあげたいだけなんです。
何の理由もなく殺されたじゃあ、納得できないと思うんです。」
山本はまっすぐに黒田を見つめながら言った。黒田も悩んだような顔をして、
「警部の言いたいこともわかります。
ただ、そういうことは同じように身内を失った警察官も思っていたことで、警部と同じ気持ちだったと思うんです。
それでは最大限の譲歩をします。
上田警部補、伊達巡査部長、松前巡査部長の三名に独自に石田一成さん殺害事件の捜査を命令します。
ただ、山本警部には捜査をさせないで下さい。」
山本は黒田が今までと言ってることが変わっていないことに抗議しようとすると黒田が、
「・・・っと言っても、まだ空港での窃盗事件が全面解決したわけではないので、山本警部が責任をもって捜査の指示を行っていただかなければいけません。
窃盗事件の捜査中にたまたま上田さん達が石田さんの事件の捜査をしても私が知るところではありませんし、その捜査にチームで動いている以上、山本警部が同行していたとしても私は知りません。
私が知らないところで、警部が私の言いつけを守らなかったとしても、私が知らない以上は、私が山本警部を責めることはないでしょう。
以上です、捜査に戻ってください。あと順番に休暇を取ることを忘れずに。」
「失礼します。」
山本達がそう言って課長室から出ると、伊達が
「やっぱり、黒田さんは警部に甘いんですよ。
なにかお礼した方がいいですよ。」
「つまり、一緒に行動してる俺らが捜査してるとこに偶然、警部が同行していても自分は知らないってことですよね?」
上田が聞き、山本が
「自分は知らなかった、山本が勝手に命令を無視していたということだな。
まあ、捜査できないよりはずっとましだよな。」
「あまり前に出ないでくださいよ、上の人に怒られるの俺らなんですから。」
上田が言い、松前が
「今更じゃないですか、上層部の顔をうかがって捜査してたら迷宮入り事件ばかりが増えますよ。」
「それは言わない方がいいですよ。本当に怒られるヤツですから・・・・」
上田が言った。テレビを見ていた竹中が
「また勝手なことして怒られてたんか?」
「竹中さんは何をやってるんですか?」
山本が聞き、竹中は苦笑しながら
「片倉のおかげで事件が早期に片付いたら暇になって、休暇をとらされたけどすることないから、ここでテレビ見てんねん。文句あるか?」
「文句はないですよ。何か面白い事件ありましたか?」
「何で事件限定やねん!山本は俺を何やと思ってるんや?」
「調べたい事件を探してたんだと思ってましたよ。」
山本が冗談ぽく言うと、竹中もまんざらではなかったようで、
「まあ、それもあるんやけどな。
でも最近はあかんな。外国人の犯罪が増えたとかいうので、過去の事件からおさらい中やわ。
テロ組織のせいで難民が増えたとか、EUの方で難民の受け入れを拒否してる国がどうやとか、そういう難民が日本にも流れてくるんちゃうかとかそんな話ばっかや。」
「よくある話ですね。捜査できるものではないですしね。」
山本が言うと、竹中が
「特にテレビでしゃべっとる大学の先生がきついこと言いまくりよるんや。
こんなん聞いたら、日本にいる外国人めっちゃ怒ってると思うで。」
「誰ですかその大学の先生って?」
「なんやったかな・・・・・・大久保何とかっていう若造やったと思う。」
「大久保利典ですか?」
「ああ、そうそれやそれ。知り合いなんか?」
「大学の後輩にあたるらしいです。影山光輝のお友達らしいですよ。」
「影山・・・・ねぇ~、なんか危ない奴から怪しい奴になった気がするわ。」
「それで実際にはどんなことを言ってるんですか?」
山本が聞くと竹中はテレビのリモコンを操作して、
「実際に聞いてみたらええやん、何か聞いてたら胸クソ悪くなって、さっきチャンネル変えたんや。」
テレビの画面には長い髪を後ろでくくり、この前実際に会った時よりもきちんとした格好で笑顔で話している大久保利典が映し出された。




