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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 6 章

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05:食事と運動

 美奈子に操作法を聞きながらアプリケーションを操作し、一四時からの駆除への参加登録を済ませてから食堂へ移動した。

 そこまで人数が居る組織ではないと思うのだが、この組織の食堂は、プリペイドカードで清算するシステムだった。

 器の底にICタグと呼ばれる小さな電子装置が埋め込まれていて、トレーごと特定の場所に乗せれば、料理の種類と数を瞬時に計算してくれる便利な奴である。重ねたら正常に計算できない場合があるので、その点は注意が必要か。

 ICタグは通信用の装置も内蔵していて、ICタグリーダーと呼ばれる読み取り装置からの電波を受けて微弱な電力を発生させて通信をするとかなんとか、だった気がする。

 プリペイドカードのものだから清算も早く済むのだが、この組織に所属している人数的にはやや豪華なシステムのような…………結構、金あるのかな?

 ひとまず、プリペイドカードを作ってある程度入金しておいた。少々手間だが、これで支払いをすぐ済ませられる。

「メニューは……メインが日替わりで、あ、今日のメインはカツ丼が入ってるのか」

 ごはん、パン、サラダ・フルーツバー、スープバー等があり、水は無料。フルーツ以外のデザートもあるが、そちらは割高な雰囲気。システムは前に勤めていた会社とほぼ同じようなので、とりあえずトレーを左手で支えて食べる分を取りに行く。

 サラダバーの皿を取り、葉物野菜、プチトマト、キュウリ、ポテトサラダと適当に盛っていき、ポテトサラダを避けるようにドレッシングを適量注ぐ。フルーツポンチをドレッシング代わりに掛けるのも割と好きではあるのだが、女の子の目があるので今回は避ける。

 箸、お手拭きと水も一杯分取って、メインのカツ丼を、人も現物も並んでいなかったのでカツ丼を要求し、トレーに乗せて──茉莉が手を振っていたのでそちらに向かった。


 三人が待っていたのは二人ずつ向かい合う四人掛けの席で、空いている席の正面には茉莉、右隣には桜が座っている。

 空いている席に座りながら、全員に謝っておく。

「待たせたね、ごめん。カードまだ作ってなかったんだ」

「それはいいんですけど……そんなに食べて大丈夫なんですか?」

「運動部の男子なんかはもっと食べてそうだし、俺ぐらいの体格だとむしろ少ない方じゃないか?」

「いえ、その、あんまり気分が良くないものを見ることもあるんじゃないかな、と」

「? ……あ、そっちか。まぁ、多分大丈夫だよ。多分」

「そうですか? なら良いんですけど……」

 茉莉は何やら随分と心配してくれているが、魔物の残骸や動物の死骸はそれなりに見慣れている。鼻も塞ごうと思えばすぐ塞げるので、よっぽどの事でもない限り平気、なはずだ。

「じゃ、冷めてもなんだし。いただきます」

「い、いただきます」「いただきます」「……いただきます」

 茉莉にやや遅れて、桜と美奈子も静かに手を合わせた。


 実家に居たころはカツ丼といえばソースだとばかり思っていて、かき卵汁が掛かったものが初めて出てきた時には驚いた覚えもあるが、今ではこちらも美味しい事はわかっているので認めている。そのうち、二人と一緒に作ってみるのも良いかもしれない。

「は、早いですね?」

「ん? ああごめん、もう少しゆっくり食べるよ」

 茉莉に言われて気付いたが、考え事をしながら普段通りの早さで食べてしまっていた。

 やや多めに食べている桜はともかく、後の二人はそれほどの量でもないのだが、思っていたより遅いようだ。いや、アニマやアンナが早いのか。

 ……丼ものといえば、以前縁があって食べた、たしか、どて丼だったか? あれも美味しかったけど、あれはアニマには味が濃すぎるかな……

 スマートフォンで調べてみると、漢字で書けば『土手丼』とやや躊躇するような字面だった。まぁ、調理法を基準にわかり易く書けば『味噌煮込み牛すじ丼』である。

 そして少し違うが鹿児島あたりの豚みそも思い出した。……そのうち味噌漬け、味噌煮込み系をとりあえず少量試してみよう。うん。

「それで、白井さんはどのぐらい戦えるの?」

 今度は桜から声を掛けられた。

「……この組織に入る前に俺がスーツで、一人でやってたのは見たよな?」

 視線を巡らせてみると、三人とも頷く。

「あの時のスーツは本当に普通のスーツだったから、今日のこの服装でも同じ程度になら動けるよ」

「ですよねー」

「茉莉?」

「いやだって桜ちゃん、私が初めて見た時の白井さんもこんな格好だったんだよ?」

「……そういえば、そう聞いてた」

「でしょ?」

「うん。それで、どのぐらいの時間動けるの?」

「あのぐらいの動きでいいなら……一〇倍ぐらい長い時間でも大丈夫だったよ」

「ゲフッ、ケフッ、ケホッ」

「……美奈子、汚い」

「す、すみませ、桜さん、ケホッ」

 美奈子は丁度水を飲むところだったらしく、むせてしまった。料理に飛ぶほどではなかったようだが、確かに汚い。

「ケフッ……その、一〇倍というのは、本当に?」

「はい、本当ですよ?」

 勿論魔力だけを使った場合の話で、【固定】を動作の補助にも使えば更に色々できるのだが……これは言わなくていいか。

「何か他にもできる事は、ある?」

「見せてないところだと、なんだろ……ああ、剣ならある程度使えるよ」

「え、剣使えるんですか? 段持ち?」

「いや、段は持ってないよ。剣道じゃなくて、剣術? みたいなもんだし、使うのも基本的に直剣だしね。ついでに言うと盾もある程度は慣れてるんだけど、魔物は力の強い奴が多いから、剣だけの方が安全だね」

「へぇぇ、ほんとに色々できるんですね?」

「あれこれと応用しまくってるだけだよ。きっちり体系化されたものでもないし。そういえば畑さんも木刀は持ってたよね? 結構使えるの?」

「いやー、私はそこまで自慢できるものじゃ、ない、ですよ?」

 茉莉は何やら照れつつも謙遜しているような反応だ。と、桜の方からも何やら視線を感じる。

「……友木さんも、結構使えるの?」

「実戦なら、それなりに自信はある」

「そっか。……剣道ってたしか、奇声を発しないと一本にならないんだっけ?」

「うん、私は声を出すのが苦手だから」

「俺もちょっとなぁ……普通に実用しながら鍛えたから、変に声を出そうとしたら力が抜けそうだ」

「いや、その、奇声とか言い方……ええと、よかったら、やってみます? 実戦に近い形式で」

「良いけど、時間はある? 食べ終わってから集合まで一時間ないぐらいだと思うけど」

「あ、はい、私達は着ているもの以外の装備はバッグに入れて預けてあるので、一〇分もあれば余裕です。白井さんは……装備を用意するとなると一時間では厳しいですけど……」

「俺は、実戦はこのままでいいんだけど……模擬戦をやるなら、模擬戦用の武具は容易した方が良いよね?」

「それは借りることができますから、大丈夫ですよ」

「そっか、それはよかった。あ、魔力を使うのもアリだよね?」

「うっ……ま、まぁ、そうですね」

 ……これは……使いすぎは、注意かな?



 剣道場、というよりは体育館に近い印象の板の間で、模擬戦をやってみることになった。

 美奈子は見学ということで木刀を三本借りて、慣れているらしい二人に聞きながら木刀に(つば)鍔止(つばど)めをはめる。

 竹刀の(つば)は穴が丸くなっていて柄の方からはめるのだが、木刀の(つば)は穴も刃に合わせた楕円に近い形になっていて、刃先の方からはめる──という構造になっているらしい。

「っていうか木刀に(つば)なんてあったんだな」

「そりゃありますよ、打ち合う時に手まで滑ったら怪我しちゃうじゃないですか」

「や、なんかこう、イメージ的にね? 漫画では大体そうだったはずだし、畑さんもたしか付けずに使ってたよね?」

「それは、そうですけど……」

「まぁ、時間もないし、さっさとやろう。……剣道の礼儀なんかは全然知らないけど、いいよね?」

「時間なくなりそうですしね。……えと、始める前と後の礼ぐらいはすぐですから……」

「あ、それは従うよ。うん」


 剣道の防具の着け方も聞きながら準備を終えて──俺の防具の下は私服で、あちら二人の防具の下はここの制服だが、まずは茉莉との模擬戦から。

 木刀を左手で逆手に持って向かい合い、頭を下げる礼を交わして、左手から抜くように木刀を構えた。間合いは互いの剣をまっすぐ伸ばしても剣同士が触れない程度。

「……」

 右足は前で(かかと)は床に触れるだけ。左足は後ろで踵を完全に浮かせて、指の付け根から先、(あしゆび)で体を支えている。

 俺は剣を中段に、剣先は真上から少しだけ前傾させて構えている。……一応右手は上だけど、剣道をしっかり学んでそうな相手に見せるのは恥ずかしいな、これ。

 茉莉も木刀を中段に構えているが、剣先は俺の顔に向いている。もう始まっているはずなのだが、真剣な表情のまま攻めてくる様子はない。

「……来ないのか? ……じゃ、こっちか、らっ!」

 一応宣言しながら、まっすぐ構えていた体勢を少しだけ右に向けてから攻めに行く。

 俺から見て左上の何もない空間に剣を軽く突き出しながら、左足で左前方に向けて跳んだ。俺の素の体力で跳び込むには体勢的にも筋力的にも厳しいので、魔力による補助付きだ。

 良い位置まで前進したら、若干右に開いた右足から着地してブレーキを掛け、身体全体に掛かっていた前方への慣性を右足を支点にした回転運動に変える。

 そのまま回転を殺さないように左足で体を支えて腕を前に出せば、俺の木刀が茉莉の首筋に吸い込まれるように──本来ならこのまま当てて体重と勢いで押し斬るところなのだが、あまりしっかり当てると怪我をしそうなので、軽く当てるだけだ。

 茉莉は反応が間に合わず、俺の木刀が止まった後でようやく後ろに跳んだ。

「うひゃ……は、速っ!?」

「軽く当てただけだから、怪我はしてないよね?」

「そ、そうですけど、防具を狙って打ったんですか?」

「俺はその気になれば防具が金属でも中身ごと斬れるよ? 一回振っただけで終わるのもなんだし、ほら、そっちからもどうぞ」

「ううううっ…………えやああっ! !?」

 茉莉は上から振り下ろそうという意図がわかり易い動きだったので、まだ加速しきれていない木刀に横から木刀を当てて逸らした。

 俺の振り方は前方への加速を主体に構成したものなので、魔力による加速がなくても命中するまでの早さには自信がある。そして、最終的な振りの速さだけなら振り方を変えればもう少し速くなるが、今でも胴体の動きとしっかり連動できているので、出そうと思えば威力も出る。

 魔力や【固定】を上手く使える今では必要のない技術だが、それら制限した状況なら有効な剣の振り方だ。


 胴を狙う横振りは上に、突きと縦振りは横から当てて何度か茉莉の剣を防いだのだが、同じような受け攻めばかりでは芸がない。

 一応右からと上からも茉莉の反応が間に合わない振り方ができることを証明してから、次に振り下ろされた茉莉の木刀の背、根本に近い動きの遅い部分を狙って、足を引きながらこちらの木刀を打ち込む──と、茉莉の木刀が手から離れて床を叩き、大きく跳ねて宙を舞った。

「ありゃ、力入れすぎたかな。まぁ、そろそろ交代でいいよね?」

 落ちてきた木刀の柄が丁度手の届く所に来たので、左手で受け止める。

「!? ……え、うええっ!? いやちょっ、反射神経どうなってるの!?」

「驚きすぎじゃないか? ……一応、反射神経についても魔力を使って底上げはしてるよ。それに剣で狩猟した経験もあるから……動物って結構反応速いんだよ? とりあえず、そろそろ友木さんとやらないと時間が無くなっちゃうし、交代してあげて」

「交代は良いけど……なんか無茶苦茶な事言ってるぅぅ……」

 茉莉は文句を言いながらも木刀を受け取り、礼を交わしてからとぼとぼと歩きながら桜と交代しにいった。……あ、動物相手はきつかったけど獣人の大男(ラック)や魔王よりは遅いか。思ったより【演算】スキルの底上げ効いてるなぁ。


「じゃあ、胸を借りる」

「おう、おいで」

 礼を交わして俺は先程と同じ構えを取る。桜も茉莉と同じく俺の顔に切っ先を向ける構えだった。

「っ!」

「っうおぅ?」

 桜が先手を取り、茉莉より少し速い突き繰り出してきたので横に振り払おうとしたが、思ったより逸らせなかった。構えはやや粗削りだが、速さと力は茉莉より上、と。

「や──」

「しっ!」

「!? くっ」

「おぉ、やるなぁ」

 横に振られた木刀の背を打って隙を作り、そのまま首を狙ったのだが、桜はそれにもちゃんと反応できたので止める必要がなかった。

「まだまだっ」

 どうやら桜のやる気にも火が点いた模様。


 カツン、カツンと桜が振る木刀の側面を打って逸らし、俺が振った木刀は後ろに跳んだ桜に回避される。

 二、三度打ち合ったところで最初と同じく構えて向き合った状態に戻ったので、茉莉の時と同じように跳び込みから、と。

「危ないな」

 桜は首を狙う木刀を避けるように屈みながら反撃してきたので、俺は木刀を防御に回して防いだ。

「防がれた」

「いやいやいや……相打ち狙いはダメだろ」

「……避けきれてなかった?」

 桜は微妙に納得がいかない様子だが、俺の木刀はあの動きで避けられるほど鈍くはない。

「途中から防御に回せたってことは、それだけ軌道を修正できる余裕があったってことだよ。反省しときな」

「……確かに。ごめんなさい」

「おう。じゃ、続けようか」

「せめて一発は当てる」

「うん、その意気だ。……でも、まずはっ」

 跳び込みながら、それなりの速さで左から横に振る。

「っ」

「フンッ」

 桜は後ろに跳んだので、俺も気合を入れつつもう一段階。右足で地面に反動を押し付け、右からの横振りに切り替え、更に仕掛ける。

「!」

 桜が防御するべく木刀を構えたので、とりあえず打ち付けてから、反動を打ち消さないように腕を引く。弾かれた俺の木刀に掛かる力を制御して、弧を描くように木刀を引き付けながら、左斜め上からの振り下ろしへと繋げる。

 流石にそこまでは反応できなかったようで、避けきれなかった桜の面に勢いを殺した木刀が当たった。

「な?」

 最初の跳び込み以外には魔力を使っていないし、当たることは十分に証明できたと思う。

「むう……」


 やや苛烈になった桜の攻撃を防ぎ、時々こちらからも攻撃していたが、急に桜の構えが明らかに変わった。

「これならっ!」

 新たな構えから桜は木刀を投げ──

「っと、もう一歩足りないかな」

 更に続けて足を繰り出してきたが、右手で投げられた木刀の柄を、柄から離した左手で桜の足を受け止めた。

 そのまま右手で持った二本の木刀をゆっくり振り、桜の面にこつりと当てる。

「……無念」

「ドンマイ。ま、加減も基本要らなかったし、楽しかったよ」

「残念だったけど、私も楽しかった」

「そりゃよかった。さて、そろそろ時間だけど……」

「? ……あ」

 俺達二人の視線の先では、怒った様子の茉莉が桜を見ていた。



 使った武具と模擬戦場の後片付けを済ませると良い時間になっていたので、集合場所の駐車場へまっすぐ向かった。

 出発予定時刻の二〇分前に着いた俺達を待っていたのは、それなりの大きさの車両が何台か。見た目は、言葉にするなら何が一番近いだろう。

「……貸切観光バス?」

「いえ、その、この支部が所有している移動用のマイクロバスですよ?」

「……」

 美奈子が答えてくれた。確かに、『貸切』などの文字はないが、この、こう、なんとも言えない残念感が凄い。一般道を走ってもそこまで目立たないから良い、という観点だろうか。

 フロントガラス越しに見える(ステッカー)には、『指定害獣対策局 〇〇支部』と書かれている。

 ……契約書にも書かれてたし、入金もその名前だったけど、ううん……。


 どこか納得がいかない気はするものの、人が集まっているのは確かなので、そちらに向かった。

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