静まる昼下がり、集う幹部たち
昼下がりの壬生屯所は、じりじりと照りつける陽射しの中、ひっそりと沈黙していた。
障子越しに差し込む光が、畳の上に淡い影を落としている。普段なら隊士たちの足音や笑い声、誰かが竹刀を振るう音がどこかしらから聞こえてくるはずなのに、今日ばかりはそれらが遠いもののように感じられた。
遠くで蝉が鳴いている。
暑さに溶けるようなその声だけが、やけに長く、耳の奥に残った。
今日、ここで開かれる会議が、どれほどの重みを持つのか。
その予感が、空気そのものを変えているようだった。
私は襖を静かに開け、広間へ足を踏み入れた。
既に何人かは座していた。
上座には、局長ふたり。
芹沢鴨と、近藤勇。
その両脇には、副長職の我々が向かい合うように座る。
土方歳三。そして私、山南敬助。
さらに脇には、新見錦、平間重助、諸隊の隊長たちが並んでいた。
一人ひとりが無言で座しているだけなのに、襦袢の下にじっとり汗が滲むほどの緊張が漂っている。
私の座る反対側の列には、沖田総司の姿があった。
珍しく、はっきりと仏頂面をしている。
昨晩は夜通しの見廻りだったはずだ。ろくに眠れていないのだろう。
けれど、その不機嫌の理由が寝不足だけではないことくらい、私にも分かっていた。
月夜魅さんのこと。
無理をして笑い、「もう大丈夫」と沖田くんへ告げたあの子の、あまりにも細い声。
あの声を、沖田くんが見過ごせるはずがない。
……少し、心配だな。
そう思った、その時だった。
「さて……そろそろ、お前らにも通しておくか」
芹沢局長の低い声が、広間の空気を裂いた。
その瞬間、室内の緊張がさらに一段、鋭さを増す。
「長州、土佐、薩摩を含む尊攘派の動きが激しくなってきている」
芹沢局長は目を細め、杯を指先で弄びながら続けた。
「八月十八日――御所を守るため、我ら壬生浪士組にも出動命令が下されることになった」
八月十八日。
出動の噂は、既に隊士たちの間でも密かに囁かれ始めていた。
だが、こうして局長の口から正式に告げられた以上、それはもう噂ではない。
我々にとっても、大きな分水嶺となる。
「これが成功すれば、我らの立場も一変するだろう」
近藤さんが静かに言葉を継いだ。
「我らはもう、ただの寄り合い浪士ではない。幕府に名を知られる組織となる」
浪士の集まりから、正式に認められた武力組織へ。
その一歩が、今まさに目の前にある。
「今夜より、準備を始めよ。配置と役割については、改めて命ずる」
土方さんの声は静かだった。
しかし、その背には並々ならぬ決意が滲んでいた。
「ただし――御所へ出る以上、屯所は手薄になる」
その一言で、場の空気がわずかに変わる。
誰が出るのか。
誰が残るのか。
それは単なる役割分担ではない。
この組の中で誰がどこに立つのかを示す、ひとつの選別でもあった。
私は、一つ呼吸を整えた。
ここからが、本当の会議だ。
静かな応酬の中で、誰が何を守り、誰がどこへ向かうのか。
言葉の裏で、思惑と覚悟が交錯する。
芹沢局長は、ぐいと酒を煽ると、乱暴に杯を置いた。
「……まずは、留守番組を決めるとしようじゃねぇか」
誰も声を発しない。
全員が、次の言葉を待つ。
「屯所を空にするわけにはいかねぇ。だが、手勢はできるだけ御所に回す」
芹沢局長の視線が、列をなぞるように巡る。
「手数の少ねぇ屯所を任せるんだ。器用で、融通の利く奴がいい」
私は小さく息を吸った。
察するに、私に声がかかる。
「……山南。貴様、屯所を預かれ」
案の定だった。
「承知しました」
私は静かに一礼した。
顔を上げると、土方さんが一瞬だけこちらへ視線を寄越した。
無言の中に、ごくわずかな信頼と、そして――すまない、という色が滲んでいた。
土方さんも、本音を言えば私を御所へ連れて行きたかったのだろう。
だが、屯所を守るのは戦場へ出ることとは別の、重要な責務だ。
それを、私に託してくれた。
任せてください。
私は胸の内で、そう応えた。
次いで、出陣組の人選が進んでいく。
腕の立つ者たちが順に名を連ねた。
沖田総司、永倉新八、斎藤一、藤堂平助――。
若く、勢いのある剣士たちが中心だった。
沖田くんは、不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
見廻り明けで疲れているところに、また最前線へ駆り出される。
それでも命令とあれば背くことはない。
そんな彼らしい矜持が、沈黙の中に滲んでいた。
一通り名が出揃い、これで終わるかと思った時だった。
「……それから」
芹沢局長が、ぐいと顎をしゃくった。
その目の奥に、妙な光が宿っていた。
「月夜魅も、連れて行こうじゃねぇか」
その言葉が広間に落ちた瞬間。
空気が、ぴたりと凍りついた。
何を言っている。
一瞬、皆の思考が止まった。
私も、そして沖田くんも、すぐに立ち上がらんばかりに身を乗り出していた。
「……それは、さすがに」
最初に声を上げたのは、沖田くんだった。
普段の穏やかな声ではない。明らかな怒りが滲んでいる。
「月夜魅さんは、隊士ではありません。そんな場に立たせるべきじゃない」
私もすぐに続いた。
「そうです。鬼とはいえ、その前に女子ではありませんか。戦場に連れて行くなど、論外です」
ふたりの声が重なる。
けれど芹沢局長は、涼しい顔で笑った。
「屯所に置いておいて、万が一暴れたらどうするんだ? 手薄な守りじゃ収拾がつかねぇだろうが」
その言葉に、場の空気がわずかに揺れた。
確かに、屯所はほぼ空になる。
そんな時に、万が一“鬼”が暴走したら。
その危険を考えれば、芹沢局長の言い分にも一理ある。
……だが。
私は歯を食いしばった。
あの子は、そんな存在ではない。
今までずっと、苦しみながらも必死に人の世界に馴染もうとしてきた。
血に怯え、自分の力に怯え、それでも誰も傷つけまいと耐えてきた。
それを、“もしも”で裁くなど。
「……」
土方さんが、腕を組んだまま黙考している。
やがて、低く言った。
「一理ある」
息を呑んだ。
沖田くんも、信じられないものを見るような顔をしていた。
「別に血が出る戦場じゃねぇだろ」
芹沢局長がにやりと笑う。
「御所周辺に連れて行け。鬼を手元に置いておけば、何かあった時にすぐに“使える”。お前らは甘い顔をしているが、あの女は“人”じゃねぇんだ」
その言葉に、胸の奥が冷たくなった。
道具。
芹沢局長の目に、月夜魅さんはそのようにしか映っていないのだ。
御所周辺は、今や攘夷派と佐幕派の思惑が入り乱れる、極めて神経質な場所だ。
不穏な空気が満ちる中、もし鬼の存在が民衆や敵対派に知れ渡れば、何が起こるか分からない。
「危険すぎます!」
沖田くんが席を打って立ち上がった。
「周囲には攘夷派もいるでしょう。民衆が巻き込まれれば混乱します。月夜魅さんが騒ぎの標的にされたら……!」
「かえって好都合じゃねぇか」
芹沢局長は酒を舐めながら、嘲るように言った。
「そこで妙な動きを見せたら、それだけで判断材料になる。牙を剥けば、その場で斬るだけのことよ」
「……そんな“試す”ような真似が、許されると思っているんですか」
私の声にも、抑えきれない怒気が混ざっていた。
「月夜魅さんは物ではありません。ましてや、仕掛けのように使うなど……!」
だが、土方さんは黙ったまま、冷静な目でこちらを見ていた。
そして、静かに告げる。
「だが、屯所が手薄になるのは事実だ。御所の警護中に何があるか分からん。万が一に備えるのは当然だ」
「土方さんまで……」
沖田くんが声を荒げる。
「あの子は、やっと少しずつここで生きようとしてるんです。そんな仕打ちはあんまりだ」
近藤さんは苦々しげに目を伏せた。
「……万が一に備えることと、差別することは違う。だが、今は組としての行動が最優先だ」
その言葉に、私は胸の奥がじくじくと痛むのを感じた。
組としての行動。
全体のための判断。
理屈は分かる。
分かるからこそ、何も言えなくなる。
私は静かに息を吐き、口を開いた。
「……ならば、月夜魅さんを前線の要所には出さないでください」
皆の視線がこちらへ向く。
「彼女は、鬼である前に女子です。混乱の火種にされる前に、できるだけ人目の少ない詰所に配置していただきたい」
土方さんは、長く沈黙した。
やがて、短く頷く。
「……分かった」
その言葉に、私はようやくわずかに息をついた。
しかし、芹沢局長がふんと鼻を鳴らした。
「なら、今ここに呼んで、本人にもその役目を説明してやれ。断るようなら、ここで処遇を決めようじゃねぇか」
座敷の空気が、また重く沈む。
……ここまで来てしまった。
月夜魅さんを呼ぶしかない。
彼女にすべてを伝える時が来た。
「月夜魅を呼べ」
芹沢局長の命令に、私は思わず膝の上で指を強く組んだ。
彼女をこの場に立たせ、幹部たちの前で「連れて行く」と告げるのか。
どれほど屈辱だろう。
どれほど、恐ろしいだろう。
「おい、誰か行け」
芹沢局長が面倒くさそうに言うと、応じたのは野口健司だった。
「俺が連れてきましょう」
野口はにやにやと笑いながら立ち上がる。
その態度に、腹の底が熱くなる。
ふざけるな。
沖田くんも膝の上で拳を握りしめている。
顔は笑っていない。
「……待て」
土方さんが、低い声で制した。
「野口、貴様が行く必要はない」
「へぇ、なんでです?」
不満げな野口へ、土方さんは冷たく言い放つ。
「呼びに行くのは、俺たちの役目だ」
俺たち。
近藤派の人間。
「……そうだな」
近藤さんも重々しく頷いた。
「月夜魅さんに、無用な不安を与えるな」
その言葉に、わずかに救われる思いがした。
土方さんは、ちらりと私を見た。
「……山南」
鋭い声が、座敷に落ちる。
私は静かに顔を上げた。
「お前が、月夜魅を呼んでこい」
命じるような、冷たい口調だった。
「……承知しました」
わずかに躊躇ったが、私は深く頭を下げた。
沖田くんは俯いたまま動かない。
拳を固く握りしめ、畳を睨んでいる。
行きたくない。
月夜魅さんを、こんな場に引きずり出したくない。
その気持ちは、痛いほど分かった。
けれど今は、誰にもどうすることもできなかった。
私は静かに座敷を後にする。
障子の向こうから、強い日差しが差し込んだ。
夏の昼下がりらしい蝉の声が遠くで響いている。
じっとりとした熱気が、着物の襟にまとわりついた。
壬生屯所の奥、女中部屋の一角。
そこに、月夜魅さんはいた。
小さな膳の上に手縫いの布を広げ、静かに針を動かしている。
耳を澄ますように、一針一針、慎重に縫い進めるその姿は、この場所の誰よりも儚く、けれどどこか強かった。
……こんなものに、無理矢理手を伸ばして、何になる。
胸の奥に湧き上がる怒りを、私は必死に押し込めた。
「月夜魅さん」
声をかけると、彼女はぱたんと布を畳み、顔を上げた。
その瞳には、ほんの少しの驚きと、微かな不安が滲んでいる。
「はい」
小さく答える声は震えていない。
けれど、膝の上の手が布をぎゅっと握りしめたのが見えた。
「……今から、幹部会議に来てもらいたい」
なるべく穏やかに、やわらかく告げる。
月夜魅さんは、わずかに目を見開いた。
けれど、それ以上は何も聞かなかった。
ただ静かに頷く。
「分かりました」
私は胸の痛みを堪え、彼女へ道を開いた。
これは、巻き込んではいけないものだ。
そう思う。
それでも、壬生浪士組の監視下に置かれた存在として、彼女は今、試されようとしている。
守らなければ。
静かに、心に誓った。
昼下がりの陽射しの中を、二人で並んで歩く。
軒先に吊るされた風鈴が、かすかに揺れた。
影はひどく長く伸びている。
座敷へ続く廊下の向こうには、冷たい視線が彼女を待っている。
そんな気がして、私は無意識に彼女の肩へ視線を落とした。
畳の間の空気は、ひどく重かった。
座敷へ一歩足を踏み入れた途端、月夜魅さんの肩がぴくりと小さく震える。
無理もない。
並み居る幹部たちの鋭い視線が、一斉に彼女へ向けられたのだから。
上座には、芹沢鴨と近藤勇。
その左右には、土方歳三、新見錦。
脇を固めるように、各隊長たちと平間重助。
月夜魅さんは一瞬だけ立ちすくんだ。
けれど、すぐに表情を引き締め、座敷の中央まで静かに進み出た。
私は彼女の後ろに控え、膝をつく。
芹沢局長が、愉快そうに目を細めた。
「ほう。なかなか肝が据わっているじゃねぇか」
月夜魅さんは何も言わない。
ただ背筋を伸ばし、その視線を受け止めていた。
その姿に、胸が詰まる。
頑張れ。
心の中で、そう祈ることしかできなかった。
「月夜魅」
土方さんが低く名を呼ぶ。
月夜魅さんが、そっと顔を向けた。
「これから話すこと、よく聞いておけ」
その声は冷たく、容赦がなかった。
「壬生浪士組は、会津藩からの依頼を受け、八月十八日、御所周辺の護衛任務に就くこととなった」
説明が座敷へ落ちる。
月夜魅さんは目を伏せ、じっと聞いている。
「本来なら、こうした任務に、隊士以外を関わらせることはない」
土方さんの視線が、月夜魅さんに刺さる。
「だが――」
そこで言葉を切った。
続く言葉は、芹沢局長に譲られる。
芹沢局長が、にやりと笑った。
「だがよ、屯所に鬼を置き去りにして出陣するわけにはいかねぇ」
悪意の滲む声だった。
「手薄になった屯所で、もし鬼が暴れでもしたら、誰が止めるんだ?」
ぐるりと座敷を見渡す芹沢局長。
誰も、それをはっきり否定できなかった。
私も拳を握った。
沖田くんは、顔を上げることすらできずにいる。
そんなわけ、ないのに。
月夜魅さんは、誰よりも自分の力を恐れている。
血の匂いに弱い。
それでも必死に人と共に生きようと足掻いている。
芹沢局長の言う「鬼が暴れる」などという想像が、どれほど彼女を侮辱しているか。
けれど、この場では。
その言葉が、正論として扱われる空気があった。
土方さんが、静かに頷いた。
「……屯所に不安要素を残すべきではない」
近藤さんも、苦々しげに目を伏せながら頷く。
もう、決まってしまった。
土方さんが無表情で口を開く。
「月夜魅」
その声に、彼女はびくりと肩を揺らした。
「次の出陣、お前も同行することに決まった」
私は、喉がからからに乾くのを感じながら、月夜魅さんを見た。
「……はい」
かすれた声。
けれど、それ以上、何も問わない。
何も逆らわない。
ただ、静かに受け入れようとする姿が痛々しかった。
土方さんは続ける。
「だが、本隊の警護任務には就かせない。詰所で待機し、不測の事態が起きぬよう留意してもらう」
ほんの僅か、彼女の肩の力が抜けたのが分かった。
私はそっと、拳を膝の上に置く。
こんな役目を押し付けられたことを、彼女はどれほど理解しているのだろう。
あるいは、理解したうえで、何も言わずに飲み込もうとしているのか。
ちらりと沖田くんを見る。
彼は座敷の端で腕を組み、深く壁にもたれていた。
顔は伏せがちだが、明らかに不機嫌な気配が滲み出ている。
あの子にこんな理不尽を呑ませるのが、どれほど悔しいか。
沖田くんも、私と同じ気持ちなのだろう。
「それから」
芹沢局長が、にやりと口端を歪めた。
「もし万が一、てめぇが逃げ出す素振りを見せたら、その場で首を掻っ切る」
冷たい声。
月夜魅さんは一瞬だけ顔を上げたが、すぐに視線を落とした。
「……承知しました」
わずかに震える声。
その姿を見て、私の心はどうしようもなくざわめいた。
君は、本当に。
どれだけ何も背負わずに済む世界に生まれていたら、幸せだったのだろう。
「それでいいな?」
芹沢局長が周囲を見回す。
誰も声を上げない。
土方さんも、近藤さんも、無言で頷いた。
誰も、彼女を守れない。
私たちの無力さだけが、座敷の空気を重く沈めていた。
月夜魅さんは、ぴたりと膝を揃えたまま、深く頭を下げる。
その小さな背中が、酷く遠くに感じた。
ちりん、と風鈴の涼しげな音がした。
けれど、その音でさえ、この場の重さを和らげるにはあまりに弱かった。
月夜魅さんが座敷を下がったあと、私は立ち上がった。
誰も彼女を引き止めない。
誰も、声をかけない。
畳に残る彼女の気配だけが、痛々しく漂っていた。
私が座敷を後にすると、ふと背後から足音がした。
振り返らずとも、分かる。
沖田くんだった。
縁側を渡り、広い廊下を抜ける。
月夜魅さんの姿が見えなくなった頃、低く押し殺した声が私を呼び止めた。
「――山南さん」
私は足を止め、振り向く。
沖田くんが、わずかに荒い呼吸をしながら、こちらを睨むように見ていた。
「……どうして、あんなこと、通したんですか」
絞り出すような声。
その目は、怒りと悔しさに揺れている。
私は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……私だって、納得しているわけではない」
静かに告げる。
沖田くんは歯を食いしばった。
「じゃあ、なぜ……!」
声を荒げかけて、寸前で飲み込む。
廊下に、重苦しい沈黙が落ちた。
私は小さく息をつき、縁側の先に視線を落とした。
「君だって、分かっているだろう」
ぽつりと呟く。
「あの場で反論を続けても、無駄だった」
幹部たちの意志は、すでに固まっていた。
土方さんも、近藤さんも。
あの場で声を荒げ続ければ、月夜魅さんの立場をさらに危うくするだけだった。
沖田くんは拳を握りしめたまま、じっと私を見ている。
その瞳には、抗いようのない悔しさが滲んでいた。
「……分かってますよ」
やっとのことで、低く答える。
「でも、悔しいんです」
声が震えていた。
「僕たちが、守ってやるべきだったのに」
私は何も言えなかった。
私もだ。
私も、同じだ。
守れなかった。
救えなかった。
それでもあの子は、静かに何も言わず、ただ受け入れた。
あの小さな背中を思い出す。
私はそっと目を伏せた。
「――必ず、守ろう」
静かに、けれど確かな声で言った。
沖田くんが顔を上げる。
「どんなことがあっても」
私は、しっかりと沖田くんを見つめた。
「今度こそ、絶対に」
しばらくの沈黙。
そして沖田くんは、ゆっくりと、力なく頷いた。
「……はい」
かすれた声で、それだけを言う。
静かな夕暮れの光が、縁側へ差し込んでいた。
その光の中に、私たちは黙って並んで立っていた。
今度こそ守る。
そう誓いながら。
けれどその誓いさえ、時代の大きな流れの前では、あまりにも小さく頼りないものに思えた。




