043.「先に見える物-5」
俺が見つけてしまった依頼に対応するために、工房のあちこちから集まってくる職人達。上は白髪の老人から、下はまだ中学生ぐらいじゃないのか?と思うような少年までとおおよそ15名ほどだろうか。誰もが職人の顔をしているあたり、すごいなと感じる。
「覚えてる奴もいるだろうが、例の道楽貴族による依頼が1件、残っていた。お題は燭台。素材が少々難儀だな。こいつだ」
キロンが木箱の蓋を開き、取り出した青銅色の塊。白色の部分など、まだらに混ざった不思議な素材。どう見ても木材ではないし……俺も苦労した覚えがある素材だ。職人たちもそんな経験があるのか、彼の手にある素材を見た途端、動揺が走る。無理難題を、というより何でそれで?という空気だ。
「そうだ。知っての通り、こいつは特定の魔力が通るとその箇所から燃える。正確には光を発する、だがな」
「それだと燭台を作ったところで、落雷だとか何かあったときにすぐなくなってしまうのでは?」
そう、職人の1人が指摘したとおりにどちらかというと魔物にダメージを与える攻撃アイテムの素材に使っていたことが多い。ある意味では取り扱い注意な危険物ではある。確か、魔法の中でも雷属性の魔法が通ると、通った先のほうからゆっくりと発光するはずだ……そう俺が口に出すと、キロンはなにやら変な顔になって頷く。
「それがな、面白いことに普通に火を近づけたり、火属性の魔力を込めた指先でつつくと止まるんだそうだ」
「ちょっと試して良いか? ……本当だな」
手早くダメージの出ないような規模で魔法を使うと、確かに発光が止まる。この程度なら魔法使いでなくてもきちんと勉強していけば一般人でも出せる出力だろうから屋敷の使用人なんかでも問題なくONOFF出来る……って燭台が燃えちゃまずい。どういう意図だ?
「それ、燭台で作る意味あるんすか?」
「……無い! が、それが希望だからな、依頼はこなすのみだ」
若い職人の疑問に、キロンも開き直った様子で答える。確かに仕事であればそれで作るしかない。俺たちは事故の無いように気を付けるだけだ。キロンの大げさな仕草に場に笑いが産まれ、各々が自分が作れるであろう量の素材を抱えていく。
「結構装飾が細かいんだな……そのままやると時間がかかるが……」
俺は、デザインが描かれた紙を眺める。ステータス的にも器用な俺だが、器用であることと、センスがあることとは別問題だ。ある程度は頭に浮かべたものが反映されるとはいえ、そもそものデザインはセンスが必要だ。一応、裏技的な物はある。ゲームで言えばインゴット等の鉱石から製品までの中間にある素材を大量生産するスキルだ。これ自体は本人の技量が足りていれば製品そのものも作れる。つまりは……。
「ファクト、どうした?」
「いや、どうやって作ろうかなあとね。遺物で量産しちゃまずいだろう?」
そう、1個作ってしまえば、後は問題ないのだ。そのためのデザインの元となるアイテムは目の前にあるし、後は実際にアイテムの情報を見てスキルを実行するだけだ。ただ、今のやり方では本来俺が目指す方向の作り方ではないことは間違いない。
「そうだな。大方、職人としては手抜きに感じるってことだろう? だが……それは気の持ちようだと思う。料理を何人前もまとめて作ったら手抜きかと言えばそうでもないだろう? 要は気持ちを込められるかだよ」
「気持ちを……そうか」
一人頷いていると、キロンは作業台へと向かいさっそく1つ作り始める。どうやら火は使わず、削りだしのようだった。燭台そのものはシンプルに上に蝋燭を立てるタイプだ。装飾自体は細かいがそれは後からやればいい。さっそくとばかりにキロンはゴリゴリと音を立てて素材を削っていく。いつしか40cm四方はあった塊が手早くそれっぽい姿に変わっていく。
「こんな骨太でいいのか?」
「最初から鉄のように薄くしたら割れちまうのさ。このぐらいが良いんだ」
参考にしているデザインと比べて、厚みのある状態だが確かに試しに削り取られた破片を触ってみると、軽い音を立てて折ることができ、納得する。ゲームの時には決まったタイミング以外じゃ破損しないからな、気が付かない部分だ。ちなみに触った感じとしてはレンガに近いだろうか。
「これじゃ落としたら砕けるんじゃないか?」
「その通り。まあ、そういう趣味じゃなければわざわざ落とさないだろうからな」
確かに、それもそうである。30分ほどすると、大体の形が出来たようでキロンが手を止める。まだら模様のもともとの色合いが生かされた装いだ。磨き上げればさらにその雰囲気はいいものになるだろう。
「後はこいつを細かく削ったり、整えるだけだ」
「良くわかった。ありがとう」
他の職人の様子を見てくるというキロンを見送り、俺自身も1つの塊を手に取る。まずは残りの装飾を行おう。力を入れ過ぎないように注意しながら彫り進め、自分なりに納得のいく1品が出来た。となれば後はこれを量産するだけだ。
(大きさは手ごろ……か。まずは上下はどっちにするかな)
作業台の上に塊を置き、模様を色々と確かめる。ふと思いアイテム名を確認するといつか見たように雷鳴石となっている。これまでは物に加工するということをしてこなかったので妙な気分だ。スキルで量産する前にまずは1つ、自分で作ろう。
「ん、こっちのほうがいいか?」
向きを決めた俺は道具を手に、キロンがしていたように力を込めて1回目の加工を行う。浮かび上がる精霊の様子を伺いながら、ノミを振るうように大きく削っていくと、思ったよりもあっさりと削ることが出来た。途中、何度も浮かぶ精霊たちに意見を聞きながら、どんどんと削っていくと細かな装飾を入れる前の段階まで思ったより早く削ることが出来た。そしてこれも装飾を施す。
(では……まずは3つぐらい)
「道具生成」
これも魔力を使うことには変わりないのだが、不思議と雷鳴石は光らず、スキルの力が浸透していくのを感じる。イメージするのは、動きの揃った軍隊や訓練された集団。そう、1つ1つのバラツキがない物をイメージしたのだ。結果、俺の前には恐らく寸分たがわず同じ状態の燭台が3つ出来上がる。
「よし……次だな」
その後も順調に数を稼ぎ、気が付けば割り当てられた素材分は終わり、他の職人の方にも手を出していくのだった。結果、他に用事で出ていたキロンが戻ってきた時に随分と驚くことになるがそれは別の話だ。
速く終わったことで夜は飲みに行こうかという話が出る中、皆と一緒に燭台を箱に詰め終わったとき、俺は1つのことに気がつく。この燭台の、使い道だ。
(これ、普段は蝋燭を普通に使って、いざ何かあったときには緊急の灯り対策になるじゃないか)
蝋燭が無かったり、あるいは蝋燭が使えない環境であったり、そんな時、魔法1つで灯りとなり、さらには通常の灯りの魔法と違って雷鳴石の特性を知りつつ、それで出来ていることがわからない限りは打ち消すことが出来ない。
(キロンは道楽だといっていたが……もしや?)
世間には理解されていないだけで、依頼主はなにやら奥深い考えを持っているのではないか? この数も、1つの屋敷で使うには随分と多い。もしかして……いざという時に配るのではないだろうか?
どうも気になり、これからすぐに届けるのか、と聞いてみた。
「直接は本人は来ないな。手紙を出しておくと後で取りに来るんだ。それで終わりさ」
「ここいらじゃ有名な貴族だからね。そこらの子供でも知ってるよ。ちゃんとした商売にも手を出してるんだけどね」
横から、荷物を運んでいる職人の1人が混ざってくる。話によると、儲けの傍らでこんな感じで何に使うのかわからないものや、奇特な額の寄付なんかをしているらしい。結果的にはそれが好印象となって、儲けの元の商売もちゃんと軌道に乗っているというのだから意外と商魂たくましいのかもしれない。
突然の制作と納品を終え、数日を過ごす。そんなある日のこと、俺はついにアイコンの1つが黒色から白く変わるのを確認する。武器生成スキルの復活である。皆が寝静まった夜、俺はこっそりと裏口から工房を出、路地裏に入ってキャンプを起動する。視界が変わり、最近入っていなかったキャンプの空間へ。
「ふぅ……しばらくぶりだな」
併設された部屋の1つ、ワラ人形のようなものがいくつも立ち並んでいる部屋へ。ここなら何があってもよっぽど大丈夫だ。以前の俺であれば、ここで地面やら空中やらに武器作成で多量の武器を次々と作成し、ワラ人形に投げつけるなどの戦闘訓練を行ったことだろう。
ソロ、もしくは限られたメンバーで戦闘を行う時にはシステム以外の強さを持っていなくてはいけない。そんな、考えからの練習だった。
だが今は違う。
(人形1つ1つがパーティーのメンバーだと思って……)
「武器生成C!」
最初は単純なナイフをイメージし、素材を地面に転がした状態で普段とは違う武器生成を発動させる。ハンマーを叩きつけるのでもなく、道具で触るでもなく、詠唱だけの作成。しかも俺の手にではなく、他の場所にだ。狙い通り、1本のナイフが人形の腕の中に生成された。
(行ける!)
思えば、補助や回復の魔法は当然パーティーメンバーにかけられるし、攻撃魔法だってやろうと思えば同士討ちだって出来る。前衛の攻撃スキルとてそのままだ。なら、何故作成用のスキルがそれに従わないという理屈になるのか。
ゲームではできなかったことだが、この世界はゲームそのままではない。精霊に願うということはそのお願いが同じでなくてはいけない理屈は無いのだ。誰かの手の中に作ることは出来ない……それはただの思い込みと化す。
「武器生成C!……よし」
再びの詠唱、そして生成。今度は2人分を作ることを狙い、人形2体の手の中に出来上がるナイフ。狙いは……集団戦での支援。予感だけはあったのだ。実際にハンマーを使って作るほうは当然一度につき、1つ。素材だって1つ分しかないし、行動も1つ分だ。第一、一度に2つ作れるようなハンマーの動きなんてものがわけがわからなくなってしまう。
が、こうして触らなくてもいいのであればそんな手順は要らない。当然、場所と、物、そういったイメージは必要になるようだが10人なら10人が揃いの武器を手にしている、なんて光景は逆にイメージしやすい。絵になるってやつだからな。
「っと……まずはこんなもんか」
4人分まで同時に作ったところでイメージがぶれる感覚があり、すぐさまナイフも消えてしまう。イメージは出来ても、上手くスキルを扱いきれていないようだった。
(要修行というところか。収穫は十分だな)
気を取り直し、とりあえずの目的は達成したので俺はキャンプから工房に戻ることにした。路地裏から出て、月明かりに照らされた瞬間、何かの気配を感じた気がした。咄嗟に気配を伺い、マップの確認をするが……特に反応はない。あちこちに特に敵対していない意味合いの人間の反応はあるがあって当然で、区別はつかない。
「気のせい……か?」
特に襲撃も、声掛けもなく時間が過ぎ……俺は結局工房に戻ることにした。
「地下水路に変なのがいる?」
「ああ。引きずり込まれただとか、野良犬が姿を消しただの、そんな噂さ」
翌朝、朝食をともにしていた職人から街で今流行っている話などを聞いていると、食事時には向かないそんな話が出てきた。随分と物騒な話だ……。
「それが本当なら、自警団やらの出番だろう?」
「勿論そうさ。冒険者にも依頼が出ている」
指差す先には真新しい紙。見れば、今聞いたような事件のあらましと、探索者募集のお知らせだった。事件解決の際には……なるほど、結構な金額だ。これなら受ける冒険者もいるかもな。
「ふーん。モンスターかな」
「それを調べて欲しい。彼らと一緒にな」
俺がパンを口にしながら、そんなことをつぶやいた時、背中に予想しない声がかかる。振り向けば、くたびれた様子の白衣はそのままの男性、ミストだ。どうしてこんなところに?
「全ては精霊と共に。となれば鍛冶とて密接な関係にあるものだ。それに、また、と言っただろう?」
そんな気持ちが顔に出ていたのか、そんなことを言われてしまった。だが、俺はつむがれた言葉に1つの疑念を抱いていた。また……つまりはミストは事件を噂になる前から知っていたのではないか?
ともあれ、まずは話を聞くことからだ。キロンに許可をもらい、部屋の一角でミストと向き合う。そしてミストから依頼の内容が語られるのだった。




