041.「先に見える物-3」
先日分はナンバリングを間違えていました。
「さて、これで何か作ってみようか」
「あ、ああ……ところで、その袋は?」
何が作れるかも聞かれなかったというのも驚くところだが、それよりも今キロンが材料であろう鉱石を取り出した袋のほうが問題だった。大きさと出てきたものがあわない……アイテムボックスだ。確かに高級品ではあるが、売られているのを確認している。でも目の前の袋からは、俺と同じものを感じたのだ。
「ああ、これか? いいだろう? 同じ素材なら部屋一杯分ぐらい入るんだ。代々伝わる……まあ、遺物だな。市販の物より容量が大きい分、種類は限られるのが問題だな」
この工房の宝物の1つで、こればっかりは作れないとぼやかれた。確かにアイテムボックスは俺にも再現は恐らく難しい。売られているような少ない容量のものであればなんとかなりそうだが、大容量の物となるとやはりダンジョンなどからの発掘品に頼るしかないだろう。
「中に物が入ってる間、魔力が減るのかいつもより腹が減るんだ。そこが難点だな。こいつは使った奴の余りだから好きにしていいぞ」
改めて、取り出された素材に視線を戻す。銀とは違うが、近い輝きのインゴットだ。月明かりのようにほんのりと光ってるように感じる。手に取って確認するとその名前はマジックシルバーと出た。
確か、元々の素材は魔力が濃いとされる地点でいつの間にか筍のごとく顔を出す形で地面に転がっていたり、そういった場所を掘るとそこそこ塊ごと出てくるような、普通の金属とは厳密にはいえそうにない何かだったはずだ。ついでに名前と違って実際には銀ではない。
これ以外にも風の強い場所、水の豊富な場所等、自然の力が強い場所で発見されやすい種類の鉱石があるが、それらは精霊の活動による副産物ではないかとは思っている。と言ってもゲームの設定らしく、全部は解明されていないし想像でお楽しみくださいってところだな。
ともあれ、素材的にはこれは衝撃に余り強くないため、武器に向かない。ちょうどいいと言えばちょうどいい。さらに防具にも向かない。ではどうするのかと言えば、装飾品が向いているわけだ。ただ板に下だけでもしっかりと磨き、処理をするだけでもそれなりに光り、単純にお守りにもなる。
(やるからにはそれじゃあ、つまらないよな)
「それなりの大きさだからな……メダリオンで行こうかと思う」
「おう、じゃあここ使いなよ」
こちらの会話を聞いていたのか、すぐにそばで作業をしていた職人が場所を譲ってくれた。満足そうな表情から、きりがいいのか完成したところなのだろう。頭を下げつつ素材を手に座り、まずは観察だ。ドワーフの里で学んだこと。素材の声を聴き、精霊の導きを促す。
(お前はどんなお守りになりたい?)
慣れていけば一瞬で行えそうな気もするが、まだ練習といったところ。それでもただ作るよりは段違いな結果を導ける、そんな自信があった。では今回の相手はどうだろうか? 見えて来た精霊はとても元気で、どことなく……ずっと起きていたい、そんな感情が伝わってくる。精霊そのものは寝ることはない。だからこれまでに出会って来た色々からそう言った物を覚えているんだろう。
キロンから見えないところで外套の内側に手を突っ込み、そこに入れてあったかのように小さなハンマーを取り出した。道具も借りても問題は無いのだが、なんとなくこういう時は手になじんでる物を使うべきだと思った。それに、グランモールではこれを遺物だって言ってたわけだし、何かあった時に矛盾が出ないようにと思ってだ。
そこまで考えて、このまま作るのには問題が出そうだと気が付いた。よく考えると、俺は現実的にどうやって作るのか、しっかりと覚えていないということに。たまたまゲームの仕様上、ある程度は学んでいるがそれもあくまでゲームへの補助程度だった。
「キロン、実は……」
不思議そうな顔をするキロンに、自分自身はいつもこの専用の状態な遺物であるハンマーを使って作っていることを伝えた。実際には嘘が混じっているわけだがそうしないと作れないという点では本当だ。説明が終わった後、キロンはなんでもないように頷いた。
「何も問題はない。素質は素質、物は物。技量なんてのは後からついてくるものだ。戦士や魔法使いなんかにも、加護を受けた存在だっている。そいつらに卑怯だ、生身で戦え、なんて言いやしない。大事なのはそれをしっかり使い切ることだ」
職人ではない等と言われる覚悟をしていた俺だったが、そんな言葉と共にむしろやって見せてくれと言われるのだった。少しばかり拍子抜けではあるけれど都合がいいと言えば都合がいい。
「わかった。見ててくれ」
気が付けば近くの職人たちも手を止めて俺の方を見ている気がした。だからと言って作るのを辞めるなんてつもりはない。深呼吸1つ、素材と向き合う。
マジックシルバー自体は何度も使ったことがある。さすがに上級、最前線では居場所が無いが、中堅どころまでは意外と使われる融通の効く素材だ。そして今回使うスキルは道具生成。どちらかというと雑貨全般、といったスキルだ。店売りしている普通のアイテムも素材によっては作成可能な、奥深いスキルでもある。
つける特殊効果をどうしようかを考え、シンプルに1つだけ付与することにした。それが今回の素材に宿っている精霊の望みでもあるしな。熱する必要は無い素材なので、塊のまま作業台の上に乗せてハンマーを構える。ほんのりと魔力を籠め、遺物らしい見た目にしていき……こっそりとスキルを実行した。
(道具生成!!)
使う人、使われる状況、そんなことを思い浮かべ長く使われるといいな、と一叩きごとに魔力を注ぎ込む。ただそれだけだというのに、どんどんとマジックシルバーが形を変えていく。ただ力で伸ばされているのではなく、スキルの力でどんどんと変化していっているのだ。
この世界に来た頃の、一度叩いただけで勢い良くできてしまうような、出力過多、のような感覚は薄れている。ドワーフ様様というべきか、ホースから出る水の量を自分で調整できるようになったかのように、何かを調整している手ごたえがそこにはあった。
段々と円盤と化していく素材を見ながら、そばで踊る精霊に意見を聞き、さらに加工を進める。目指すべきは夜の道しるべ。そして闇の守り手。いつの間にか部屋には俺がハンマーで叩く音だけが響いているような気がした。
周囲を見ることなく、変形していく素材を見つめ続け……ついに形が出来上がった。完成が近づく度に、なぜかハンマーで叩いてるだけなのに彫ったような溝が出来たりするのは恐らく一生の謎だと思う。隣で見ているキロンからのつっこみはないから、案外普通に作っても精霊が彫ってくれるのかもしれないな。
「ふう……これでよしっと」
「速いな。だが、良い物だ」
俺の目にも、アイテム名がしっかりと変わったことが確認できる。その名も、数えられない羊のメダリオン。付与したのは睡眠耐性。夜にも強い、長い冒険や見張りには必須である。一応、徹夜にも効果を発揮するようだが、付けっぱなしだと夜も寝たくても寝られなくなるので注意が必要だ。勿論、状態異常に耐性があれば問題なく寝れてしまうが、そこまでしなくても装備から外せばいいのだ。
「作ってる最中もそうだが、面白い。俺の爺さんみたいだな」
「爺さん……そんな昔からここはあるのか。それに、どういったお爺さんだったんだ? 俺みたいに遺物を持っていたとか?」
彼の言う通りなら、そのお爺さんも俺と同じようにスキル持ちか、本当に鍛冶の補助を行う遺物があったということになる。出来ればスキル持ち……俺と同じような立場かその子孫みたいな状態だといいのだが……。
「ああ、もう100年はあるんじゃないか? 俺の爺さんも遺物持ち……だったらしい。俺がガキん時にどっかに旅に出たきりだからわからんがな」
「じゃあその遺物も一緒に行方不明、か。もったいないことだな」
もったいぶって俺が呟くのには理由がある。値段の差はかなりあれど、遺物自体は貴重品だ。場合によっては相当な値段になる。ましてや鍛冶の補助となればそれは金の卵を産むに等しい物だ。それがあれば色々と作り、売ることが出来るのだから。
「そうなんだよなあ……それでもこの工房は多い方だ。遺物が神話時代とかにある技術や、魔法なんかを限定的に再現できる存在だっていうのは知っているだろう? 世界各地に結構話はあってな。そういうのは自然と特定の場所に集まって来るんだが、それとは別に1つあるところには2つ目が集まりやすい」
「……そうなのか」
遺物のあるところに遺物が集まるというのは初耳だが、なんとなくわかる。遺物は言うなればゲームでも使えた魔法たちの断片なのだ。そうなれば似たような物に引かれるという性質があってもおかしくない。
これまでに街で聞いた話からも、遺物の武器を持つ精鋭で作られた騎士団や、失われた魔法で国を従える大魔法使い。植物と会話するエルフ顔負けの人間や、遺物の力に魅入られて魔の道に落ちた者etc……。遺物が遺物を呼んだような事例は確かにいくつもある。
世界中で見れば稀な遺物も、こうして局地的に固まってくることが、歴史上、なんだかんだでいつも繰り返されているのではないだろうか?
「色々、あるんだな。勉強になった」
「ああ、俺の爺さんは他にも勝手に強力な火の力が武器に付与される作業台を持っていたよ。火山には一生誘われんわい、って笑ってたな。代償はなんだろうな、面白くない洒落を口に出すようになることかな?」
そのときのことを思い出しているのか、キロンは笑い、俺が作ったメダリオン手に取り眺め始める。その瞳は職人だけでなく、商売人の輝きを感じた。
「こいつは問題ない出来具合だからな。工房の商品として販売してみよう。そうだ、まずはウチの手伝いをしてみるか? 力仕事が多いが、いろんな箇所を回れるし、勉強にもなるだろう」
「問題ない。ぜひ頼む」
俺としても、自分以外のちゃんとした職人の生活を見られるというのは魅力的だ。ジェームズたちもしばらくはこの街で過ごす予定だというからな……。住み込みとなる建物はすぐそばにあるようで、空き室の内の1つを借りる形となり、俺の工房での生活が始まる。




