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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第二章

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034.「ガイストールの闇-8」


 教会の依頼を受け、謎の影が出るという建物の探索を行っていた俺とコーラル。そしてその途中、その騒動に隠れていた本当の事件……魔力を吸われるという事件の大元かもしれない隠し通路を見つけた。長い長い階段を降りた先にいたのは、クリスと一緒にいた若い青年だった。


 彼から語られたのは、ガラクタと本ばかりのこの空間の秘密、そして彼の狙い……上位精霊、古の意思を呼び出そうという壮大過ぎる目的と、そのための魔力収集。そう、犯人は自分だと自白し始めたのだ。


「最初は吸い過ぎた、ではと今度はせっかく調整したというのに、少し敏感な人がこの場所に気がつきましてね。残念なことをしました」


「まさかっ、あの女性はっ!」


「おや? 彼女を知っているのですか?」


 俺の叫びに、青年は心底不思議そうに俺のほうを向く。彼にとってはここを見つけてしまった以上の関心が無いのだろう。あの涙は……きっとただ恐ろしいことが行われていたことに対する物だけじゃなかった。恐らくは…・・。


「ああ、真面目そうな信徒の女性だったよ。儀式の水晶球がある場所を教えてくれた。お前を止めてくれと言ってるように思えたよ」


「そうでしたか。力の一滴まで利用させていただいたはずだったのですが……最後までおせっかいな人ですね」


 青年が浮かべる笑みはどこか壊れ、言葉もずれていた。まるで最初からどうでもよく、語りたいだけ語る、そんな状態だった。そうか、コイツはもう……!


「貴方はっ! 命をなんだと!」


「それだけじゃないな。その存在に、精霊を食べさせているだろう? これらにはもう精霊が全くと言っていいほどいない」


 手近なガラクタを手に取った俺の言葉に、コーラルのみならず青年も驚きの表情を浮かべる。そこまで見抜けるとは思っていたかったのか?


 手に取った鉱石のステータスは真っ黒。名前も虚無の鉄鉱石、と初めてみる名前だ。ただ、はっきりしているのはこれでは何も作れないということだ。中に、精霊がまったくいないからだ。手ごたえが何もないのだ。


「正しくは精霊を世界に戻しているつもり、というべきなのかな? だがこの方法は正しくない」


 俺はその鉄鉱石だったものを青年の側に投げ捨て、剣を抜く。これ以上は聞く必要も無い。この状況、青年の態度、全てが1つのことを指している。


「驚きましたね。君は余程素質があるらしい。これなら、不完全な今でも君1人でまかなえそうです」


「何をっ!? こ、これは!」


 青年はほくそえみ、懐から怪しく光る、青い石を取り出すと無造作に飲み込んだ。突如青年からあふれるプレッシャーに剣を構え、コーラルは杖を前に突き出す。じりじりと、下がりながらもその膨らむ力に内心焦っていた。


「ふう……簡単なことです。かつての存在がそうであったように、この世に現れるには何かが媒体になる必要があるのですよ。最初の召喚の時も、一番力のあった魔法使いが存在の媒体となったそうですよ」


 青年が喋るたび、呼吸するたびにプレッシャーを感じる。力そのものはまだまだ弱い。恐らく地竜には届かない。だが、この感覚は単純な力を超えた先にある何かを伝えてくる。このままでは、まずいと。


「ファクトさん、この人を止めなきゃ駄目です!」


「応っ!!」


「ははははは! 言ったでしょう。精霊は世界とともにあると。君の動きも、世界とともにあるのですよ!」


 問答無用状態で切りかかった俺だが、青年のつぶやきと共にあと数歩というとこで足を止めざるを得なかった。咄嗟に自分と、後ろのコーラルを守ろうと動けたのは幸運と言っていいだろう。


「くぅううっ!?」


 魔法にもならない魔力の障壁の後ろにいてもなお、コーラルは悲鳴を上げる。俺も頭を襲う妙な重圧に吐き気を覚えていた。咄嗟にステータスを開けば目に見えて減り始める魔力。岩や風の壁ではなく、咄嗟に魔力の障壁を展開してのこの状況は……まさか!


「気がつきましたか? 儀式の作用を君達だけに絞りました。さあ、どこまで抗えますか?」


 青年は哄笑とともにふわりと浮き、その周囲をガラクタが覆い始める。ガラクタは間違いなく精霊はいない。そうなるとアレは単純に外から精霊ともいえない力をまとわせて浮かせているのだ。随分と器用な真似をするもんだ。


 と、半端無い勢いでガラクタがいくつも迫り、俺は慌てて回避したりコーラルに行きそうなものを叩き落す。たかが本1冊でも勢いよく当たれば体がよろけるぐらいはしてしまうだろう。


「1つだけ聞く! あの小さい精霊もどきはなんだ!」


 コーラルも合間を縫って魔法を放つが、途中で掻き消えるかガラクタに当たってしまい、十分な威力を発揮していない。下手に炎は扱えないこの状況では……動くに動けないな。第一、このペースではすぐにでも魔法は撃てなくなるだろう。


「ああ、あれですか。精霊の成れの果てですよ。世界に戻ることも出来ない、かといって物に宿ることも出来ない、まさに出来損ないみたいなものです」


 青年はなんでもないように言い放ち、それが合図であるかのように攻撃が苛烈さを増す。それが誕生した原因は彼にあるというのに、まさに他人事な一言、それがコーラルに火をつける。


「そんな……貴方だけは絶対に!!」


「危ないっ!」


 無防備に飛び出したコーラルを追う俺の視界に入る光った何か。まっすぐコーラルに突き進んでいた小さなそれを、俺はコーラルをかばう形で体で受け止めた。ずぶりと、深く刺さっていく感触……ナイフぐらいの刃物だが柄の装飾はどうも怪しい。直後、ダメージはほとんど無いはずの場所から脱力感が広がっていく。


「ふふふ……やはり君はすばらしい。そこのお嬢さんも良いですがね」


 開きっぱなしのステータスでは、地竜との戦いからようやくある程度回復したはずの魔力が先ほどの比ではない速度で減少していくのが見えた。その魔力が向かう先には当然、彼がいる。


「これは、最初から狙っていたな?」


 よろけながらも立ち上がるが、足元がおぼつかない。ダメージよりも魔力吸収と行動不能にさせるのが目的の攻撃だったのだ。毒なのか、そういった能力なのかはわからないが、麻痺に近い感覚が体を襲っている。魔力は精霊とほぼ同義であり、あらゆるものに精霊は宿る。その精霊が減るということは俺という存在がゆらぐということだ。


「ファクトさん!」


「大丈夫だ。自分の身を守ってるんだ」


 先ほどの攻撃で結構な量を吸われ、その後に魔法を放っているためかコーラルの顔色は悪い。彼女を守るためにもここで倒れるわけにはいかない。それにひたすらに生産特化でレベルを上げていた俺の魔力量を舐めてもらっては困る。速度が速まっても、まだまだ……この程度ではな!


「殺しはしませんよ。私が、この存在が熟すまで魔力を供給していただきます」


 怪しく光る青年の瞳が俺たちだけを捉えていたその瞬間、視界の外から迫った槍が無言で青年の右腕を捉えた。


「ガアアアアア!?」


 半ばから千切れた腕をかばうように後退する青年から発せられる人外の叫び。既に青年は人間を辞めているのか、獣のように吼えて距離をとった。慌てて槍の繰り出された方向を見ればクリスと、壮年の男性。聖職者というより、戦う神官、といった様相だ。


「おやおや、随分と可愛くなっちゃったね?」


「貴様がっ! 貴様が娘を!」


 こんな時でも飄々としたクリスとは対照的に、憎しみで染まった表情でメイスを構える壮年の男性。今見れば彼の目元はあの幽霊とよく似ている。つまりは幽霊となってしまった彼女は彼の……そこまで考えがいたった時、青年だったものの気配が膨らんだ。


「小賢しい! 君達は歴史的瞬間に立ち会えるというのに何を愚かな!」


「駄目……あれはなんでもない力、正義でも悪でもない、ただそこにあるだけ。彼のいっていた伝承では人間が何かを守るために呼び出したから人間を守ってくれた。でも、今は!」


 コーラルのつぶやきを採点するかのように、青年の姿が変化していく。まとう力が怪しさを増し、どうみても精霊とが思いがたい光を放つようになっていく。人間らしい部分は減り、モンスターを思わせる様相へと……それは、彼の中にあるゆがんだ欲望なのか、行き過ぎた思いなのか。


『私はっ!!!』


 青年の叫び1つ1つが、力を伴って部屋の全てを揺らす。クリスらも立っているのが精一杯という様子だ。俺も、ナイフを何とか抜くが失った体の自由と魔力は今は戻ってこない。


『うっ!? ……大人しく私に従っていればいいのだ!』


(? 一体誰に!?)


 青年の叫びは俺たちではない何かに向けられている。この場にいるのは俺たちと青年のみ。いや、正確にはもう1つ。


(古の意志は青年を良しとしていない?)


 古の意志に今どのような自我があるかはわからない。ただ、今のような規模の力であれば通常の精霊のようになっていても不思議ではない。シルバーソードを杖代わりに、視線だけは青年へと向けて叫ぶ。


「コーラル、撃て!」


「で、でも今の私じゃっ! それに何の魔法で!?」


 青年の力にすくんだ様子のコーラル。その体ははっきりと震えている。仕方が無いといえば仕方が無い。冒険者だとしても、彼女は女の子なのだ。何より、この状況は魔力に親しんでいるほど有り得ない状況だ。


「魔法使いの君ならわかるだろう!? 目の前の存在の悲しみが、目の前の出来事が如何に許されないことか!」


「精霊の……悲しみ」


 震えながらも、ぎゅっと杖を握り直したコーラルを守るべく前に立つ。ダメージ自体は受けていないクリスらが青年に襲い掛かるが、何かに阻まれるように攻撃は届かず、あるいは回避される。力が上手く制御できていないのか、青年もうっとおしそうに残った腕を振るうだけだ。


「そうだ。古の存在がどんな相手かは関係ない。自分の意思に関係なく、あんな姿になっていることを誰が喜ぶ!? 少なくともあそこにいる存在はあんな姿、望んじゃいない!」


 確証は無い。ただ、武具を作るたびに微笑みかけてきた精霊たち。街や自然にもいるという精霊は人に寄り添って来た。魔物とだって分け隔てなく過ごす世界と共にある者、それが精霊だ。その上位存在と言える古の意志が、あんなにゆがめられていいはずが無い。


「そうなの? 悲しいの?……そう、皆も、悲しいのね」


 嵐のように飛び交うガラクタを、シルバーソードで払い、体で受け、彼女をガードする。もう少し戦いに向いた武器を抜いておけばよかったと思うが後の祭りだ。と、コーラルが雰囲気を変える。見ればその姿は何かを掴んだ熟練者の姿だ。


「お願い! 力を貸して! みんな!! 森の魔手!(フォレストハンド)


 眠れし森を掲げ、コーラルが叫ぶ。唱えた呪文は木々のツタや枝で対象を縛る魔法。だがここは明らかに石作りの空間。熟練した魔法使いでも大きな効力は発揮し得ないだろう。青年だったものも、それがわかるのかいやな笑みを浮かべるだけだった。


 ……その瞬間までは。


 周囲に転がる、がらくだであった様々なものの中で無事だったもの。それは書物。様々な伝承を伝える書物達。この世界でも紙は元々、植物だ。そして知識の源であるそれは青年も精霊を失い、劣化することは回避したかったのか、手付かずだった書物の中には精霊が隠れ住んでいた。


 コーラルの声に答え、書物だった物が元である木々たちへと姿を変え、ツタとなり、しなる枝となって青年だったものに絡みつく!


『なんだと!?』


「コーラル、飲み干せ!」


 突然のことに薄まった気配に、俺は在庫の少ない薬剤を仕舞っているタブから素早く途中で渡した物より魔力回復に特化したポーションを投げ渡し、コーラルも迷うことなく飲み干して杖を構える。理屈はわからないが、飲んだ本人だけじゃなく一定範囲の味方も回復するとっておきだ。今考えれば、あふれる精霊が周囲も回復するっていうことなんだろうな。


「どちらかが強制できるような物じゃない、物じゃないの!」


 コーラルが叫び、特定の魔法ではない純粋な魔力の刃が放たれ、身動きが取れない青年だった物を貫き、その動きが止まった。



 静寂。力を一時的に取り戻している俺たちの呼吸と、どこかに積みあがったガラクタが落ちる音だけが静かに空間に響く。


『私は……一体……ああ、すまない……』


 4人の視線の先で、誰に向けての懺悔なのか、何事かをつぶやき、青年は崩れ落ちた。その体から力が空中へと躍り出、拡散していく。きっとこれが古の意志だった何かなのだろう。


 俺とコーラル、そしてクリス達がしばし、その光景に見とれていた……



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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

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