032.「ガイストールの闇-6」
クリスと話をした部屋に向かう途中、何人かから視線を向けられた気がしたが、はてさて? 入室のために、ノックをしようかという段階で中に何人も人がいることが気配でわかる。この気配を感じるっていうのも謎だよな。スキルが特にあるわけじゃないんだが……一定以上のレベルかステータスがあればどうにかなりそうだ。
「失礼します」
念のため、口調を改めて入室する。一応、今回の目的というか流れは敬虔なる信徒が、なのでそれっぽくだ。ドアを開ければ相変わらずの棚、棚。
そして、クリス以外に見覚えの無い男性が3名ほど部屋にいた。全員の視線が一斉に俺たちに集まる。特に害はないとわかっていてもこういう時って緊張するよな。
「ああ、来たね。そこにでも座ってくれないか。ん、それはアレかい?」
「ええ、そうです。今朝のアレと同じようです」
さすがの目ざとさか、コーラルが持っている布の中身を見ずとも察したようだ。こちらを見る彼女に頷き、クリスに渡してもらうと気のせいか、他3名の態度が変わった気がする。
「なるほど、それっぽいね。いやー、良い仕事するね」
布をめくり、中身を確認した笑顔のクリスの真意は読めないまま、俺達は改めて促されて椅子に座る。目の前には形としては普通の四角いテーブルがあり、大きさはかなりの物。具体的には向かいの相手に手が届くどころか上に寝転がれそうなぐらいは大きい。正面にクリスともう一人、左右に一人ずつ、俺達は手前に、といった具合だ。
「2人に紹介しておこう。彼らは私と同じ、この教会の幹部さ。幹部といっても、儀式を仕切ったり式典に出たり、とかまあ、4人ともある意味雑用だよね」
「それで、彼らが見つけたというのは本当なのかね?」
3人のうちの1人、ロマンスグレーの髪の毛をふさふさ生やした壮年の男性のつぶやきには疑わしい、という気持ちが混じっているのがわかる。まあ、怪しいのはわかるが……。
「本当でしょう。現に今だってもう1個持ってきたではないですか」
「誰がというのはどうでも良い。本題は何のために誰がこれを設置して行っているかだ」
続けて答えたのはもう一人の金髪の若者。クリスより若く、20台前半といったところか。後に話を切ったのはくたびれた研究者然とした男性。イマイチ年齢がわからないが、若くはなさそうである。なかなかバリエーションに富んだ組み合わせだ。
「確かに、今の場では誰が、はたいした問題ではないよね。ただ、これまでの不可解な事件の原因であろう物を彼らが持ってきてくれたのは間違いはないよね?」
クリスの言葉に、不承不承だったり、明確にであったりと違いはあったが3人は頷く。見ている限り、4人の中ではクリスが若干上というか、決定することが多い感じなのだろうか? わざわざ俺たちが解決のための一手を手に入れたことを強調してくれるのはありがたいが、何かシコリなどが残らないといいのだが。
「確かに。わかったこととしては先ほどの2つ目とあわせて考えれば間違いなく……設置者は精霊をゆがめている」
(ゆがめている……?)
「駄目だよ。わかるように言ってあげないとね。万物に精霊はある。魔法も、剣も、川も風も火山ですらそうだ。それはファクト君たちも知っているだろう?」
「魔法が力を持つのは精霊が力を貸してくれるから……」
「そう、魔力が精霊と同一視されることもあるのはこの所為なんだ。実際、精霊によって魔力が生まれるのか、精霊そのものが力の塊なのか、わかってないけどね」
いわゆる鶏が先かって話だな。実際、精霊がいない場所がもしあるとしたらそこでは魔法もスキルも使えない。ゲームでは何か所は心当たりがあるけれどこの世界ではどうだろうな。
「今回のこれは、精霊のあり方をゆがめて、何かを収集している、そう言いたいのか?」
「我々としては許しがたい暴挙ですね」
壮年の男性と若者が苦々しい表情で言い、クリスの手元の水晶球を眺めている。今のところ水晶球は変な動きをしていないけれど、これでもわずかには吸っているはずだ。
「そ、私たちはこれを止めなければいけない。ファクト君、今後も頼めるかな? 奇跡を起こした君だ、大丈夫でしょ?」
「ご期待に添えれるよう、祈りとともに精進いたします」
クリスの言葉に恭しく頭を下げ、申し出を受ける。元々、そういう依頼なのだから何の問題も無い。問題があるとしたら他の3人だ。彼らにしてみれば俺は部外者も同然。実際、壮年の男性は俺たちに任せるのが不満な様子だ。それと比べて若者は興味深そうにどちらもちらちらと視線を向けてきていた。
「話は終わりか? 私は研究に戻る」
「うーん、ミスト君は愛嬌が無いのが残念だね」
年齢不詳の男性は興味がなさそうな態度で立ち上がるとそのまま出て行ってしまう。そして話し合いはクリスのそんな評価とともに終わりを告げた。
「今日も夜、動くんですか?」
「ああ……今夜はコーラルも来て欲しい。昼間みたいに場所を探して欲しいんだ」
俺も魔法は使えないわけじゃないが、コーラルほどの敏感な感覚は持っていない。今から取得するのがレベル的に難しい以上は使える人に頼るしかないのだ。ステータスを開きながらという手もあるにはあるが、それでは不安である。
「うっ……わ、わかりました……」
うなだれた様子でベッドに座ったまま下を向いている姿に、罪悪感が湧きあがるがこれも仕事ということで勘弁してもらおう。可愛い姿ではあるが、それはそれ、である。その後は適当に他の信徒の話を聞いたりして時間をすごし、夜。
「さて……今日はこっちで」
俺が進むのはメインではない様々な迂回用の通路。ここは各人の部屋があったり、ただただ通路がつながっていたりする。何かの儀式に使うのかもしれないし、改築を続けたゆがみなのかもしれない。その分、何か隠れてやるならこっちだろうなと感じていた。
「なんだか靄がひどいですね。あまり遠くが見えないです」
「ああ。これでは不審者がいても……ひとまず灯りを増やすか」
今日は冷えるためか、昼間の雨が靄になってきていた。すぐ先も見えないというほどではないけれど、人間でも幽霊と見間違えそうなほどには、建物にも靄が入り込んでいる。
1時間ほどあちこちと歩き、壁を調べたりとで思ったより移動していないことに内心嫌気が差してきた頃、コーラルが歩みを止める。
「? ファクトさん、そこ怪しくないですか?」
「む? これは……?」
とある壁際に、靄が結露し一面濡れていた。それだけならそんなこともあるかと思うようなことなのだが、とある部分におかしなところがあった。そこだけ、結露していないのだ。
近づいて手を付けてみると、ウィンドウに浮かぶ素材の名前は違う石材だった。ちょうどドア2つ分ぐらいの場所だけ、周囲と素材が違う。見た目は同じだが……ひどく怪しい。
これはと思い、2人で周囲を観察していくと、床に置かれたオブジェをどかすことで何かの仕掛けが見つかった。間違いなく、これ関連だろうな……。その仕掛けを動かすと、壁の境目にくぼみが出来る。そこに手をかけて横に動かすとゆっくりと開いていく石の扉。その向こうには空間が広がっていた。
手の中の灯りが地下へと続く階段があることを照らし出していた。
「大分深そうだな……閉めていこうか」
「そうですね、何かがここから外に出て行ったり、誰かが中に入ってしまっても大変です」
光源魔法を少し先に投げてみるが、ゴールは見えない。覚悟を決め、2人で中に入り、壁を元に戻す。この音が下に聞こえているかどうかは賭けだな。
「さあ、鬼が出るか蛇が出るかってな」
「それ、なんです?」
「俺の故郷の格言さ。どんな厄介ごとが出てくるかってね」
杖の先に光源魔法を灯すコーラルの疑問に答えつつ、俺も同じように松明代わりに取り出したナイフの先に魔法を灯して歩き出した。たぶん、碌な事にはなってないんだろうなあと思いつつ。
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