002.「新天地にて-2」
今日明日は何度か更新予定です。
地球とは恐らく違うそこで目覚めた俺。あらゆるものが俺に示している。ここがずっとプレイして来たマテリアルドライブと似て非なる世界だが現実である、と。さすがに1000年以上違うとなると色々と問題がでそうだ。
「どうした?」
「あ、いや……誰かが数え間違えて何年か飛んでたみたいだな。さっき他の暦があるみたいなことを言っていたけど、マテリアル暦以外にあったのか……」
俺自身は、ゲームだったころのMDでの暦しか知らないからな……確かマテリアル教とかいう宗教もあったはずだ。某宗教のような西洋的教会な建物が目立つ設定だった。確か、万物には精霊が宿っていて、土の恵みも、鉄から作った武器の鋭さも、同化している精霊のおかげなのだという話。見た目のわりにどちらかというと日本の八百万な考えが混ざっていた記憶がある。これはどうやら、他にも知らないとおかしい常識がごろごろとしていそうだ。
「俺もそうと言えばそうだが……田舎じゃ誰に税を納めるか、ぐらいだもんな、無理もない。どこに住んでいたか知らないが、このあたりは帝国の支配も緩かったらしいしなあ……帝国、知ってるよな? しっかり知らなそうな顔だな。俺も詳しくないが……」
こちらの顔を見て悟ったらしいガウディから語られた内容からすると、かつて大陸の多くを支配下に置いたグランド帝国という国があり、それが今の暦のグラン暦を作った国なのだという。栄華を極めた帝国も結局は分裂していくつかの大きな国が残り、それ以外の小国が乱立していることと、モンスターが場所によって何故か活発になっていること、それによって戦争同然の紛争が各地で起きてることといったことが分かった。
ちなみにグラン暦だと124年らしい。典型的な一代で成り上がり、二代目、三代目で維持できなくなってきたパターンだろうか。庶民にゃ違いは税金の納め先の名前が変わったり、モンスターに注意して外出するぐらいなもんだ、とはガウディの弁。
「なるほど。魔物も出るし国同士がどこまで平和かを考えると武具の需要は天井知らず、か」
「出来れば人じゃなく、魔物にだけ向いてほしいが……どうなることやら。で、ファクトはどうするんだ、旅を続けるのか? 俺は配達が終わったら自分の工房に戻る予定だ」
言われ、考え込み始めた。俺はこの世界で何をしたいのだろうか? 何が出来て、何ができないのだろうか? 状況に対応するのに必死過ぎて、よく考えていなかったな……ただ、ひとまずは、だ。
「村じゃ鍛冶職人の真似事をしてたんだがな、毎日農具の修理ばかりで飽き飽きさ。それが嫌で飛び出してきたけどそれだけ、特に今のところは……住む場所と、出来るなら工房が持てればな」
何をするにも拠点は必要だ。俺自身は見えた通りの能力ならゲームとほぼ同じ……鍛冶を中心としたアイテム作成能力を持っているはずだった。それをうまく使えば暮らすぐらいは出来るだろうと思っている。問題はそのための拠点をどう手に入れるかだ。
「なるほどな。目はよさそうだし……腕っぷしもある。冒険者として稼いでもいいかもしれんな。これから行く街には顔が効くから多少は手伝えるが……元手はあるのか?」
ガウディの懸念はもっともだった。直接現金を出すのは問題がありそうに思った俺は、さも身に着けてましたという風にアイテムボックスからこっそりと銀塊を取り出した。ゲームでは外れのプチレア、なんて呼ばれてるあまり値段の付かない換金、あるいは素材アイテムだ。
「……それはどうやって?」
「? 村の山を掘っていたらたまたま銀鉱脈に当たってね。何か問題でも? あ、銀って今、あまり価値が無いのか? だったらまだあるけど」
そういってから、逆らしいことを肌で感じた。真剣な表情でガウディが俺の手から銀塊を受け取って眺め始めたからだ。一通り眺めた後、ため息のように大きく息を吐くガウディ。なんだか既に疲れている。
「逆だ。ファクトの出身地がどこかは知らないが、街中でウチの山から出ました、っていうんじゃないぞ。すぐに自警団どころか、貴族の兵が飛んでくる。そして、山ごと堀尽くされるぞ」
ガウディが言うには、長い人類同士やモンスターとの争いで資源は湯水のごとく消費され、今となってはモンスターの多い山の中や洞窟なんかにいかないとまとまった量の鉱脈は見つからないらしい。
ましてや、通貨の1つである銀貨を作るのに必須な銀は、金同様、高騰を続ける素材の1つなのだそうだ。銀塊そのものや全部銀製の武器や装飾品なんかは上等の贈り物になるらしい。
(資源不足か。さっきのロングソードも持ちが悪いわけだ……大地の精霊が少ないのか?)
元々省エネ武器等と呼ばれていたちょっと残念な性能の武具が出来上がるが、スカスカな中身とまではいかなくても予想よりもかなり下の性能だったのは間違いない。他にも、妙に世界の気配が薄い気がする。
「ありがとう。気を付けるよ。だとすると困るな……現金は路銀程度にしか持ってないんだ」
「まあ、そうだろうな。なぁ、銀塊を売りつけられそうな相手に心当たりがある。預けてみないか?」
冷静に考えれば、ガウディが信用できる相手かどうかわかるほどの付き合いは当然ない。だけど、ここは信じておきたかったし、銀塊の1つがとられたところで痛手ですらないのでいいかなという思いもあった。
頷き、銀塊を渡した後に、これから行く街のことなどを聞き出していると視界に壁らしきものが見えて来た。大よそ高さは5メートルほど。見張り台らしきものはない。大きな門が1つ、片開きで俺たちを待ち受けていた。
「ようガウディ。ご苦労さん」
「ああ、今回は大荷物さ。運ぶ苦労も考えて欲しいぜ」
顔馴染みなのだろう、気さくに門番達とガウディは挨拶を交わしている。俺は待ちぼうけ……なのだけど、設定どおりの対応をしないとな。そうでないと俺がこの街に入れない。
「こいつは知り合いの息子のファクトだ。鍛冶職人でな。俺の話を親から聞いたのか、村から出てきたんだよ。手ごろな武器作りや生活用品の簡単な修理とかなら出来るらしい。ここで修行がてら金物屋でもやりたいらしいんだ」
門番の探るような視線に気がついたガウディが打ち合わせどおりに語る。俺もまた、ぺこりと頭を下げて出来るだけ無害アピールである。今回はそれよりも門番の気を引く部分があったらしい……それは。
「そいつは朗報だ。今は街に一人もいない鍛冶職人! いくらいても足りないし、この街に一人でも鍛冶職人がいることになればガウディだって武具作りに少しでも専念できるじゃないか」
笑う門番の言葉から、この街の置かれた状況がなんとなく見えてきた気がした。それは戦いが多いということだ。戦争なのか、モンスター相手なのかはわからないが、ガウディは修理も行っていたのだろう。何故一人もいないのかは後で聞くとしよう。
「そういうこった。よろしく頼むぜ」
「ファクト君、君の未来が明るいことを祈るよ。ようこそ、グランモールへ!」
引き締まった顔になった門番から挨拶を受け、俺も丁寧に返す。グランモールの街に入ると、石畳の道がかなりの範囲で丁寧に広がっているのがわかった。
少し進むと広場のような場所に出る。馬車や人が行き交い、道の脇には露店が立ち並ぶ。食料品や衣服、雑貨が主なようだ。武具を扱っている店は見たところ無いように見える。先ほどまでの話と少々矛盾があるようだが?
ガウディにそれを問うと真面目な顔のままである方向を指差した。
「武器を売る奴がいないわけじゃない。すぐに売れちまうのさ」
視線の先には片付け中の店。看板には在庫や値段が書かれていた。だいぶ量は少ない……が具体的にはわからないがこのあたりで作れる物と考えると値段が高い気がする。
「需要は多いが、作るための金属を手に入れるには街から離れるしかないからな。世間じゃ鍋に穴が開いたってなんとか使ってらぁ!」
そう笑うガウディの声を聞きながら、俺は1つの事実に気がつく。つまり、その中でもガウディにこれだけの武具を依頼できるほどの経済力を持った人間がいて、戦力を整える必要がある状況がどこかにあるということ。
どうやら街に入る前に感じた懸念は気のせいどころか、思ったより火種は大きそうだ。それでも平和すぎるよりは動きがあったほうが何かと便利だと思うことにする。
馬車専用らしい部分を進み、ガウディに案内された先は……大きな屋敷であった。
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