021.「北の地で-3」
夜は短いようで意外と長い。その分だけ起きていれば、の話ではあるが……。
「おい、聞いたか? 地竜が街を襲ったって話」
「ああ、聞いた聞いた! しかも、倒されたんだろ?」
(噂の伝達が早いのか遅いのかがわからんなあ……)
階下の客たちがそうやって騒ぐのを、俺は2階で強め酒をちびちびと飲みながら観察していた。4人での宴会染みた食事は終わり、限界な若い2人を宿に置き、後は大人2人の時間というところだ。ジェームズはこの場にはいない。夜の蝶が多い方へと行くというから楽しみながらもしっかりと情報を集めてくると信じたい。
「でもよう、肝心の倒した奴が行方不明だっていうぜ?」
「まじかよ、俺だったら自分も切り付けたぜって自慢しちまうぜ。だって地竜だろ?」
なおも続く話は段々と他の雑談も混ざった物になっていく。どれだけが本当のことかはわからないが、当たりに近い話が少しは聞けそうだ。やはり、俺たちの事はしっかりとは伝わっていないらしい。確かに黙って街を出てきたのだから、何らかの騒ぎにはなっているだろうがそこまでだ。ただ、怪我が悪化して死んだ、とは思われていなくてもややこしいことには違いない。
さりげなく聞き耳を立てていると、男2人の声が他にも聞こえたのか、俺も聞いたぞ!などと乗ってくる相手が増えてきた。大体が赤ら顔だ。これはまずい、と思ったが話は妙な方向に動いていた。
「違うって。金色の髪をした大男が素手でふっ飛ばしたんだって!」
「いやいや、赤く目を光らせた魔女が魔法で切り裂いたって言うぜ?」
「なんだお前ら、全然違うぞ。究極の技術を身につけた不老不死の職人が勇者に武器を授けたって話が本当に決まってる!」
(……俺が言うのもなんだが、この世界の冒険者はゴシップ好きなのだろうか?)
酒の席での噂話など適当に盛り上がればいいという感じだからな、こうなるのも自然と言える。もちろん、どれが正しい話なのか興味を持つのは儲けるためには必要なのかもしれないが……楽しんでこそ、だな。
いつの間にか酒場の一角を完全に巻き込んだ、【誰が倒した】論議は、酔っ払った冒険者のテンションと相まって、たまに混ざる本当の話、大多数の違う話、とが完全に混ざり合って良くわからないことになっていた。これで上手く噂が広がれば良いだろうが、そうもいかないだろう。
「兄さん、下の話が気になるのかい?」
「ん? まあ、ね。地竜が倒されたとなれば鱗だなんだと全身金になったはずだ。その辺はどうなったかなってね」
一人グラスを傾けていた俺の隣に来たのは白髪の混じり始めた壮年の男だった。遊び人という感じではないが、真面目にコツコツ働いている雰囲気も無い、酒場にある意味相応しいような姿である。ちらりと見えた相手のグラスには俺より濃そうな液体が半分ほど。
「確かにな、そのうちこっちにも加工依頼が回ってくるだろうさ。話半分だとしても地竜の鱗は半端な道具と腕では加工自体出来ないっていうしな」
「このあたりではそのぐらいの希少な素材が扱われるもんなのか?」
ゲームでも一定以上レアな素材は確かにスキルも一定レベルが必要だ。足りなければ極端に成功率が下がるという仕様だから自然とスキルレベルも上げていくのが常とう手段。そう考えるとこの街にはそれが出来るだけの職人が複数いるということだ。
「ああ、値段ははるがそれなりにいるはずだ。頼む機会はそうそう無いがな」
何がどう気に入ったのかはわからないが、相手の酒は進んでいるようだ。俺もステータスの影響か、あまり酔う様子が無いので相手にお代わりと、同じものを頼んでみる。風味は楽しめそうである。
新しく注がれたグラスを打ち鳴らし、乾杯とした。
「この街は初めてみたいだな。雰囲気でわかる」
「まあな。良い儲け話でもあればいいんだが……採取は少し、飽きた。討伐か……あるいは」
男は街の人間であろうとあたりを付けた俺が話を振ると、考え込む仕草をした後、近くにいた数名の男達を呼んだ。どうやら飲み友達というかそんな感じらしい。
「儲け話ぃ? そんなのがあれば俺たちだって……いや、まあ冒険者が好きそうな話はあるがな」
「ほほう? ロマンあふれる話になりそうだ」
俺の風貌から冒険者だと見抜いた相手の話は、一杯おごっても惜しくないような有意義な話だった。その話とは、ドワーフのもの。やはり、ドワーフそのものは街でも知られているらしく、たまに街に商売でやってきてはその武器は高値を呼ぶらしい。どうも、街にいる著名人の主催オークションらしいのだが……。
問題はドワーフはどこから来るのか?ということだった。過去には後をつけたりといったこともあったようだが、見失ったらしい。それ以後、そんなことをするなら売らないぞと言われてしまえば追及の無くなる、とそんな話。
「そのオークションに出せるような武具が手に入れば、値段は天井知らずだろうな。それに見合う性能の物が手に入れば、だが」
「まあ、普通に考えたら売らずに使うよな」
つまりは、そういうことである。わざわざ売りに出す人間もあまりいないために高値の循環が続いているわけだ。それすらもまた、酒のつまみになっているようだった。
(ドワーフの里に先に顔を出すべきか、コネのありそうな主催者に当たるべきか……)
俺の心の天秤は言うまでもなくヒートダガーがあれば話は聞いてくれそうなドワーフほうへと傾いていた。まずは里を目指すことにしよう。そこで良い物が手に入れば売ることも考えていいかもしれない。
「他にはそうだな……ありきたりと言えばありきたりだが……」
さらに続く話からは、近くにダンジョンや遺跡は結構あるらしく、昔のモンスターの住処だったり、人間側の砦跡だったり、詳細不明の遺跡なんかもあるらしいことがわかった。詳細不明というのが誰の手によるものか不明だったり、今も階層が増えている遺跡だというのだから面白い。そういった物は古代文明の遺産だとか皆は呼んでいるらしい。
「小銭稼ぐならやっぱり山よ山! こいつなんかいくらあってもたりねーぜ」
そう言ってヒゲの長い冒険者が取り出したのは黒い石の塊。何かの鉱石のようだ。色合いには覚えがあるが……。ポピュラーなものなのか、特に警戒せず手渡されたその鉱石を手にすると、ウィンドウに━ジガン鉱石━と名前が出てきた。
確か、鉄系統のスチールなんたら、の1段階上の性能を持つ武具達が作れる素材だ。ゲームだとこんなごつごつした感じではなく、もっと滑らかな物だったから気が付かなかったな。軽さはかなりの物で、乗り物に現代で使えば軽量化革命まったなしというぐらいだ。
「へー、思ったより軽いんだな。簡単に取れるのか?」
「ああ。近い場所や表層は結構とっちまったからな。少し奥に行くか、割れ目なんかを探さないといけないだろうが、それでも結構見かけるぜ。問題はとるほどかさばることさ」
この辺りの冒険者にとっては、ついでに手に入れるぐらいポピュラーなものなようで、どこの山にもあるらしい。逆に見つかりすぎて持ち帰る量の加減が難しいわけだ。
そうして話を聞いているうちにだいぶ時間は過ぎたようだ。1階の人も多少減ったようだし、みんな酔いも回ってきたように見える。そろそろ帰るのがちょうどよさそうだ。
「また飲める日を楽しみにしてるよ」
「おう。儲かったら奢ってくれ」
豪快に笑う男達と別れ、店の外に出ると冷えた夜の空気が全身を包む。やはり、季節は夏を過ぎて段々と冬に近づいているようだ。
(さて、ジェームズはもう戻っているかな?)
朝帰り、なんてことはないと信じつつ宿に戻りながらの俺が見たのは、泥酔してふらついている彼の姿。やはり、酒は怖いなと思う夜であった。
意見感想、その他評価等いつでもお待ちしております。




