騎士は決意する
転。
少年が起きたのは、国王とカティの問答が終わり、隷属魔法をかけた直後であった。
二人を寝室に運ぼうというときに、少年は目覚めたのだ。
少年が起きると、周囲を見まわし、そして倒れている女性を見てから、当代の賢者に尋ねた。
老齢で威厳のあるエルフを、責任者のような立場にあると推測できたのだろう。
「……ここはどこで、あなた方は何が起きたのか分かりますか?」
聞いたことのない発音や言葉。
しかし、不思議とその場にいた者は彼が何を言ったのか理解できた。
「ここはオニルミア王国の王城。貴様は魔族と魔王討伐のために喚び出された。貴様は魔王を命を懸けて倒さねばならない。」
老エルフの、明らかに侮った発言であった。
言葉に知性や理性は感じられるものの、知らない言語を話し、華美でない、見たことも無い服を着る彼を、下に見た発言だった。
カティはそれ見て、賢者の意味を調べたくなった。
しかし、少年は軽く驚きの反応を見せた後、すぐに答えて見せた。
「……多少、理解しました。しかし、詳しい状況が分かりません。自分に何が出来るか分かりませんが、やるべきことはやりましょう。」
カティは驚いた。
あれだけ侮られた発言をされ、反発もせず、かつ、冷静に状況を受け入れたのだ。
もしかしたら言葉がうまく伝わっていないのかもしれないが、よく見ても、彼は14,5才の少年。
とても同年代の者ができる反応とは思えなかった。
しかし、周囲はその反応――従順と判断したのだろう――に満足気であった。
「ふん、分かっているではないか。貴様は我らに従う他無いのだ。」
「これで我らの宿願も近い!」
「ハッハッハ。頼むぞ勇者殿。」
それらの暴言や無責任な言葉を聞いてもなお、少年は特に表情を変えなかった。
――もしかしたらとんでもない人物を喚び出したのではないか。
賑わう中心の外で、共に召喚された少女が運び出される。
カティは、召喚された少年に興味を持ったが、未だ寝ている少女と共にその場を後にした。
ふと、礼拝堂を出る時に少年と目があった。
その時に初めて、カティは真剣な少年の目を見た気がしたが、それが何を意味するか、彼にはその時分からなかった。
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カティは少女が眠るベッドの脇で、読書をしながら起きるのを待っていた。
脇に彼女に与えられた侍女と、医師がいるだけで、部屋は閑散としている。
勇者とされた少年と、扱いは雲泥の差であり、
粗略とは言わないまでも、とても高待遇とは言えなかった。
と言っても、少年の方もそこまで大した待遇を受けていないと聞かされ、多少、幻滅したのだが。
カティは本を読みながら、今後の行動を考えていた。
共に魔王を倒しに行くのである。
囮役であり、期待されていないとは言え、ただやられるわけにはいかない。
何より彼は、彼女を生かすことを責務と考えていた。
――まず、彼女の力を知らなければならない。
老エルフは彼女を力がないと評していたが、ならばあの神の僕が“本当に面白い”と表現するわけがないと思っていた。
――場合によっては、やはり神の僕に接触するのも止むを得ないだろう。
そう考え、カティは侍女や医師と共に、彼女が起きるのを待っていた。
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彼女が目覚めたのは、それから数刻後だった。
既に夜半に近い。
しかし、彼らは彼女が起きるまで待っていた。
もっとも、カティが寝ていないのに、それより身分の低い侍女や医師が寝れないというのもあるが。
「気分はいかがでしょうか。」
カティは少しの緊張を持って、話しかける。
しかし、彼女は目の焦点が合っておらず、ただカティを見つめるのみだった。
「……大丈夫だろうか。」
カティは医師に問う。
「……おそらく寝ぼけているのではないでしょうか。」
医師の答えは実にあっさりしていた。
寝起きが弱い人間は一定数いる。
少年の目が覚めた直後の問答を見ていたカティは、てっきり彼女も似たような反応を示すのではないかと思っていたが、全く違い、それはある意味普通の反応であった。
そんなやり取りをしているうちに、彼女の意識も徐々に覚醒したのだろう。
急に周囲を見渡し、カティらの顔を確認すると、驚いた表情を見せる。
混乱しているのだろう。
カティはそう判断し、優しく話すよう努めた。
「大丈夫でしょうか。ここに貴女に危害を加える人間はおりません。それよりも状況を説明してもよろしいでしょうか。」
「!……えっ!はっ、はい!」
「貴女は我が国……いえ、私たちの世界と言った方が正しいでしょうか。とにかく貴女の世界からこちらに召喚されました。召喚の目的は魔王の討伐です。……大変勝手なことですが、貴女には魔王の討伐が使命として課されています。」
「えっ!魔王!?討伐!?」
「混乱されているのは無理もないと思いますが……」
その後、カティは空が白み始めるまで説明を続けた。
この世界の歴史。
100年前の魔大陸の出現。
魔族、魔王の侵略。
そして神の僕への接触の成功。
今回の召喚。
そして、勇者である少年と、彼女の役割も。
包み隠さず、知る限りの全てを伝えた。
最初は慌てていたが、彼女は話をするにつれ徐々に落ち着きを取り戻し、状況を理解していった。
それが再び慌てだしたのは、もう一人の少年の特徴を話したときであった。
「お兄……あ、兄も来ているのですか!?無事なんですか!?」
「兄?一応は受け答えもしていましたし……彼は貴女の兄上でしたか。」
彼女はほっと胸をなでおろす。
最初は慌てていたものの、簡単に落ち着きを取り戻し、そして現実を受け入れたことなどは、確かに似ているように思われた。
そしてカティは礼拝堂を出ていく際に少年が見せた強い瞳の意味を理解した。
おそらく頭のいいだろう彼は、連れて行かれる妹を見て、しかし、ここで声を上げるのは得策ではないと考え、どのように運ばれるか見極めていたのだろう。
そこで彼が何をどう判断したのかは分からない。
そう考えたカティは後で勇者の少年と連絡を取ろうと考えた。
――おそらく難しいが、と考えながら。
話が一段落したところで、カティは少女――アヤと名乗った――に尋ねた。
今後に関することである。
「ところで何か体調等変わったところはないだろうか。」
カティが話を聞くと、アヤの世界には魔法や魔物はおとぎ話の類であるという。
しかし、この世界では全ての生物が何らかの魔力を持っている。
召喚の際にそのあたりが何か変質していないかと思い、カティは尋ねた。
何より華奢な彼女の体形を見て、近接戦闘が出来るとは思っていなかったため、魔力の発現にかけたのである。
「何となく、体調に違和感があるんですが……よく分かりません。」
「む、そうですか……。」
カティは光魔法は得意としていたが、他の属性の魔法について詳しくなかった。
そもそも光魔法は弱い魔法ならば無効化する特性があるため、その使い手であるカティは、知識としては他の魔法を知っていても、使い方は分からなかった。
「ならば、魔術師にその辺り聞いてみましょう。」
そこで、カティは魔術師に聞くことにした。
魔法の専門家なら、彼女の異変や魔法について知っているように思われたからだ。
彼女は了承し、そして、聞く。
「あの……兄には会えないのでしょうか?」
「……。」
カティはすぐに答えられなかった。
勇者とその囮。
表と裏、光と影。
力があるならまだしも、それが不明、いや、重鎮のいる場で“力が無い”と判断された彼女が簡単に会えるとは思えなかった。
むしろ、カティは、勇者の方が死力を尽くせるよう、変なことを考えさせないよう、会わせないのではないかと考えていた。
「……出来る限りの、手配は致します。」
「そうですか……。」
結局、彼らの望みは何一つ叶うことが無かった。
彼女の力に関しては魔術師に聞いても分からず、勇者の少年にも会うことは出来なかった。
兄にも会えず、自分が何が出来るかもわからず、周囲からは奇異の目で見られ、隷属の魔法があるため自由も効かない。
異世界の地で彼女は日に日に元気をなくしていった。
「やはり、アレに頼るしかないのか……。」
憔悴する彼女を見て、カティは、遂に決意した。




