フォーグレンの神官48
「どうぞお座りください」
ライオンの鬣のような髪型の男―キィラはそう言うと二人に椅子をすすめた。カネリは遠慮なく椅子に腰かけ、タリザは緊張した面持ちで椅子に座った。
円卓を挟み、水の大神官が真向かいに座る。年頃は七十歳ほどで、髪は白髪だった。前髪を後ろに撫でつけ、人のよさそうな笑顔を浮かべている。
「さて、カネリ。こんな夜更けに御苦労じゃったな。その子はお前の部下じゃな?」
「はい。下級神官のタリザです。来年、上級神官になる予定の優秀な者です」
カネリの言葉にタリザは顔を赤くなるのがわかった。優秀などと、今までカネリから言われたことがなく、こそばゆかったからだ。
「タリザ。大神官様にご挨拶を」
「あ、え」
タリザは慌てて、椅子から立ち上がると、頭を下げた。
「火の神殿の下級神官、タリザです。はじめまして」
「ああ、はじめまして。わしは水の大神官のルイじゃ。そして、こっちのライオン頭の男がキィラ、あっちの目つきの悪い長髪の男がネスじゃ」
「ライオン、目つきが悪い……」
ひどい紹介だなと思いながらタリザは苦笑せずにはいられなかった。
「大神官様、目つきが悪いだなんてひどいいい方ですね」
壁によりかかっていたネスはそう言いながら、円卓に近づいてきた。
「タリザ、よろしくな。俺はネスだ」
「タリザさん、私はキィラです。よろしくお願いします」
「なるほど。キィラ、ネス、客室を用意するのじゃ。二人にはしばらく神殿に滞在してもらうからな」
カネリが手渡した書簡を見て、ルイは意味深な笑みを浮かべる。
「……どういうことですか?しばらく滞在するとは?」
予想外のルイの言葉に、カネリは眉をひそめた。書簡を渡したらその足でフォーグレンに飛んで帰る予定だった。タリザもその予定だと思っていたので、カネリ同様腑に落ちなかった。
「書簡には時期大神官として、カネリにシュイグレンの王族のことや、水の神殿のことを学ばせるようにと書かれておった。大神官になると神殿を離れられないから。キィラとネスに明日から城や神殿を案内させよう。カネリ、タリザ、今夜はゆっくり休むがよい」
「……?!」
「そういうことか。カネリ。安心しろ。俺達が十分案内してやるから」
「私がくつろげる客室を準備しましょう」
ネスは嬉しそうな笑みを浮かべ、キィラは楽しげにそう言うと客室の支度のため本殿を出ていった。
「さあ、明日は何しようか」
ネスがそうつぶやくのを聞きながら、カネリは頭痛を覚えた。そしてその隣のタリザは初めてのシュイグレンで、しかも滞在することになり、驚きと不安でいっぱいになるのがわかった。