フォーグレンの神官47
ここはどこ?
僕はいったい?
ターヤは目を覚まし、あたりを見渡す。
そして自分が柔らかな肌触りの草の中に寝ていることに気がついた。
空を見上げると青い空がどこまでも広がっている。
「起きたか?」
ふいにそう声がして、隣に真っ赤な髪を逆立てた浅黒い肌の男が現れた。男はどことなくロセに似た顔立ちで、ターヤは男に親近感を覚えた。
「……あなたは誰?なんで僕がここに?」
ターヤはなぜ自分がここにいるのかわからなかった。覚えているのは真っ白の仮面をかぶった男、そして、自分に呼びかけた声だった。
そういえばこの人の声、似てる。
「ワタシか?ワタシは火の神だ。ついでにいうなら、ここはどこでもない。お前の心の中だ。お前の体はフォーグレンにある」
「フォーグレン?!」
確か自分はシュイグレンにいたはずだった。
「ロセさんは、セン様は無事なの?!」
「心配ない。お前の仲間は無事だ。タリザの娘よ。ワタシはお前に力を貸してやった。次はお前がワタシに力を貸すのだ。ワタシを解放しろ」
ターヤは火の神をじっと見つめる。
記憶はないが、助けてもらったらしい。
確かに仮面の男に襲われたのを覚えていた。
センもロセも無事のようだ。
しかし、火の神を解放するわけにはいかなかった。
世界を破滅させるわけにはいかない。
「できない」
「……そうか。まあ。そういうと思ったがな。タリザの娘よ。お前の父親がフォーグレンに戦いを挑むぞ。シュイグレンとフォーグレンの戦争だ。楽しいことになりそうだ」
「父親?どういうこと?」
「そうか、お前は知らないのか」
火の神は楽しげに笑った。
「お前に教えてやろう。お前の生まれる前の話を」
「?!」
ターヤが言葉を挟もうとすると、火の神が燃え上がる。そして火の龍に変化した。
「なっつ!」
龍は空に高く登ると、ターヤに向かって急降下する。 ターヤは自分を庇うように反射的に手を前に出した。
「え?!」
火の龍が自分に吸い込まれるように中に入った。身体中が熱くなる。そして眩暈がして、自分の体がゆっくり倒れるのがわかった。地面に咲いた草花の匂いが鼻を刺激する。それはどこかで嗅いだような香りだった。
ターヤはそこで意識を失った。
二つの影が漆黒の空から神殿の敷地内に降り立った。
門番は二人の気配に気づくことなく、大きないびきをかいて寝ている。
タリザはその様子に呆れた顔を見せる。カネリはそんなタリザに苦笑すると、神殿に入った。
時刻は深夜すぎ。
神官達は眠りについているのか、神殿内は真っ暗で静かだった。
二人は音を立てずに神殿内を歩く。
二人の役目は、火の大神官の書簡を水の大神官に手渡すことだった。本来であれば昼間、普通に面会すればいいのだが、火の大神官は二人に夜中に水の神殿に侵入し、誰にも気づかれず水の大神官に書簡を渡すように命じた。
その意図は単純で、水の神殿の力を量ろうというものだった。
火の神殿と水の神殿の力を互角であるべきだった。その力が同等であることで、シュイグレンとフォーグレンは力の均等を保っているようなものだった。どちらかが弱くなれば、どちらかに征服欲が生まれ、戦争が勃発する可能性もあった。そういうわけで、王家の婚姻を結んでいるとは言え、神殿同士の力を同等に保つことは重要であった。
「おかしいわ。なんで誰もいないの?」
本殿の入口まで進み、警護する神官がいないのを見て、タリザは眉をひそめた。
本殿は『神石』を守る場所であり、大神官が住む場所であった。その神殿の中心部に警護する神官がいないことはありえないことだった。
「ようこそ。水の神殿へ」
ふいに首元に冷たい感触を覚えた。それは剣先で、気付かないうちにタリザの背後に回られたようだった。背後の男はライオンの鬣のような髪をしており、丸い縁取りの眼鏡をしていた。
「カネリ!」
首に剣を突き付けられ、動けない状態のタリザは助けを求めるため、上司であり、友人の上級神官のカネリを呼ぶ。しかし、反応はなかった。
「残念だったな。カネリは助けられない。水の神殿はそう甘くはないぞ」
そう声がして後ろから現れたのは、長い茶色の髪を後ろのまとめた細面の男だった。男はその腕にはカネリを抱え込み、話せないように口を押さえていた。
「水の神官……。私たちの負けです。離してください。水の大神官様に用があって参りました」
タリザが悔しそうにそう言うと、男は剣を納めた。そして本殿の扉を守るようにタリザの前に立つ。カネリを捉えた細面の男もその手を離した。カネリは男を睨みつけるとタリザの側に歩み寄る。
「さて、カネリさん。そしてかわいい神官さん。大神官様に用があるとは言え、なぜこんな夜更けに勝手に神殿に入ってきたんですか?」
先ほどまでタリザに剣を向けていた男は、にこやかに笑うとそう聞いた。




