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フォーグレンの神官  作者: ありま氷炎
第2章 水の『神石』
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フォーグレンの神官36

 仲直りか……。


 アルビーナはミシノの部屋を離れ、自分の部屋に戻るわけでもなく、廊下を歩いていた。

 自分がどうしたいのかわからなかった。


 自分は全てを失った。

 選考会で自分が選ばれていたら、今ごろ家族はまだ生きていたはずだった。

 あの儚い妹の病気も治っていたかもしれなかった。


 セン……。


 やっぱりあたしはあんたが憎い……。



 ガッシャンとガラスが割れる音がした。

 窓からその方向を見ると、向かいの棟の二階の窓が割れ、黒い影が部屋に入っていくのが見えた。


 あれはデイ?!


「!」


 跳んで行こうとしたが、手元に『神石』もかけらもないことに気づき、アルビーナは向かいの棟に向かって廊下を全力疾走しはじめた。

 



「ガキ、火の『神石』はどこだ?」

「知らないよ!」


 窓から侵入してきたデイに対峙し、ターヤはベッドで眠るセンを守るように立った。


「火の『神石』は火の神官によって守られるはずだ。死にたくなければさっさと渡すんだな」


 デイはそう言うと槍を作り出し、ターヤに跳び掛った。


「うっつ!」


 デイの槍をターヤは咄嗟に作り出した剣で受け止めた。しかし、デイの力の前に吹き飛ばされる。

 壁に激突し、ターヤは視界がぼんやりするのがわかった。デイが槍を持つ、ゆっくりと近づいてくるのがわかった。


 タリザの娘……。


 脳裏にそんな声が響いた。


 タリザの娘よ。

 ワタシが力を貸そう。


 そう声がして、ターヤの手の中に杖が作られる。


「フッフッフッ。お前が持っていたのか」


 デイが杖を奪い取ろうと手を伸ばす。

 しかし手が杖に触れようとした瞬間、火の龍が現れる。


「なんだと?!お前ごときに!」


 驚くデイに向かって龍が跳び掛った。



「大神官様。お茶をどうぞ」


 キィラの泊まる部屋に入ると上級神官ヤワンはティーポットを掴み、お茶をカップに注いだ。そしてキィラに差し出す。


「ヤワンさん、ありがとう」


 キィラは何も疑問をもつこともなく、カップを受け取るとお茶を口に含む。


「!」


 液体が体に流れこんだ瞬間、眩暈がキィラを襲った。そして手足が痺れ、感覚がなくなる。手からカップが落ち、床の上で大きな音を立てて割れた。ヤワンに手を伸ばそうと試みるが力なく、キィラは椅子から転げ落ち、床に倒れる。

 ヤワンは床の上で痙攣するキィラを申し訳なさそうに見つめた。


「…ヤ…」


 キィラが問いただそうとするが、口が痺れ言葉を紡ぐことができなかった。


「キィラ」


 ふいに重厚な声が部屋に響き渡る。聞き覚えのある声だった。しかし、この世で聞くはずがない声だった。

 キィラは痺れる体を動かそうと試みるが、無駄な努力であった。そして視線だけを声の主に向けた。


「久々の再会がこんな形ですまぬな。われは水の『神石』が必要なのだ」


 男――ラズナンは床に伏すキィラに近づいた。そしてその傍まで来ると腰を降ろす。


「…ラ…」


 キィラはラズナンの名前を呼ぼうとするがやはり言葉出てこなかった。

 ラズナンは十七年前に死んだはずのシュイグレンの現国王の兄だった。

 この世にはすでに存在しないはずの男だった。


「さて、『神石』をいただくぞ」


 ラズナンはキィラの懐に手を忍ばせ、青い『神石』を取り出した。キィラはその青色の瞳に驚愕の思いを浮かべるだけで、ただ成すがされるままだった。


「ついに手に入れた。『神石』だ。ついに手に入れた!十七年、十七年だ」


 興奮したラズナンの声がキィラに届く。その様子は十七年前、死ぬ前の様子と同じだった。あの時もこのように興奮していた。そしてその直後カネリの火の龍に襲われた。


「…ラ…な」


 キィラはラズナンに視線だけを向けるしかできなかった。


 十七年前、水の『神石』を巡って水の神殿と王家を巻きこみ争いがあった。

 結果的に、ラズナンは死亡、当時の大神官も死亡し、争いは収まった。争いに加担し、ラズナンに従ったデイは死の免れ、水の神殿に幽閉された。また当時シュイグレンを訪れていた上級神官のカネリとその部下タリザも巻き込まれた。タリザはラズナンに加担したということで火の神殿を追放されていた。


「ラズナン様、さあ、行きましょう」


 ヤワンは周りを窺いながらラズナンにそう声をかけた。神官達に睡眠効果のある薬草を砂糖菓子に混ぜ、与えていた。しかし、全員に効いたとは限らず、用心に越したことはなかった。


「そうだな。参ろうか。キィラ。われからの恩情だ。あと数日は命が持つだろう。その間にやり残したことをやるがいいぞ、もっともその体じゃ無理だろうがな」


 高笑いをしながらラズナンはそう言うと、ヤワンを連れて部屋を出ていった。

 キィラは目に怒りと驚愕を湛え、じっとその後ろ姿を見つめるしかできなかった。



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