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最終日 鳴門海峡 4/4


 数分後、よろめく楓を介助しつつ、なんとか無事に船を下りることができた。

「勝ったわ……」

「何が勝ちや、どうみても姉貴の負けやんけ」

「いや、吐かんかったやん」

「吐いたら姉貴の脳天にカジキ用の釣り針ぶっ刺して生き餌にするとこやったで」

「メガロドンかクラーケンでも釣る気かいな」

 堤防の端まで移動し、腰を下ろして休んだ。

 ゆっくりと深呼吸を繰り返すうちに、青ざめていた楓の顔に血の気が戻っていく。

「今回はここまで……残りは次回以降やな」

 あぐらをかいて淡路島を見据えながら、楓は独り言のように呟いた。渚も防波堤の向こうの播磨灘《はりまなだ》を見遣り、一週間の旅を振り返る。

 前回に負けず劣らず様々なトラブルに見舞われたが、こうして四国を一周することができた。

「渚――」「姉貴――」

 呼びかけるタイミングが見事に重なり、二人は顔を見合わせた。

「んだよ、先に言えよ」

「っるせえな、お前の話から聞かせろよ、チョ待テヨ」

 妙な空気が漂いかけ、二人とも急に芝居がかった標準語を口走る。

「……」

「……」

 束の間の沈黙を挟み、渚のほうから切り出した。

「……姉貴、金を貸してくれへんか」

「あん?」

 楓はあぐらのまま居住まいを正し、渚と同じく播磨灘へ向いた。

「もちろん今からバイト増やす。でも北海道まであと三か月しかないやろ? やっぱ旅費を全額用意するってのは厳しくて……足りん分だけでも立て替えてくれへん? あとでバイトして返すから」

 楓は海へと視線を投げたまま言った。

「……もう彼女のことはスッパリ諦めたってこと?」

「真理ちゃんはな。でもさっきの船で行《ゆ》きずりのお姉さんと喋って、決めたんよ」

「行きずりって……」

「俺旅先で彼女作るわ。同じようにツーリングしてる女の子やったら、趣味も合って都合ええやろ?」

「ぶははははは! ……痛っ」

 腹を抱えてのけ反った姉は、コンクリの地面に頭を打ちつけた。

「なに笑《わろ》とんねん」

「いや、今の笑うとこちゃうの? んふふふっ……」

 後頭部をさすりながら身を起こし、なおも半開きの口から笑い声を漏らしている。

「……ええよ。ここんとこ残業多かったし、多少余裕あるからな。足らん分は貸しつけたるわ」

「……ゼロ金利でええ?」

「えーどうしよっかなー、闇金ウチジマくんは高《たこ》うつくんちゃうかなー」

 邪《よこしま》な笑みを向けてくる姉。

 まあいい。たとえ暴利をつけられても、元金だけ返してあとはバックレよう。


「さあ、ぼちぼち撤収しよか!」

 楓は勢いよく立ち上がった。渚も腰を上げ、近くの自販機でペットボトルの緑茶を二本買った。

「姉貴!」

 数歩前を行く姉へ、その一方を投げてよこす。

「うおっ……あばばばば」

 放物線を描いたボトルは楓の手に収まりかけたが、取り落とされてアスファルトの地面を転がった。

「そうか……」

 姉は体力こそ飛躍的に向上したものの、運動神経まで改善されたわけではないようだ。

 ボトルを拾い上げシャツの裾で拭う楓に、形だけ謝っておく。

「ごめん、普通に渡せばよかった」

「まったくやわ……でも今はあんまり飲めへんで」

 楓は胃の辺りをさすってみせた。

「分かっとるよ。だからキャップ付きのやつ選んだんやし」

 二人はボトルを開栓し、ささやかに乾杯した。

「ウチは高松港二時発なんよ」

「俺は徳島港一時二十分」

「そうか、気ぃつけてな。家に帰るまでが限界バリバリツーリングやで」

 ヘルメットをかぶろうとする楓に、渚は尋ねる。

「ちょい待ち、姉貴の用件は何やったん?」

「んー?」

「さっき同じタイミングで話しだしたやろ? 姉貴も話あったんちゃうの?」

 楓は一瞬怪訝そうな顔になったが、すぐに頬を緩めて視線を海へと向けた。

「ああ……うん、忘れてもたわ」

「何やそれ」

 ヘルメットとグローブを着けてそれぞれのカブに跨がり、ほぼ同時にセルを回す。楓は顎ひもの締めを確認しつつ言った。

「じゃあ、次は北海道で」

「なんで現地集合やねん。去年の道の駅でええやろ」

「ふふっ、せやな」

 楓は一度始動したエンジンを止め、海から山へと目を転じる。

「……良かったな、四国」

「おう……」

 渚も釣られて山の方を見遣った。走ってきた道や眺めた風景が、瞼の裏に蘇る。ここで姉と別れることには何の感慨も覚えないが、様々な想い出のちりばめられた四国を発たなければいけないというのは、やはり後ろ髪引かれるものがある。

 渚は名残惜しさをごまかすように、努めて明るい声を出した。

「今度来るときは祖谷渓《いやけい》と四国カルスト、大塚美術館にうどん巡り第二部と……今治あたりか」

「もう次の四国ツーリングのプラン考えとるんか? まあ……そのときは三人で走れそうやな。賑やかでええやん」

「は? あと一人は誰なんよ?」

「アンタの彼女に決まっとるやろ」

「姉貴はついてこんでええねん!」


          To Be Continued? →



 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 今さらなんですが、活字の関西弁というのは読む側の目にはどう映るのか、はなはだ疑問です。関西圏の方、それ以外の地域の方、双方の意見をうかがえたらと思う次第です。

 現在カクヨムにて、台詞を標準語に直したものをタイトルだけ変えて投稿しているのですが。やはり会話のリズムというか歯切れの良さみたいなものは、関西弁のほうが書いてて自然な感じがします。

 方言についてもそうですが、ローカルネタ・バイクやキャンプのネタ等についても読者の方の声を聞きたく思います。面倒かとは存じますが、評価や感想、メッセージをいただけると嬉しいです。


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