表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doubt  作者: 奏似


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/5

一節

「よう、お疲れさん」

「なんだ覗き魔、話すことなんて何もないぞ」

「そう言うなって。ほれ、差し入れ」

缶コーヒーを投げる。

「差し入れってんなら、もう少し上等なのにしてくれ」

しけた面の値を表情でさらに下げて、受付の中年がボヤく。

まぁ、刑務所の受付でおっさんに愛想を振りまかれたところで、だ。向こうもお互い様だろう。

雑談。

近況報告。

愚痴。

口が軽くなり、舌が滑る。

頃合いだろう。

「そういや、あのサンタクロースはどうした?」

「サンタクロース?」

「前に取材しに来たろ?」

「あぁ、あれか」

うんざりした表情。

「今更なんの用だよ」

「上がな。ネタがねぇなら掘り返せ、とよ」

「は。どこも上はろくな事しねぇ」

「で、今どうしてる?」

「知らねぇよ。もうここにはいねぇ。そんだけだ」

「はぁ?刑期まだたっぷり残ってんだろ?模範囚ってガラでもねぇ」

「知らねぇって。なんとかって人権団体が連れてったよ」

「あん?」

「ケアセンターに連れてくんだってさ。半年くらい前だったか」

「なんで」

「知らねぇって。なんか若い姉ちゃんがやいやい言ってたけど、ひとつ残らずさっぱりだったわ」

「若い姉ちゃん?」

「活動家だとよ。若いのは暇で羨ましいわ」

「違ぇねぇ」

「連日面会通いして、終いには団体様だ。俺らを悪者みたいに言いやがって、迷惑ったらねぇよ」

「悪者だろ?」

「ふざけんな、俺らは真面目な社会の犬だ」

一緒にすんな、と周りから野次が飛ぶ。

内輪で盛り上がっている隙に端末をチェックする。ケアセンター。お、これか。

「真面目な犬の邪魔しちゃいけねぇな。そろそろお暇するわ」

「おう。次は酒持ってこい、酒」

「おい、犬の躾がなってねぇぞ」

受付一同の笑いを背に、次の場所へ。

活動家の姉ちゃん、ねぇ。はてさて。



車から降りてケアセンターに向かう。

視界の先で、足早に中へ入っていく若い姉ちゃん。

到着。若い女の怒鳴り声。

あれかぁ。

「だから!どうして!」

「ですから!本人が!自発的に!」

つられて、対応する職員も語気を荒げてしまっている。典型的な収拾のつかないパターン。

まぁ次の展開は予想がつく。

警備員到着。

「アポは?ない?でしたら、改めてどうぞ」

物理的排除。

終了。

そのまま警備員が入口に立つ。まぁ再入場は無理だし無駄だろう。

さてさて。まぁこっちだわな。

「失礼、お嬢さん。もしかして、ジョンの件で?」

「はい?あなたは?」

ケアセンターの外、まだ息の整わない若い姉ちゃんに声を掛ける。

「私、こういう者で」

名刺を取り出し、手に持たせる。

「ジャーナリスト……?」

「以前、収監中のジョン=スミスに取材を試みた者です。……まぁ、上手くいかなかったんですが」

苦笑い。

反応なし。手強い。と思いきや。

「彼のこと、記事にしてくれるんですか?是非協力させてください!」

うわ。

「……まぁ、立ち話もなんですし、あちらのベンチでコーヒーでもどうです?もちろん私の奢りで」

ベンチ脇の自販機を手で示すと、苦笑が返ってきた。よしよし。

先に座らせ、適当に購入。

お気に入りの方を取られた。まぁ仕方ない。

「あ、こちらの方がよかったですか?ごめんなさい」

「いえいえ、どちらも好きに変わりないのでお気になさらず。今の気分がそっち寄りだっただけですから」

息も整い、コーヒーブレイクで気分も落ち着いたようだ。こちらも一口。苦。

「自己紹介が遅れました。私、アンナマリー=ブラウンと申します」

「聞くところによると、活動家の女性がジョンをここに移管させたとか。ひょっとして?」

「そこまでご存知なんですね。はい、私が働きかけました」

「そりゃまたどうして」

「記者さんはジョンさんに取材したんですよね?その、どう……思いました?」

「あー、その、ぶっちゃけていいですか?」

「どうぞ」

「まったくもって、訳が分かんなかったですね。あそこまで会話が成立しなかったのは、後にも先にもあいつだけです」

「そう……ですよね」

「……ミスブラウンは、そうではなかった?」



何度か接見して。

確かに、会話が成り立たないという印象はある。疎まれているのかと思いもした。

でも、彼は聞こうとしている。真っ直ぐにこちらを見て。

嘘やからかいの気配は感じない。

なら。

「私の言ってること、分かりますか?」

「NO」

NOと答えた。ということは。

「どれくらい?」

「…………」

答えない。困ってる。言葉が見付からない?

「たくさん?」

「YES」

これもYES。

「ちょっと?」

「NO」

これはNO。

うぅん、間違ってはない。けど。

「分かってない?」

「YES」

……やっぱり。



「ということです」

「分かって当然て顔されてもですね。それで分かれってのは乱暴ですよ」

「分からないからって、それで見切りをつける方が乱暴じゃないですか。私はそんなのイヤ。だから向き合ったんです」

「向き合う?いや、それは」

……あ?

取材対象に向き合わず、どうやって記事を書けると?

飲み込めない言葉を飲み込む。大丈夫、慣れたことだ。

「……あ、ごめんなさい。記者さんに対して選ぶ言葉じゃなかったですね。ええと、そう、親身になれるかどうか、です」

親身。

あの無愛想なサンタクロースに?

…………。

ゾッとした。

クスクス。

「笑わないでいただきたい」

「ごめんなさい。記者さん、彼が言った単語っていくつ覚えてます?」

「いくつって。YES、NO。……二つ?」

「ええ、私もその二つです」

「連日通ったって聞きましたけど?」

「はい。彼は言葉をきちんと習得できていません」

「…………は?んなバカな」

「そう思います?ですよね、ちゃんと伝えたはずのケアセンターの職員さんでさえ、理解できなかったんです。今の記者さんと同じように」

「だって、YESNOだってろくに」

ハッとする。

アンナマリーの視線が、鋭く突き刺さる。

「そう、YESNOもちゃんと使えていなかったんです。そのまま飲み込んじゃったら、きっと理解できない」

「そんな、まさか」

「確かめました。時間をかけて。彼は彼なりに答えてくれていたんです」

待て。

待て待て待て。

そんなバカな話。

「そんなバカな、って思いますよね」

ギョっとする。

お見通しだ。そりゃそうだ、そんな顔をしてたんだろう。

コーヒーを一気に飲み込む。

苦。

深呼吸。

思い返す。

駄目だ。理解できない。訳が分かる訳がない。

「なんで?」

「はい?」

「どうして、そうだと?」

「言ったでしょう?親身になって、向き合って。それで、です」

「訳分からない、で済ませるのが普通でしょうに」

「それじゃ届かない。なのに、訳が分からないまま一方的に。……そんなの、許せる訳ない」

「……」

「やっとここまで。なのに……」

「……そりゃあ、キツい」

「はい。……はい、本当に。……悔しい」

震える肩に手を置こうとするが、周りの目が痛い。警備員、こっち見んな。

聞きたいことはいっぱいあったはず。だが、整理が先だ。今は何を聞いても滑り落ちる。

「貴重なお話、ありがとうございます」

空の缶をダストボックスに放り込み、その場を後にした。

足早に車に戻る。

早く確かめないと落ち着かない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ